日本には比較的充実した公的医療保険制度があります。
病気・ケガをして治療費等がかかった場合や、仕事を休まなければならなくなった場合などは、公的医療保険制度を利用して給付を受けられます。
ただし、自分で申請しないと保障を受けられない制度もあります。
したがって、公的医療保険制度について、どういう制度があるのかだけでも知っておくことが重要です。
この記事では、病気やケガの時等に役に立つ公的医療保険制度を6つ取り上げ、概要をお伝えします。
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はじめに|国保と社保
日本は国民皆保険制度をとっており、国民全員が公的医療保険制度に加入しています。
大きく分けて以下の3種類です。国民健康保険を「国保」、それ以外を「社保」と呼ぶことがあります。
【国保】
【社保】
- 全国健康保険協会(協会けんぽ):多くの中小企業、船員が加入
- 各種健康保険組合:大企業が独自に設立する例、業界ごとに設立され中小企業が加入する例(関東ITソフトウェア健康保険組合等)などがある
- 共済組合:公務員・私立学校教職員が加入
国民健康保険もそれ以外(社保)も、医療費の自己負担額は原則として以下のようになっています。
- 小学生未満:2割負担
- 小学生~69歳:3割負担
- 70歳~74歳:2割負担(現役並み所得者は3割負担)
- 75歳以上:1割負担(現役並み所得者は3割負担)
ただし、国保と社保では、受けられる保障が少し変わってきます。
たとえば、働けなくなって仕事を休んだ時に最大1年6ヶ月間受け取れる「傷病手当金」、出産で仕事を休んだ時に受け取れる「出産手当金」は、社保のみで受けられる保障です。
以下、公的医療保険で受けられる主な制度について概要をお伝えします。
1.治療費の払戻しを受けられる高額療養費制度
1.1.高額療養費制度とは
最初に知っておいていただきたいのが、高額療養費制度です。
公的医療保険では、70歳未満の現役世帯の医療費は、原則として3割負担です。
ただし、それでも負担が大きくなりすぎることがあるため、1か月の自己負担の上限が定められています。一定額を超えた場合に払い戻しを受けられます。この制度が、高額療養費制度です。
自己負担の限度額は収入によって異なります。
【70歳未満の方の区分】

たとえば、夫婦と子ども2人の4人家族で、夫のみが働いている世帯(年収400万円)で、1ヶ月の治療費が50万円(3割負担で15万円)かかったとします。
この場合、その月の自己負担額限度額は
80,100+(500,000-267,000)×1% = 82,430円
です。したがって、これを超える分の払い戻しを受けられます。つまり、
150,000円-82,430円=67,570円
が払い戻されることになります。
以下、70歳以上75歳未満の方の場合についても参考までに記載します。
【70歳以上75歳未満の方の区分】

1.2.限度額適用認定証があれば窓口で精算してもらえる
限度額適用認定証を利用すれば、医療機関の窓口で、高額療養費制度の自己負担限度額だけ支払えば良くなります。
主に70歳未満の方が対象です。
限度額適用認定証は、自分が加入している保険の運営母体に申請すれば交付してもらえます。たとえば、入院や手術、抗がん剤の治療などで高額な医療費がかかることが予想される場合は、限度額適用認定証を手に入れておくことをおすすめします。
自己負担限度額を超えるか分からない場合でも、交付してもらえます。
なお、70歳以上の方は、限度額適用認定証がなくても自動的に、窓口での支払いは自己負担限度額までになります。ただし、所得区分が低所得者の場合は「限度額適用認定・標準負担額認定証」が必要です。
また、限度額適用認定証を利用せずいったん自分で支払って、事後に精算することもできます。その場合は、医療機関から受け取った領収書の提出が必要です。紛失したりしないよう、大切に保管してください。
1.3.家族で合算して利用できる
1つの世帯で複数の方が同じ月に病気やけがで医療機関に受診した場合や、1人が複数の医療機関で受診したり、1つの医療機関で入院と外来で受診したりした場合は、世帯で合算して高額療養費を利用できます。
合算した額が自己負担限度額を超えた場合は、超えた額が払い戻されます。
70歳未満の場合、合算できる自己負担額は、1名あたり21,000円以上のものに限られます。その「21,000円以上」は次の基準で計算します。
- 医療機関ごとに計算する。ただし、同じ医療機関であっても、医科入院、医科外来、歯科入院、歯科外来に分けて計算します。
- 医療機関から交付された処方せんにより調剤薬局で調剤を受けた場合は、その代金も合算する。
参考|子どもの医療費助成
市区町村で、一定年齢まで医療費を補助してくれる制度があります。
市区町村ごとに対象年齢、助成の内容・方法などが異なります。お住いの自治体のHPで確認してみてください。以下は自治体ごとの医療費助成の例です。
【自治体ごとの医療費助成の例】

※厚生労働省平成30(2018)年度「乳幼児等に係る医療費の援助についての調査」より
2.海外療養費制度
日本の健康保険には「海外療養費制度」があります。これは、海外旅行中や海外赴任中に急な病気やけがなどによりやむを得ず現地の医療機関で診療等を受けた場合、申請により一部医療費の払い戻しを受けられる制度です。
給付の対象となるのは、日本国内で保険診療として認められている医療行為に限られます。
払い戻しを受けられる額は、日本国内の医療機関等で同じ治療を受けた場合にかかる額(実際に海外で支払った額の方が低いときはその額)から、自己負担相当額を差し引いた額です。
たとえば、69歳以下の人が海外で治療を受けて12万円の治療費を支払った場合、日本で同じ治療を受けたら10万円かかるとすると、自己負担相当額は3万円です。
したがって、払戻を受けられる額は7万円ということになります。

※健康保険組合連合会HP参照
なお、日本での自己負担相当額が高額になった場合は、高額療養費制度も併せて適用されます。
3.出産した場合の一時金と手当金
出産は病気ではないので、帝王切開等の異常分娩をのぞき、公的医療保険はききません。しかし、出産には何かとお金がかかります。また、仕事を休まなければならず、収入を得る道が途絶えてしまいます。
そこで、健康保険から給付を受けられることになっています。出産育児一時金と、出産手当金です。
3.1.出産したら誰でも受け取れる出産育児一時金
通常分娩は病気やケガではないので、健康保険の対象とはならず、費用は全額自己負担しなければなりません。そこで、経済的負担の軽減を図るために受け取れるのが、出産一時金です。
支給額は1児につき、産科医療補償制度加入分娩機関で出産した場合は42万円(死産を含み、在胎週数第22週以降のものに限る。)、それ以外の場合は40.4万円です。
健康保険組合のある会社に勤めていると、さらに組合独自の付加金がプラスされる場合もあります。
3.2.出産で会社を休む時の出産手当金(社保のみ)
出産のため会社を休み、事業主から報酬を受けられない時は、出産手当金を受け取れます。これは社保のみの制度です。
支給額は月給日額の2/3相当額、支給期間は出産日以前42日(多胎妊娠の場合98日)、出産日後56日です。
報酬が出ている場合でも、その額が2/3未満であれば、差額が支給されます。
4.病気・ケガで仕事ができなくなったら傷病手当金(社保のみ)
業務外の病気・ケガで仕事ができなくなったら、収入が減ってしまいます。その場合、社保に加入する会社員・公務員等であれば、傷病手当金を受け取れます。
なお、業務上の病気・ケガの場合は傷病手当金ではなく労災から給付を受けることになります。
また、傷病手当金は会社員・公務員等の「被用者保険」のみの制度です。自営業・フリーランスの方は傷病手当金の制度がありませんので、民間の所得補償保険等でカバーすることをおすすめします。
傷病手当金は、連続3日間欠勤した後の4日目から受け取れます。期間は受給開始日から1年6か月です。
金額は、標準報酬月額の2/3です。
通常は、まず有給休暇を消化してから、傷病手当金を受け取ることになります。
詳しくは「傷病手当金とは?支給額と支給期間と押さえておきたい申請の方法」をご覧ください。
5.著しい障害が生じたら障害年金
障害年金は、病気やけがなどによって所定の障害の状態になった場合に受け取れます。
「障害の状態」とは、視覚障害や聴覚障害、肢体不自由などの障害だけではありません。
がんや糖尿病、高血圧、呼吸器疾患、精神疾患などの内部疾患により、長期療養が必要で仕事や生活が著しく制限を受ける状態になった場合なども含まれます。
また、障害手帳を持っていない場合でも、障害年金を受けることができます。
5.1.障害年金の受給要件
障害年金は3種類あります。
- 障害基礎年金(受給対象者すべて)
- 障害厚生年金(会社員・公務員は障害基礎年金に上乗せされる)⇒1~3級
それぞれの受給要件は以下の通りです
障害基礎年金の受給要件
- 初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されている
- 初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がない
- 障害等級1級または2級である
障害厚生年金の受給要件
- 厚生年金加入期間中に初めて医師の診療を受けた傷病による障害である
- 障害等級1級~3級である
障害基礎年金は「障害等級1級または2級」でなければ受け取れませんが、障害厚生年金は3級から受け取れます。
また、病気やケガが初診日から5年以内に治り、障害等級3級よりも軽い後遺症が残った場合は「障害手当金」(一時金)を受け取れます。
5.2.障害年金を受け取れる障害状態とは
障害年金が支給される障害状態は以下のようになります。以下の2つの要素によって決まります。
- 日常生活を送る能力の低下
- 働いてお金を稼ぐ能力の低下

詳細な基準は視力・聴力、手足、内蔵の機能、手指・足指の状態等に応じて細かく定められています(参照:日本年金機構HP「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準(全体版)」)。
5.3.障害年金から支給される金額
支給される障害年金の額は、加入していた年金や障害の程度、また、配偶者の有無や子どもの数などによって異なります。
子どもがいる場合、2人目までは1人につき224,900円、3人目以降は1人につき75,000円加算されます。
障害年金の早見表

6.介護状態になった時は介護サービスを受けられる
公的介護保険制度は、市町村が介護を社会全体で支える仕組みとして、2000年4月にスタートしました。要介護状態になった場合、公的介護保険から保障が受けられます。
その後、2006年に介護予防サービスも対象に加えられました。
ただし、誰でも介護サービスが受けられるわけではありません。年齢制限などがあります。
6.1.介護保険料は40歳から納める
40歳以上の人は全員、介護保険料を納付しなければなりません。
会社員・公務員等の場合は、給料から天引きされます。自営業・フリーランスの方は自分で支払う必要があります。
保険料の額はは市町村によって差があります。
6.2.「40歳~64歳」は介護状態の原因に制限がある
65歳以上の人は「第1号被保険者」と言って、介護状態の原因を問わず保障を受けられます。
これに対し、40~64歳の人は「第2号被保険者」と言って、老化に起因する特定の病気(16疾患)によって要介護状態になった場合に限り、介護サービスを受けることができます。
保障を受けられるのは以下の16種類です。
- がん(末期)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗しょう症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
6.3.要介護認定は7段階に分けられる
介護サービスを受けるには要介護認定を受ける必要があります。この要介護認定は、介護の度合いに応じて「要支援1~要支援2」「要介護1~要介護5」の7段階に分けられます。
また、公的介護保険の給付は、要介護認定を受けた利用者が1割の利用料を支払うことで、「現物給付」による介護サービスを受けることができます。
要介護度認定は「介護の手間がどれだけかかるか」を客観的な統計から算出した「要介護認定等基準時間」をはじめ、いくつかの基準によって判定されます。
そのため一概に「こういう状態ならこの認定」といった基準を示すのは困難です。
ここでは参考までに、北海道根室市が示している簡単な目安を紹介します。

まとめ
公的医療保険制度で、重要なものについてまとめました。
ここに挙げた6つの制度の多くは、申請しなければ給付等が受けられません。したがって、ぜひ、それぞれの概要だけでも知っておいていただきたいと思います。
また、民間の保険(医療保険、がん保険、働けなくなった時の保険等)は、これらの公的保障だけでカバーできない時に、足りない部分を補うために加入するという考え方が重要です。