新NISAの裏で進行する「金融所得課税」強化の実態。中小企業オーナーにも波及する大増税リスクを解説


「投資で得た利益への税金が、これから大きく変わるかもしれない」——こうしたニュースを耳にする機会が増えてきました。新NISAが始まり、資産運用への関心が高まる一方で、その裏側では「金融所得課税」の強化が静かに進行しています。多くの方は「自分は超富裕層ではないから関係ない」と考えているかもしれません。しかし、2026年の税制改正大綱の内容を見ると、その認識は早急に改める必要があります。
中小企業のオーナー社長や、将来的に会社売却を視野に入れている経営者、さらには資産形成に励む個人投資家にまで影響が及ぶ可能性があるためです。本記事では、すでに始まっている「ミニマムタックス」の仕組みから、2027年以降に予定されている改正の中身、そして経営者が今から取るべき防衛策まで、順を追って整理していきます。
金融所得課税の現状と「1億円の壁」
まずは基本のおさらいから始めます。現在の日本の所得税は、稼げば稼ぐほど税率が上がる「累進課税」が原則です。役員報酬や事業所得などは総合課税の対象となり、所得金額に応じて7段階に税率が設定されています。所得税の最高税率は45%、これに住民税10%を加えると、最大で55%もの税負担となります。
一方で、株式の売却益や配当金といった「金融所得」については、いくら稼いでも税率は一律です。これを申告分離課税と呼び、税率は以下のように設定されています。
| 税目 | 税率 |
| 所得税 | 15% |
| 住民税 | 5% |
| 復興特別所得税 | 0.315% |
| 合計 | 約20.315% |
1億円儲かろうと10億円儲かろうと、税率は約20%で固定されているわけです。ここに政府は問題意識を持っており、岸田前政権の頃から金融所得課税の強化が議論され、すでに改正が動き出しています。
なぜ「1億円の壁」が問題視されるのか
金融所得課税の強化が進められる背景には、大きく2つの理由があります。
1つ目は「財源の確保」です。少子高齢化に伴って社会保障費は増加の一途をたどっており、政府は財政健全化のための財源を必要としています。資産家層から税収を取りたいというのが本音でしょう。
2つ目が、よくニュースで取り上げられる「1億円の壁」問題です。これは、年間の所得が1億円を超えると、税負担率が逆に下がっていく現象を指します。年収が1億円を超えるような層は、収入のメインが給与ではなく、株式の譲渡益や配当になってくる傾向があります。金融所得は税率が一律約20%ですから、収入の大半に約20%の税率が適用されることになり、トータルでの税負担率が下がるのです。
内閣府が公表している「申告納税者の所得税負担率」のデータを見ると、所得5,000万円〜1億円の層では負担率が27.1%であるのに対し、1億円〜2億円では26.7%、2億円〜5億円では24.0%と、所得が増えるほど負担率が下がっていく現象が確認できます。この不公平感を是正したい、というのが金融所得課税強化のもう一つの大きな動機です。
2026年から本格化する「ミニマムタックス」
この「1億円の壁」を是正する具体的な仕組みとして、すでに導入が始まっているのが「ミニマムタックス」です。2025年分の所得税から適用され、2026年の確定申告から実質的な影響が出始めます。
直訳すると「最低税率」となるこの制度は、簡単に言えば「一定以上の高所得者には、最低限これくらいの税金は払ってもらいますよ」というルールです。
ミニマムタックスの計算式
具体的には、その年の「基準所得金額」から3億3,000万円の特別控除額を差し引いた金額に対して、22.5%の税率をかけて算出します。通常の所得税15%では足りない部分を、別の計算式で上乗せ徴収する仕組みになっています。
導入当初の対象は、合計所得金額がおおむね30億円規模、金融所得だけで見ても10億円規模の層が中心とされています。この時点では「これは超富裕層だけの話で、自分には関係ない」と感じる方が大半だと思います。問題は、ここからの改正にあります。
2027年から拡大?「対象者拡大」の衝撃
2026年の税制改正大綱では、このミニマムタックスがさらに厳格化される方向性が示されました。改正のポイントを整理すると以下の通りです。
| 項目 | 現行(2025年〜) | 改正後(2027年〜想定) |
| 特別控除額 | 3億3,000万円 | 1億6,500万円 |
| 税率 | 22.5% | 30% |
| 対象となる金融所得の目安 | おおむね10億円以上 | おおむね4億円以上 |
特別控除額が半減し、税率も大幅に引き上げられる見通しです。これによって、これまで対象外だった「金融所得4億円規模」の層まで一気に課税対象として組み込まれることになります。
「普通の社長」を襲う会社売却の罠
ここで重要なのは、この制度が「毎年4億円以上稼ぐ人」だけを対象にしているわけではない、という点です。スポットで大きな利益が出た年も、もちろん対象になります。
たとえば、中小企業のオーナー社長が長年経営してきた会社を、M&Aで5億円で売却したとします。その年は、株式譲渡によって5億円の所得が発生したことになり、ミニマムタックスの対象として扱われる可能性が出てきます。
「コツコツ会社を育ててきて、退職金代わりに最後に会社を売却した」——そんなオーナー社長が、売却したまさにその年に「あなたは超富裕層ですので、ミニマムタックスをお支払いください」と言われる事態が起こりうるのです。普段は超富裕層とは縁のない、ごく一般的な中小企業の経営者であっても、出口戦略の取り方次第で大きな増税リスクを抱えることになります。
NISA勢にも無関係ではない理由
「自分は会社の売却なんて関係ないし、コツコツNISAをやっているだけだから問題ない」と感じる方もいるでしょう。しかし、税制の歴史を振り返ると、ここにも警戒すべきポイントがあります。
新しい税制が導入される際、最初は「ごく一部の超富裕層だけが対象です」という建前で始まることがほとんどです。しかし、いったん仕組みが出来上がってしまえば、あとは控除額や税率といった「基準」を調整するだけで、対象者を簡単に広げることができます。消費税が3%から段階的に10%へ引き上げられてきた経緯を思い起こせば、イメージしやすいでしょう。
今回のミニマムタックスも、すでに「金融所得10億円以上」から「4億円以上」へと対象が広がる方向で改正が予定されています。この基準が将来的に1億円、5,000万円、さらには1,000万円と下がっていく可能性は否定できません。仮に1,000万円規模まで下がれば、退職金を受け取った会社員や、NISA外で長年積み立ててきた個人投資家までもが課税対象に巻き込まれることになります。
さらに最悪のシナリオとして警戒されているのが、金融所得の「総合課税化」です。給与所得などと合算して課税される仕組みに変わってしまえば、株式の利益にも最大55%の税率がかかることになります。投資意欲を大きく削ぐことになるため簡単に実現するとは思えませんが、政府の「格差是正」への姿勢を見る限り、絶対にないとは言い切れません。だからこそ、最悪の事態を想定して今から準備しておく必要があります。
経営者が今から取るべき2つの防衛策
では、こうした増税リスクに対して、経営者はどのような対策を打てるのでしょうか。現実的に効果が見込めるものを2つご紹介します。
(1)退職金スキームの活用
特に経営者の方に強くおすすめしたいのが、「退職金の活用」です。会社を売却する際や引退する際に、その対価をすべて株式譲渡益として受け取ると、ミニマムタックスの対象になるリスクが高まります。一方で、その一部を「役員退職金」として受け取る設計に変えるだけで、税負担を大きく抑えられる可能性があります。
退職金には「退職所得控除」という非課税枠があり、勤続年数に応じて控除額が積み上がっていきます。さらに、控除を引いた残額をいったん「2分の1」にしてから税率をかけるという大きな優遇措置も用意されています。加えて、現時点のルールでは、退職所得はミニマムタックスの計算基準に含まれない、もしくは影響が限定的になると考えられています。
「株式譲渡益で受け取るか、退職金で受け取るか」——この出口戦略のバランスを変えるだけで、手元に残る金額が数千万円、場合によっては億単位で変わってくることもあります。会社の売却や事業承継を検討している経営者の方は、早めにシミュレーションを行っておくべきでしょう。
(2)NISA非課税枠の最優先活用
もう一つは、基本中の基本ですが「NISAの非課税枠を使い切る」ことです。年間投資枠360万円、生涯投資枠1,800万円というNISAの枠は、金融所得課税の強化が進む中で、その価値が相対的にどんどん高まっていきます。
ミニマムタックスの対象となるような層から見れば、1,800万円という枠は決して大きな金額には思えないかもしれません。しかし、この枠内で生じた運用益は、将来どれだけ税率が引き上げられようと、仮に総合課税化が実現しようと、現行ルールでは「非課税」が約束されています。これは国が制度として保証している権利ですから、使わない手はありません。
課税口座で塩漬けになっている銘柄があるのであれば、それを一度売却してでも、まずはNISAの枠を最優先で埋めていくことを検討すべきです。
まとめ
ここまで見てきた通り、金融所得課税の強化は「いつかやってくる遠い話」ではなく、すでに動き出している現実の問題です。ミニマムタックスは2025年分の所得から導入され、2026年の確定申告で実際に影響が出始めます。さらに、2027年以降には特別控除額が半減し、税率も30%に引き上げられる方向で改正が進められています。
対象となる金融所得の目安も、当初の「10億円以上」から「4億円以上」へと一気に広がります。これは、会社売却を控えた中小企業オーナーや、まとまった資産を運用している投資家にとって、決して他人事ではありません。さらに将来的には、対象範囲がより広い層へと拡大していく可能性も十分にあります。
こうした流れに対して個人ができる対策は限られていますが、退職金スキームの活用とNISA非課税枠の最大限の活用は、誰でも今すぐ着手できる現実的な防衛策です。制度が確定してから慌てて動くのではなく、改正の方向性が見えている今のうちから、出口戦略を整理しておくことが、自分と家族の資産を守る最大のポイントになります。
今回の金融所得課税の改正内容や、経営者が押さえておくべき具体的な対策については、動画でも税理士が図解を交えながら詳しく解説しています。文章だけでは伝わりにくい税制の細かな仕組みや、退職金スキームの設計ポイントについても触れていますので、ぜひあわせてご覧ください。



