「法人化すると節税になる」とよく言われますが、実際にどのような経費が使えるようになるのかを具体的に理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。個人事業主のままでは認められない支出が、法人化することで経費として計上できるようになるケースは数多くあり、その差は年間で数十万円から数百万円に及ぶこともあります。
本記事では、一定の利益が出ている事業者が法人化することで活用できる「法人だけの特権」ともいえる経費について、9つのポイントに分けて詳しく解説します。出張手当のような日常的なものから、オペレーティングリースや退職金といった大きな節税策まで、手取りを最大化するための実践的な内容をまとめました。
The following two tabs change content below.
個人事業主と法人で異なる「経費の考え方」
まず前提として理解しておきたいのは、個人と法人では「使える経費の種類」がまったく違うという点です。個人事業主は売上から実際にかかった経費を差し引いた金額がそのまま所得となり、その全額に対して所得税と住民税、そして国民健康保険料などが課されます。
一方、法人は会社と個人が別人格として扱われるため、会社から個人へお金を移す仕組みそのものを経費化できます。同じ支出であっても、法人という器を使うことで税務上の扱いが大きく変わり、結果として手取りに直結する差が生まれるのです。
以下では、法人ならではの経費活用術を9つ紹介していきます。
日常業務で活用できる法人ならではの経費
(1)出張手当による非課税収入
1つ目は「出張手当」です。個人事業主の場合、出張時の交通費や宿泊費は実費しか経費にできません。しかし法人であれば、出張旅費規程という社内ルールを整備することで、実費とは別に出張手当を支払うことができます。
この出張手当は、常識的な金額であれば所得税も住民税も非課税で受け取れる上、社会保険料の計算にも含まれません。会社側では損金として計上できるため、法人税の節税にもつながります。まさに会社と個人の両方にメリットがある仕組みです。
ただし、無制限に支給できるわけではなく、あくまで旅費規程に基づいて役職ごとのバランスを考慮した金額設定を行うことが大前提となります。
(2)社宅制度による家賃負担の圧縮
2つ目は「社宅制度」です。個人事業主の場合、自宅兼事務所として家事按分できるのは事業に使っている割合分だけで、生活スペースは経費にできません。
これに対し法人では、会社が物件を借り上げて役員に社宅として貸し出す形をとると、法人が支払う家賃と役員が支払う家賃相当額の差額を損金にすることができます。役員社宅の場合、物件の規模にもよりますが、高くても本来の家賃の50%程度、場合によっては20%程度の自己負担で済むケースもあります。
たとえば月20万円の家賃であれば、4万円だけ自己負担で残りの16万円を会社の経費にする、といった運用が可能です。さらに家賃を会社が肩代わりする分、役員報酬の額面を下げることができ、所得税・住民税・社会保険料もあわせて圧縮できます。生活水準を変えずに手取りを増やせる王道の節税策です。
役員報酬まわりの制度を最大限活用する
役員報酬と役員賞与の使い分け
3つ目は「役員報酬と役員賞与」の活用です。個人事業主には「自分への給与」という概念がありませんが、法人であれば会社から役員報酬を支払うことができ、それが会社の経費になります。
ただし損金として認められるためには、期首から3か月以内に金額を決定し、毎月同額を支給し続ける必要があります。これを「定期同額給与」と呼びます。期首3か月以内であれば変更可能ですが、それ以降に変更すると経費として認められなくなるため注意が必要です。
利益が出た際にボーナス的に上乗せしたい場合には、「事前確定届出給与」という制度を使うことで役員賞与を支給できます。ただし、期首から4か月以内に税務署へ届出を行い、支給日と金額を事前に確定させておく必要があります。届出の期限を1日でも過ぎたり、実際の支給額が届出金額と1円でも違ったりすると全額が損金不算入となるため、スケジュール管理を徹底することが求められます。
家族への役員報酬による所得分散
4つ目は「家族への役員報酬」です。個人事業主が家族に給与を支払う場合、青色申告専従者給与として届出が必要な上、その年の6か月を超える期間その事業に専ら従事しているなど、要件が非常に厳しく設定されています。
法人の場合は、家族を非常勤役員として登録し、役員報酬を支払うことが可能です。非常勤役員は毎日出勤する必要がなく、経営に何らかの形で関与していれば、その報酬は会社の損金として認められます。過去の裁決事例では、経営者の相談相手として関与した母親への役員報酬として年間186万円が妥当と判断されたケースもあります。
さらに、非常勤役員は原則として社会保険の加入義務がないため、社会保険料を抑えながら所得を分散でき、世帯全体の手取りを増やす効果が期待できます。ただし、名前だけの役員登記で実態がない場合は否認されるリスクがあるため、経営への関与実態は必ず担保しておく必要があります。
保険と不動産による大きな節税策
生命保険料の一部損金算入
法人契約の生命保険は、個人の生命保険料控除(上限12万円)とは比べものにならない規模で経費化が可能です。2019年の税制改正で損金算入できる割合に上限が設けられましたが、それでも一部を損金にしながら退職金の原資として積み立てることができます。
また、経営者に万が一のことがあった際には多額の死亡保険金が法人に入るため、残された家族への死亡退職金や事業継続資金として活用できるという実務的なメリットもあります。
トレーラーハウスによる短期償却
トレーラーハウス投資は、複数のトレーラーハウスを一箇所に集めてホテルとして貸し出す投資スキームです。出資者はトレーラーハウスを購入して運営会社に貸し出し、毎月固定の賃料を受け取る仕組みになっています。
700万円程度から始めることができ、4年で減価償却が可能です。定率法を使えば初年度で購入額の50%、2年目までで75%を償却でき、突発的に利益が出た年の対策として非常に有効です。
海外不動産を活用した減価償却
2021年以降、個人での海外不動産を使った節税は封じられましたが、法人であれば引き続き活用可能です。代表的なのはアメリカの不動産で、日本とアメリカでは不動産の価値の付き方が大きく異なります。
| |
日本の不動産 |
アメリカの不動産 |
| 価値の中心 |
土地 |
建物 |
| 経費化できる割合 |
小さい |
大きい |
| 中古木造の耐用年数 |
22年(新築) |
築22年超で「4年」償却可 |
税務上、土地は経費にできませんが建物は減価償却できます。建物価値が高いアメリカの不動産を購入することで、購入額の大部分を短期間で経費化できるという構造です。さらに木造の中古市場が活発で、築22年以上の木造物件であれば4年での減価償却が可能です。
大きな利益が出た年に使う出口戦略
オペレーティングリースによる集中的な損金計上
オペレーティングリースは、航空機やコンテナなどの高額な資産を複数の出資者で共同購入し、他社に貸し出して賃料を受け取る投資手法です。出資することで、初年度から投資額の70〜80%を一気に損金計上できるため、突発的に大きな利益が出た年の節税策として王道と言われています。
規模感としては航空機で3,000万〜5,000万円、コンテナは1,000万円から始められるものもあり、為替リスクを避けたい場合は国内トラックのオペレーティングリースという選択肢も存在します。
ただし、一度出資すると5〜10年は資金が戻らず、為替や運航会社の経営状況によっては元本割れのリスクもあります。あくまで余剰資金で、後述する出口戦略とセットで使うことが大前提です。
退職金による最強の出口戦略
そして最後、9つ目が「退職金」です。個人事業主には退職金という概念がなく、小規模企業共済やiDeCoで少しずつ積み立てるくらいしか方法がありません。一方、法人であれば数千万円、場合によっては億単位のお金を全額経費にしながら個人に移すことが可能です。
退職金には3つの税優遇が重なっています。まず、他の所得と合算しない「分離課税」であること。次に、勤続年数に応じた大きな「退職所得控除」があること。そして、退職金から退職所得控除を差し引いた金額をさらに「2分の1」にした額が課税対象となる点です。役員報酬で受け取ると最高で55%前後の税率になることもあるのに対し、退職金であれば社会保険料もかからず、税率も大幅に下がります。
さらに退職金は、他の節税策の出口としても機能します。たとえばオペレーティングリースの満期が来て5,000万円が会社に戻ってくるタイミングで同額の退職金を支給すれば、法人側では益金と費用が相殺されて法人税がゼロに近づき、個人側にも軽い税負担でお金を移すことができます。節税策を単発で終わらせず、退職金という出口までセットで設計することで、最終的な手取りは大きく変わってきます。
まとめ
法人だけが活用できる経費には、日常的に使える出張手当や社宅制度から、役員報酬・役員賞与を通じた所得コントロール、家族への役員報酬による所得分散、そして保険・不動産・オペレーティングリース・退職金といった大型の節税策まで、多岐にわたる選択肢があります。
重要なのは、これらを単独で使うのではなく、自社の利益状況やライフプランに合わせて組み合わせることです。特に大きな節税策ほど「入口」だけでなく「出口」までを設計しておかなければ、単なる課税の繰り延べで終わってしまいます。退職金という強力な出口戦略を軸に据えつつ、日常の節税策を積み上げていくことで、法人化のメリットは最大限に発揮されます。
一定以上の利益が出ているにもかかわらず個人事業のままである場合、毎年数十万円から数百万円単位の手取りを失っている可能性があります。まずは自社にとって取り入れやすいものから、順に検討してみてはいかがでしょうか。
なお、本記事で紹介した9つの経費活用術については、税理士がより具体的な数字や実務上の注意点を交えながら動画でわかりやすく解説しています。文章だけではイメージしづらい部分もありますので、あわせてご覧いただくとより理解が深まるはずです。ぜひ元動画もチェックしてみてください。