社長の手取りが数百万円変わる――法人・個人を組み合わせた節税戦略の全体像

執筆 社長の資産防衛チャンネル編集チーム監修 税理士法人グランサーズ公開 2026年9月25日
社長の手取りが数百万円変わる――法人・個人を組み合わせた節税戦略の全体像
社長の手取りが数百万円変わる――法人・個人を組み合わせた節税戦略の全体像

「節税テクニックは色々あるけれど、結局どれをやれば手元のキャッシュが一番増えるのか分からない」。

経営者の方から、こうした声をいただく機会は非常に多いです。

実際、法人の税金だけを安くしても、個人の税金が高ければトータルの手残りは増えません。

逆に、法人税を払うことを過度に嫌って役員報酬を上げすぎると、所得税・住民税・社会保険料が直撃し、かえって手取りが減ってしまうケースもあります。

重要なのは、会社と個人の財布を「一つ」として捉え、トータルの手残りを最大化する視点です。

本記事では、法人・個人の両面から合法的にお金を残す方法を体系的に整理し、やってはいけないNG節税まで含めて解説します。

社長が向き合う「2種類の税金」とその構造的な違い

経営者が支払う税金は、大きく「法人として支払う税金」と「個人として支払う税金」の2種類に分かれます。

この2つの最大の違いは、税率の「上がり方」にあります。

法人税は約3割で頭打ちになる

中小企業(資本金1億円以下)の場合、法人税率は非常に優遇されています。

年800万円以下の利益には約15%、それを超える部分には約23%が課されます。

法人住民税や事業税を加えた実効税率でも約25%〜34%程度であり、利益が1億円に達しても税率が50%、60%と跳ね上がることはありません。

ある一定のラインで止まるという点は、法人税の大きな特徴です。

個人の税負担は最高55%+社会保険料

一方、個人の所得税は累進課税であり、最高税率は45%です。

住民税10%と合わせると最高55%に達します。

さらに見落とされがちなのが社会保険料の存在です。

社会保険料は給与の約30%にあたる金額を会社と従業員で折半して負担する仕組みですが、オーナー社長から見れば実質的に全額を自分で負担しているのと同じです。

法人税率と個人税率の比較

区分 税率の目安 特徴
法人税(実効税率) 約25%〜34% 利益が増えても一定水準で頭打ち
個人(所得税+住民税) 最高55% 累進課税で所得が増えるほど税率上昇
社会保険料 給与の約30%(労使合計) オーナー社長は実質全額負担

この構造を理解すると、「法人税は払ったら負け」という発想がかえって手元資金を減らす原因になり得ることが見えてきます。

法人と個人のバランスをどう取るかが、節税戦略の出発点です。

法人で合法的にお金を残す4つの方法

会社から出ていく税金を抑えるためには、無駄遣いではなく、国の制度をフル活用することが原則です。

ここでは、特に効果の高い方法を厳選して紹介します。

役員報酬の適正化

最も効果が大きいのが、役員報酬の金額設定を最適化することです。

法人税の実効税率と、個人の所得税・住民税・社会保険料を含めた負担率を天秤にかけ、トータルの税負担が最も小さくなる「分岐点」を探すシミュレーションが欠かせません。

この調整だけで年間数百万円単位の差が出ることもあるため、決して軽視できないポイントです。

ただし、役員報酬は原則として期首から3ヶ月以内にしか変更できません。

この期間を過ぎてからの変更は損金算入が認められないため、一度決めたら1年間は固定となります。

「今月儲かったから上げる」といった柔軟な調整はできないため、来期の利益見通しをしっかりシミュレーションしたうえで金額を決定する必要があります。

役員社宅制度の活用

法人名義で住宅を借り、それを社長自身に貸し出す「役員社宅」の仕組みも非常に有効です。

法人が支払う家賃と、社長が会社に支払う家賃相当額との差額を、会社の損金に算入できます。

社長が負担する家賃相当額は、高くても本来の家賃の50%程度になることが多く、小規模な住宅であれば固定資産税評価額ベースの計算により市場家賃の20%〜30%程度に収まるケースもあります。

つまり、少なくとも本来の家賃の半分程度は会社の経費にできるということです。

さらに、会社で負担する分だけ役員報酬を抑えれば、所得税・住民税・社会保険料も連動して下がるため、手取りの増加につながります。

注意点としては、240平米を超えるような豪華物件の場合、この制度が適用できなかったり個人負担分が大きくなったりする可能性があることです。

また、家具や光熱費は原則として個人負担であり、これを会社に負担させると給与課税の対象となるため、線引きは明確にしておく必要があります。

出張旅費規程の整備と活用

「出張旅費規程」を整備し、適切に運用することで、実費精算とは別に日当や定額の宿泊手当を支給できるようになります。

この制度のメリットは二重構造になっています。

会社側では、支給した日当が全額経費になるだけでなく、消費税の課税仕入れとしても計上できるため、法人税と消費税の両方が軽減されます。

一方、受け取る個人側では、常識的な金額の範囲であれば所得税・住民税が非課税であり、社会保険料の算定基礎にも含まれません。

日当と宿泊費を合わせて2万5千円程度がひとつの目安とされてきましたが、昨今の物価上昇を受けて国の基準も引き上げられており、金額を見直す企業も増えています。

ただし、自社の規模や出張の実態に見合った常識的な金額設定が重要であり、実態のない出張は脱税とみなされます。

出張報告書などの証拠書類は必ず残しておきましょう。

経営セーフティ共済の戦略的活用

国の制度である「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」も、法人の節税における王道の手法です。

本来は取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐための制度ですが、掛金が全額損金になるという大きなメリットがあります。

掛金は月5,000円から20万円まで設定でき、年間最大240万円、累計で800万円まで積み立てが可能です。

1年分の前払いもできるため、利益状況に応じた柔軟な活用がしやすい制度です。

40ヶ月以上加入していれば、解約時に積み立てた掛金が全額戻ってきます。

それ以前の解約は元本割れするため注意が必要です。

また、解約返戻金は会社の収益として計上されるため、何も考えずに解約すると結局税金が増えてしまいます。

赤字が見込まれる年に解約して相殺する、退職金の原資に充てる、設備投資と組み合わせるなど、「出口戦略」をあらかじめ設計しておくことが活用のカギです。

なお、掛金の損金算入については、2024年10月の税制改正でルールが厳格化された点に注意が必要です。かつては「赤字の年に解約し、また利益が出たら入り直す」ことで繰り返し節税できましたが、一度解約すると、その後2年間は再加入しても掛金を経費(損金)にできなくなりました。安易な解約・再加入ができなくなったため、解約のタイミングと戻ってきたお金の使い道(退職金や設備投資など)を、数年がかりで計画しておくことがこれまで以上に重要です。小規模企業共済との使い分けは小規模企業共済と経営セーフティ共済の活用もご覧ください。

知らないと損をする――社長個人の節税制度

法人側の対策と並行して、個人の所得控除を積み上げることも極めて重要です。

ここでは、経営者と相性の良い制度を順に見ていきます。

小規模企業共済で「経営者の退職金」を積み立てる

小規模企業共済は、経営者のための退職金積立制度です。

掛金は月1,000円から7万円まで選択でき、年間最大84万円まで積み立てることができます。

最大のメリットは、掛金の全額が所得控除の対象になる点です。

たとえば課税所得が1,000万円の方が月7万円を積み立てた場合、年間の節税額は約36万7,000円にのぼります。

これを30年間継続すると、節税効果の総額は1,000万円を超える計算になります。

さらに、将来受け取る際には退職所得控除が適用されるため、入り口と出口の両方で税制優遇を受けられます。

加えて、積み立てた範囲内で低金利の貸付制度も利用できるため、急な資金ニーズにも対応可能です。

iDeCoで老後資金を非課税運用する

iDeCo(個人型確定拠出年金)も掛金が全額所得控除になる制度です。

60歳まで原則引き出せないという資金拘束はありますが、老後資金の準備と割り切れるならメリットは非常に大きいといえます。

所得控除に加えて、運用期間中の運用益は非課税、受取時には退職所得控除や公的年金等控除の優遇もあります。

iDeCoは所得が高い人ほど節税額が大きくなるという特徴があり、経営者との相性は抜群です。

月2.3万円を拠出した場合、税率30%の方で年間約8.3万円、税率43%の方で年間約11.9万円の節税効果があります。

同じ掛金でも年間3万6,000円ほどの差があり、この差が毎年積み上がっていきます。

なお、2027年以降は掛金の上限が大きく引き上げられることが決まっており、今後さらに活用の幅が広がる見込みです。

NISAで流動性のある非課税資産を確保する

iDeCoが老後資金の積立なら、NISAは流動性を確保するための受け皿です。

両者は役割が異なるため、併用が推奨されます。

新NISAでは非課税枠が最大1,800万円と大幅に拡大され、いつでも売却可能で資金拘束がありません。

非課税期間も無期限化されたことで、長期運用の利便性が大きく向上しました。

すぐに使う予定のない余裕資金の運用先として、非常に有力な選択肢です。

ふるさと納税を上限まで活用する

ふるさと納税は、自分で選んだ自治体に寄付をすると、寄付額から自己負担2,000円を差し引いた金額が翌年の税金から控除される仕組みです。

実質2,000円の負担で返礼品を受け取れるため、「どうせ払う税金」を有効活用する手段として広く活用されています。

控除の上限額は年収や家族構成によって変わりますが、目安として年収1,000万円なら14万円超、2,000万円なら55万円超まで寄付可能です。

返礼品は寄付額の3割程度が相場ですから、55万円の寄付であれば16万円相当の返礼品を受け取れる計算になります。

ただし、上限額を超えた分は全額自己負担になるため、事前のシミュレーションは必須です。

役員退職金――法人と個人の節税が交差する最大の切り札

個人と法人の両方にメリットがある仕組みとして、役員退職金の重要性は特筆に値します。

法人側では退職金を全額経費に算入でき、個人側では極めて手厚い税制優遇を受けられます。

(1)退職金には「分離課税」が適用されるため、他の所得と合算されることがありません。給与所得や事業所得が高くても、退職金の税率が引き上げられることはないのです。

(2)「退職所得控除」という大きな控除が用意されています。勤続年数が20年を超えている場合、最低でも800万円の控除を受けることが可能です。しかも、控除額を超えた部分についても「2分の1」にしたうえで税率が適用されます。

この仕組みがあるからこそ、現役時代は法人の経費を適切に活用して利益を会社に蓄え、最終的に退職金として個人に移すという長期戦略が有効になります。

場当たり的な節税ではなく、退職金の受取を見据えた計画的な資金管理が求められるのです。

【シミュレーション】組み合わせると手取りはどれだけ増えるか

ここまでの施策は、単体で使うより組み合わせて実行することで効果が大きくなります。年収1,200万円の経営者が、次の王道施策をまとめて導入したモデルケースで見てみましょう。

  • 役員報酬を200万円減額(役員報酬の最適化)
  • 役員社宅(法人負担216万円)
  • 出張旅費日当(年50万円)
  • 小規模企業共済(年84万円)
  • iDeCo(年27.6万円)

これらを法人・個人一体で組み合わせると、年間およそ131万円のキャッシュフロー改善が生まれます。内訳は次のとおりです。

改善の内訳年間の効果
所得税・住民税の削減(役員報酬減額+小規模共済・iDeCoの所得控除で、課税所得の税率帯を33%から20%へ引き下げ)約939,900円
社会保険料の削減(労使合計。健康保険の等級ダウン分。厚生年金は上限到達済みで変動なし)約208,000円
法人税の軽減(社宅・出張日当の経費増から役員報酬・会社側社保の減少を差し引いた実質利益圧縮55.6万円×実効税率30%)約166,800円
年間合計約1,314,700円

 

年間約131万円 × 3年 = 約394万円。さらに、掛金が全額損金になる経営セーフティ共済を年間上限240万円まで活用すると、年72万円(240万円×実効税率30%)×3年=約216万円が上乗せされ、3年累計で約610万円のキャッシュフロー改善になります(共済を満額拠出した場合)。単体では地味に見える施策も、束ねれば数年で数百万円規模の差を生みます。最終的には、会社に蓄えた資金を役員退職金として受け取ることで、出口でも税制優遇を活かせます。なお、上記は一定の前提を置いたモデルケースであり、実際の効果は年収・家族構成・自治体などで変わります。

やってはいけないNG節税

節税の手法を理解したところで、最後に「絶対にやってはいけないこと」にも触れておきます。

利益を生まない支出での税金対策

「税金を払うくらいなら使ってしまおう」という発想は、最も危険な考え方です。

見栄のための高級車、付き合いだけの飲食費など、利益を生まない支出はキャッシュを確実に減らします。

たとえば1,000万円の車を購入して全額経費に算入できたとしても、減る税金はせいぜい340万円程度です。

手元からは660万円の現金が消えることになります。

4年落ちの中古車なら短期間で償却できるという話もありますが、リセールバリューが高く投資として成立する場合を除けば、単にキャッシュアウトが先行するだけです。

手元に現金がなければ、黒字であっても倒産するリスクがあることを忘れてはなりません。

制度の隙間を狙ったスキーム

ドローン投資や足場レンタルなど、税制の隙間を狙った節税スキームは次々と規制が入っています。

税制は毎年改正されるため、一時的に有効だった手法がある日突然使えなくなるリスクは常にあります。

流行りのスキームに飛びつく前に、本記事で紹介したような制度本来の趣旨に沿った王道の手法を確実に押さえることが、長期的な資産防衛につながります。

まとめ

法人の税金だけ、あるいは個人の税金だけを見て対策を打っても、トータルの手残りは最大化できません。

法人税率は約3割で頭打ちになる一方、個人の税負担は最高55%に社会保険料が上乗せされるという構造を理解したうえで、両者のバランスを設計することが出発点です。

法人側では、役員報酬の適正化、役員社宅、出張旅費規程、経営セーフティ共済といった制度を組み合わせて活用し、個人側では小規模企業共済、iDeCo、NISA、ふるさと納税で所得控除と非課税メリットを積み上げていく。

そして、現役時代に会社に蓄えた資金を退職金として受け取ることで、入り口と出口の両方で税制優遇を享受する。

この一連の流れを計画的に実行できるかどうかで、社長の手取りは数百万円単位で変わり得ます。

場当たり的な節税ではなく、長期的な視点で法人と個人の資金を設計していくことが、真の資産防衛につながるのです。

法人化そのものの効果や具体的な節税術は、法人化で活用できる9つの経費活用術、一人社長が個人事業主より得する11の節税術、マイクロ法人との二刀流スキームもあわせて参考にしてください。

本記事の内容は、税理士が動画でより詳しく、具体的な数字や図表を交えながら解説しています。

各制度の仕組みや活用時の注意点をさらに深く理解したい方は、ぜひ動画もあわせてご覧ください。

動画でも解説しています

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執筆・監修

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、相続診断士、住宅ローンアドバイザー等の資格を持つメンバーで構成されています。
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