持株会社(ホールディングス)化は何が得?配当を無税で集約し自社株の評価を下げて事業承継する仕組みを税理士がやさしく解説
「会社をもう一段大きくしたい」「子どもに事業を継がせたいが、株のことがよく分からない」――利益がしっかり出ている会社の社長ほど、一度は持株会社(ホールディングス/HD)化という言葉を耳にします。むずかしそうに聞こえますが、仕組みはシンプルです。
ざっくり言えば、今の会社の“上”に親会社をつくり、その親会社がグループ全体の株を持つ形にするだけ。これだけで、①各社の利益(配当)を親会社にほぼ無税で集約でき、②将来の相続・贈与で効いてくる自社株の評価を下げ、③後継者に経営権をまとめて引き継げるという、節税と事業承継を同時に叶える“最強の組み合わせ”が手に入ります。
この記事では、持株会社化で具体的に何が得なのか、作り方・向いている会社・注意点まで、税理士監修でやさしく整理します。
持株会社(ホールディングス)とは?3分でわかる全体像
持株会社とは、自分では製品やサービスを売らず、グループ会社の株式を保有してグループ全体を統括する会社のことです。「〇〇ホールディングス」という社名を見たことがあると思いますが、あれがまさに持株会社です。
中小企業の典型的な形はこうです。たとえば社長が100%株を持つ事業会社A社があるとき、新しく親会社H社をつくり、社長が持っていたA社株をH社に移す。すると「社長 → H社(持株会社)→ A社(事業会社)」という親子関係になります。社長はH社の株主になり、A社はH社の100%子会社になります。
| 事業会社(A社) | 持株会社(H社) | |
|---|---|---|
| 役割 | 実際の商売・製造・販売 | 株の保有とグループ統括 |
| 社長の立場 | 直接の株主ではなくなる | H社の株主になる |
| 承継するもの | ― | 後継者はH社株を継げば全部つながる |
この“ワンクッション”を挟むだけで、次に見る3つの大きなメリットが生まれます。
メリット①:配当を“ほぼ無税”でグループに集約できる
最大の魅力がこれです。通常、会社が受け取った配当にも税金(法人税)がかかります。ところが法人税には「受取配当等の益金不算入」という制度があり、株をたくさん持っているほど、受け取った配当に税金がかからなくなります。保有割合ごとに、益金(=課税対象)に算入しない割合はこう決まっています。
| 株式の区分(保有割合) | 益金不算入の割合 | 負債利子の控除 |
|---|---|---|
| 完全子法人株式等(100%) | 全額(100%) | なし |
| 関連法人株式等(3分の1超) | 全額(100%) | あり |
| その他の株式等(5%超〜3分の1以下) | 50% | あり |
| 非支配目的株式等(5%以下) | 20% | なし |
ポイントは一番上。持株会社が事業会社を100%保有していれば、事業会社から持株会社へ払う配当は、負債利子の控除もなく“全額”非課税で受け取れるのです。しかも100%の資本関係(完全支配関係)がある会社どうしにはグループ法人税制が自動で適用され、この「負債利子を引かずに全額非課税」という扱いが保証されます。
つまり、複数の事業会社やよく稼ぐ子会社の利益を、税金で目減りさせずに持株会社へ吸い上げられる。集まった資金で新規事業への投資や不動産購入、M&Aによる会社の買い増しなどをグループ全体の財布で動かせるようになります。個人が受け取る配当だと最大約50%が税金で消えることを思えば、この差は非常に大きいといえます(個人と法人の使い分けは法人の節税 完全ガイド|経費・役員報酬・決算対策・税務調査でお金を残す全体像も参考に)。
メリット②:グループ法人税制で資金・損益を動かしやすくなる
100%の資本関係にあるグループには、配当のほかにも次のような優遇がまとめて適用されます(グループ法人税制/2010年度改正で導入・完全支配関係があれば強制適用)。
- 資産を移しても譲渡益に課税されない(繰延):グループ内で一定の資産(土地・有価証券など)を移転しても、その含み益への課税は、外部に売るなど実際に利益が実現するまで繰り延べられます。グループ内で不動産や事業を再配置しやすくなります。
- グループ内の資金援助が無税:グループ内の寄附は、出した側は全額損金不算入ですが、受け取った側は全額益金不算入。赤字の子会社へ資金を入れても、受け取り側に税金がかかりません。
個々の会社を別々に持っているとこうはいきません。持株会社でグループにまとめることで、「稼ぐ会社」「投資する会社」「資産を持つ会社」と役割を分けながら、お金と資産をグループ内で機動的に動かせるようになります。
※注意:赤字と黒字を本当に“合算”して相殺する「損益通算」をしたい場合は、別途グループ通算制度(任意申請)の適用が必要です。グループ法人税制(強制適用)だけでは所得は各社ごとの計算になります。
メリット③:自社株の評価を下げて後継者にスムーズに承継できる
事業承継でいちばんの壁が、自社株の評価額です。優良企業ほど株価が高く、後継者に株を渡すときの相続税・贈与税が重くのしかかります。持株会社化は、この株価を抑える効果があります。
カギは、取引相場のない株式を純資産価額方式で評価するとき使える「評価差額に対する法人税額等相当額の控除」です。会社が持つ資産の含み益(評価額-帳簿価額)から、38%を差し引いて株価を計算できます(令和8年〔2026年〕4月1日以後の相続・贈与。防衛特別法人税の創設に伴い、従来の37%から38%へ引き上げ)。
持株会社の主な資産は「事業会社の株式」です。事業会社が成長して価値が上がっても、その値上がり分(含み益)の38%が持株会社の株価計算では控除されるため、ダイレクトに後継者の税負担へ跳ね返りにくくなります。いわば株価上昇の“クッション”を一枚はさめるわけです。
さらに、株が兄弟などに分散していても持株会社に集約すれば議決権が一つにまとまり、後継者はH社株を継ぐだけでグループ全体の経営権を引き継げます。相続時の「株の分散で経営が不安定になる」リスクも防げます。株価そのものを下げる具体策は自社株評価を下げて後継者に渡す7つのスキーム、納税を猶予する制度は事業承継税制(納税猶予制度)とあわせて設計すると効果的です。
持株会社の作り方──代表的な4つの方法
持株会社化にはいくつかのやり方があります。中小企業で多いのは株式移転と株式交換です。
| 方法 | やり方 | 向くケース |
|---|---|---|
| 株式移転 | 既存会社の株主が株式を新設する持株会社に移し、対価として持株会社の株を受け取る | 既存1社の上に親会社を新設する王道パターン |
| 株式交換 | 既存の別会社を持株会社にして、子会社化したい会社の株と交換する | すでに複数社がありグループ再編したいとき |
| 会社分割(抜け殻方式) | 事業を子会社に移し、元の会社を持株会社として残す | 事業部門ごとに分社化したいとき |
| 株式譲渡(現金) | 新設した持株会社が社長から株を買い取る | 社長個人に現金を渡したいとき(譲渡益課税に注意) |
税金面で大事なのは、一定の要件(適格要件)を満たせば、株を移した時点での課税が繰り延べられること。要件を外すと含み益に課税されてしまうため、どの方法を選ぶか・適格になるかの判断は必ず専門家と行ってください。なお株式譲渡(現金で買い取る)方式は、社長個人に譲渡所得税(約20%)がかかる代わりに現金化できる、という別のメリット・デメリットがあります。
デメリットと注意点──小さい会社ほど「コスト負け」に注意
いいことずくめに見えますが、持株会社化には次のコストとリスクがあります。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 設立・維持コスト | 会社が1社増える。設立費用に加え、赤字でもかかる法人住民税の均等割(最低年7万円程度)や申告の手間が各社ぶん増える |
| 実態がないと否認リスク | 統括・管理の実態がないペーパーカンパニーだと、税務上メリットを否認されることがある。持株会社としての役割・契約・資金の流れを整える必要がある |
| 株価算定が複雑 | 再編時の株価評価や適格判定は高度。専門家報酬も発生する |
| 金融機関への説明 | 借入がある場合、再編でグループ構造が変わるため、取引銀行への事前説明・同意が要ることが多い |
とくに利益も資産も小さいうちは、増える維持コストのほうが節税メリットを上回る“コスト負け”になりがちです。持株会社化は「十分に儲かっていて、承継や拡大を本気で考える段階」で初めて効いてくる打ち手だと覚えておきましょう。
持株会社化が向いている会社・向いていない会社
| 向いている会社 | 向いていない会社 |
|---|---|
| 複数の事業・子会社を持っている | 単一事業で規模が小さい |
| 利益が出て内部留保が厚い | まだ赤字〜トントン |
| 数年内に事業承継を控えている | 後継者が未定で承継予定もない |
| M&Aで会社を買い増したい | 当面は本業一本で拡大予定なし |
| 自社株の評価額がすでに高い | 株価が低く相続税の心配がない |
ひとつでも左側に当てはまるなら、検討する価値があります。
「持株会社」と「資産管理会社」はどう違う?
よく混同されるのが資産管理会社(プライベートカンパニー)です。名前は似ていますが役割が違います。
- 持株会社=事業会社の株を持ち、グループを統括する会社。主役は「事業」。
- 資産管理会社=社長個人の不動産・有価証券など個人資産を持たせる受け皿。主役は「個人資産」。
両方を兼ねたり、持株会社の下に資産管理機能を持たせたりすることもありますが、目的が「事業の承継・統括」なら持株会社、「個人資産の節税・防衛」なら資産管理会社、と出発点が異なります。資産管理会社のほうが目的に合うケースは資産管理会社を活用した節税スキームの全貌・プライベートカンパニー活用の秘訣で詳しく解説しています。
まとめ──「無税の集約」と「株価のクッション」で攻めと守りを両取り
持株会社(ホールディングス)化は、①配当をほぼ無税でグループに集約して攻めの資金をつくり、②自社株の評価を下げて後継者にスムーズに引き継ぐ、攻めと守りを同時に叶える打ち手です。一方で、会社が1社増える維持コストや適格判定の難しさもあり、効くのは「十分に儲かっている会社」から。
自社に合うかどうかは、株価の現状・承継の時期・グループの将来像をふまえた設計が欠かせません。まずは自社株の評価を下げる具体策や事業承継税制、全体像は相続対策 完全ガイドで足元を固めつつ、持株会社化という選択肢を検討してみてください。
※本記事は一般的な制度の解説です。適格要件の判定や株価評価は個別事情で結論が変わるため、実行前に必ず顧問税理士にご相談ください。







