中小企業が銀行融資を完済してはいけない理由と、賢い融資活用のノウハウ

執筆 社長の資産防衛チャンネル編集チーム監修 税理士法人グランサーズ公開 2026年7月29日
中小企業が銀行融資を完済してはいけない理由と、賢い融資活用のノウハウ
中小企業が銀行融資を完済してはいけない理由と、賢い融資活用のノウハウ

「借金は一日でも早く返した方が安全」——真面目な経営者の方ほど、こう考えていらっしゃるのではないでしょうか。確かに感覚としては理解できます。負債がゼロになれば気持ちもすっきりしますし、財務的にも健全な状態に見えます。しかし、財務戦略の視点から見ると、この考え方こそが会社を危険な状態に追い込んでしまう可能性があるのです。

実は中小企業の場合、借金をすべて返し切ってしまうよりも、あえて借入を残しながら手元現金を厚く保っておく方が、はるかに安全な経営につながります。今回は、中小企業が銀行融資を完済してはいけない理由と、融資を戦略的に活用するためのノウハウについて、詳しく解説していきます。

会社を守るのは「利益」ではなく「現金」である

まず質問です。次のA社とB社、不測の事態が起きたときに安全なのはどちらでしょうか。

項目 A社 B社
借入金 0円 1,000万円
手元現金 500万円 1,500万円
財務状態 無借金 借入あり

 

答えは、借入があっても手元現金が1,500万円あるB社です。企業にとって本当に重要なのは、「今すぐ使える現金がいくらあるか」だからです。だからこそ中小企業にとっては、「借金ゼロ・現金500万円」よりも、「借金1億円・現預金1.5億円」の方が圧倒的に安全なのです。

「売上が増えれば現金も増える」という思い込みの危険

多くの経営者が陥りやすいのが、「売上が増えれば、利益が増え、自然と現金も増えるはずだ」という思い込みです。しかし実際には、売掛金の回収待ちだったり、在庫の仕入れや税金の支払いで消えたりで、現金は思っているほど残っていないケースがほとんどです。

その錯覚のまま「借金が気持ち悪いから」と少ない手元現金で返済を進めてしまうと、不測の事態が起きた瞬間に資金ショートを起こして倒産する危険性が生まれます。実際、売上が急拡大して黒字が続いていたにもかかわらず、資金繰りが追いつかずに突然倒産する「黒字倒産」の事例は、決して珍しいものではありません。

PLだけでなくBSを見る習慣を

これを防ぐためには、会社の数字を見るときに損益計算書(PL)だけでなく、貸借対照表(BS)にも目を向けることが重要です。PLはフロー、つまり一定期間のお金の動きを表しますが、BSはストック、つまり今この瞬間に会社がどれだけの資産と負債を持っているかを表します。

PL上は黒字でも、BSを見ると手元現金が枯渇しているというケースは実際に起きています。毎月の返済額がいくらかというフローの話ではなく、今この瞬間に手元にいくらあるかというストックの視点を持つことが、経営の安全性を守るうえで欠かせません。

一つの目安として、毎月の固定費の3ヶ月分から6ヶ月分程度の現金を常に手元に置いておくことが推奨されます。業種によって差はありますが、この水準を下回り始めると、急な出費や売上の落ち込みに対応できなくなるリスクが高まります。固定費の半年分となるとかなりの金額になりますが、これを維持しながら経営するためにも、融資を上手に活用することが必要になるのです。

借金の返済は「現金の消滅」を意味する

「そうは言っても、借金があること自体が不安だ」という声もよく聞きます。しかし、この点は財務の構造を理解すると見方が変わってきます。

BS(貸借対照表)は、左側に資産、右側に負債と純資産が並んでいます。銀行から1,000万円借りた場合、右側の負債が1,000万円増えると同時に、左側の現金という資産も1,000万円増えます。つまり借りた瞬間は、負債と資産がセットで増えているわけです。

そして、その1,000万円を全額返済したとします。すると負債は消えてゼロになりますが、同時に現金という資産も1,000万円消えてしまいます。BSの見た目はきれいになりますが、手元のキャッシュは大きく減っている——これが返済の本質です。

財務戦略として正解なのは、負債が残っていても現金という資産を常に手元に厚く置いておく状態をキープすることです。借金があっても現金がある会社の方が、経営の選択肢は圧倒的に多くなります。急な出費にも対応でき、チャンスが来たときに即座に動くこともできます。もちろん、返済能力を超えた借入は論外です。あくまで手元現金を厚く保つための、計画的な融資活用という前提での話です。

元本返済は経費にならないという見落とし

もう一つ、多くの経営者が誤解しているのが、借金の返済に関する税務上の扱いです。実は、借金の返済はほとんど経費になりません。

銀行への返済は、「元本」と「利息」に分かれています。このうち、利息の部分は損金として算入できますが、元本の返済は単にお金を移動させているだけで、税務上の費用としては認められないのです。

たとえば毎月10万円返済しているケースで、そのうち利息が5,000円だとすれば、経費になるのはその5,000円だけです。元本の9万5,000円は経費ではなく、ただ現金が手元から銀行に移動しているだけということになります。

さらに言えば、利息は全額経費として認められるため、法人税の節税効果を考慮すると、実質的な利息負担はもっと小さくなります。つまり、手元の現金を大きく減らしてまで早期返済するメリットは財務的にはかなり薄く、むしろ現金を手放すリスクの方が高いというのが実態なのです。

借金完済が招く「銀行取引リセット」という罠

もう一つ見落とされがちなのが、銀行との関係維持という視点です。融資を完済して取引が終わってしまうと、いざ本当にお金が必要になったときに、大きな困難を招く可能性があります。

銀行は、取引実績と返済実績を非常に重視します。継続的に融資を受け、きちんと返済し続けているという実績が積み上がっていると、次に融資を申し込んだときの審査もスムーズに通りやすくなります。ところが完済して取引が途絶えてしまうと、その関係性が一旦「リセット」されてしまうのです。

もちろん、過去の返済実績が完全に無視されるわけではありません。しかし、一度関係が途絶えると、銀行としても改めて会社の状況を審査せざるを得ません。審査には時間がかかりますし、そのタイミングで業績が悪化していれば、審査は当然通りにくくなります。つまり、お金が必要なときほど借りられないという事態に陥りかねないのです。

だからこそ、業績が好調なうちに融資を受けて、良好な取引実績を積み上げておくことが大切です。借りて返して、また借りてを継続的に繰り返すことで、銀行との信頼関係を維持し続けることができます。銀行との関係は、使い続けることで育っていくものだと考えてください。

資金ショートを防ぐ「折り返し融資」の活用法

では具体的に、どのような形で融資と付き合っていくのが正しいのでしょうか。長期的な視点で銀行と付き合っていくうえで、ぜひ知っておきたいのが「折り返し融資」という方法です。

たとえば銀行から1,000万円融資を受けていて、そのうち700万円の返済が完了しているとします。このタイミングで、再度1,000万円の融資を受けるのが折り返し融資です。新たな1,000万円の融資から残債300万円を返済に充てることで、実質的に手元には700万円が入ってくる形になり、借入残高は再び1,000万円に戻ります。

「銀行にメリットがあるのか」と疑問に思われるかもしれませんが、銀行としても、一定額までしっかり返済してくれた実績のある相手に再度融資ができ、継続的に利息収入を得られるという明確なメリットがあります。優良な融資先との取引継続は、銀行にとっても望ましいことなのです。

折り返し融資を使うタイミング

具体的な運用としては、運転資金として借りた長期融資については、残高が半分程度まで減ってきたタイミングで借り直すのがおすすめです。こうすることで、常に一定以上のキャッシュを手元に置いておける状態を維持できますし、残高を半分まで返済している実績があれば次の審査も通りやすくなります。

設備投資資金は繰り上げ返済しない

借入金を使って設備投資を行った場合は、投資がうまくいって想定より早く回収できたとしても、繰り上げ返済はしないことをおすすめします。手元に残ったキャッシュは、次の設備投資の原資にしたり、急な運転資金の補填に使ったりと、次の一手のために活用する方が、経営全体のパフォーマンスは高まります。

稼いだお金で即座に返すのではなく、次の動きのために手元に置いておく——この発想の切り替えが、成長企業と守りに入る企業の分かれ道になります。

まとめ

中小企業の経営を守るのは「無借金であること」ではなく、「手元に十分な現金があること」です。借金の返済は現金の消滅を意味し、しかも元本部分は経費にもなりません。完済によって銀行との取引関係がリセットされてしまうリスクもあります。

だからこそ、業績が好調なうちに融資を受け、折り返し融資などを活用しながら、常に手元現金を厚く保つ財務戦略が重要になります。融資してくれる銀行と信頼関係を築き、戦略的に借入金を活用していくことで、「無借金経営」よりもはるかに安全で強い会社をつくることができます。

「借金=悪」という感覚から一歩踏み出し、融資を経営の武器として使いこなす視点をぜひ持ってみてください。

今回ご紹介した内容については、動画のなかで税理士が具体的な事例やBSの見方を交えながらさらに詳しく解説しています。融資の活用方法や折り返し融資の具体的な進め方について理解を深めたい方は、ぜひ元動画もあわせてご覧ください。

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本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、相続診断士、住宅ローンアドバイザー等の資格を持つメンバーで構成されています。
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