会社の利益が出た際の節税策として、多くの中小企業経営者が設備投資を検討します。しかし、その選択肢は新品の設備だけではありません。「中古資産」を戦略的に活用することで、新品を購入するよりも短期間で大きな節税効果を得られる可能性があることは、意外と知られていません。
「中古品で本当に節税になるのか?」「どんな資産が対象で、どのような仕組みなのか?」このような疑問をお持ちの方も多いでしょう。
この記事では、中古資産、特に「太陽光発電設備」「社用車」「コインランドリー」を取得した場合の節税の仕組みやメリット、そして注意すべき点について、将来の出口戦略まで含めて詳しく解説していきます。この知識は、あなたの会社の資産防衛戦略に、新たな視点をもたらすはずです。
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1.中古資産の節税における基本原則:減価償却
中古資産での節税を理解する上で、まず「減価償却」の仕組みを知る必要があります。これは、事業のために使用する建物、機械、車両などの固定資産の購入費用を、一度に経費にするのではなく、その資産が使用できる期間(法定耐用年数)にわたって、分割して経費計上していく会計処理です。
なぜ中古資産だと償却期間が短くなるのか?
新品の資産は、国が定めた法定耐用年数(例えば、新品の普通自動車なら6年、太陽光発電設備なら17年)の全期間をかけて減価償却します。しかし、中古資産を取得した場合は、その資産がすでに使用されてきた年数(経過年数)を考慮して、残りの使用可能期間を見積もり、耐用年数を再計算します。
この計算には、実務上「簡便法」という方法が用いられ、多くの場合、新品よりも短い耐用年数が適用されることになります。耐用年数が短いということは、購入費用をより短い期間で経費計上できる、つまり、1年あたりの減価償却費の額が大きくなることを意味します。これにより、課税対象となる所得を大きく圧縮し、納税額を軽減(繰り延べ)する効果が高まるのです。
2.中古太陽光発電設備を活用した節税
近年、中古の太陽光発電設備が投資市場で注目を集めています。その背景とメリットを見ていきましょう。
中古市場が形成される背景
中古の太陽光発電設備が売りに出される主な理由の一つに、「節税目的の達成」があります。過去には「グリーン投資減税」という制度があり、太陽光発電設備について100%即時償却(購入した年に全額経費化)が認められた時期がありました。
この制度を利用して大きな節税メリットを享受し終えたオーナーが、利益確定のために売却するケースが多く見られます。収益性の問題ではなく、ポジティブな理由で市場に出回っている物件が多いのが特徴です。
中古太陽光投資のメリット
中古の太陽光発電設備には、以下のようなメリットが考えられます。
- (1)短期償却による節税効果:新品の法定耐用年数が17年であるのに対し、中古設備はそれよりも短い期間で償却が可能です。これにより、初年度から大きな減価償却費を計上し、損益通算などを通じて所得税・住民税や法人税の節税効果が期待できます。
- (2)実績データに基づく収益予測のしやすさ:中古物件はすでに長期間稼働しているため、過去の発電量や売電収入といった実績データを確認できます。「想定より発電量が少なかった」という新規設置時のリスクを避け、より確度の高い収益予測を立てることが可能です。
- (3)高い売電価格(FIT)の引き継ぎ可能性:太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)は、国が一定期間、固定価格で電力を買い取る制度です。この買取価格は年々低下しており、例えば2012年頃は40円/kWhだったものが、2024年度には10円/kWhまで下がっています。過去に高い買取価格で認定を受けた中古物件を購入すれば、残りの期間、その有利な売電価格を引き継ぐことが可能です。
- (4)融資の受けやすさ:過去の売電実績があるため、金融機関に対して具体的な収益性を示しやすく、新規設置に比べて融資審査が通りやすい傾向があります。
3.中古社用車を活用した節税
節税の文脈で最もよく知られているのが、「4年落ちの中古高級車」の活用です。このスキームの仕組みは、減価償却のルールに隠されています。
なぜ4年落ちが有利なのか?
新車の普通乗用車の法定耐用年数は6年です。これに対し、新車登録から3年10ヶ月以上経過した中古普通自動車(いわゆる4年落ち)を購入した場合、前述の簡便法で耐用年数を計算すると「2年」となります。
耐用年数が2年となる資産を取得し、減価償却の方法として「定率法」を選択すると、その償却率は100%となります。つまり、理論上、購入した初年度に、その取得価額の全額を減価償却費として経費計上することが可能になるのです。これにより、その年の利益を大幅に圧縮し、法人税等の負担を軽減できます。
リセールバリューを考慮した運用サイクル
このスキームでは、ベンツなどの一般的にリセールバリュー(再販価値)が高いとされる車種を選ぶことが推奨されます。1~2年で全額償却して帳簿上の価値をゼロにした後も、市場では高い価値が残っているため、比較的高値で売却できる可能性があります。その売却資金を元手に、新たに4年落ちの中古車を購入するというサイクルを繰り返すことで、実質的に少ない負担で社用車を運用しながら、継続的に節税を図ることも考えられます。
4.中古コインランドリー投資を活用した節税
コインランドリー投資も、中古物件や中古設備を活用することで、税務上のメリットを得られる可能性があります。
中古市場が形成される背景
約20年前の第一次コインランドリーブーム時に開業したオーナーが高齢化し、後継者不在などから事業を手放すケースが増えていることが、中古市場形成の一因とされています。これらの店舗は、設備が旧式化していることも多いですが、そこにビジネスチャンスがあります。
リノベーションによる収益改善と節税
古い店舗を居抜きで購入し、内装をリニューアルするとともに、最新の省エネ型洗濯機や乾燥機を導入することで、収益性を大幅に改善できる可能性があります。近年のコインランドリーは、大型の布団が洗える機械や、キャッシュレス決済、アプリ連携など、付加価値が高まっており、リノベーションによる売上増(事例によっては2倍以上)も期待できます。
このリノベーションの際に導入する新品の設備については、「中小企業経営強化税制」を活用することで、即時償却または税額控除の適用を受けられる可能性があります。例えば、初期費用2,000万円のうち、設備費が1,600万円だった場合、その全額を初年度に損金算入できれば、大きな節税効果が生まれます。
ただし、この税制の適用を受けるには、オーナー自身が採用や広告宣伝などで主体的に経営に関与している必要があり、運営を完全に丸投げするフランチャイズ契約などでは適用が難しくなっている点に注意が必要です。
5.最も重要!「出口戦略」を忘れない
これまで見てきた中古資産を活用した節税策は、その本質が「課税の繰り延べ」である点を、絶対に忘れてはなりません。減価償却によって早期に経費化しても、将来その資産を売却した際には、売却益(売却価額から未償却残高を引いたもの)に対して課税されます。償却が進んでいるほど未償却残高は小さくなるため、売却益が大きくなりやすいのです。
節税効果を確定させ、絵に描いた餅に終わらせないためには、計画的な「出口戦略」が不可欠です。
- 役員退職金との相殺:資産の売却によって利益が出るタイミングに合わせて、役員に退職金を支給します。退職金は多額の損金となるため、売却益と相殺でき、さらに受け取る個人も税制優遇の大きい退職所得として受け取れます。
- 大規模修繕や設備投資との相殺:将来計画している他の大きな設備投資や、建物の大規模修繕など、多額の損金が発生するタイミングに売却を合わせる方法です。
- 赤字年度での売却:本業で大きな赤字が見込まれる年度に売却し、売却益をその赤字と相殺するという方法も考えられます。
まとめ
中古資産の活用は、新品にはない「短い償却期間」という大きなメリットを活かし、効果的に利益を繰り延べるための強力な節税戦略となり得ます。太陽光発電設備、4年落ちの社用車、そしてリノベーションを伴う中古コインランドリーは、それぞれ異なる特徴を持ちながらも、共通して高い節税効果を期待できる投資対象です。
しかし、これらの手法を成功させるためには、減価償却や関連する税制の仕組みを正しく理解し、それぞれの資産が持つリスクを把握した上で、最も重要な「出口戦略」までを、あらかじめ計画しておくことが不可欠です。特に、利益の繰り延べは、出口を間違えると、単に税金の支払いを先延ばしにしただけで、かえって将来のキャッシュフローを悪化させることにもなりかねません。
これらの投資を検討する際は、必ず税理士などの専門家と相談し、自社の財務状況や将来の事業計画に照らし合わせた上で、慎重に判断することをお勧めします。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な事例やさらに詳しい情報を知りたい場合に、参考にしてください。