決算月が近づき、一年間の業績が見えてくると、多くの経営者が直面するのが「法人税」の問題です。「予想以上に利益が出たが、このままでは多額の税金を納めることになってしまう…」「決算まで時間がない中で、何か打てる手はないだろうか?」こうした悩みは、事業が順調である証拠とも言えますが、切実な課題であることに変わりありません。
決算対策としての節税は、単に税金を減らすだけでなく、その資金を将来の事業成長への投資に回したり、会社の財務体力を強化したりと、未来への布石を打つ重要な経営活動です。そして、決算直前のタイミングであっても、知っていれば実行できる有効な節税テクニックは数多く存在します。
この記事では、決算月という限られた時間の中で、経営者が確実に知っておくべき14の節税テクニックについて、その仕組み、活用法、そして注意点を網羅的に解説していきます。期末ギリギリでも間に合うものから、少し準備が必要なものまで、幅広くご紹介します。
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1.決算月に有効な節税対策
【設備・資産関連の対策】
①少額減価償却資産の特例の活用
通常、10万円以上の固定資産は、一度に経費にできず、耐用年数に応じて減価償却を行います。しかし、資本金1億円以下の青色申告法人であれば、取得価額が30万円未満の固定資産について、年間合計300万円まで、購入・使用開始した事業年度に一括で損金(経費)にできる特例があります。
パソコンやオフィス家具、エアコンといった備品はもちろん、ソフトウェアなどの無形固定資産も対象となります。決算月に必要な備品を導入することで、即座に経費を計上し、利益を圧縮することが可能です。ただし、取得価額には配送料や設置費用も含まれるため、合計金額が30万円を超えないよう注意が必要です。
②一括償却資産の活用
取得価額が10万円以上20万円未満の資産については、上記の特例とは別に、「一括償却資産」として、耐用年数にかかわらず3年間で均等に償却するという選択も可能です。例えば、法定耐用年数が5年の資産でも、この制度を使えば3年で償却が完了するため、単年度の経費額を増やすことができます。少額減価償却資産の特例の年間300万円枠を使い切ってしまった場合などに、併用を検討すると良いでしょう。
③固定資産の修繕
来期に予定していた機械のメンテナンスや、オフィスの修繕などがあれば、決算日までに前倒しで実施し、支払いを済ませることで、その修繕費を当期の損金として計上できます。ただし、その修繕が単なる原状回復にとどまらず、資産の価値を高めたり、使用可能期間を延長させたりするような「資本的支出」に該当すると、一括での経費計上はできず、減価償却の対象となるため注意が必要です。
④不要な固定資産の処分・売却
倉庫に眠っている古い機械や、使わなくなった備品はありませんか。これらの不要な固定資産を、決算日までに廃棄処分(除却)することで、その資産の帳簿価額(未償却残高)の全額を「固定資産除却損」として、当期の損金に計上できます。
また、売却した場合でも、売却価格が帳簿価額を下回れば、その差額を「固定資産売却損」として計上できます。使わない資産を保有し続けることは、固定資産税の負担にも繋がります。資産の棚卸しを行い、不要なものを処分することは、節税とコスト削減の両面で有効です。
【費用の前倒し計上】
⑤宣伝広告費や人材採用費の前倒し
来期に計画していた広告キャンペーンや、人材採用のための求人広告掲載などを、当期中に前倒しで実施・契約することで、その費用を当期の損金として計上できます。ただし、経費として計上できるのは、原則として「役務の提供が完了した時点」です。例えば、広告であれば、広告が実際に掲載・配信された事業年度の経費となります。決算間際に申し込んでも、掲載が翌期であれば当期の損金にはならないため、Web広告など、実施までのリードタイムが短い施策が適しています。
⑥未払金の計上
会計の発生主義の原則に基づき、当期中に発生が確定しているものの、支払いが翌期になる費用を「未払金」や「未払費用」として、当期の経費に計上することができます。これは、決算整理仕訳として、決算月に必ず行うべき処理です。
- 従業員給与:例えば、末日締めの翌月10日払いの給与の場合、決算月の1ヶ月分の給与は、支払いが翌期でも当期の費用となります。
- 社会保険料:決算月分の社会保険料(翌月末納付)も、当期の費用として計上できます。
- その他:地代家賃、リース料、水道光熱費、クレジットカード利用分など、当月分を翌月以降に支払う契約になっているものは、当期発生分を未払計上できます。
⑦決算賞与の支給
当期の利益が予想以上に出た場合に、その利益を従業員に還元する「決算賞与」は、非常に有効な節税策です。従業員のモチベーション向上にも繋がり、一石二鳥の効果が期待できます。
この決算賞与は、実際の支払いが決算日の後(翌期)であっても、以下の3つの要件を満たせば、当期の損金として計上することが可能です。
- 決算日までに、支給対象となる全従業員それぞれに、その支給額を通知すること。
- 上記1で通知した金額を、決算日の翌日から1ヶ月以内に、全対象従業員に支払うこと。
- 上記1で通知した金額について、当期の損金として経理処理(未払金として計上)すること。このルールを活用すれば、期末の利益状況を見てから、駆け込みで大きな経費を計上できます。
⑧短期前払費用の特例の活用
地代家賃やサーバー費用、各種保険料など、継続的なサービスに対して年払いなどの契約をしている場合、その支払った費用のうち、支払日から1年以内にサービスの提供を受ける部分については、支払い時点で全額を損金算入できるという特例があります。これを利用し、決算月に、月払いの契約を年払いに切り替えて翌期分の費用を前払いすれば、その1年分の費用を当期の損金として計上し、利益を圧縮できます。ただし、一度この処理を行うと、翌期以降も継続して適用する必要があるため、節税効果は実質的に初年度のみとなる点や、キャッシュフローへの影響を考慮する必要があります。
【その他の有効な対策】
⑨福利厚生費の活用
従業員の慰安や労働環境改善のために支出する費用は、「福利厚生費」として経費になります。決算月に、全従業員を対象とした忘年会や納会、あるいは社員旅行などを企画・実施することで、従業員の労をねぎらいつつ、節税を図ることが可能です。ただし、福利厚生費として認められるためには、役員だけなど特定の従業員に限定せず、全従業員に機会が与えられていること、そして社会通念上、妥当な金額であることが条件となります。
⑩交際費の見直し(1万円基準の活用)
もし、年間の交際費が損金算入の上限である800万円を超えそうな場合は、その中身を見直してみましょう。接待飲食費のうち、1人あたりの金額が1万円以下のものは、交際費から除外し、「会議費」として全額を損金にすることができます。過去の飲食費の記録を洗い出し、この基準に該当するものがないかを確認することで、交際費の枠を空け、実質的な損金算入額を増やせる可能性があります。
⑪棚卸資産(在庫)の評価損・廃棄損の計上
在庫を抱える業種の場合、期末の棚卸は重要な決算作業です。この際、売れ残っている商品の中に、流行遅れや品質劣化、破損などにより、通常価格では販売できないものがないかを確認しましょう。このような在庫は、時価が著しく下落し、回復の見込みがないと判断されれば、その評価額を切り下げ、差額を「商品評価損」として損金計上できる場合があります。また、販売の見込みが全くなく、廃棄処分する場合には、その在庫の帳簿価額を「棚卸資産廃棄損」として損金にできます。
⑫経営セーフティ共済への加入・追納
経営セーフティ共済(倒産防止共済)は、掛金の全額が損金になる強力な節税策です。まだ加入していない場合は、決算月に加入し、向こう1年分の掛金(最大240万円)を前納することで、大きな損金を一気に作り出すことができます。すでに加入している場合でも、まだその期の掛金が上限に達していなければ、決算月に追納することで、損金額を増やすことが可能です。
⑬オペレーティング・リースの活用
数千万円単位の、非常に大きな利益が出た場合の最終手段として、オペレーティング・リースへの出資があります。航空機や船舶などを対象としたリース事業に出資することで、その初年度に、出資額の70~80%といった大きな割合を損金として計上し、利益を将来に繰り延べることが可能です。決算間際でも、案件さえ見つかれば対応できる場合があります。
⑭貸倒損失・貸倒引当金の計上
取引先の倒産などにより、回収不能となった売掛金や貸付金は、「貸倒損失」として損金計上できます。また、期末時点で回収に懸念のある債権については、将来の貸倒れに備え、一定額を「貸倒引当金繰入」として損金に計上することが可能です(中小法人等の場合)。期末に、回収不能な売掛金がないか、改めて確認してみましょう。
まとめ
決算月の節税対策は、時間がないからと諦める必要はありません。今回ご紹介した14のテクニックのように、決算直前のタイミングでも実行できる、あるいは計画できることは数多く存在します。
重要なのは、まず自社の当期の利益状況をできるだけ正確に把握すること。そして、無駄なキャッシュアウトを避けつつ、将来の事業成長にも繋がるような、賢い経費の使い方や制度の活用法を選択することです。特に、少額減価償却資産の特例や、決算賞与の未払計上、経営セーフティ共済の活用などは、多くの企業にとって検討する価値の高い方法と言えるでしょう。
これらの対策を一つ、あるいは複数組み合わせることで、法人税の負担を最適化し、会社の貴重なキャッシュを守ることが可能になります。決算という節目を、単なる納税のための作業ではなく、会社の財務体質を見直し、強化するための絶好の機会と捉えてみてはいかがでしょうか。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な事例やさらに詳しい情報を知りたい場合に、参考にしてください。