会社の利益が順調に伸びていることは、経営者にとって大きな喜びです。しかし、その利益が大きくなるにつれて、法人税の負担もまた重くのしかかってきます。「この税金を少しでも抑え、会社の成長や未来のために有効活用できないだろうか」と考えるのは、全ての経営者に共通する思いでしょう。
節税は、単に納税額を減らすだけの行為ではありません。適切な節税対策によって手元に残ったキャッシュは、会社の財務基盤を強化し、新たな設備投資や人材採用の原資となり、企業価値そのものを高めることに繋がります。しかし、国や自治体が用意している有利な制度は、自ら情報を収集し、活用しようとしなければ、その恩恵を受けることはできません。
この記事では、多くの経営者が見過ごしがちなものも含め、法人が絶対に取り組むべき節税テクニックを、網羅的に30個、厳選してご紹介します。期首から計画的に取り組むべきものから、決算間際でも間に合うものまで、様々な角度から解説していきます。
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1.節税の基本:なぜ法人の節税が重要なのか?
具体的なテクニックに入る前に、なぜ法人が節税に取り組むべきなのか、その重要性を再確認しておきましょう。節税の目的は、会社のキャッシュフローを改善し、財務基盤を強化することにあります。手元資金に余裕が生まれれば、経営の安定性が増し、金融機関からの信用力も向上します。
これにより、より有利な条件で融資を受け、事業をさらに拡大していく、という好循環を生み出すことが可能になるのです。特に、中小企業に対しては、大企業よりも多くの税制上の優遇措置が用意されています。これらの制度を最大限に活用することが、賢明な経営戦略と言えるのです。
2.【実践編】法人が絶対やるべき節税テクニック
それでは、具体的な節税対策を、「人件費・福利厚生」「設備・経費の最適化」「税制・制度の活用」という3つのカテゴリーに分けて解説していきます。
【カテゴリー1】人件費・福利厚生に関する節税対策
①役員報酬の最適化
役員報酬は、会社の経費(損金)の中で最も大きな割合を占めるものの一つです。役員報酬を増額すれば、その分、法人の利益が圧縮され、法人税の節税になります。ただし、役員個人の所得税・住民税・社会保険料の負担が増加するため、法人と個人のトータルでの税負担が最も軽くなるバランスを見極めることが重要です。役員報酬は、原則として期首から3ヶ月以内でないと変更できないため、期首に慎重なシミュレーションが必要です。
②役員報酬は「定期同額給与」にする
役員報酬を損金として認めてもらうための大原則が「定期同額給与」です。これは、毎月決まった日に、決まった金額を支給することを意味します。このルールを守るだけで、役員報酬は経費として認められるため、基本的な節税対策となります。
③役員賞与は「事前確定届出給与」にする
役員への賞与(ボーナス)は、原則として損金にできません。しかし、「事前確定届出給与」という手続きを踏むことで、損金算入が可能になります。「いつ、誰に、いくら支給するか」を、所定の期限内に税務署へ届け出て、その通りに支給することで、役員賞与も節税に活用できます。決算対策のオプションとしても有効です。
④役員社宅制度を活用する
社長や役員の自宅を、会社名義で賃貸契約(または購入)し、社宅として貸し出す制度です。役員は、会社に対して相場より低い家賃相当額を支払うだけで済み、会社が支払う家賃との差額は、会社の経費となります。役員報酬をその分引き下げれば、個人の税・社会保険料負担も軽減され、双方にメリットがあります。
⑤従業員に社宅を用意する
役員だけでなく、従業員に対しても社宅制度は有効です。会社が借り上げた物件を社宅として提供すれば、家賃を福利厚生費として経費計上できます。従業員にとっては、家賃補助(給与として課税される)よりも手取り額が増えるため、従業員満足度の向上や人材定着に繋がります。
⑥従業員に決算賞与を支給する
決算前に予想以上の利益が出た場合に有効な、駆け込み節税策です。従業員に支給する決算賞与は、全額を損金にできます。一定の要件(決算日までに支給額を通知し、決算日の翌日から1ヶ月以内に支払う等)を満たせば、実際の支払いが翌期でも当期の損金として計上可能です。
⑦社員旅行を実施する
従業員全員を対象とし、「4泊5日以内」「参加率50%以上」などの要件を満たす社員旅行は、その費用を「福利厚生費」として経費にできます。従業員の慰労と節税を両立できる施策です。
⑧健康診断を実施する
従業員の健康診断や人間ドックの費用を会社が負担する場合、これも福利厚生費として経費計上できます。全従業員が対象であり、会社が医療機関へ直接支払うことが条件となります。
⑨出張旅費規程を整備する
出張が多い会社であれば、「出張旅費規程」を整備し、日当(出張手当)を支給することで、大きな節税効果が生まれます。支給した日当は、法人の経費(損金)となり、消費税の節税にも繋がります。さらに、受け取った役員・従業員にとっては非課税所得となるため、税・社会保険料の負担なく手取りを増やすことができます。
【カテゴリー2】設備・経費の最適化に関する節税対策
⑩少額減価償却資産の特例を活用する
青色申告を行う中小企業であれば、取得価額が30万円未満の固定資産について、年間合計300万円まで、購入した年に一括で経費計上できます。パソコンやオフィス家具、エアコンなど、多くの備品購入に適用できる、非常に使い勝手の良い制度です。
⑪一括償却資産の活用
取得価額が10万円以上20万円未満の資産については、法定耐用年数にかかわらず、3年間で均等に償却できる「一括償却資産」として処理することも可能です。これにより、通常の減価償却よりも早期に費用化できます。
⑫社用車に後からカーナビを取り付ける
車両購入時にカーナビを一緒に取り付けると、カーナビの費用も車両本体の取得価額に含まれ、6年などの長い期間で減価償却することになります。しかし、納車後に別途カーナビを購入・取り付けすれば、カーナビは別の資産として扱われるため、30万円未満であれば「少額減価償却資産の特例」で一括経費化が可能です。
⑬固定資産を修繕する
来期に予定していた修繕を決算前に前倒しで実施すれば、その費用を当期の損金にできます。ただし、資産価値を高めるような大規模な修繕(資本的支出)は、一括経費にできず減価償却の対象となるため注意が必要です。
⑭古い在庫や固定資産を処分する
売れ残った不良在庫や、使わなくなった古い機械などを廃棄処分することで、その帳簿価額を「廃棄損」や「除却損」として、全額を損金に計上できます。不要な資産を持ち続けるコストを削減しつつ、節税にも繋がる一石二鳥の対策です。
⑮宣伝広告費や人材採用費を活用する
翌期に計画していた広告出稿や求人広告の掲載などを、決算前に前倒しで行うことで、当期の経費を増やすことができます。ただし、実際に広告が掲載・配信された時点での経費となるため、実行のタイミングには注意が必要です。
⑯ホームページ作成費用を経費にする
ウェブサイトの制作を外部に依頼した場合、その費用は経費として計上できます。デザインや機能によっては高額になることもあるため、有効な節税策となります。自社で制作した場合は、サーバー代などが経費になります。
⑰書籍代やセミナー代を経費にする
事業に関連する専門書籍の購入費や、スキルアップのためのセミナー・研修の参加費用は、「新聞図書費」や「研修費」として経費計上できます。
⑱飲食費や交際費を経費にする
取引先との接待飲食費などは、中小企業の場合、年間800万円までは損金として認められます。また、1人あたり1万円以下の飲食費は、交際費から除外して「会議費」として全額損金にできるため、このルールをうまく活用することが重要です。
⑲短期前払費用の特例を年度内に活用する
オフィスの家賃やサーバー代、保険料など、継続的なサービス費用を年払い契約にし、決算月に翌期分までを前払いすることで、その支払額を当期の損金にできる特例です。キャッシュフローへの影響はありますが、突発的な利益が出た際の駆け込み節税として有効です。
⑳レンタルサーバー代・通信費を適切に計上する
レンタルサーバー代を年払いにしたり、決算月に発生した通信費(翌月払い)を「未払費用」として計上したりすることも、基本的ながら確実な節税策です。
【カテゴリー3】税制・制度の活用と組織戦略
㉑経営セーフティ共済に加入する
掛金の全額(年間最大240万円、総額800万円まで)が損金になる、中小企業にとって必須の節税制度です。決算月に年払い(前納)を活用すれば、一気に大きな損金を作り出すことも可能です。
㉒小規模企業共済を活用する
社長個人の退職金を積み立てる制度ですが、役員報酬に掛金分を上乗せし、その分を社長が拠出することで、実質的に法人の損金として扱うことが可能です。社長個人の所得控除にもなり、法人・個人双方にメリットがあります。
㉓経営強化税制、投資促進税制を活用する
中小企業が特定の設備投資を行った際に、「即時償却」や「税額控除」といった非常に有利な税制優遇を受けられる制度です。高額な機械装置などを導入する際には、必ず適用できないか検討すべきです。
㉔貸倒損失・貸倒引当金の計上
取引先の倒産などで回収不能となった売掛金は、「貸倒損失」として損金計上できます。また、将来の貸倒れに備え、期末の売掛金残高に対して一定額を「貸倒引当金繰入」として、損金に計上することも可能です(中小法人等の場合)。
㉕キャンピングカー投資を活用する
キャンピングカーを購入し、レンタカー事業として貸し出す投資スキームです。車両によっては、4年落ち中古車と同様に、購入初年度に100%償却できるケースもあり、数百万~1,000万円規模の損金創出に活用できます。
㉖トレーラーハウス投資を活用する
トレーラーハウスも、税法上「車両」として扱われ、4年という短い期間で減価償却が可能です。初年度に投資額の50%を損金にできるケースもあり、比較的新しい利益繰延べ手法として注目されています。
㉗海外不動産投資を活用する
法人であれば、海外不動産の減価償却による赤字を、国内事業の利益と損益通算することが可能です。特に、建物割合が高く、築古でも資産価値が落ちにくいアメリカの中古木造住宅などは、短期で大きな償却費を計上できる可能性があります。
㉘オペレーティング・リースを活用する
航空機や船舶などを対象としたリース事業に出資することで、初年度に出資額の70~80%を損金算入できる、大規模な利益繰延べ策です。数千万円以上の突発的な利益が出た場合に、極めて有効な手段となります。
㉙別会社を設立する(分社化)
子会社やグループ会社を設立することで、軽減税率が適用される800万円の利益枠が2倍になったり、消費税の免税期間を新たに享受できたりと、様々な税務メリットが生まれます。交際費の枠も、法人ごとに適用されます。
㉚事業年度を繁忙期から始まるように変更する
決算期を、自社の繁忙期が終わった直後の月に変更する、という組織的な対策です。これにより、年間の利益予測が立てやすくなり、決算までの期間に余裕をもって、計画的な節税対策を実行することができます。
まとめ
法人が活用できる節税テクニックは、実に多岐にわたります。日々の経費を漏れなく計上する基本的な対策から、役員報酬や社宅制度の設計、各種共済制度や税制特例の活用、そして決算間際の駆け込み策まで、その選択肢は豊富です。
重要なのは、これらのテクニックを単なる「節税」として捉えるのではなく、会社の財務体質を強化し、将来の成長に繋げるための「戦略」として位置づけることです。無駄なキャッシュアウトを避け、会社の状況に合わせて最適な方法を組み合わせる。そして、その判断に迷った際には、必ず税理士などの専門家に相談する。
この姿勢こそが、会社の資産を確実に守り、持続的な成長を実現するための王道と言えるでしょう。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な事例やさらに詳しい情報を知りたい場合に、参考にしてください。