「今期は利益が出そうだが、効果的な節税策が見つからない」「節税したいが、準備に時間がかかるものは間に合わない」──決算が近づくと、こうした悩みを抱える経営者は少なくありません。
そんなときに真っ先に検討すべき制度が「少額減価償却資産の特例」です。
青色申告をしている中小企業や個人事業主であれば、一定額未満の資産を購入した年に全額経費として計上でき、年間合計300万円まで活用できます。
ただし、この特例には意外と知られていない要件や落とし穴が数多く存在します。
「買えば経費になる」と安易に考えていると、後から否認されるリスクもあります。
本記事では、制度の基本から実務上の注意点、さらに300万円を超える設備投資にも対応できる上位制度まで、体系的に解説していきます。
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減価償却の基本ルールを押さえる
少額減価償却資産の特例を正しく理解するためには、まず減価償却の基本を押さえておく必要があります。
税務の世界では、長期間にわたって使用する資産は、購入した年に一括で経費にすることが原則として認められていません。資産の種類ごとに法律で定められた「耐用年数」に応じて、少しずつ経費化していく仕組みになっています。
たとえばパソコンであれば4年、普通自動車であれば6年が耐用年数です。100万円のパソコンを買っても、初年度に全額経費にはならず、4年間かけて25万円ずつ計上していくのが原則的な取り扱いとなります。
金額による3つの区分
ただし、すべての資産が減価償却の対象になるわけではありません。取得価額に応じて、以下のような区分が設けられています。
| 取得価額 |
取り扱い |
経費化のスピード |
| 10万円未満 |
消耗品費として全額経費 |
購入年に即時 |
| 10万円以上20万円未満 |
一括償却資産として3年均等償却が可能 |
3年間で均等に |
| 20万円以上 |
原則として耐用年数に応じた減価償却 |
4年〜数十年 |
10万円未満であれば文房具などと同様に全額経費にできます。10万円以上20万円未満のものは「一括償却資産」として3年間で均等に経費化する選択肢があります。しかし、20万円を超える資産は原則として耐用年数に応じた長期の償却が必要になります。
ここで力を発揮するのが、次に解説する「少額減価償却資産の特例」です。
少額減価償却資産の特例の全貌
制度の概要
少額減価償却資産の特例は、青色申告をしている中小企業や個人事業主が対象となる制度です。取得価額が一定額未満の資産について、購入した年度に全額を経費として計上することが認められています。現行制度では30万円未満が対象ですが、2026年4月取得分からは枠が拡大され、40万円未満まで対象になる予定です。
近年はパソコンをはじめとする機器の価格が上昇していることもあり、この拡大は多くの事業者にとって朗報といえるでしょう。年間の上限額は合計300万円です。たとえば29万円のパソコンを10台購入すれば290万円、これが一気にその年の経費になります。
対象となる資産の範囲
この特例の対象は幅広く、パソコン、エアコン、コピー機などの備品に加え、ソフトウェアや自動車も含まれます。さらに重要なのは、中古資産も対象になるという点です。新品でなくても構わないため、少し年式の古い営業車や軽バンであれば金額基準を満たすものが見つかる可能性があります。
フリマアプリやオークションサイトで購入した資産も、基本的には対象となり得ます。ただし、領収書や取引の記録がしっかり残っていること、事業用として使用することが証明できることが前提です。
「取得価額」の正しい理解
見落としがちなのが、「取得価額」の定義です。取得価額とは本体価格だけではなく、その資産を事業で使えるようにするまでにかかった全ての費用を含みます。
具体的には、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料なども取得価額に算入されます。たとえば本体が39万8,000円であっても、送料が3,000円かかれば合計40万1,000円となり、特例の対象外になってしまいます。たった数千円の差で全額資産計上となり、耐用年数に応じた長期の償却が求められることになるのです。ギリギリのラインで購入を検討する際には、送料が込みなのか別なのか、見積書の段階でしっかり確認することが不可欠です。
やってはいけないNG行為と正しい節税要件
領収書の分割は絶対にNG
40万円以上の資産を購入し、店舗に依頼して領収書を分割してもらう──こうした行為は脱税にあたります。税務調査で発覚すれば即座に否認されるため、絶対に行ってはなりません。
「通常1単位」の判定基準
では、部品ごとにバラバラに購入するのはどうか。たとえばデスクトップパソコンの本体、モニター、キーボード、マウスを別々に買えば、1つ1つは40万円未満になります。ここで重要になるのが、国税庁の通達に定められた「通常1単位として取引される単位ごとに判定する」というルールです。
応接セットを例にとると、テーブルと椅子4脚は個別ではなく「応接セット」としてひとまとまりで判定されます。同様にノートパソコンは分解して買う性質のものではないため、本体・画面・キーボードを分けて判定することはできません。一方、デスクトップパソコンについては判断が分かれるケースがあります。本体だけでサーバーのように使用する場合や、モニターは既存のものを流用する場合などは、別資産として認められる可能性があります。
ただし、同じ日に同じ店舗で一式を揃えておきながら「別々の資産です」と主張するのはリスクが高いといえます。購入時期をずらす、本体とモニターを異なる店舗で購入するなど、実態として別個の取引であることが説明できる工夫が求められます。自動車のカーナビについても同様の考え方が当てはまります。購入時にオプションとして装着すれば車両価格に含まれますが、後付けであれば別資産として扱える可能性があり、40万円未満なら特例の対象になり得ます。
いずれにしても、実態が伴っていることが最も重要です。無理やり分けることは推奨できません。
特例を使うための3つの絶対条件
この特例を適用するには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。1つでも欠けると適用が認められません。
(1)青色申告をしていること
白色申告では利用できません。中小企業・個人事業主のいずれも、青色申告の承認を受けていることが前提です。
(2)確定申告書に明細書を添付すること
少額減価償却資産の取得価額に関する明細書を、申告書に添付する必要があります。この添付を忘れると特例が適用できなくなります。
(3)決算日までにその資産を「事業の用に供する」こと
ここが実務上、最もミスが多いポイントです。「買っただけ」では足りません。決算日にネットで注文し支払いを済ませても、手元に届いて実際に使い始めていなければ、その期の経費にはならず翌期の扱いになります。つまり「届いて、箱から出して、実際に稼働させる」までが必要です。
期末ギリギリで購入する場合は、納品日までを逆算して動くことが重要です。
見落としやすい消費税と償却資産税の落とし穴
消費税の経理方式による判定の違い
多くの経営者が見落としているのが、消費税の経理方式によって金額の判定基準が変わるという点です。「税込経理」を採用している場合は、税込価格で40万円未満かどうかを判定します。一方、「税抜経理」を採用している場合は、税抜価格で判定します。
たとえば、税抜39万8,000円のパソコンを購入した場合、消費税を含めると約43万7,800円になります。税抜経理であれば39万8,000円で判定するため特例が使えますが、税込経理だと40万円を超えてしまい、特例は適用できません。同じ資産を買っても、経理方式の違いだけで即時経費にできるかどうかが変わるのです。
課税事業者であれば経理方式を選択できますので、この特例の活用を考慮するなら税抜経理を採用しておくほうが有利になります。
なお、免税事業者の場合は税込経理が強制されるため、選択の余地はありません。
償却資産税の申告義務
もう一つの落とし穴が「償却資産税」です。償却資産税は固定資産税の一種で、土地や建物以外の事業用資産に対して課される地方税です。この特例を使って法人税・所得税の計算上は全額経費にした資産であっても、償却資産税の申告対象には含まれます。法人税や所得税の世界では「経費として処理済み」であっても、地方税の世界では「資産を保有している」とみなされるためです。
ただし、償却資産の課税標準額の合計が150万円未満であれば免税点以下となり、実際に課税されることはありません。
注意が必要なのは、課税されないケースであっても「申告」自体は必要になる場合があるという点です。申告を放置していると、自治体から通知が届くことになりかねないため、忘れずに対応するようにしましょう。
300万円を超える設備投資には「中小企業経営強化税制」
少額減価償却資産の特例はどれだけ活用しても年間300万円が上限です。より大きな設備投資を一括で経費化したい場合には、「中小企業経営強化税制」の活用を検討する価値があります。
この制度は、中小企業等経営強化法の認定を受けた計画に基づいて設備投資を行うと、取得価額の100%を即時償却できるというものです。対象となる資産は、機械装置であれば取得価額160万円以上、器具備品は30万円以上、ソフトウェアは70万円以上などと定められています。A類型からD類型まで、それぞれ異なる要件が設けられています。
たとえばA類型であれば「生産性が旧モデルから1%以上向上していること」が要件の一つです。対象は大型の生産設備に限りません。オフィスの複合機、従業員のためのエアコン、勤怠管理システムなど、身近な設備も要件を満たせば対象になります。
さらに2025年以降は、取得価額1,000万円以上の建物やその付属設備も新たに対象に加わりました。
これは売上高100億円超を目指すような「経営規模拡大設備」への投資を後押しする趣旨のものですが、制度の幅が広がっていることは押さえておきたいところです。ただし、この制度を利用するには事前に「経営力向上計画」を作成し、国の認定を受ける必要があります。
認定には早くて1カ月、長いと2カ月程度かかるため、決算直前に慌てて検討しても間に合いません。また、国内への投資であること、中古資産ではないことなども要件に含まれます。
少額減価償却資産の特例とは異なり、計画的な準備が不可欠な制度であることを理解しておく必要があります。
まとめ
少額減価償却資産の特例は、期末が迫った段階でも活用でき、年間最大300万円まで一括で経費に計上できる非常に強力な制度です。
2026年4月以降は対象が40万円未満に拡大される予定であり、今後さらに使い勝手が向上します。
一方で、取得価額には送料や手数料まで含まれること、消費税の経理方式によって判定額が変わること、償却資産税の申告義務が生じること、そして決算日までに事業の用に供していなければならないことなど、見落としやすいポイントが数多くあります。
さらに、300万円では足りない規模の設備投資を行う場合には、中小企業経営強化税制を活用することで100%即時償却が可能になります。こちらは事前の計画認定が必要なため、早めの準備が鍵となります。
いずれの制度も、正しい知識のもとで活用すれば経営を大きく後押ししてくれるものです。制度の要件を正確に理解し、実態に即した形で適切に活用していくことが重要です。
なお、本記事の内容は動画でも税理士がわかりやすく解説しています。具体的な事例や判断のポイントをより詳しく知りたい方は、ぜひ元の動画もあわせてご覧ください。