経営者や個人事業主の節税策として「鉄板」と言われる小規模企業共済。しかし、「20年経たないと元本割れするから怖い」「結局、出口で税金を取られるなら意味がないのでは」といった理由で加入を見送っている方が少なくありません。さらに、加入しているにもかかわらず、制度の仕組みを正しく理解していないために、せっかく積み立てた掛金を大きく目減りさせてしまうケースもあります。
本記事では、小規模企業共済にまつわるよくある誤解を整理したうえで、制度を最大限に活用する方法と、絶対に避けるべき「損をする解約パターン」について詳しく解説します。
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小規模企業共済の基本をおさらい
小規模企業共済は、国(中小機構)が運営する経営者・個人事業主のための退職金積み立て制度です。事業を廃業したり役員を退任したりした際に、それまで積み立てた金額に応じて共済金を受け取ることができます。
掛金は月額1,000円から7万円までの範囲で、500円単位で自由に設定可能です。年間最大で84万円の積み立てができ、加入後に増額や減額も可能。資金繰りが厳しいときは「掛金止め」によって支払いを一時停止することもできます。少額から始められ、状況に応じて柔軟に調整できる点が大きな魅力です。
注意したいのは、この制度はあくまで「小規模」企業共済であり、加入時には従業員数などの条件があります。ただし、加入条件を満たしているうちに一度入ってしまえば、その後会社が成長して従業員数が増えても継続して利用できます。だからこそ、要件を満たしているうちに早めに加入しておくことが重要です。
小規模企業共済にまつわる3つの誤解
加入資格があるのにためらってしまう方の多くは、制度の仕組みについて誤解を持っています。代表的な3つの誤解を順番に解いていきましょう。
誤解1:20年未満で受け取ると必ず元本割れする
最も多いのが「20年経たないと元本割れする」という誤解です。確かに、20年未満で「任意解約」した場合には元本割れのリスクがあります。しかし、受け取り方によっては、たった数年でも元本以上の金額を受け取ることが可能です。
共済金の受け取り方には、「共済金A」「共済金B」「準共済金」の3種類があり、これらは自己都合の「解約手当金」とはまったく別物です。
| 受け取り種別 |
主な事由 |
受給に必要な納付期間 |
| 共済金A |
個人事業の廃業、法人の解散など |
6ヶ月以上 |
| 共済金B |
役員の退任、65歳以上の老齢給付など |
6ヶ月以上 |
| 準共済金 |
個人事業の法人成りに伴う解約など |
12ヶ月以上 |
| 解約手当金(任意解約) |
自己都合での解約 |
12ヶ月以上(240ヶ月未満は元本割れ) |
共済金AとBは、掛金を6ヶ月以上支払っていれば受給権利が発生します。さらに、3年以上掛けていれば元本を上回る金額を受け取れる設計です。例えば掛金納付年数が5年で掛金合計60万円の場合でも、廃業や退任といった「本来の事由」での受け取りであれば返戻率は100%を超えます。
つまり、「20年縛り」はあくまで自己都合で任意解約した場合の話。本来の目的である「退職金」としての受け取りを前提とすれば、20年という縛りは存在しないに等しいのです。
誤解2:出口で課税されるから節税効果は相殺される
次に多いのが「受け取るときに税金がかかるから、結局意味がないのでは」という誤解です。確かに共済金には課税されますが、出口での税制優遇は非常に手厚く設計されています。
共済金を一括で受け取る場合は「退職所得」、分割で受け取る場合は「公的年金等の雑所得」として扱われます。どちらも税制上、大幅に優遇されているのが特徴です。
特に退職所得の場合、まず勤続年数に応じた「退職所得控除」を受けられます。勤続20年以下であれば年40万円、20年超の部分は年70万円が控除され、20年勤務した場合でも最低800万円の控除を受けることが可能です。さらに、その控除額を超えた部分についても、課税対象は2分の1にしか算入されません。
たとえば共済金1,000万円を加入期間21年で受け取った場合、退職所得控除が約870万円となり、課税対象は(1,000万円−870万円)×1/2=65万円。所得税率5%を適用すると所得税は32,500円、住民税は65,000円程度。合計で約10万円弱の負担で済む計算になります。通常の所得として受け取る場合と比べると雲泥の差です。
分割で年金として受け取る場合も、公的年金等控除を活用できます。65歳以上で年金収入200万円であれば110万円の控除が受けられるため、こちらも大きな節税効果が期待できます。出口課税を理由に加入を見送るのは、もったいない判断と言えるでしょう。
誤解3:掛金の支払いが続けられるか不安
「今は払えても、将来支払いが厳しくなるかもしれない」という不安も加入をためらう理由になります。しかし、小規模企業共済は支払いが厳しくなった場合の対応策が豊富に用意されています。
冒頭でも触れたとおり、掛金は月1,000円まで減額可能ですし、本当に厳しい時は「掛金止め」で支払いを一時停止することもできます。さらに、後述する貸付制度を活用すれば、実質的に掛金支払いの負担を軽減することも可能です。
小規模企業共済の最大のメリット
誤解が解けたところで、改めて制度のメリットを整理しましょう。最大のメリットは、何といっても「掛金が全額所得控除になる」点です。
例えば課税所得が2,000万円ある経営者が、月7万円・年間84万円を積み立てた場合、所得税・住民税を合わせて年間約42万円の節税効果が生まれます。これを30年間続ければ、節税額は累計1,260万円にもなります。掛金の50%近くが税金として戻ってくる計算であり、節税しながら退職金を準備できる極めて効率の良い制度といえます。
貸付制度の活用
さらに見逃せないのが、加入者が利用できる貸付制度です。加入から1年以上経過すれば、これまでに納めた掛金の7割〜9割の範囲で借入が可能で、低金利・無担保・無保証人で利用できます。
特に「一般貸付け」は資金使途が自由で、しかも借りた資金を掛金の支払いに充当しても問題ありません。加えて「増額借換」という仕組みがあり、利息分のみを支払うことで返済期間を延長しながら、借入額を増やすことができます。
たとえば、すでに500万円を借入している状態で、掛金総額が増えて700万円まで借入可能になった場合、増額借換を行うと既存の500万円を返済すると同時に新規で700万円を借り入れることになり、手元に200万円が入る形になります。
しかも、借入金は最終的に受け取る共済金と相殺できるため、実質的には共済金の一部を「前借り」しているような状態となります。利息負担はかかるものの、節税メリットを享受しながらキャッシュフローを確保できる、非常に強力な仕組みです。
小規模企業共済で損をする2つのパターン
ここまで小規模企業共済の良い面を中心に解説してきましたが、使い方を誤ると損をしてしまうケースも存在します。代表的なのが以下の2つです。
パターン1:240ヶ月(20年)以内に任意解約してしまう
1つ目は、廃業や退任といった事由ではなく、単に「やめたい」という理由で任意解約してしまうケースです。
任意解約は加入期間に応じて解約手当金の支給割合が変化し、特に危険なのが加入から12ヶ月未満で解約する場合。なんと戻ってくるお金は0円、つまり全額掛け捨てになります。また、12ヶ月以上経過していても、240ヶ月(20年)未満で任意解約すると元本割れは避けられません。
掛金の減額や掛金止め、貸付制度といった代替手段があるにもかかわらず、安易に任意解約してしまうのは最も避けるべき選択です。
パターン2:掛金を増額した後に解約する
そしてもう1つの落とし穴が、掛金の増額を行った後に解約するケースです。実は加入から20年以上経過していても、元本割れする可能性があります。
これは小規模企業共済の「20年」というカウントが、契約全体ではなく「増額した部分ごとに個別にカウントされる」仕組みになっているためです。
例えば最初は月額1万円の掛金でスタートし、途中で段階的に増額していった場合、最初の1万円部分は20年以上経過していても、途中で増額した部分はそれぞれ「増額時点から240ヶ月」をカウントすることになります。増額部分が240ヶ月未満であれば、その部分は支給割合が100%を割り、元本割れを起こします。
実際のシミュレーションでは、掛金合計591万円に対して解約手当金が約540万円となり、50万円以上の損失が発生するケースもあります。「加入から20年経っているから大丈夫」と油断していると、思わぬ目減りを招くことになるのです。
掛金を増額する際には、「増額部分も240ヶ月積み立てきれるか」という視点で慎重に判断する必要があります。
まとめ
小規模企業共済は、経営者の節税策として極めて効果の高い制度です。掛金が全額所得控除となり、出口でも退職所得控除や公的年金等控除といった大きな優遇を受けられます。さらに貸付制度を活用すれば、キャッシュフローを維持しながら節税メリットを享受することも可能です。
一方で、「20年縛り」の本当の意味を理解せずに任意解約してしまったり、掛金を増額した後の納付期間を意識せずに解約してしまったりすると、本来得られるはずだったメリットを失い、数十万円〜数百万円単位の損失を被ることになります。
入るのは簡単でも、どう終わらせるかが最も難しい制度。それが小規模企業共済の本質です。加入を検討する際も、すでに加入している場合も、出口戦略まで見据えた設計が欠かせません。
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