所得が一定以上ある方や、まとまった資産を保有・運用している方の中には、「もう少し税負担を抑えられないか」「家族に効率的に資産を移したい」と感じている方が少なくありません。個人での所得税は累進課税のため、所得が増えるほど手取りの伸びが鈍くなり、相続が視野に入る年代では資産の移転方法にも頭を悩ませることになります。
その解決策の一つとして広く活用されているのが、いわゆる「資産管理会社(プライベートカンパニー)」の設立です。所得が高い方や大きな資産を動かしている方が資産管理会社を設立すると、年間の手残りが数百万円単位で変わることも珍しくありません。本記事では、なぜ資産管理会社が節税につながるのか、どのような方に向いているのか、そして設立にあたっての具体的な手順や注意点までを整理してお伝えします。
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なぜ資産管理会社が節税につながるのか
資産管理会社を活用した節税は、決して脱税や租税回避といったグレーな手法ではありません。あくまで日本の税法で定められたルールのなかで、正しく申告したうえで、合法的にメリットを享受していくものです。
その根幹にあるのは、個人と法人の「税率差」と「経費にできる範囲の違い」を活用するという考え方です。
税率差を活かす仕組み
個人の所得税は、稼げば稼ぐほど税率が上がる超過累進課税制度を採用しています。課税所得が4,000万円を超えると、所得税45%と住民税10%を合わせて、税率は最大で55%にも達します。
一方、法人税は中小企業の場合、所得800万円以下の部分は約15%、800万円を超える部分でも約23%程度です。地方税を加味した「実効税率」で見ても、おおむね約25%~34%にとどまり、所得がどれだけ増えてもこの水準を大きく超えることはありません。
| 区分 |
税率の特徴 |
最大税率の目安 |
| 個人(所得税+住民税) |
超過累進課税。所得増で税率上昇 |
約55% |
| 法人(実効税率) |
一定水準で頭打ち |
約25%~34% |
つまり、個人の高い税率で税金を払い続けるよりも、税率の上限が低い「法人という箱」で利益を受け取った方が、手元に残るお金は大きく変わってくるということです。
経費の範囲と赤字の繰越期間
法人化の利点は税率差だけではありません。経費として認められる範囲が個人より広く、役員社宅や生命保険、出張日当など、個人ではできないかたちで費用化できる項目が増えます。
さらに、赤字を翌期以降の黒字と相殺できる繰越欠損金の期間も、個人事業の3年に対して法人は10年と圧倒的に長く設定されています。法人は法律上独立した人格として扱われるため、個人とはまったく異なるルールのもとで事業活動を行えるのです。
資産管理会社の設立が有効な3つのパターン
理屈の上ではメリットが大きい資産管理会社ですが、誰にでも当てはまるわけではありません。特にメリットを享受しやすい代表的なパターンは次の3つです。
(1)副業を行っている高所得サラリーマン
(2)相続税対策が必要な資産家
(3)事業承継を考えているオーナー社長
(1)副業を行っている高所得サラリーマン
本業の年収が1,000万円を超え、副業で不動産投資などを行っているサラリーマンには、資産管理会社の設立が有効です。
サラリーマンの給与所得と副業の所得は、原則として合算して所得税が計算されます(総合課税)。本業ですでに高い税率区分に達している方が副業の利益を上乗せすると、その副業部分にはさらに高い税率が適用され、税負担がきわめて重くなってしまいます。
そこで、資産管理会社を設立して法人名義で不動産投資を行えば、副業で得た収益を最大約34%以下の法人税率の世界で運用することが可能になります。
加えて、所得の分散効果も見逃せません。たとえば収入のない、あるいは少ない配偶者がいる場合、その資産管理会社から役員報酬を支払うことで、法人で得た利益を家族に分散できます。1人で受け取るより複数人で分けたほうが、適用される税率を下げ、世帯全体の手取りを増やすことができるのです。
さらに役員社宅制度も活用できます。法人名義で自宅を借り上げ、役員から一定額の家賃を徴収することで、差額(一般的に家賃の50%以上)を法人の経費に計上できます。個人のままでは家賃を経費にできないため、これは非常に大きなインパクトとなります。
(2)相続税対策が必要な資産家
相続人の数にもよりますが、見込みの遺産額が1億円を超えるような方は、資産管理会社の設立を検討する価値があります。
相続税対策の基本は、生前に資産を次世代へ移転しておくことです。しかし暦年贈与は時間がかかるうえ、一定額を超えると最大55%の高い贈与税が課されます。そこで資産管理会社を設立し、相続人となる子や孫を役員にして実態に見合った給与を支払うことで、贈与税ではなく税率の低い所得税・住民税の負担で、合法的に次世代へ資産を移転していくことができます。
この方法には複数の効果があります。第一に、移転した現金がそのまま将来の相続税の納税資金になります。相続税は原則として現金一括納付ですから、資産が不動産に偏っている家庭では、納税のために代々の土地を手放さざるを得ないケースも少なくありません。事前に給与というかたちで現金を相続人の手元に残しておくことで、その不安を大きく軽減できます。
第二に、いわゆる「争族」の防止につながります。遺産が不動産中心だと、物理的に分割しにくいため相続人同士で揉めやすくなります。あらかじめ不動産を資産管理会社の所有としておけば、相続の対象は不動産そのものではなく「会社の株式」に変わり、株式単位で公平に分割しやすくなるのです。
(3)事業承継を考えるオーナー社長
オーナー社長にとって最大の課題は、会社の経営権を安定的に確保しながら、いかに後継者に自社株を移転していくかという点です。相続税対策として生前に自社株を親族へ贈与すれば、自身の議決権が薄まり経営権が不安定になるリスクが生じます。
このような場合、オーナー社長がまず資産管理会社を設立し、本業の会社の自社株を資産管理会社に保有させます。いわゆるホールディングス化に近いイメージです。そのうえで、後継者には本業の自社株ではなく、資産管理会社の株式を贈与していきます。
こうすることで、本業の会社の議決権は資産管理会社に集約したまま、相続対策だけを進められるという構造になります。経営権の安定と次世代への資産移転を両立させる有効な手法です。
設立の手順と「株式会社」と「合同会社」の選び方
実際に資産管理会社を設立する場合、その手順は一般的な会社設立とほぼ同じです。資産管理会社というのはあくまで通称であって、法律上特別な区分があるわけではありません。
要点をまとめると、事業目的や会社形態(株式会社か合同会社か)の決定、法人印の作成、定款の作成、資本金の振り込み、登記申請、社会保険の手続き、という流れになります。
株式会社か合同会社か
資産管理目的で設立するのであれば、合同会社を選ぶケースが多くなります。理由はいくつかあります。
まず、設立コストが安いという点です。株式会社の場合は登録免許税、収入印紙代、公証人手数料などで合計約24万2,000円かかりますが、合同会社であれば合計約10万円で済みます。電子定款を利用すれば、収入印紙代4万円も不要です。
| 項目 |
株式会社 |
合同会社 |
| 設立費用の目安 |
約24万2,000円 |
約10万円 |
| 決算公告義務 |
あり |
なし |
| 利益配分 |
出資比率に応じる |
定款で自由に設定可能 |
次に、決算公告の義務がないためプライバシー性が高い点です。会社の財務状況を外部に公開する必要がないことは、資産管理会社の性格上、大きな利点といえます。
そしてもう一つ、合同会社が選ばれる決定的な理由が「利益配分の自由度」です。株式会社は原則として出資比率どおりに配当しなければなりませんが、合同会社では定款で自由に決められます。たとえば「出資は親が100%だが、利益は実際に運営に関与している子に多く分配する」といった設計も可能です。これは相続対策や家族間での資産移転を進めるうえで、非常に使い勝手のよい仕組みになります。
設立・運営のデメリットと判断基準
資産管理会社にはメリットが多い一方で、当然ながらコストや手間というデメリットも存在します。判断にあたっては、これらを踏まえたうえで自分のケースに合うかを冷静に見極める必要があります。
初期費用については、前述のとおり株式会社で約24万2,000円、合同会社で約10万円程度がかかります。
ランニングコストとしては、決算が赤字であっても法人住民税の均等割分は毎年支払う必要があります。さらに、法人として毎期の確定申告が必須となり、税理士などへの外注費や経理にかかる人件費も発生します。これらを合わせると、年間で数十万円規模の維持費がかかると考えておくのが現実的です。
設立を検討すべき年収の目安
これらのコストを踏まえると、どのくらいの所得があれば設立を前向きに検討すべきかという点が気になるところです。一つの目安としては、個人の課税所得が900万円を超えるラインです。
このラインを超えると、所得税と住民税の合計税率が43%となり、法人実効税率の約34%を上回ります。つまり、税率の逆転が起こるため、資産管理会社を活用したほうがトータルで有利になる可能性が高まるのです。
ただし、これはあくまで税率だけを切り取った目安にすぎません。家族構成、保有資産の内容、将来の事業展開や相続の見通しなどによって最適解は変わってきます。実際に設立に踏み切る前には、税理士に相談してシミュレーションを行うことを強くおすすめします。
まとめ
資産管理会社は、個人と法人の税率差や経費範囲の違いを活用して、合法的に手取りを増やし、次世代への資産移転をスムーズに進めるための有効な選択肢です。特に、副業で高所得を得ているサラリーマン、相続税対策が必要な資産家、そして事業承継を控えたオーナー社長にとっては、検討する価値が大いにあります。
会社形態としては、設立コストの安さ、プライバシー性の高さ、利益配分の自由度から、合同会社が選ばれるケースが多くなっています。一方で、設立や維持には一定の費用と手間がかかるため、課税所得900万円というラインを一つの目安に、自身の状況と照らし合わせて判断することが重要です。
資産管理会社は「作れば必ず得をする」というものではなく、目的と設計次第でその効果は大きく変わります。だからこそ、設立前の段階で正しい知識を持ち、適切なシミュレーションを行うことが、将来の手残りや家族の安心を大きく左右します。
本記事の内容については、実際の数字や具体的な活用イメージを交えながら、税理士が動画でわかりやすく解説しています。資産管理会社の活用に少しでも関心のある方は、ぜひ元動画もあわせてご覧ください。より実践的なヒントをつかんでいただけるはずです。