役員報酬は高ければよいわけではない|手取りを最大化する最適な決め方

「役員報酬は取れるだけ取った方が得だ」という話を耳にしたことがある経営者の方は多いのではないでしょうか。確かに、役員報酬を高めに設定しておけば、いざという時に会社へ資金を戻すこともできますし、間違いとは言い切れません。しかし、実はあるラインを超えると、思っている以上に税金や社会保険料の負担が重くのしかかり、結果的に「個人と法人のトータルで見ると大きく損をしている」というケースが多発しています。

本記事では、役員報酬を高くしすぎることで生じる具体的なデメリットと、手取りを最大化するための賢い設定方法について、整理して解説していきます。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

役員報酬を高くしすぎると損する理由

まず押さえておきたいのは、役員報酬を取りすぎると、個人と法人のトータルで見たときに支払う税金が大きくなってしまうという事実です。その背景には、所得税の累進課税という仕組みがあります。

所得税は稼ぐほど税率が跳ね上がる

役員報酬は個人の所得として扱われるため、所得税が課税されます。所得税は累進課税制度を採用しており、課税所得が大きくなればなるほど税率も上がっていきます。

具体的には、課税所得が195万円以下なら税率は5%から始まりますが、4,000万円を超えると45%にまで跳ね上がります。これに住民税が一律10%加わるため、最高税率はなんと55%。せっかく頑張って稼いでも、半分以上を税金として持っていかれるという事態になりかねません。

法人税は税率がほぼ一定

一方で、法人の利益に対して課税される法人税はどうでしょうか。資本金1億円以下の中小法人の場合、年800万円までの利益には15%、800万円を超えた部分には23.2%の法人税率が適用されます。法人住民税や法人事業税を加えた法人実効税率でも、おおよそ25%~34%の範囲に収まります。

区分 税率の特徴
個人(所得税+住民税) 累進課税で最大55%
法人(実効税率) おおよそ25%~34%で一定

 

つまり、所得税は収入が増えるほど税率がどんどん上がっていくのに対し、法人税は基本的に税率が一定。役員報酬を高く設定しすぎると、法人で税金を払うよりも高い税率がかかってしまい、結果としてトータルの税負担が重くなるのです。

見落とされがちな社会保険料の負担

さらに見落とされがちなのが、社会保険料の問題です。役員報酬が上がると、健康保険料と厚生年金保険料も増えていきます。しかもこれは、会社と個人の双方が折半で負担する仕組みのため、役員報酬が高くなるほど会社側のコストも膨らんでいきます。

役員報酬が増えると、所得税・住民税・社会保険料という3つの負担が同時に増加していきます。実際の負担率をざっくり計算すると、年収2,000万円で約35%、年収3,000万円で約40%、年収5,000万円では約44%と半分近くにまで達します。年収2,000万円を超えるあたりから、法人実効税率を上回り、明らかに不利になっていくのです。

役員報酬は途中で簡単に変更できない

もう一つ、絶対に押さえておきたいのが「役員報酬は一度決めると、原則として期の途中では変更できない」というルールです。

役員報酬は事業年度ごとに設定し、変更できるのは事業年度開始から3ヶ月以内まで。それ以降は、原則として毎月同額を払い続ける必要があります。つまり、高すぎる役員報酬を設定してしまうと、業績が悪化したときに資金繰りが一気に苦しくなるリスクがあるのです。

なぜここまで制約が厳しいのかというと、役員報酬を自由に変更できてしまうと、「利益が出た年だけ報酬を増やして法人税を圧縮する」といった操作が可能になってしまうためです。これを防ぐために、原則として期中の変更は認められていません。

例外的に、役員の地位や職務内容が変わった場合、または取引先の倒産・災害・パンデミックのように売上が極端に落ち込んだ場合などには、途中での減額が認められることもあります。ただし、株主総会の開催や届出が必要ですし、認められないケースもあります。だからこそ、最初の役員報酬の設定が極めて重要なのです。

役員報酬の相場はいくらか

では、世の中の社長は実際にどのくらいの役員報酬を設定しているのでしょうか。国税庁の令和6年度の調査データによると、資本金2,000万円未満の会社における役員報酬の相場は700万円弱となっています。

「思ったより低い」と感じる方も多いかもしれません。もっと高額を取っているイメージがあるかもしれませんが、これには合理的な理由があります。先ほど解説した税率の問題に加え、会社の成長に向けて内部に資金を残している経営者が多いこと、そして社会保険料の負担を意識的に抑えている経営者が多いことが背景にあります。

ただし、資本金2,000万円未満というのはかなり幅広い規模感の会社を含むため、この数字はあくまで参考値。最終的には自社の利益や税金とのバランスで決めていくのが正解です。

役員報酬の決め方3つのパターン

役員報酬の決め方には、大きく分けて3つのアプローチがあります。

(1)欲しい金額から決める

これは、生活費・住宅ローン・子どもの養育費などを積み上げて、必要な金額をそのまま役員報酬に設定する方法です。経営者としてのモチベーション維持という観点では、自分が納得できる金額を確保したい気持ちは当然のことでしょう。

ただし、この方法には大きな注意点があります。会社の利益を考慮せずに決めてしまうため、場合によっては会社が赤字に転落するリスクがあるのです。また、個人にかかる税金を計算に入れていないため、せっかく高く設定したのに手元に残るお金は意外と少なかった、ということも起こり得ます。欲しい金額から決める場合でも、会社に最低限残しておくべき資金はしっかり考慮したうえで設定することが大切です。

(2)年間収益から決める

前期の業績や当期の事業計画をもとに今期の利益を予測し、その範囲内で役員報酬を設定する方法です。会社にしっかり資金を残すことを前提にしているため、経営状況への悪影響が出にくいという特徴があります。

会社優先の設定方法とも言えるので、業績が悪い時には役員報酬も低くせざるを得ないという面はあります。試算の結果、自身の生活費を下回るような金額になってしまう場合は、貯金などとのバランスを見ながら調整が必要です。

目安としては、会社の固定費3ヶ月~6ヶ月分を内部に残せるようにしておけば安心と言われています。この固定費分のクッションを確保しつつ、経営者自身の生活も圧迫しない水準を探ることが重要です。

税金や社会保険料とのバランスで決める方法が最も合理的

3つ目のアプローチが、税金や社会保険料とのバランスから最適解を探る方法です。実務的には、これが最もおすすめできる決め方です。

役員報酬を多く取ると個人側で所得税・住民税が増えますが、会社側ではその分を経費にできるため法人税が下がります。同時に、役員報酬が増えると個人・会社の双方が負担する社会保険料も増えていきます。この3者のバランスを精緻に見極めることが、トータルの手取りを最大化する鍵になります。

たとえば、役員報酬控除前の利益(経常利益+役員報酬)が3,000万円の会社でシミュレーションをしてみると、役員報酬を100万円刻みで変化させた場合、個人と法人の手取り合計が最大になるのは役員報酬を500万円に設定したケースでした。さらに、500万円から1,200万円程度までの範囲であれば、手取り合計はそれほど大きく変わらないため、この範囲で設定するのが現実的な正解と言えます。

逆に、3,000万円すべてを役員報酬として取ろうとすると、手取り合計は大きく減少します。500万円設定と比較して、数百万円単位で損をしてしまうこともあるのです。「取れるだけ取る」という発想がいかに危険か、数字で見ると一目瞭然です。

ただし、最適な役員報酬の水準は、会社の利益規模や役員構成、社会保険料の上限到達状況などによって変わります。自社にとっての最適解を正確に算出したい場合は、税理士に相談しながらシミュレーションを行うのが安全です。

会社の将来像から逆算して決める視点も持つ

役員報酬を考える際にもう一つ重要なのが、「会社を今後どうしたいか」という視点です。

会社の規模を拡大していきたい、あるいは大規模な設備投資を計画しているのであれば、会社に資金を残しておいた方が有利です。内部留保が厚ければ厚いほど、銀行からの融資も受けやすくなりますので、役員報酬をあえて低めに設定するという選択肢が出てきます。融資審査では、会社の財務状態が重視されるため、役員報酬を抑えて会社に利益を残す戦略は、資金調達面でも合理的なのです。

一方で、今後事業を大きく拡大する予定がないのであれば、会社に資金を積み上げ続ける必要性は低くなります。その場合は、生活費とのバランスを見ながら比較的自由に設定しても問題ありません。

ただし、どちらのケースでも「取れるだけ取る」という発想はおすすめできません。会社の固定費を確保しつつ、税金と社会保険料の合計負担、そして将来の事業計画を踏まえた最適なラインを探ることが、賢い経営者の選択です。

まとめ

役員報酬は、単純に高ければ得というものではありません。所得税の累進課税、住民税、社会保険料という3つの負担が同時にのしかかるため、ある一定のラインを超えると、法人で利益として残すよりも明らかに不利になっていきます。

さらに、役員報酬は一度決めると期中での変更が原則として認められないという厳しいルールがあります。安易に高く設定してしまうと、業績悪化時に資金繰りが一気に苦しくなるリスクも抱えることになります。

最適な役員報酬を決めるためには、生活費・年間収益・税金と社会保険料のバランス、そして会社の将来像という4つの視点を総合的に検討する必要があります。中でも、税金と社会保険料のバランスから個人と法人の手取り合計を最大化するアプローチは、シミュレーションすると効果が明確に見えるため、ぜひ取り入れていただきたい考え方です。

「自分の会社の場合、最適な役員報酬はいくらなのか?」と気になった方も多いのではないでしょうか。具体的な数字を使ったシミュレーションや、社会保険料の計算方法、3,000万円利益のケースで手取りがどう変わるかといった詳細については、税理士が動画でわかりやすく解説しています。記事だけでは伝えきれない実例や数字の動きを知りたい方は、ぜひ元動画もあわせてご覧ください。

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