手取りを最大化する役員報酬額とは|利益規模別シミュレーションで導く最適解

会社で利益が順調に出てくると、「役員報酬を上げて自分の生活を豊かにしたい」と考えるのは自然なことです。役員報酬は会社の経費になるため、報酬を増やせば法人税が減るのも事実です。しかし、この発想だけで報酬額を決めてしまうと、知らないうちに数百万円単位で損をしてしまう可能性があります。

なぜなら、役員報酬を上げると個人の所得税・住民税が増え、さらに社会保険料の負担も会社・個人の両方で跳ね上がるからです。法人税が減っても、それ以上に個人側の負担が増えてしまえば、トータルの手取りはむしろ減ってしまいます。

本記事では、会社と個人を合わせたトータルの手取りを最大化するために、役員報酬をいくらに設定すべきかを、利益規模別のシミュレーションをまじえながら解説していきます。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

役員報酬の基本ルールと変更の制限

役員報酬は、毎月自由に金額を変えられるものではありません。税務署は役員報酬の動きを厳しくチェックしており、そこには明確なルールが定められています。

定期同額給与というルール

役員報酬の大原則は「定期同額給与」です。これは、事業年度の最初から最後まで、毎月同じ金額を支給しなければならないというルールです。期中に利益が出たから増額する、資金繰りが苦しいから減額する、といった調整は原則として認められません。

もし期中に勝手に金額を変えてしまうと、変更した差額分は損金として認められなくなります。つまり会社からお金は出ていっているのに、税務上は経費として計上できず、その分にも法人税がかかってしまうのです。

金額を変更できるのは、新しい事業年度が始まってから3か月以内の期間に限られます。この期間を逃すと、次の決算まで報酬額は固定されます。だからこそ、期首の段階で慎重にシミュレーションして金額を決める必要があるのです。

役員賞与(事前確定届出給与)の扱い

「従業員にはボーナスを出すのに、役員には出せないのか」と疑問に思うかもしれませんが、役員賞与も支給は可能です。ただし、原則として損金不算入、つまり経費として認められません。

例外として、会計年度の開始日から4か月以内、もしくは役員賞与を決議した株主総会から1か月以内のいずれか早い方までに税務署へ届出を行えば、損金算入が認められます。これが「事前確定届出給与」と呼ばれる制度です。

注意したいのは、届け出た日付や金額が1日でも1円でもズレてしまうと、全額が損金不算入になってしまう点です。利益が出たから期末にまとめて支給する、といった柔軟な運用は認められていません。役員報酬や役員賞与は、期首の段階での綿密な利益計画が前提となるのです。

役員報酬額を決める際に押さえるべき3つの視点

具体的なシミュレーションに入る前に、役員報酬を決める際に必ず意識しておくべき3つの視点を整理しておきます。

(1)所得税・住民税と法人税のバランス

役員報酬を増やせば、会社の利益は減って法人税が安くなります。しかし同時に、社長個人の所得税・住民税は増えます。日本の所得税は超過累進税率を採用しているため、稼げば稼ぐほど税率が高くなる仕組みです。

逆に役員報酬を下げすぎると、個人の税金は安くなるものの、会社側に利益が残るため法人税の負担が大きくなります。会社と個人、両方の税負担の合計を最も小さくする「最適解」を見つけることが重要です。シーソーのように、どちらか一方に偏らせすぎてはいけません。

(2)社会保険料の負担構造

意外と盲点なのが社会保険料の存在です。社会保険料は会社と個人で約半分ずつ負担しており、現在の料率は合計でおよそ30%にもなります。月収100万円なら毎月30万円が社会保険料として消えていく計算です。

社長一人の会社の場合、会社負担分のお金も実質的には自分の稼いだ利益から出ています。つまり、個人で払うか会社で払うかの違いだけで、財布全体から出ていくお金は変わりません。役員報酬を上げると、所得税だけでなく社会保険料の負担もダブルで増えてしまうのです。

ただし、社会保険料には上限があるため、一定の年収を超えるとそれ以上は保険料が増えなくなります。この上限の存在が、シミュレーションを考えるうえでひとつの鍵になります。

(3)法人税の「800万円の壁」

中小企業の法人税には「800万円の壁」と呼ばれるラインがあります。年間の利益が800万円以下の部分は税率が優遇されており、これを超えた部分には高い税率が適用されます。

実効税率ベースで見ると、利益の階層によっておおむね次のようになります。

利益の階層 法人実効税率(概算)
400万円未満の部分 約20%
400万円以上800万円未満の部分 約25%
800万円超の部分 約34%

400万円と800万円の差は約5%ですが、800万円を超えると一気に約10%も実効税率が上がります。この壁を意識して、会社の利益を800万円以下に調整するために役員報酬を活用するという考え方も有効です。

利益規模別・手取り最大化シミュレーション

ここからは、35歳独身・扶養家族なしの「ひとり社長」を前提として、役員報酬を支払う前の会社の利益が1,000万円、2,000万円、3,000万円の3パターンでシミュレーションしていきます。条件によって結果は変動するため、あくまで概算としてご覧ください。

利益1,000万円のケース

役員報酬を支払う前の利益が1,000万円の場合、最もトータルの手取りが多くなるのは、役員報酬を年額100万円~200万円程度に抑えたケースです。この時の手取り合計は約743万円となります。

一方、利益1,000万円を全額役員報酬として受け取った場合、手取り合計は約596万円まで落ち込みます。その差はおよそ147万円。同じ利益から出発しているのに、報酬の決め方ひとつで軽自動車1台分の差が出る計算です。

もちろん月8万円程度では現実的に生活が成り立ちません。実務上は社宅制度の活用などで生活コストを会社経費で賄う工夫と組み合わせることになります。ただし純粋に節税と手取り最大化の観点だけで言えば、この利益規模であれば「報酬を低く抑えて法人に残す」のが正解になるということです。

利益2,000万円のケース

利益が2,000万円ある場合、最適な役員報酬額は年収500万円~1,000万円のレンジに収まります。この水準で設定すれば、手取り合計は約1,394万円を確保できます。

これに対して、2,000万円全額を役員報酬として受け取ってしまうと、手取り合計は約1,133万円となり、最適値との差は約261万円にもなります。800万円の壁を超えた部分の法人税負担と、個人側の累進課税のバランスを取ったときに、この500万~1,000万円のレンジが最も効率的になるのです。

利益3,000万円のケース

利益3,000万円というと、「2,000万円くらい役員報酬で取ってもよいのでは」と感じるかもしれません。しかし、シミュレーションの結果は意外なものになります。

このケースでも、最適な役員報酬額は500万円~1,200万円程度にとどまります。利益が1,000万円増えたにもかかわらず、最適な役員報酬の上限は200万円程度しか上がらないのです。

もし3,000万円全額を役員報酬として受け取った場合、手取り合計は約1,615万円。最適値の約2,026万円と比較すると、その差はおよそ411万円にも膨らみます。これは累進課税の負担と社会保険料負担が、報酬額の増加とともに加速度的に重くなることが原因です。

シミュレーション結果のまとめ

3つのケースを整理すると、以下のようになります。

役員報酬支払い前の利益 最適な役員報酬額(年額) 最適時の手取り合計 全額報酬時の手取り合計 差額
1,000万円 100万~200万円 約743万円 約596万円 約147万円
2,000万円 500万~1,000万円 約1,394万円 約1,133万円 約261万円
3,000万円 500万~1,200万円 約2,026万円 約1,615万円 約411万円

利益規模が大きくなるほど、役員報酬を上げすぎたときの損失額も大きくなることが分かります。「儲かったから報酬を増やす」という発想が、いかに資産形成にとって不利かが見て取れるはずです。

迷ったら役員報酬は下げて法人に残す

シミュレーションでは最適な役員報酬額に幅が出ました。「500万円から1,200万円のあいだ」と言われても、実際にどこに寄せるべきか迷うこともあるでしょう。結論から言うと、迷ったら役員報酬は低めに設定し、利益を法人側に残しておくことを推奨します。

その理由は、個人で受け取ったお金と法人に残したお金とでは、その後の「使い方の自由度」がまったく違うからです。個人で受け取ったお金は、すでに所得税・住民税・社会保険料が差し引かれた後の手取り資金です。ここから資産形成をしようとすると、株式や投資信託といった選択肢が中心となり、しかも元手が大きく目減りした状態でのスタートになります。

一方、法人に残した利益は、その後の節税策や事業投資に活用できる余地があります。たとえば社宅制度を使って家賃を経費化する、経営セーフティ共済で退職金原資を積み立てる、出張旅費規程を整備して非課税で個人にお金を移す、といった方法です。法人は個人に比べて、税負担をコントロールしながら資産を蓄える機能に優れているのです。

つまり、生活に必要な分だけを役員報酬として受け取り、残りは「法人」というもうひとつの財布で運用する。この二刀流の発想こそが、結果として手元に残るキャッシュを最大化する近道になります。

まとめ

役員報酬の金額は、ただ高ければよいというものではありません。所得税・住民税、社会保険料、法人税という3つの負担のバランスを取りながら、会社と個人を合わせたトータルの手取りが最大になるポイントを探ることが重要です。

ポイントを整理すると、役員報酬には定期同額給与という厳格なルールがあり、期首から3か月以内に慎重に決定しなければなりません。そして金額を決める際には、累進課税の影響、社会保険料の構造、法人税の800万円の壁という3つの視点を必ず押さえる必要があります。シミュレーションを見ても明らかなように、利益規模が大きくなるほど、報酬を取りすぎたときの損失額は加速度的に大きくなります。

迷ったときは役員報酬を低めに抑え、法人側に利益を残すことで、その後の節税策や資産形成の自由度を確保することができます。役員報酬の決定は、毎期の経営判断の中でも特に資産防衛に直結する重要なテーマです。決算期や事業年度開始のタイミングで、自社の利益見込みと照らし合わせながら、最適な水準を見直してみてください。

なお、利益規模ごとの具体的なシミュレーション数値や、役員報酬と社会保険料・税金の関係については、税理士が動画の中でさらに詳しく解説しています。図解を交えてわかりやすく説明していますので、ぜひ元動画も併せてご覧ください。

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