経営者の方の中には、節税のために家族を会社の役員にしているという方も多いのではないでしょうか。なんとなく「お得らしい」とは聞くものの、具体的にどういう仕組みでどれくらいの効果があるのか、よく分からないまま手をつけられずにいる方も少なくありません。
実は、家族を「非常勤役員」という形で会社に関わらせることで、税金だけでなく社会保険料まで含めて、世帯全体の負担を大きく減らせる可能性があります。条件によっては年間で30万円以上の差が出るケースもあり、一度仕組みを作ってしまえば毎年継続的に効果が出続けるため、知らないままでいるのは非常にもったいない節税方法といえます。
本記事では、非常勤役員の基本から、具体的な3つの節税スキーム、そして報酬設定の目安や注意点まで、順を追って詳しく解説していきます。
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非常勤役員とは何か、従業員との違い
まず基本的なところから整理しておきましょう。実は「常勤」と「非常勤」の違いは、会社法で明確に定義されているわけではありません。一般的な整理としては、毎日出勤して日常業務に深く関わっている役員を「常勤役員」と呼び、出勤日数が少なく、必要に応じてアドバイスをしたり経営方針の判断に関わったりするような立場の役員を「非常勤役員」と呼んでいます。
非常勤役員になるパターンとして多いのは、他に本業を持っている専門家を迎えるケース、社長を引退して会長になった方、そして今回テーマにしている「経営者の家族」というパターンです。配偶者や親御さんを非常勤役員として、会社の経営に関与してもらう形です。
従業員ではなく「非常勤役員」にするメリット
「家族を従業員として雇うのではダメなのか」という疑問もあるかもしれません。所得分散という意味では、家族を従業員として雇って給与を支払うことでも同じような効果は得られます。
ただし、従業員として雇う場合は、他の従業員と同じように定期的に出勤し、実際の業務をしっかりこなしてもらう必要があります。勤務実態がないと、その給与が税務署から否認されるリスクが高まります。すでに年金暮らしで毎日働くのが難しいご両親などを従業員として勤務させるのは現実的に難しいでしょう。
一方で非常勤役員であれば、毎日出勤する必要はなく、経営に何らかの形で関与している実態があれば十分です。例えば、会社の経理書類を定期的に確認している、経営の相談に乗っている、といった関与の仕方でも問題ありません。柔軟に活用できる点が、非常勤役員の大きな強みです。
非常勤役員を活用した3つの節税スキーム
ここから、具体的にどのような節税効果が得られるのかを3つに分けて解説していきます。
(1)所得を分散して世帯の税負担を下げる
1つ目は、所得分散による節税効果です。家族を非常勤役員にして報酬を支払うことで、世帯全体の税負担を減らすことができます。
所得税は超過累進課税です。つまり、稼げば稼ぐほど税率が上がる仕組みになっているため、経営者1人で高い報酬を受け取るよりも、家族に分散することで、それぞれの適用税率が抑えられ、結果として世帯全体の税負担が軽くなるのです。
例えば経営者が年間720万円の役員報酬を1人で受け取っていた場合、所得税は約34万円、住民税は約39万円かかります。ここで配偶者を非常勤役員にして、経営者に600万円、配偶者に120万円という形で支給すれば、所得税を約13万円、住民税を約5万5,000円ほど抑えることができます。
| 報酬の支給方法 |
経営者の所得税 |
経営者の住民税 |
| 経営者のみ720万円 |
約34万円 |
約39万円 |
| 経営者600万円+配偶者120万円 |
約21万円 |
約33.5万円 |
| 差額(節税効果) |
約13万円減 |
約5.5万円減 |
さらにこの金額であれば、配偶者控除も受けられるため、節税効果はより大きくなります。
(2)社会保険料を削減できる
2つ目は、社会保険料の削減効果です。実は株式会社の非常勤役員には、原則として社会保険への加入義務がありません。そのため、配偶者の役員報酬を年間130万円以内に収めることで、扶養の範囲内を維持しながら、社会保険料の負担を増やさずに済みます。
先ほどの例で配偶者への報酬を120万円としていましたが、この場合は社会保険料の対象外となるため、約16万円の社会保険料負担を抑えることが可能です。所得税・住民税の節税効果と合わせると、年間で約35万円もの負担減になります。
ただし、ここには重要な注意点が2つあります。
1つ目は、社会保険の加入義務が免除されるかどうかは「勤務の実態」によって判断されるという点です。日本年金機構の基準では、勤務日数や労働時間、業務の内容、報酬の性格などを総合的に見て、常勤役員に近い実態があると判断されると、社会保険への加入が必要になります。具体的には、週の出勤日数が常勤役員の4分の3未満であること、特定の業務への関与にとどまっていること、定期的な会議への参加や経営に関する相談・助言といった形の関与であることなどが、非常勤として認められやすい条件となります。
2つ目の注意点は、合同会社の場合の取り扱いです。株式会社では株主と経営者が分離していますが、合同会社では出資者である「社員」が原則として業務執行権を持ちます。そのため、合同会社では非常勤という概念が成り立ちにくく、社会保険への加入が必要と判断されるケースがあります。最近、年金事務所がこの部分を指摘することが増えているため、合同会社で本スキームを検討する場合は特に注意が必要です。
また、2026年10月をめどに「106万円の壁」の撤廃が決定されており、非常勤役員の社会保険の扱いにも今後変化が出てくる可能性があります。法改正の動きには引き続き注目しておきましょう。
配偶者控除・配偶者特別控除を活用する
非常勤役員報酬を設定する際に意識したいのが、配偶者控除および配偶者特別控除です。
配偶者控除は、経営者の合計所得金額が1,000万円以下で、配偶者の年間合計所得金額が58万円以下(2025年改正後/給与のみの場合は年間123万円以下)の場合に適用されます。控除額は配偶者が70歳未満なら所得税で最大38万円、住民税で最大33万円、70歳以上であればそれぞれ最大48万円、38万円となります。
仮に配偶者の所得が58万円を少し超えてしまっても、経営者の合計所得金額が1,000万円以下、配偶者の合計所得金額が133万円以下であれば、「配偶者特別控除」が適用されます。合計所得金額95万円以下(給与のみの場合は年間160万円以下)までは控除額が満額のまま維持され、それを超えると段階的に縮小していく仕組みです。
| 配偶者の合計所得金額 |
給与収入換算 |
控除の取扱い |
| 58万円以下 |
123万円以下 |
配偶者控除(満額) |
| 58万円超〜95万円以下 |
123万円超〜160万円以下 |
配偶者特別控除(満額) |
| 95万円超〜133万円以下 |
160万円超〜201万円以下 |
配偶者特別控除(段階的に縮小) |
控除額がいきなりゼロにならないのはありがたい点ですが、社会保険の扶養を外れる130万円の壁は依然として残っているため、報酬設計の際には総合的に検討する必要があります。
退職金の支給でさらに大きな節税効果を狙う
3つ目のスキームは、非常勤役員への退職金の活用です。家族を非常勤役員にしておくことで、退職のタイミングで退職金を支給することができます。この退職金は会社の損金に算入できるため、大きく利益を圧縮したいタイミングで非常に有効です。
特に、課税の繰り延べになる節税対策(保険など)を活用した際には、繰り延べた利益の出口として役員退職金が活用できるため、出口戦略としても重要な位置づけとなります。
さらに、退職金は受け取る側の税負担も非常に軽くなっています。退職金は「退職所得」という区分で分離課税となり、給与と合算されません。加えて、勤続年数に応じた退職所得控除が適用され、勤続年数が20年を超えれば最低でも800万円の控除が受けられます。さらに、課税対象となる金額は受け取った退職金から退職所得控除を差し引いた金額を「2分の1」した額となるため、結果的に退職金にかかる税金はかなり少なくなります。
ただし、役員退職金の金額そのものに法律上の上限はないものの、不相応に高額な場合は損金算入が否認される可能性があります。一般的には「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」という計算式を目安に設定するのが実務上のスタンダードとなっています。
非常勤役員の報酬相場とNG例
非常勤役員の報酬は、いくらに設定するのが適切なのでしょうか。
家族の収入が非常勤役員の報酬のみという前提で整理すると、令和7年度の税制改正によって、給与のみで他に所得がない場合、年収160万円以下であれば所得税はかからないようになりました。さらに今後の改正で、この非課税枠が178万円まで引き上げられることも予定されています。
ただし、所得税がかからないからといって非課税枠ギリギリまで設定すれば良いというものではありません。一般的に年収100万円を超えると住民税が発生し、130万円を超えると社会保険料負担が出てきます。そのため、所得税がゼロでもトータルでは手取りが減る可能性があるのです。
過去の判例や実務的な感覚からは、月5万円から15万円、年間で60万円から180万円の範囲に収めるのが無難とされてきました。
税務署に否認されるNG例
報酬が多すぎると税務署から「過大報酬」として、損金算入を否認される可能性があります。
過去には、帳簿整理などを手伝っていた代表取締役の長女(18歳・大学生)に年間93万円を支給したところ、他の非常勤役員の報酬60万円と比べて「不当に高額」と判断され、差額33万円分の損金算入が否認された判例があります。昭和の事例であり金額自体は古いものの、考え方は現在でも参考になります。
ポイントは、報酬の絶対額だけで判断されているわけではない、ということです。「実際にどのような業務に関与しているか」と「他の役員との報酬バランス」が見られています。絶対に安全な金額というものは存在しませんが、会社全体で整合性が取れていることが何より重要です。
まとめ
家族を非常勤役員にすることで、(1)所得分散による所得税・住民税の節税、(2)社会保険料の削減、そして退職時には役員退職金の活用、という3つの大きなメリットを得ることができます。条件次第では、年間30万円以上の手取り改善も十分に可能です。
ただし、効果を確実に得るためには、勤務実態を整えること、合同会社の場合の社会保険の取り扱いに注意すること、そして報酬額を業務内容や他の役員とのバランスを踏まえて適切に設定することが欠かせません。形式だけ整えても、税務調査で否認されてしまえば本末転倒です。
非常勤役員はうまく活用すれば、税金や社会保険料を抑えつつ、世帯の手取りを増やすことができる非常に有効な手段です。自社で導入を検討される場合には、税理士などの専門家とも相談しながら、適切な金額・関与体制を整えていきましょう。
今回ご紹介した非常勤役員を活用した節税スキームについては、動画でも税理士がより詳しく分かりやすく解説しています。具体的な数字の動きや実務での注意点、判例の解釈などについても掘り下げていますので、ぜひ動画もあわせてご覧ください。