社長の役員賞与は「事前確定届出給与」で経費化を ボーナスを活用した節税と資金設計の考え方

「役員のボーナスは経費にならない」──そう思い込んでいる経営者の方は多いのではないでしょうか。確かに、原則として役員賞与は損金不算入であり、決算間際に「今期は利益が出たからボーナスを出そう」と支給しても、1円も経費にはなりません。

しかし、実は一定の条件を満たせば、役員賞与を経費として計上することが可能です。しかも、うまく活用すれば社会保険料の削減や利益変動への柔軟な対応まで実現でき、手残りが100万円単位で変わるケースもあります。今回は、役員賞与を最大限に活用して節税につなげる方法について、その仕組みと注意点、金額設定の考え方までを詳しく解説していきます。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

役員賞与を損金算入するための条件

役員賞与とは、会社から役員に対して支払うボーナスのことを指します。従業員のボーナスは原則として経費になりますが、役員に対する賞与は原則として損金不算入、つまり経費として認められないというルールになっています。

これを経費にするためには、「事前確定届出給与」という仕組みを使う必要があります。あらかじめ税務署に対して役員賞与の支給日と支給金額を届け出て、その届出内容どおりに支給することで、役員賞与を経費として認めてもらえる制度です。

提出期限は「早い方」を採用

事前確定届出給与の提出期限は、次の2つのうちいずれか早い方となります。

– 株主総会の決議日から1ヶ月を経過する日

– 会計期間の開始日から4ヶ月を経過する日

たとえば期首が4月の会社の場合、「期首から4ヶ月」であれば7月末が期限となりますが、株主総会が6月20日に開催されるのであれば、その1ヶ月後の7月20日が実質的な締切となります。つまり、決算前に慌てて対応できる制度ではなく、期首の段階で仕込んでおく必要があるのです。

1円・1日でもズレたら全額アウト

事前確定届出給与を運用するうえで最も注意すべきポイントは、届出の内容と実際に支払った金額が1円でも、支給日が1日でもズレると、支給した賞与の全額が損金不算入となってしまうことです。

たとえば、9月に100万円、3月に100万円、合計200万円を支給すると届け出ていたケースを考えてみましょう。業績が好調で、3月のボーナスを50万円上乗せして150万円支給した場合、上乗せした3月分だけでなく、ルール通り支払った9月の100万円も含めて、全額が損金不算入となってしまいます。

なぜここまで厳しいかというと、決算間際に利益を見ながら賞与額を調整する、いわゆる利益調整を防ぐためです。だからこそ、その期の利益をある程度見込んだうえで、期首の段階で慎重に設計する必要があります。

役員賞与を活用する2つの大きなメリット

条件が厳しい制度ではありますが、それでも役員賞与を活用するメリットは大きく分けて2つあります。

(1)社会保険料を削減できる

1つ目のメリットは、同じ年収でも社会保険料を下げられる可能性があることです。役員賞与も社会保険の対象ですが、実は「上限」が設けられています。

保険の種類 上限額
健康保険料 年度累計で573万円まで
厚生年金保険料 1回の支給につき150万円まで

 

厚生年金の方が上限額が低いため、こちらを意識した設計がしやすいと言えます。たとえば、役員賞与として一度に200万円を支給した場合、厚生年金保険料の上限150万円を50万円超過しています。この超過分50万円については、厚生年金保険料がかからないのです。

令和8年度の厚生年金保険料率は18.3%で、これを会社と個人で折半します。合計で見ると「50万円 × 18.3% = 約9万円」の厚生年金保険料を削減できる計算になります。1回の賞与だけでも9万円の削減効果があるわけですから、年間を通じて考えるとかなり大きな差になります。

つまり、役員報酬を毎月同額で受け取り続けるよりも、月々の報酬をある程度に抑えて、その分を一部を賞与に振り替えることで、同じ年収であっても手取りを増やせる可能性があるということです。ただし、これを極端にやりすぎると、月々の生活費や将来の年金額に影響が出ますので、バランスは重要です。

(2)利益の変動に柔軟に対応できる

2つ目のメリットは、利益の変動に柔軟に対応できることです。事前確定届出給与は届け出た金額を変更することはできませんが、業績悪化などの合理的な理由があれば「全額を支給しない」という判断は可能です。

そもそも1円も支払っていなければ、損金不算入にしようがないため、特にペナルティもありません。つまり、あらかじめ決算期にボーナスを出すよう届出をしておき、実際に支給するかどうかは業績を見ながら判断するという活用方法も可能なのです。売上予想が読みにくい業種にとっては、利益変動対策のオプションとして非常に使い勝手のよい仕組みだと言えます。

ただし注意点として、支給日前に「全額不支給」の決議をせず放置してしまうと、支給していなくても役員が受け取ったものとみなされ課税されてしまう可能性があります。必ず支給日前に取締役会等で全額不支給の決議を行い、議事録を残しておく必要があります。

役員賞与はいくらに設定すると得なのか

では実際に、役員賞与をいくらに設定するのが最も効果的なのでしょうか。金額設定の目安をお伝えします。

法人所得800万円のラインを意識する

まず前提として、資本金1億円以下の中小企業では、法人所得のうち年800万円以下の部分に軽減税率が適用されます。800万円以下の部分は法人税率が約15%ですが、800万円を超える部分には約23.2%の税率が適用されます。

この差は8%以上と非常に大きいため、役員賞与を出すことで会社の利益を年間800万円以下に抑えることができれば、法人税の節税効果を最大化できます。まずはこの「800万円」というラインを常に意識しておくことが重要です。

そして先ほどご説明したとおり、1回に支払う役員賞与を150万円以上に設定すれば、厚生年金保険料の上限にも引っかかるため、社会保険料の観点でも有利になります。

個人と法人の税負担バランスを見る

一方で、「大きく設定すればするほどお得」というわけでもありません。役員賞与を多く設定すればするほど、受け取った個人側の税負担が重くなるためです。

個人の額面年収 税・社会保険料の負担率(概算)
1,000万円 約27%
1,500万円 約31%
2,000万円 約35%

 

対して法人税の実効税率は、中小企業で所得800万円以下なら約25%、800万円超の部分で約34%です。個人の税負担が法人の税負担を上回るような設計にしてしまうと、せっかく役員賞与を活用しても節税効果が薄れてしまいます。

少額の賞与、たとえば数十万円程度の設定は、事前確定届出給与の届出という手間を考えると費用対効果が薄いため、それであれば月々の役員報酬を少し増やす方が現実的です。一方で1,000万円を超えるような大きな金額設定は、個人の税負担が急激に重くなるため慎重な判断が必要です。

会社にお金を残しすぎることのリスク

「それなら賞与を出さずに、会社に利益を残しておけばいいのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、会社に資金を残しすぎることにも大きなリスクがあります。

まず1つ目は、二重課税の問題です。会社で法人税を支払ったお金を、将来個人で受け取ろうとすると、今度は所得税や住民税が課税されます。同じお金に対して2回税金が課される構造になっているため、非効率になりやすいのです。

2つ目は、自社株の評価額が跳ね上がる問題です。会社にお金が貯まれば貯まるほど、その会社の株の価値も上がっていきます。一見良いことのようですが、将来お子さんに事業を引き継ぐ時や相続が発生した時に、株の評価額が高いほど贈与税や相続税の負担も大きくなります。

最悪のケースでは、相続税の納税資金を確保するために会社の資産を売却せざるを得なくなったり、後継者が多額の税負担を抱えて事業継続が困難になったりすることもあります。会社に残しすぎる選択も、決して安全とは言えないのです。

出口戦略としての役員退職金

「会社に残しすぎてもダメ、個人に出しすぎてもダメ」──ではどうすればよいのでしょうか。ここで重要になってくるのが、役員退職金の活用です。

退職金は他の所得と切り離して課税される分離課税であり、勤続年数に応じた退職所得控除という大きな控除が受けられます。さらに控除後の金額の2分の1のみが課税対象となり、社会保険料もかかりません。役員報酬や賞与で受け取るよりも、退職金として受け取る方が個人への税負担が圧倒的に軽くなります。

つまり、短期的に賞与で個人に移すべきお金と、退職金の原資として会社に残しておくべきお金のバランスを、出口戦略まで含めて設計することが重要なのです。目先の法人税と所得税の比較だけで判断するのではなく、将来の自社株評価のリスク、二重課税の問題、そして退職金による出口戦略まで含めて、トータルで賞与の金額を決めていく必要があります。

まとめ

役員賞与は、事前確定届出給与の仕組みを正しく使うことで経費化でき、社会保険料の削減や利益変動への対応といったメリットを得られる制度です。金額設定においては、法人所得800万円の軽減税率ラインや、厚生年金保険料の1回あたり150万円という上限を意識することがポイントとなります。

一方で、個人の税負担率と法人の実効税率のバランス、さらには自社株の評価や退職金の原資といった長期的な視点も欠かせません。役員賞与は単なる短期的な節税手段ではなく、会社と個人の資産をどう最適に配分していくかという、経営全体の設計の一部として考えるべきものです。

期首に一度立ち止まって、今期の利益見込み、社会保険料の負担、そして将来の出口までを見据えたうえで、最適な役員賞与の設計を検討してみてはいかがでしょうか。

本記事の内容については、動画でも税理士が具体例を交えてわかりやすく解説していますので、より詳しく理解したい方はぜひ元動画も併せてご覧ください。

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