ボーナスシーズンが近づくと、「平均賞与額が過去最高を更新」といったニュースが目立つようになります。しかし中小企業の経営者にとって、こうした報道は必ずしも参考になるものではありません。むしろ、大企業の数字を基準に賞与を設計してしまうと、固定費の増大やキャッシュフローの悪化を招き、経営を圧迫するリスクすらあります。
重要なのは、世間の平均額に振り回されることではなく、賞与をどのように設計すれば「利益を残しながら従業員に還元し、税金もコントロールできるか」を考えることです。本記事では、中小企業が導入すべき賞与の仕組みと、賞与を活用した節税対策、そして実務上の注意点について整理していきます。
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中小企業の賞与平均額に惑わされてはいけない
ニュースで報じられる「平均賞与額」は、実は中小企業の実態をほとんど反映していません。たとえば大手経済紙が発表するボーナス調査の対象は、主に上場企業や、報道機関が独自に選定した有力な非上場企業に限定されています。日本に法人は数百万社存在しますが、調査に回答しているのはわずか数百社にすぎません。
つまり、報道で語られる「平均」は、日本のトップ層の企業の数字であって、中小企業全体の平均ではないということです。これを基準に賞与を考えてしまうと、本来必要のない水準まで支給額を引き上げてしまい、結果として資金繰りを圧迫することにつながります。
そもそも賞与の本来の目的は、従業員の労働に対する慰労と、会社が創出した利益の分配にあります。「他社がこれくらい出しているから」という発想ではなく、自社の利益水準に応じて還元するという考え方に立ち戻ることが、経営を守る第一歩になります。
業績連動型賞与へのシフトが生む効果
日本では夏と冬にそれぞれ基本給の数か月分を支給する「固定月数型」の賞与制度が一般的です。従業員側からすれば金額の見通しが立つため安心感のある制度ですが、経営者側から見ると大きなリスクを抱えています。固定月数で賞与を設定している場合、それは実質的に毎月の給与の延長であり、固定費として扱う必要があるからです。業績が悪化して手元のキャッシュが枯渇していても、会社は借入をしてでも支払わざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。
そこで検討したいのが、業績連動型賞与へのシフトです。これは営業利益や経常利益の数パーセントを賞与の原資として分配するなど、会社の業績と賞与の金額を直接リンクさせる制度です。
業績連動型賞与の主なメリット
業績連動型賞与の最大のメリットは、利益が出ていない局面では賞与を抑えられるため、資金繰りリスクを大幅に軽減できる点にあります。利益が出たときにだけ還元すればよいので、経営上の負担が軽くなります。
さらに、従業員の意識改革にもつながります。会社の業績によって賞与額が変わる仕組みであれば、従業員は業績アップを自分ごととして捉えるようになります。会社の利益が賞与の原資になることを理解してもらえれば、無駄な経費を削減しなければ自分のボーナスが減るという当事者意識が芽生え、これまで無頓着だったオフィスの電気代や消耗品費といった細かな部分にも、自発的な改善が生まれていきます。
導入時には従業員との丁寧なコミュニケーションが欠かせませんが、うまく制度設計できれば、経営の安定と従業員のモチベーション向上を同時に実現できる仕組みになります。
決算賞与を活用した節税の仕組み
業績連動型賞与のメリットは、固定費リスクの抑制だけではありません。賞与の支給タイミングを工夫することで、節税効果も狙うことができます。その代表的な手法が「決算賞与」です。
決算賞与とは、決算直前に予想以上の利益が見込まれる場合に、その利益を原資として臨時に支給される賞与のことを指します。法人税率をざっくり30%とした場合、期末に1,000万円の利益が出たまま何も対策を講じなければ、300万円が税金として社外へ流出してしまいます。
この利益のうち300万円を決算賞与として従業員に還元すると、決算賞与は全額を経費として計上できるため、会社の利益は700万円に圧縮されます。結果として法人税等は210万円となり、支払う税金を約90万円減らすことができます。
| 区分 |
決算賞与なし |
決算賞与300万円支給 |
| 利益 |
1,000万円 |
700万円 |
| 法人税等(約30%) |
300万円 |
210万円 |
| 税負担の差 |
― |
△90万円 |
ただし、300万円の賞与は実際に従業員に支払われるため、手元の現金はその分減少します。「キャッシュが増えるわけではない」という点には注意が必要です。とはいえ、そのまま国に300万円を納めるよりも、社員に還元して組織のモチベーションを高めるほうが、会社の将来への投資としては有意義だと言えます。
未払計上を活用するという選択肢
「帳簿上は利益が出ていても、売掛金が回収できておらず、決算月に賞与を支払うキャッシュがない」というケースもあります。そうしたときに活用したいのが「未払計上」という仕組みです。
原則として、経費は実際に支払いを行った事業年度の損金として算入されます。しかし決算賞与については、一定の要件を満たせば、実際に現金を支払うのが翌事業年度であっても、当事業年度の損金として計上することが認められています。つまり、今期末の時点で現金がなくても、翌期に支払う約束さえ整えれば、今期の経費にして法人税を減らせるということです。
未払計上が認められるためには、次の要件をすべて満たす必要があります。
- 決算日までに、支給対象となるすべての従業員に対して、個別に賞与の支給額を通知していること
- 決算日の翌日から起算して1か月以内に、通知した全額を実際に支払っていること
- その決算期において、未払金として損金経理の処理を行っていること
この特例を活用することで、決算月にはキャッシュを手元に残したまま利益を圧縮できるため、資金繰りにゆとりを持たせながら節税が可能になります。ただし、1か月以内の支払が守られなかった場合や、通知漏れが1人でもあった場合には全額が否認されるため、運用は慎重に行う必要があります。
賃上げ促進税制でさらなる節税効果を狙う
決算賞与の支給に合わせて活用したいのが、賃上げ促進税制です。これは従業員全体の「給与等支給総額」を前年度より一定割合以上増加させた企業に対し、増加額の一部を法人税額から直接差し引くことができる制度です。
ここで重要なのは、「給与等支給総額」には毎月の基本給だけでなく、賞与も含まれるという点です。つまり、基本給を据え置いたまま決算賞与を上乗せするだけでも、賃上げを実施したものとして判定される可能性があります。固定費を増やすことなく適用要件をクリアできるため、中小企業にとっては非常に使い勝手の良い制度です。
中小企業の場合、前年度と比べて給与支給額を1.5%増加させるだけで15%の税額控除を受けられ、2.5%以上増加させれば控除率は30%に跳ね上がります。さらに、子育て支援や女性活躍に取り組む企業には、最大35%の税額控除が用意されています。
また、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった分は、最大5年間繰り越して使うことができます。そのため、赤字の年であっても決算賞与を支給しておけば、将来黒字に転換し多額の法人税が発生した際に、税金を大幅に減らすことが可能です。業績連動型賞与だけでは赤字年に従業員のモチベーションが下がるおそれがありますが、そのタイミングで決算賞与を出すことで、モチベーション維持と将来の節税効果を同時に得られる点は大きな魅力です。
賞与による節税で押さえておくべき注意点
賞与を活用した節税には多くのメリットがある一方で、運用を誤ると追徴課税や資金繰り悪化を招くリスクもあります。実務上、特に注意すべきポイントを整理しておきます。
未払計上の要件は厳格に運用する
決算賞与を未払計上する場合、要件を厳守する必要があります。決算日から1か月以内の支払期限を1日でも過ぎたり、通知要件で1人でも漏れがあったりした場合には、全額が否認されてしまいます。
通知についても、口頭で済ませるのは危険です。社内メールやチャットの送信履歴、書面など、後日税務署に提示できる証拠を確実に残しておくことが重要になります。
みなし役員と親族従業員への支給に注意する
決算賞与を出す際に最も警戒すべきなのが、「みなし役員」と「親族従業員」への支給です。ここを誤ると、節税どころか多額の追徴課税を受けるリスクがあります。
大原則として、従業員への賞与はルールを守れば経費になりますが、役員への賞与は「事前確定届出給与」の届出をあらかじめ出していない限り、1円も経費として認められません。問題となるのは、登記簿には名前が載っていない「みなし役員」の存在です。
具体的には、経営方針の決定に実質的に関与している、家族等のグループ合計で発行済株式の50%超を保有している、本人が5%超の株式を持っている(特定の同族会社の場合)といった条件に当てはまる場合、税務署からは役員として判定される可能性があります。
みなし役員と判定された場合、その人に支払った決算賞与は「届出のない役員賞与」として全額が損金不算入となります。また、親族従業員に対して、他の一般社員と比べて明らかに高額な賞与を出すことも危険です。勤務実態に見合わない高額支給は、過大役員報酬と同じ論理で否認されるリスクがあるため、社内での公平性を意識した設計が求められます。
社会保険料と金融機関からの評価にも目を向ける
賞与を支給すれば、当然ながら社会保険料の負担も増えます。社会保険料は労使折半のため、会社側もおおむね賞与額の約15%前後を負担することになり、支給額の設計時にはこの分も見越したキャッシュ計画が必要です。決算賞与で法人税を圧縮できても、後から到来する社会保険料の請求で資金繰りがショートしてしまっては本末転倒です。
さらに、決算賞与を出して利益を大きく圧縮すれば、決算書上の最終利益は当然小さくなります。これにより、銀行からの格付けが低下したり、新たな融資審査に悪影響を及ぼしたりする可能性もあります。節税ばかりに目を向けて、いざというときに必要な融資が受けられなくなっては、経営全体としてはマイナスになりかねません。
まとめ
賞与は、単なる従業員への還元手段ではなく、経営リスクのコントロールと節税を両立できる重要な経営ツールです。中小企業においては、まず固定月数型の賞与から業績連動型賞与への移行を検討し、利益が出たときにしっかり還元する仕組みを整えることが、長期的な雇用の安定にもつながります。
その上で、決算賞与と未払計上、そして賃上げ促進税制を組み合わせれば、キャッシュを手元に残しつつ法人税を圧縮し、将来の繰越控除という効果まで得ることが可能です。一方で、未払計上の要件、みなし役員への支給、社会保険料の負担、金融機関からの評価といった注意点を見落とすと、節税の効果以上のダメージを受けてしまいます。
「ボーナスを出すほど現金が残る会社」と「ボーナスで資金繰りが苦しくなる会社」の差は、こうした制度設計と運用の精度にあります。自社の利益水準、従業員構成、資金繰り、金融機関との関係といった条件を総合的に見ながら、最適な賞与設計を組み立てていくことが、これからの中小企業に求められる視点だと言えます。
なお、賞与設計と節税の具体的な実務については、税理士が動画でさらに詳しく解説しています。決算賞与の要件や賃上げ促進税制の活用イメージ、みなし役員判定の境界線など、文章だけでは伝わりにくい部分も丁寧に説明されていますので、ぜひ元動画も併せてご覧ください。