役員報酬以外で個人にお金を残す方法――法人オーナーが知っておくべき5つの戦略

会社の業績が好調になり、役員報酬の引き上げを検討する法人オーナーは少なくありません。しかし、いざシミュレーションしてみると、税金と社会保険料の負担が重く、手取りが思ったほど増えないという現実に直面することがあります。

現在の日本では、個人の所得に対する税・社会保険料の負担が非常に大きく、「給料を上げても報われない」と感じる経営者が増えています。だからといって、会社にお金を貯め込むだけでは十分とは言えません。

実は、役員報酬を無理に引き上げなくても、税制上認められた方法を活用することで、個人の手取りを効率的に増やすことが可能です。本記事では、法人オーナーが押さえておくべき5つの戦略を解説します。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

会社と個人、どちらにお金を残すべきか

具体的な方法に入る前に、まず「会社にお金を残すべきか、個人に残すべきか」という前提を整理しておきます。

税率だけを見れば法人が有利

個人の所得税は累進課税であり、住民税と合わせると最高税率は55%に達します。一方、中小企業の法人税は実効税率で25〜34%程度にとどまり、税率もほぼ一定です。

税金の仕組みだけを比較すれば、会社にお金を残した方が有利であることは間違いありません。「役員報酬を取りすぎない方がいい」という話は、この税率差が根拠になっています。

区分 税率の目安 特徴
個人(所得税+住民税) 最大約55% 累進課税で所得が増えるほど税率が上昇
法人(実効税率) 約25〜34% 中小企業の場合。税率はほぼ一定

それでも個人にお金を残すべき理由

しかし、会社にすべてを貯め込むことが正解とは限りません。生活費や教育費の確保はもちろんですが、最大の理由は「会社の危機に対応できるかどうか」にあります。

会社の経営が厳しくなったとき、社長個人に資金があれば「役員借入金」として会社に貸し付け、事業を継続させることができます。逆に、個人の手元資金がなければ、会社と一緒に共倒れするリスクを抱えることになります。

つまり、税率だけに注目して会社に資金を集中させるのではなく、リスクヘッジの観点から個人にも一定の資金を確保しておくことが重要なのです。そのためには、役員報酬をむやみに上げるのではなく、税金や社会保険料を抑えながら個人に資金を移す方法を知っておく必要があります。

会社の制度を活用して個人にお金を残す3つの方法

ここでは、会社の仕組みを使い、比較的リスクを抑えながら手取りを増やす方法を3つ紹介します。

(1)出張旅費規程の活用

出張が多い経営者にとって、まず検討したいのが「出張旅費規程」の整備です。

通常、出張にかかる交通費や宿泊費は実費精算するだけですが、会社で出張旅費規程をきちんと定めておくと、実費とは別に「出張手当(日当)」を支給できるようになります。

この出張手当の最大のメリットは、会社側では「旅費交通費」として全額経費に計上でき、受け取る個人側では給与扱いにならないという点です。つまり、所得税・住民税・社会保険料が一切かからず、受け取った金額がそのまま手元に残ります。

たとえば、宿泊出張の際に日当と宿泊費を合わせて2万円を支給し、実際の食事代や雑費が1万円で済んだ場合、差額の1万円は非課税の収入となります。出張が年間50回あれば、それだけでまとまった金額になります。

ただし、出張手当は適正な金額である必要があります。同業他社の相場や社会通念上の常識から逸脱した高額な日当を設定すると、税務調査で実質的な給与と認定されるリスクがあります。また、実際に出張していないにもかかわらず手当を受け取るいわゆる「カラ出張」は絶対に行ってはなりません。出張の事実を証明できる報告書や領収書は必ず保管しておきましょう。

(2)役員社宅制度の活用

次に検討したいのが「役員社宅制度」です。この制度を活用すれば、毎月の家賃負担を大幅に減らしつつ、税金・社会保険料の削減も実現できます。

仕組みはシンプルです。会社が物件を借り上げ、それを社長に貸し出します。社長は本来の家賃ではなく、税法上定められた「賃貸料相当額」を会社に支払えば住むことができます。この賃貸料相当額は、一般的に市場家賃よりもかなり低い水準になります。

さらに効果的なのが、社宅制度の導入に合わせて役員報酬を引き下げるという手法です。「給料を下げたら手取りが減るのでは」と思うかもしれませんが、そうはなりません。もともと自分で支払っていた家賃の分だけ報酬を減らすので、生活水準は変わりません。一方で、額面上の報酬が下がることにより、それにかかる所得税・住民税・社会保険料が減少します。

具体例で見てみましょう。役員報酬が月50万円、家賃が月20万円のケースを想定します。社宅導入前は、税金や家賃を差し引いた手残りが月20万円だったとします。ここで社宅制度を導入し、会社に家賃10万円を負担してもらう代わりに役員報酬を月40万円に下げると、税金・社会保険料が下がり、家賃を支払っても手残りは月22万円に増えます。支払い方を変えるだけで、年間24万円の手取り増加が見込めるのです。

なお、今の例は家賃の5割負担で計算していますが、条件次第では社長個人の負担が2〜3割で済むこともあり、節税効果はさらに大きくなります。

(3)退職金の活用

最後に「退職金」です。即効性はありませんが、長期的に見たときの効果は非常に大きい方法です。

退職金が有利な理由は、税金の計算方法が給与所得と全く異なる点にあります。退職金は「退職所得」として分離課税の対象となり、他の所得と切り離して計算されます。しかも「退職所得控除」という強力な控除が適用されるのです。

退職所得控除の金額は勤続年数によって決まります。勤続20年以下であれば「40万円×勤続年数」、20年を超える部分は「70万円×(勤続年数−20年)」で計算されます。つまり、勤続年数が長いほど控除額は大きくなり、最低でも800万円以上の控除を受けられるケースが多いのです。

さらに、退職所得控除を差し引いた後の金額を2分の1にした上で税率を適用します。そして決定的なのが、退職金には社会保険料がかからないという点です。

こうした優遇措置があるため、毎月の役員報酬は生活に必要な水準に抑えておき、会社に利益を蓄積させて、最終的に退職金としてまとめて回収するという戦略が有効になります。

退職金の原資を計画的に準備するためには、節税しながら積み立てができる制度を活用するのが効果的です。

「経営セーフティ共済」では、月最大20万円、累計800万円まで掛金を全額損金に算入できます。解約時の解約手当金を退職金の原資に充てることが可能です。

個人で加入する「小規模企業共済」は、掛金が全額所得控除の対象となり、共済金や解約手当金として受け取ることができます。

また、最近注目を集めている「はぐくみ基金」などの確定給付企業年金は、退職時だけでなく休職時にも受け取れる柔軟な制度で、掛金が全額損金になります。従業員の福利厚生として導入されるケースが多いですが、役員も加入可能です。

自身の状況に合った制度を選び、早い段階から出口戦略を設計しておくことが重要です。

個人の所得を圧縮してお金を残す2つの方法

ここからは視点を変え、会社の制度ではなく、個人で受け取った所得に対する税負担を大きく抑える方法を解説します。金額も大きくなるため、すべての人に向くわけではありませんが、本気で税負担を軽減したい方にとっては検討に値する手法です。

直接保有型のオペレーティングリース

オペレーティングリースといえば、航空機やコンテナなどを対象とした法人向けの節税商品として知られています。しかし、実は個人でもヘリコプターや小型航空機を対象にした「直接保有型」のスキームが存在します。

この仕組みの核心は、投資した初期段階で減価償却費として大きな赤字を計上できる点にあります。個人の場合、この赤字は不動産所得として扱われるため、法人から受け取っている給与所得と損益通算が可能です。結果として、課税所得を大幅に圧縮し、税負担を抑えることができます。

たとえば、ヘリコプターのオペレーティングリースでは5,000万円以上から投資が可能です。リース期間は平均5年程度ですが、中古の機体であれば1年(12カ月)で全額を償却できるものもあり、短期間で大きな赤字を作ることも可能です。

ただし、オペレーティングリースは最終的に資産の売却が予定されており、売却益には譲渡所得税がかかります。基本的には課税の繰り延べという性質を持っています。

しかし、売却時の所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得として扱われ、課税対象が売却益の約半分になります。取得時に高い税率で控除した赤字が、売却時には低い税率で課税されるため、単なる繰り延べにとどまらず、最終的な税負担が軽減される可能性があるのです。

不動産投資(中古木造物件)

もう一つの方法が、中古の木造物件を活用した不動産投資です。

なぜ「中古の木造」なのか。それは減価償却のスピードが際立って速いからです。木造住宅の法定耐用年数は22年ですが、築22年を超えた物件であれば、簡便法により4年で減価償却することが認められています。建物の取得価額を4年で割った金額を毎年経費として計上できるため、不動産所得に大きな赤字を生み出すことができます。

この赤字を給与所得と損益通算すれば、所得税の負担を大幅に圧縮することが可能です。理論上は、所得税をゼロに近づけることさえできます。

そして売却時のポイントも、先述のオペレーティングリースと同様です。所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得となり、売却時にかかる税率は約20%に抑えられます。

たとえば、現在の所得税率が住民税と合わせて55%の方が、不動産の赤字で一旦その所得を消し、5年後に不動産を売却して売却益として回収すれば、約20%の税率で済みます。この税率差が大きいほど、節税効果も大きくなるという仕組みです。

ただし、不動産投資である以上、物件選びを誤れば売却価格が下落し、節税メリットを上回る損失が出る可能性もあります。税務面の知識だけでなく、不動産投資としての目利きも重要になる点は十分に理解しておく必要があります。

まとめ

法人オーナーが個人にお金を残す方法は、役員報酬の引き上げだけではありません。本記事で紹介した5つの戦略を改めて整理します。

出張旅費規程の活用は、非課税の出張手当によって手取りを直接的に増やす方法です。出張頻度が高い経営者ほど効果が大きくなります。

役員社宅制度は、家賃負担の最適化と報酬設計の見直しを組み合わせることで、毎月の税金・社会保険料を着実に削減する手法です。

退職金の活用は、退職所得控除・2分の1課税・社会保険料の非課税という三つの優遇を最大限に活かし、長期的に大きな手取りを確保する戦略です。

直接保有型のオペレーティングリースは、減価償却を利用して所得を圧縮し、売却時の税率差によって最終的な税負担を軽減する方法です。

中古木造物件への不動産投資は、4年という短期間での減価償却と長期譲渡所得の低税率を組み合わせ、税率差を活用して手元資金を最大化する手法です。

いずれの方法も、知っているか知らないかで手元に残る金額が大きく変わります。自社の状況や個人の資産状況に合わせて、最適な組み合わせを設計することが大切です。

本記事の内容は、税理士が動画でより詳しく、具体的な数字を交えながらわかりやすく解説しています。制度の仕組みや活用時の注意点をより深く理解したい方は、ぜひ元動画もあわせてご覧ください。

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