役員報酬を配当金で受け取る節税スキーム|社会保険料負担を軽減する実務的手法

「社会保険料の負担が重すぎて、役員報酬を上げても手取りが思うように増えない」——多くの中小企業経営者が抱えるこの悩みは、もはや構造的な問題と言えます。会社負担分と個人負担分を合わせると報酬額の約30%にも達する社会保険料は、経営者にとって実質的な重税です。

そこで今回ご紹介したいのが、役員報酬の一部を「配当金」として受け取ることで、トータルの手残りを増やす方法です。中小企業の多くは社長自身が株主を兼ねているため、自社から配当を受け取ることは十分可能です。しかも配当金には社会保険料が一切かからず、条件次第では役員報酬として受け取るよりも手取りが大きく増えるケースがあります。

本記事では、配当を活用した節税スキームのメリット・デメリット、役員報酬とのシミュレーション比較、そして実行する上での注意点まで、実務的な観点から詳しく解説していきます。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

なぜ「配当」が節税につながるのか

配当金を活用するメリットは大きく分けて2つあります。

(1)社会保険料の算定対象外になる

最大のメリットは、配当金が社会保険料の算定対象外になることです。社会保険料はあくまで給与、つまり役員報酬の額に基づいて決定されます。報酬が高ければ高いほど、保険料も上限まで上昇していきます。

一方、配当金は給与ではなく、株主への利益分配です。労働の対価ではないため、いくら高額な配当を受け取っても、社会保険料の計算には1円も影響しません。理論上は役員報酬をゼロにすれば社会保険料もゼロにできますが、実務上は社会保険に加入できる最低限の報酬を残し、残りを配当で受け取る形が現実的です。

今後も社会保障費の負担増が見込まれる中、この仕組みを理解しておくことは経営者にとって大きな武器になります。

(2)配当控除が受けられる

「配当にしても結局所得税が高くつくのでは?」と考える方も多いのですが、ここで重要になるのが「配当控除」という制度です。

そもそも配当金は、法人税が課税された後の利益から支払われます。その配当金を受け取った個人にさらに所得税が課されれば、実質的に二重課税の状態になってしまいます。この二重課税を調整するために設けられているのが配当控除です。

控除額は、配当を受け取る個人の課税総所得金額によって異なります。課税所得金額1,000万円までの部分については、所得税で配当所得の10%、住民税で2.8%が控除されます。しかも税額控除なので、算出された税額から直接差し引かれます。

たとえば配当で100万円を受け取り、それ以外に所得がない場合、基礎控除95万円を差し引いた所得税は2,500円程度。ここから配当控除10万円(100万円×10%)が差し引かれるため、最終的な所得税負担はゼロ円となります。

ただし、課税所得金額が1,000万円を超える部分については控除割合がそれぞれ半分になります。高額な役員報酬を受け取っているケースでは、配当を上乗せすると逆に税負担が増えてしまうこともあるため注意が必要です。

ここが落とし穴|配当のデメリット

メリットだけを見ると「全部配当でいい」と思いたくなりますが、配当には無視できないデメリットもあります。これを理解せずに実行すると、かえって損をする可能性もあります。

配当金は損金算入できない

最大のデメリットは、配当金は会社の経費(損金)にならないという点です。役員報酬であれば、定期同額給与などの要件を満たすことで全額損金算入でき、その分会社の利益を圧縮して法人税を減らすことができます。

ところが配当金はあくまで税引き後の利益処分であり、いくら配当を支払っても会社の利益は1円も減りません。つまり配当には法人税の節税効果はゼロです。会社側で法人税を満額負担した上で個人にお金が移ることになるため、法人税負担と個人側の税・社会保険料負担を総合的に比較してどちらが得かを判断する必要があります。

給与所得控除が受けられない

役員報酬として受け取れば、最低65万円、最大195万円の給与所得控除が適用されます。これはいわゆる「サラリーマン経費」のような位置付けで、無条件で所得から差し引ける控除です。配当にはこの仕組みがないため、その分は不利になります。

確定申告が必要になる

役員報酬や役員賞与は基本的に年末調整で完結し、原則として確定申告は不要です。しかし配当金を受け取った場合は、原則として確定申告が必要になります。

上場していない自社からの配当を受け取る際には、すでに20.42%の所得税が源泉徴収されています。この税金を取り戻し、配当控除を適用するためには確定申告が不可欠です。

なお、年10万円以下の少額配当であれば所得税の確定申告を省略することも可能ですが、その場合は源泉徴収された20.42%が引かれっぱなしになる上、住民税は別途申告が必要になります。いずれにしても何らかの申告手続きが必要になることは押さえておきましょう。

役員報酬と配当金、どちらが得か

ここまでのメリット・デメリットを整理すると、次のような比較表になります。

項目 役員報酬 配当金
法人税 損金算入可(節税効果あり) 損金算入不可
所得税 給与所得控除あり 配当控除あり
社会保険料 算定対象 算定対象外
確定申告 原則不要 原則必要

 

法人税の観点では役員報酬が有利、社会保険料の観点では配当が有利、所得税については所得水準次第、という構造です。だからこそ、両者をどう組み合わせるかが手取り最大化のカギとなります。

年間50万円の差が生まれるケースも

中小企業で所得800万円以下の場合、法人税の実効税率はおおよそ21~23%程度です。一方、社会保険料は給与の約30%。つまり、税率だけで見れば社会保険料の方が高い構造になっています。

ざっくりした試算ですが、法人の利益をすべて「年720万円の役員報酬」として受け取る場合と、役員報酬を月6万円程度に抑えて残りを配当で受け取る場合とを比較すると、後者の方が年間で約50万円ほど手残りが増える計算になります。社会保険料負担が年々重くなっている現状では、配当をうまく活用することで法人税負担の増加を加味してもトータルの手残りを増やせる可能性が十分にあります。

実行前に押さえておきたい3つの注意点

ただし、このスキームを実行する前に必ず確認しておくべきポイントが3つあります。

1つ目は、将来の厚生年金受給額が減ることです。役員報酬を月6万円程度まで下げると、その分の社会保険料の拠出額が減るため、将来受け取れる厚生年金も少なくなります。ただし現役世代が支払う保険料に対して将来受け取れる年金の投資効率は決して高くないと言われており、その点も踏まえて選択する必要があります。

2つ目は、住宅ローンなどの大型ローンを組む予定がある場合の注意です。役員報酬が低いと、個人の年収が低いと判断され、ローン審査に通りにくくなることがあります。金融機関によっては配当収入を年収に含めて評価しないこともあるため、数年以内にローンを組む予定があるならこのスキームは慎重に検討すべきです。

3つ目は、会社側の「分配可能額」の制約です。配当を出すには、過去の利益の積み上げが必要です。また、株式会社の場合は純資産が300万円を下回っていると配当を出すことができません。設立直後で利益が積み上がっていない会社や債務超過の会社では、そもそもこのスキームを使うことができない点に注意してください。

合同会社なら「300万円の縛り」がない

実は、合同会社の場合はこの「純資産300万円」の制約がありません。定款の定めがあれば比較的自由に配当を出すことができるため、これから法人化を検討する方にとっては、合同会社を選ぶことが一つの有力な選択肢になります。意外と見落とされがちなポイントですが、長期的な節税戦略を考えるなら覚えておいて損はありません。

まとめ

社会保険料の負担が年々重くのしかかる中、役員報酬と配当金のバランスを最適化することは、中小企業経営者にとって極めて有効な節税策となります。配当には法人税の節税効果がない、給与所得控除が使えない、確定申告が必要といったデメリットはあるものの、社会保険料の算定対象外になるメリットは非常に大きく、配当控除と組み合わせることでトータルの手残りを増やせる可能性は十分にあります。

ただし、将来の年金額、住宅ローン審査、分配可能額といった注意点もあるため、自社の状況に合わせて慎重にシミュレーションすることが欠かせません。事業内容を変えることなく、報酬の受け取り方を見直すだけで手取りを増やせる可能性があるこの方法、ぜひ一度ご自身の会社でも検討してみてはいかがでしょうか。

本テーマについては、税理士が動画でさらに詳しく解説しています。具体的なシミュレーション数値や、配当控除の仕組み、合同会社を活用するメリットなどについても踏み込んで説明していますので、より深く理解したい方はぜひ動画も併せてご覧ください。

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