経営者であれば「赤字=経営者失格」という意識が根強いのではないでしょうか。赤字決算と聞くだけで不安を感じるのは自然な反応です。
しかし、その常識を一度脇に置いてみてください。実は赤字というのは、使い方によっては極めて効果的な節税の材料になります。
事実、日本を代表するソフトバンクグループも、過去に巨額の赤字を計上することで税負担を大幅に圧縮し、浮いた資金を次の投資へ回すという戦略をとっていました。
もちろん、単に業績が悪化しての赤字は危険です。しかし、手元の資金(キャッシュ)さえ潤沢であれば、会計上の赤字を恐れる必要はありません。
むしろ、税金を払わずに内部留保を厚くし、将来の黒字と相殺することで、税金の支払いタイミングを調整できるのです。
本記事では、赤字経営が必ずしも倒産に直結しない理由から、赤字を戦略的に活用するメリット、そして過去の黒字を取り戻す制度まで、中小企業経営者が知っておくべき赤字の活用法を解説します。
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赤字=倒産ではない――本当の恐怖は「黒字倒産」にある
会計上の赤字と資金ショートはまったく別の話
多くの経営者が誤解しているポイントですが、会計上の赤字と資金ショート(倒産)はまったく別の次元の話です。
赤字とは、会計期間における収益よりも費用のほうが多い状態を指します。しかし、この費用の中には、現金の支出を伴わない費用が存在します。
その代表格が「減価償却費」です。
例えば、1,000万円の機械を購入して数年にわたって減価償却する場合を考えてみましょう。購入時にお金は出ていきますが、その期の経費になるのは一部だけです。
逆に翌期以降は、お金を一銭も払っていないのに、帳簿上は毎年数百万円の経費が計上され続けます。
つまり、通帳からお金は減っていないのに、決算書上は経費が増えて利益が減る。この「現金の動きと帳簿上の利益のズレ」によって、手元には十分な現金が残っているにもかかわらず、決算書上は赤字になるという現象が起こるのです。
会社が倒産するのは赤字だからではなく、現預金が尽きて支払いができなくなったときです。銀行からの融資や過去の蓄積で手元資金が十分にあれば、たとえ決算書が赤字でも会社は存続できます。
黒字なのに潰れる企業の共通点
逆に最も警戒すべきなのは、帳簿上は黒字なのに倒産してしまう「黒字倒産」です。
羽振りが良さそうだった会社が急に潰れるケースは、この黒字倒産に該当する可能性が高いと言えます。これは赤字経営とは対照的に、売上は立っているのに入金が遅い、あるいは支払いが先行してしまうことで発生します。
現在は掛け取引が一般的であるため、商品を提供してから現金が入るまでに数ヶ月のラグが生じます。売上が計上された時点では利益が出ていても、その代金回収までの間に仕入代金や給与の支払い、借入金の返済期日が来てしまえば、資金は枯渇します。
また、過剰在庫も黒字倒産の要因です。在庫は会計上「資産」として計上されるため、売れ残っていても帳簿上の利益を押し上げます。しかし実際には現金化されなければ、倉庫代がかさむだけの存在です。赤字でも潰れない会社がある一方で、黒字なのに潰れる会社が存在する。その違いはすべて、キャッシュフロー(現金の流れ)が健全かどうかにかかっています。
経営者が見るべきは、表面上の損益計算書の数字だけでなく、実質的なキャッシュの動きなのです。
赤字経営がもたらす3つのメリット
キャッシュさえあれば赤字でも倒産しない。では、それだけでなく赤字を「積極的に活用する」メリットはどこにあるのでしょうか。
財政状態が健全な企業が意図的に赤字を作る場合、次のようなメリットがあります。
| メリット |
内容 |
効果 |
| 支払う税金の抑制 |
益金に対してかかる税金の支払いが免除される |
投資負担の軽減・内部留保の確保 |
| 赤字の最大10年繰越 |
繰越欠損金として翌期以降の黒字と相殺可能 |
将来にわたる継続的な節税 |
| 繰戻還付によるキャッシュ確保 |
前年度に納付した法人税の一部が還付される |
即時の資金確保 |
支払う税金を抑えられる
赤字決算をした場合、帳簿上では会社の益金がない状況になるため、益金に対してかかる税金の支払いは免除となります。ただし、すべての税金がゼロになるわけではない点に注意が必要です。
法人住民税については、法人税の金額から算出される「法人税割」の部分は0円になりますが、会社の資本金額などに応じて定められている「均等割」の部分は赤字でも支払い義務があります。均等割は最低でも年間7万円の負担となります。
とはいえ、利益が出ている年に数千万円の税金を支払うのと比較すれば、負担は大幅に軽減されます。特に、大規模な設備投資を行った年度に、減価償却費や特例税制を活用して大きく赤字を出せば、投資の負担を税金の減少によって軽減することが可能です。
赤字を最大10年繰越できる「繰越欠損金」制度
法人が出した赤字は、無駄になって消えるわけではありません。確定申告をすることで、その赤字を翌期以降に繰り越し、最大で10年間保存することができます。
例えば、今期1,000万円の赤字を出したとします。翌期に300万円の黒字が出た場合、通常であればその300万円に税金がかかります。
しかし、前年の繰越欠損金1,000万円から300万円分を使って相殺すれば、翌期の課税所得はゼロとなり、法人税はかかりません。残りの700万円の赤字はさらにその翌年以降に持ち越せます。
この仕組みを繰り返すことで、一度出した大きな赤字を活用して、向こう数年から最大10年間にわたって税金を継続的に抑えることが可能になるのです。
赤字は、いわば将来の税金を減らすためのクーポン券のようなものだと言えるでしょう。
なお、大企業の場合は繰越控除の限度額がその年度の所得の50%までに制限されています。一方で、中小企業にはそうした限度額が設けられていないため、利益のすべてを欠損金と相殺することが可能です。
ソフトバンクが活用した巨額赤字スキームの実例
この繰越欠損金の仕組みを大規模に活用した事例として、ソフトバンクグループのケースが知られています。
同社は2016年にイギリスのアーム社を約3.3兆円で買収しました。その後、2018年にグループ内でアーム社の子会社の株式譲渡や現物出資による親会社の移管などを実施し、約2兆円の欠損金を生み出したとされています。
これはあくまでグループ内での資本取引であったため、全体で見れば実質的な損失は発生しておらず、帳簿上で2兆円の欠損金が計上されたという構図です。
当時の税法では、欠損金の計上自体を否認することは困難であり、国税当局は期ズレ程度の指摘にとどまりました。しかし、この事例を受けて2020年の税制改正では同様のスキームを規制する措置が導入されています。この改正で設けられた特例は「ソフトバンク税制」と呼ばれ、税務の世界では広く知られる存在となりました。
繰戻還付で「今すぐ現金」を取り戻す
繰戻還付の仕組み
繰越控除が赤字を将来に繰り越す制度であるのに対し、「欠損金の繰戻還付」は赤字を過去にぶつける制度です。前年度が黒字で税金を納付しており、かつ今年度が赤字であった場合、その赤字分を前年度の黒字と相殺して、前年に納めた法人税の一部について還付を受けることができます。
繰越控除のように最大10年間使えるわけではなく、前年の利益としか相殺できません。しかし、実際に税務署から現金が戻ってくるため、キャッシュを即座に確保できるという大きなメリットがあります。
ただし、この制度で還付を受けられるのは法人税のみです。地方税や消費税は対象外であるため、その点は留意してください。
繰戻還付の計算例
繰戻還付で戻ってくる金額は、以下の計算式で求められます。
還付金額 = 前年度の法人税額 × 当年度の欠損金額 ÷ 前年度の所得金額
例えば、前年度が1,000万円の黒字で法人税が約300万円だったとします。そのうえで今年度に500万円の赤字が出た場合、計算は次のようになります。
300万円 × 500万円 ÷ 1,000万円 = 150万円
この場合、約150万円の還付を受けることができます。資金繰りが厳しい局面であれば、この150万円のキャッシュは非常に大きな意味を持ちます。
繰越控除と繰戻還付、どちらを選ぶべきか
この2つの制度は併用することができません。どちらか一方を選択する必要があります。
判断基準となるのは、翌期以降の業績見通しと手元の資金繰りです。
今回の赤字が一時的なもので、翌期からV字回復して大きな黒字が見込める場合は、繰越控除を選ぶメリットがあります。将来の黒字を消すことで、トータルの節税効果が高くなるためです。
一方で、翌期以降の業績が読めない場合や、今すぐ現金が必要な局面では、迷わず繰戻還付を選ぶべきです。繰越控除はあくまで将来黒字が出ることが前提の制度であり、翌期以降も赤字が続けば活用するチャンスはなかなか訪れません。
確実にキャッシュを確保できる繰戻還付は、経営の安全性を高めるうえでも有効な選択肢です。
銀行評価を下げない「戦略的赤字」の説明術
赤字のメリットを理解したとしても、銀行の目は気になるところです。赤字決算書を提出すれば、担当者の表情が曇るのは容易に想像できます。
確かに銀行は返済能力を重視するため、赤字はマイナス評価の要因になります。特に創業間もない時期の連続赤字は、融資審査において非常に厳しく見られます。
しかし、すべての赤字が融資NGに直結するわけではありません。重要なのは、赤字の理由を明確に説明できるかどうかです。
銀行員が嫌うのは、売上不振やコスト管理の甘さによる赤字です。これは経営の根本的な問題を示唆するものであり、返済能力への不安に直結します。
一方で、「将来の売上拡大のためにあえて広告費を投下した」「特別償却を使って節税した結果の赤字」であれば、話はまったく変わります。「失敗した赤字」ではなく「狙った赤字」であるとアピールできれば、銀行の評価は大きく異なるのです。
本業の儲けを示す営業利益や経常利益がプラスであれば、最終的な当期純利益が赤字であっても、銀行は戦略的な赤字とみなしてくれるケースが多くあります。
一時的な赤字であること、キャッシュフローに問題がないこと、自己資本比率などの財務健全性が保たれていること。これらの条件が揃っていれば、融資への影響は限定的です。
ただし、何年も続く構造的な赤字は「貸し剥がし」にあう可能性もあるため、赤字の期間や規模については慎重にコントロールする必要があります。
まとめ
赤字は必ずしも経営の失敗を意味しません。キャッシュフローが健全であることを前提に、赤字を戦略的に活用すれば、税負担を大幅に圧縮し、浮いた資金を成長投資に回すことが可能です。
会計上の赤字と資金ショートはまったく別の問題であり、本当に警戒すべきは黒字倒産です。赤字決算によって益金に対する税金の支払いを抑えられるほか、繰越欠損金制度を使えば最大10年間にわたって将来の黒字と相殺できます。
さらに、前年度に納めた法人税の還付を受けられる繰戻還付制度は、即座のキャッシュ確保に有効です。
そして、銀行に対しては赤字の理由を明確に説明できる体制を整えておくことで、融資への悪影響を最小限に抑えることができます。
重要なのは、赤字を「恐れるもの」ではなく「コントロールするもの」として捉える視点です。戦略的な赤字活用は、資産防衛の有力な手段の一つとなるでしょう。
本記事で取り上げた赤字活用の考え方や繰越欠損金・繰戻還付の仕組みについては、元動画にて税理士がより詳しく、具体的な事例を交えてわかりやすく解説しています。より深く理解したい方は、ぜひ動画もあわせてご覧ください。