昨今、人手不足が深刻化する中で、従業員の福利厚生を充実させつつ、会社としてのコスト負担をいかに抑えるかが経営者の大きな課題となっています。また、社長自身も「将来に向けた退職金準備」と「現在の税負担・社会保険料負担の軽減」を両立させたいと考えるのは自然なことです。
そうした中、企業と従業員の双方に絶大なメリットをもたらすとして急速に注目を集めているのが、「はぐくみ企業年金(旧称:はぐくみ基金)」です。「名前は聞いたことがあるが、福祉関係の会社しか入れないのでは?」「企業型DC(確定拠出年金)と何が違うのかよくわからない」という声も多く聞かれます。
実は、この制度は福祉業界に限らず幅広い企業が導入可能であり、従業員の手取りを実質的に増やしながら、会社が負担する法定福利費(社会保険料)を年間数百万円単位で削減できる可能性を秘めた、極めて強力なスキームなのです。この記事では、はぐくみ基金の基本的な仕組みから、驚きの節税・社会保険料削減効果、導入時の注意点、そして企業型DCとの使い分けについて徹底的に解説します。
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はぐくみ企業年金(はぐくみ基金)とは?
「はぐくみ企業年金(以下、はぐくみ基金)」は、2018年に設立された確定給付企業年金(DB)の一種です。元々は「福祉はぐくみ企業年金基金」という名称で、保育や医療・福祉などのエッセンシャルワーカーの待遇改善を目的として設立されました。しかし、2023年にブランドリニューアルが行われ、現在では業種の制限なく、一般の企業も広く加入できるようになっています。
最大の特徴は「選択制」であること
はぐくみ基金の最大の強みは、従業員自身が「現在のお給料の一部を掛金として積み立てるか、これまで通り給与として受け取るか」を自由に選択できる点にあります。
「給与から天引きで積み立てる財形貯蓄と同じでは?」と思われるかもしれませんが、税務上の扱いが根本的に異なります。掛金として積み立てることを選んだ場合、その金額は「給与」とはみなされなくなります。つまり、所得税や住民税、そして社会保険料が引かれる「前」のお金で、将来の退職金や年金を積み立てることができるのです。
加入できる企業の条件
ただし、すべての企業が導入できるわけではありません。主な条件は以下の通りです。
- 厚生年金保険の適用事業所であること。
- 加入対象となる従業員(厚生年金被保険者)が3名以上いること。
- 設立から1年以上経過していること。
- 債務超過ではないこと。
- 個人事業主や、役員のみの企業ではないこと(※「ひとり社長」は加入不可)。
役員や経営者も加入可能ですが、従業員がいない企業では導入できない点に注意が必要です。
はぐくみ基金を導入する3つの強烈なメリット
企業がはぐくみ基金を導入するメリットは、主に以下の3点に集約されます。
メリット①:社会保険料と税金の「ダブル削減」
これが最大のメリットです。給与を掛金に回すことで、従業員個人の税金と社会保険料の負担が減ります。例えば、月給30万円の30代従業員が月6万円を積み立てた場合、社会保険料が約9,000円、税金が約5,000円下がり、実質的な手取り価値が向上します。さらに、将来退職金として受け取る際には「退職所得控除」などの強力な税制優遇が受けられるため、給与として受け取るよりも生涯の手取り額が大きくなります。
そして経営者にとって見逃せないのが、「会社が負担する社会保険料(法定福利費)も同時に削減される」という点です。社会保険料は労使折半です。従業員の標準報酬月額が下がれば、会社が負担すべき保険料も同額だけ下がります。加入する従業員が多ければ多いほど、会社全体で年間数十万円から数百万円のコスト削減につながるのです。
メリット②:企業側の追加費用(持ち出し)が少ない
通常、新たな退職金制度を導入しようとすると、会社が新たな原資(掛金)を負担しなければならず、人件費が高騰してしまいます。しかし、はぐくみ基金は「従業員の現在の給与」を原資として振り分ける(選択制)ため、会社が新たに追加で掛金を負担する必要がありません。
メリット③:退職時や「休職時」にも受け取れる流動性の高さ
企業型DCは、原則として60歳になるまで資金を引き出すことができません。そのため、20代や30代の若手社員にとっては「遠い未来の話」となり、加入のモチベーションが上がりにくいという課題があります。一方、はぐくみ基金は、定年退職時はもちろん、自己都合による中途退職時や、産休・育休などの休職時にも、積み立てた資金を退職金・休職一時金として受け取ることができます。この「ライフイベントに合わせて柔軟に現金化できる」という流動性の高さが、若手従業員に非常に高く支持されている理由です。
導入前に知っておくべき注意点とリスク
非常に魅力的な制度ですが、導入にあたっては以下の点に留意する必要があります。
- ランニングコストの発生:導入時の初期費用(約30万円)や、毎月のシステム利用料・事務委託費(加入者1人あたり数百円程度)など、会社側に一定の費用が発生します。社会保険料の削減効果とこれらのコストを天秤にかけ、シミュレーションを行うことが重要です。
- 将来の年金受給額が減少する可能性:掛金として積み立てた分、毎月の厚生年金保険料の納付額が下がるため、将来国から受け取る「老齢厚生年金」の額がわずかに減少します。導入時には、この点も含めて従業員へ丁寧に説明し、理解を得る必要があります。
- 掛金の上限変更(社長・役員向け):以前は月額100万円までという巨大な非課税枠がありましたが、2024年の制度変更により、上限は「月額40万円」かつ「給与月額の20%まで」に引き下げられました。それでも依然として大きな枠ではありますが、以前ほどのインパクトはなくなっています。
企業型DCとの徹底比較:自社にはどちらが最適か?
退職金制度としてよく比較される「企業型DC(企業型確定拠出年金)」とは、どのように使い分けるべきでしょうか。
運用とリスクの違い
- 企業型DC:従業員自身が投資商品(投資信託など)を選んで運用します。リスクを取って高いリターンを狙えるため、「貯蓄から投資へ」というトレンドに合致し、従業員の金融リテラシー向上につながります。
- はぐくみ基金:基金が契約する大手生命保険会社にお任せで運用されます。元本保証に近く極めて安全ですが、資産が大きく増える(運用益が出る)ことは期待できません。
自社に合った制度の選び方
- 【はぐくみ基金が向いている企業】若手社員が多く離職率が一定数ある(流動性を求める)企業、投資の知識がなく元本割れを嫌う従業員が多い企業、そして「現在の社会保険料の削減(手取りアップ)」を最優先したい企業に適しています。
- 【企業型DCが向いている企業】定着率が高く、従業員に長期的な資産形成(投資)を促したい企業。「60歳まで引き出せない」という縛りを、老後資金の確実な確保というポジティブなメリットとして捉えられる組織文化がある場合に適しています。
近年では、基本の退職金制度として企業型DCを導入しつつ、さらなる積み立てニーズや流動性を求める層のために、はぐくみ基金も併せて導入する「ハイブリッド型(いいとこ取り)」を採用する企業も増えています。ただし、併用する場合は制度設計が複雑になるため、専門家のサポートが不可欠です。
まとめ
はぐくみ基金は、以下の特徴を持つ画期的な退職金・節税スキームです。
- 給与天引きではなく、税・社会保険料を計算する「前」に積み立てができる。
- 従業員の手取り価値を高めつつ、会社の社会保険料負担を大幅に削減できる。
- 中途退職や休職時にも引き出せるため、若手社員にも喜ばれる。
単なる福利厚生にとどまらず、会社のキャッシュフローを改善し、社長自身の資産形成にも直結する強力なツールです。自社の従業員構成や経営方針に照らし合わせ、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。より具体的な社会保険料の削減シミュレーションや、企業型DCとの詳細な比較について知りたい方は、ぜひご覧ください。