政策金利の引き上げが続き、企業の資金調達環境は年々厳しさを増しています。仮に1億円の借入がある会社で金利が1%上昇すれば、年間100万円もの追加負担が発生します。変動金利で借り入れをしている企業は、返済額が静かに膨らんでいくリスクを抱えていますし、これから新規に借り入れを検討する経営者にとっても、以前よりも高い金利を前提とした資金計画が求められる時代になりました。
こうした環境下で、銀行融資とは別のルートとして注目したいのが、無担保・無保証人で最大2,000万円まで利用できる公的融資制度「マル経融資」です。ただし、この制度は誰でもすぐに使えるわけではなく、事前準備が必須となります。今回は、中小企業の経営者にぜひ知っておいてほしい「マル経融資」の仕組みと、利用のために絶対にやっておくべきことについて詳しく解説していきます。
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マル経融資(小規模事業者経営改善資金)とはどんな制度か
マル経融資は通称であり、正式名称を「小規模事業者経営改善資金」といいます。商工会議所や商工会が推薦した事業者に対して、日本政策金融公庫が融資を行う制度で、1973年から続く歴史ある仕組みです。
商工会議所が事業者と公庫の間に入ることで、通常の融資とは大きく異なる好条件が実現しています。融資の上限は2,000万円、無担保・無保証人、返済期間は運転資金で7年以内、設備資金で10年以内となっています。
賃上げ特例で金利が実質1.9%に
マル経融資には日本政策金融公庫の「特別利率F」という特殊な金利が採用されており、現在の基準金利は2.4%です。さらに「賃上げ貸付利率特例制度」を活用すれば、給与支給総額が直近の決算と比べて2.5%以上増加する見込みがある場合、融資開始から2年間、金利が0.5%引き下げられます。つまり実質1.9%で借りられるということです。
銀行から中小企業向けに融資を受ける場合、担保や保証人ありでも1~4%程度かかるのが一般的です。無担保・無保証という条件を加味すれば、この1.9%という金利は非常に有利な水準といえます。
賃上げ特例の条件は、従業員の給与を少し上げる予定がある場合や、採用を増やす予定がある場合など、支払う給与の総額が前期比で2.5%以上増える見込みがあればクリアできます。もともと賃上げを検討している会社であれば、意識して申請するだけで要件を満たせるケースも十分にあります。賃上げが経営の負担になると感じている経営者も多いですが、マル経融資の金利引き下げを含めて考えれば、メリットが上回るケースは多いはずです。
| 項目 |
内容 |
| 融資限度額 |
2,000万円 |
| 担保・保証人 |
不要 |
| 返済期間 |
運転資金7年以内/設備資金10年以内 |
| 基準金利 |
特別利率F(2.4%) |
| 賃上げ特例適用時 |
1.9%(2年間) |
| 申込窓口 |
商工会議所・商工会 |
| 融資実行 |
日本政策金融公庫 |
マル経融資を活用する3つの強力なメリット
金利が低くて無担保・無保証というだけでも十分魅力的ですが、マル経融資にはそれ以外にも他の融資にはない独自のメリットがあります。ここでは代表的な3つを紹介します。
(1)公庫の他の融資と別枠で審査される
1つ目のメリットは、日本政策金融公庫の他の融資制度とは完全に独立して審査される点です。公庫にはいくつかの通常融資制度がありますが、マル経融資はこれらとは別枠で扱われます。そのため、過去に公庫の別の融資を断られた方や、すでに公庫から借り入れがある方でも、マル経融資であれば追加で借りられる可能性があります。
これが可能な理由は、申込みの窓口が公庫ではなく商工会議所だからです。マル経融資の流れとしては、まず商工会議所の経営指導員が事業者の状況を確認し、返済可能性を評価したうえで推薦状を発行します。そのお墨付きを持って公庫に申し込む形になるため、公庫からすれば日頃から経営状況を把握している商工会議所が推薦している案件として、直接申し込みとは違う目線で評価してもらえるのです。
実際、公庫の通常融資では通らなかった案件が、マル経融資では通過したという事例もあります。公庫で断られた経験のある経営者にとっては、諦めずに使える貴重な選択肢となります。
(2)メインバンクとの関係が良くなる
2つ目のメリットは、メインバンクとの関係に良い影響が出ることです。マル経融資でお金を貸すのは日本政策金融公庫ですが、公庫は預金口座を持てない金融機関です。そのため、融資されたお金は事業者が指定するメインバンクの口座に入金されます。
つまり、メインバンクからすると、何もしていないのに預金残高が最大2,000万円増えることになります。銀行にとって融資先の預金残高が増えることは、貸し倒れリスクの低下を意味しますし、しかもその資金は公庫が出しているので銀行自身はリスクを取っていません。銀行にとってこれ以上ないほど好都合な状況なのです。
その結果、将来の融資相談や金利交渉で有利な立場に立てる可能性が高まります。公庫から2,000万円を借りながら、同時にメインバンクとの関係も改善できるというのは、非常に大きな副次的メリットといえます。
無担保・無保証で経営者保証も原則不要
3つ目は、繰り返しになりますが、無担保・無保証であることです。民間の金融機関では、特に小規模な事業者の場合、経営者個人の連帯保証を求められるケースがまだまだ少なくありません。会社が倒産した際に社長個人も破綻してしまうリスクを抱えることになります。
マル経融資は、この経営者個人の保証が原則不要です。事業のリスクと個人の資産を切り離す「経営者保証の解除」という観点からも、極めて価値の高い融資制度といえます。
マル経融資の利用条件と「6ヶ月の壁」
これだけメリットが揃っているのに、なぜ多くの経営者が利用していないのでしょうか。それは、マル経融資を受けるためにいくつかの条件をクリアする必要があり、特に時間的な制約があるためです。
まず、対象となるのは小規模事業者に限られます。宿泊業・娯楽業以外の商業・サービス業なら従業員が5人以下、製造業など他の業種であれば20人以下という規模制限があります。加えて、商工会議所の管轄地区内で1年以上事業を行っていること、税金をきちんと納めていることも条件です。税金の滞納がある場合は、申し込み自体ができませんので、まずはそちらを解消する必要があります。
最大のハードルは「6ヶ月の経営指導」
最大のハードルとなるのが、商工会議所の経営指導を原則6ヶ月以上受けていることという要件です。多くの経営者がここでつまずいてしまいます。
とはいえ、経営指導と聞くと堅苦しく感じるかもしれませんが、実際にはそれほど負担の大きいものではありません。商工会議所の経営指導員や派遣された税理士などの専門家と面談し、現状の経営状況を話したり相談したりするだけでも実績としてカウントされることがほとんどです。
その他にも、商工会議所が主催するセミナーや交流会への参加、補助金の申請サポートを受けながら事業計画書を一緒に作成してもらうといった活動も、経営指導の一環とみなされます。補助金の申請を検討している方であれば、その過程で自然に6ヶ月の要件を満たせるケースも多いでしょう。
ただし、どれだけ手軽であっても、申し込み前に必ず6ヶ月間のコンタクト実績を積み上げておく必要がある点は変わりません。そして、この6ヶ月は申し込みを決めてから短縮できる方法がありません。どんなに急いでも、6ヶ月という時間は絶対に必要になるのです。
なぜ今すぐ商工会議所に入るべきなのか
ここまで読んで気づかれた方も多いと思いますが、マル経融資は「必要になってから動き始めても間に合わない」制度です。資金繰りが切迫しているタイミングで6ヶ月も待つことはできませんし、融資申し込み後の審査期間も考慮すると、実際に資金が手元に届くまでにはさらに時間がかかります。
これは保険と同じような発想です。健康なうちに加入するからこそ意味があり、病気になってから入ろうとしても加入できません。マル経融資も、必要になる前に準備を始めておくことが極めて重要なのです。
商工会議所の年会費は「保険料」と考える
商工会議所の経営指導を受けるためには、まず商工会議所への加入が必要です。年会費は法人で年間1万5千円から3万円程度、個人事業主なら数千円から1万5千円程度が目安となります。
この年会費を負担に感じる方もいるかもしれませんが、最大2,000万円の超有利な融資枠を確保できる「保険」と考えれば、コストパフォーマンスは抜群です。年会費数万円をケチってこの融資枠を手放すのは、非常にもったいない判断といえます。
さらに、商工会議所への加入メリットはマル経融資だけではありません。補助金申請のサポート、経営相談、各種セミナーへのアクセスなど、入っているだけで使えるサービスが数多く用意されています。融資のための加入という視点だけでなく、経営全体のサポート環境として活用すれば、年会費の何倍もの価値を引き出すことが可能です。
補助金の申請も、一人で取り組もうとすると事業計画書の書き方から悩むことになりますが、商工会議所に相談しながら進められれば心強いはずです。そして、そのサポートを受けながら過ごす6ヶ月が、そのままマル経融資の申し込み要件を満たす期間になります。すべてがつながっているのです。
つまり、今すぐ加入して補助金の相談や面談を通じて6ヶ月を消化しながら、いざという時のための融資枠を確保しておく――これが、賢い経営者の動き方といえます。
まとめ
マル経融資は、金利1.9%・無担保・無保証で最大2,000万円まで借りられる、中小企業にとって極めて有利な公的融資制度です。公庫の他の融資と別枠で審査されるため追加借入のチャンスがあり、メインバンクとの関係改善にもつながり、経営者保証も原則不要という三重のメリットがあります。
一方で、利用するためには商工会議所の経営指導を6ヶ月以上受けている必要があり、この期間は短縮できません。資金が必要になってから動き始めても間に合わないため、今のうちに商工会議所に加入し、経営指導の実績を積み上げておくことが重要です。年会費は決して安くはありませんが、最大2,000万円の融資枠を確保できる保険と考えれば、費用対効果は極めて高いといえます。
金利上昇局面が続く今だからこそ、こうした好条件の融資制度を早めに準備しておくことが、企業の資金繰りを守る大きな武器となります。マル経融資に関心を持たれた経営者の方は、まずはお近くの商工会議所に問い合わせるところから始めてみてはいかがでしょうか。
なお、マル経融資の具体的な活用方法や、賃上げ特例の詳細、商工会議所での経営指導の進め方などについては、動画内で税理士がより詳しく解説しています。文章だけでは伝わりきらない実務上のポイントや事例も紹介していますので、ぜひ元動画も併せてご覧ください。