「会社にお金を残す」は最善手ではない?内部留保の罠と“見えない貯金箱”の活用術

「会社を強くするために、利益を出して内部留保を厚くする」これは経営のセオリーとして正しいように聞こえます。しかし、税務と財務のプロの視点から見ると、「ただ漫然と内部留保を積み上げることは、実は非常にコストパフォーマンスの悪い行為」と言わざるを得ません。

なぜなら、会社にお金を残すプロセスそのものに多額の税金というコストがかかり、さらに、貯まったお金が将来の事業承継における「懸案」にもなり得るからです。

本当に賢い経営者は、決算書(貸借対照表)に見える形で現金を積み上げるのではなく、「簿外(貸借対照表の外)」に資産をプールし、必要な時にだけ引き出せる仕組みを作っています。この記事では、内部留保に潜む「見えないコスト」を明らかにし、税金を払う前の利益を「簿外資産」として温存する戦略的意義と、その具体的な実践法について解説します。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

1.内部留保は「高コスト」な貯蓄である

まず、会社にお金を残すことの「コスト」について考えてみましょう。内部留保(利益剰余金)とは、あくまで「法人税等を支払った残り」です。

「1億円残す」ために必要な本当の稼ぎ

例えば、会社に現金1億円を内部留保として残したいとします。法人実効税率を約30%~34%と仮定すると、税引後に1億円を残すためには、税引前利益で約1億5,000万円を稼ぎ出す必要があります。つまり、5,000万円ものキャッシュを税金として支払って初めて、1億円を貯金できるのです。「現金を会社に置いておく」というただそれだけのために、約30%以上の手数料(税金)を払い続けているようなものです。非常に効率が悪いと言えます。

積み上がった内部留保は「事業承継」の足枷になる

さらに問題なのは、苦労して税金を払って貯めた内部留保が、将来、あだとなるケースです。非上場企業の株価は、会社の純資産額(内部留保を含む)に連動して高くなります。内部留保が厚い会社の株価は高騰し、いざ後継者に事業を承継しようとした際、莫大な贈与税や相続税が発生します。「会社を守るために貯めたお金が原因で、税金が払えず会社を存続できない」という本末転倒な事態さえ招きかねません。

2.「簿外資産」=税引前の利益をプールする技術

そこで登場するのが、「簿外資産」という考え方です。これは、税金を支払う前の利益を、損金(経費)として処理しながら、実質的な資産価値として会社の外部に積み立てておく手法です。

課税を先送りし、資金効率を最大化する

簿外資産を作る支出は「経費」扱いとなるため、その分だけ法人税が減ります。つまり、税金として流出するはずだったキャッシュも含めて、資産としてプールできるのです。これが「利益の繰り延べ」の本質です。

例えば、1,000万円の利益が出た場合:

  • 内部留保する場合:約300万円を納税し、手元に残るのは700万円。
  • 簿外資産にする場合:1,000万円全額を資産形成(投資)に回せる。

運用益が出る商品であれば、元本の大きさの差は、将来のリターンに大きな差を生みます。

3.代表的な「見えない貯金箱」の作り方

では、具体的にどのような形で簿外資産を作るのでしょうか。リスク許容度や金額規模に応じて、いくつかの選択肢があります。

①ローリスク・着実型:経営セーフティ共済

まずは基本中の基本、「経営セーフティ共済(倒産防止共済)」です。国が運営する制度で、掛金は全額損金になります。

  • 上限:累計800万円まで
  • 特徴:40ヶ月以上加入で解約返戻金が100%。つまり、元本割れリスクなしで、税金を払わずに800万円をプールできます。
  • 活用:まずはこの枠を埋めることが最優先です。

②ハイリターン・投資型:オペレーティング・リース

数千万円単位の大きな利益が出た場合の選択肢です。航空機や船舶などのリース事業に出資し、減価償却費として巨額の損金を作ります。

  • 特徴:初年度に出資額の70~80%程度を損金算入可能。
  • メリット:リース期間終了後に、出資金が戻ってきます。単なる繰り延べだけでなく、為替差益などのリターンが期待できる場合もあります。

③実業兼務型:トレーラーハウス・太陽光発電

投資としてだけでなく、収益を生む事業資産として保有する方法です。

  • 特徴:トレーラーハウス(4年償却)や特定の太陽光発電設備(即時償却など)は、短期間で全額を経費化できます。
  • メリット:償却後も、賃料や売電収入という「インカムゲイン」を生み出し続けます。

4.成功の鍵は「出口」のタイミング

簿外資産の最大の注意点は、解約や売却をして現金化した際に、「益金(利益)」として計上され、再び課税対象になることです。単に戻すだけでは、税金の支払いを先送りしただけに終わります。

簿外資産を真の資産防衛に繋げるためには、戻ってくる利益(益金)を相殺する「損金」をぶつける「出口戦略」が不可欠です。

最強の出口:「役員退職金」

戻ってきた資金を、社長の「役員退職金」として支給します。退職金は法人側では全額損金になり、受け取る個人側も「退職所得控除」「2分の1課税」という優遇税制により、税負担が極めて低く抑えられます。「法人税を払わずにプールした資金を、個人の資産として低税率で受け取る」という、最も効率的な資金移転が可能になります。

その他の出口:「赤字補填」や「設備投資」

業績が悪化して赤字が出た年に解約すれば、赤字の穴埋め(利益の相殺)になります。また、大規模な修繕や設備投資が必要な年にぶつけることで、投資資金を無税で確保することができます。

まとめ

「内部留保」は、一見すると健全な経営の証に見えますが、税効率の観点からは高コストであり、事業承継時のリスク要因にもなり得ます。対して「簿外資産」は、税引前の資金をフル活用して資産を保全し、必要なタイミングで会社や個人に還元するための、戦略的なツールです。

「ただ税金を払って現金を残す」思考から脱却し、「いつ、何のために資金を使うか(出口)」を見据えて、簿外に資産をプールする。この財務戦略を取り入れることで、会社と社長の手元に残るキャッシュは確実に最大化されます。

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