「小規模企業共済」という言葉を聞いたことはあっても、その具体的なメリットや仕組みを詳しく理解している経営者は意外と少ないのではないでしょうか。「なんとなく節税になりそうだけど、資金が拘束されるのはちょっと…」と、加入を先送りにしている方もいるかもしれません。
しかし、結論から申し上げますと、加入条件を満たしているにもかかわらずこの制度を利用しないのは、非常にもったいない選択です。特に、課税所得が高い経営者ほどその恩恵は大きく、加入するかしないかで、生涯の手取り額に1,000万円以上の差がつくケースも決して珍しくありません。
この記事では、国が用意した最強の節税ツールとも言える「小規模企業共済」について、その驚異的なメリットから、30年間で1,670万円も得をする具体的なシミュレーション、そして絶対に知っておくべきリスクまで、余すところなく徹底解説します。
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小規模企業共済とは?経営者のための「退職金制度」
小規模企業共済は、国(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が運営する、小規模企業の経営者や役員、個人事業主のための退職金制度です。個人事業主が廃業したり、会社役員が退職したりした際に、それまで積み立てた掛金に応じた共済金を受け取ることができます。
厳しい「従業員数の壁」に注意
この制度は、名前の通り「小規模企業」を対象としています。そのため、加入時には従業員数による制限があります。
- 建設業、製造業、運輸業、宿泊業、娯楽業など:常時使用する従業員数が20人以下
- 卸売業、小売業、サービス業(宿泊・娯楽除く)など:常時使用する従業員数が5人以下
この条件は非常に厳格です。しかし、重要なポイントは「加入時に条件を満たしていれば、その後従業員が増えても加入し続けられる」という点です。会社の規模が大きくなってからでは加入できないため、従業員数が少ないうちに加入しておくことが鉄則です。
高所得者ほど有利になる3つの強力なメリット
小規模企業共済が「最強」と言われる所以は、掛金を払う時、持っている時、受け取る時、すべてのフェーズで税制優遇が受けられる点にあります。
メリット1:掛金が「全額所得控除」になる
最大のメリットは、掛金が全額「小規模企業共済等掛金控除」として、個人の所得から差し引かれる点です。掛金は月額1,000円から7万円(500円単位)で設定でき、年間最大84万円を積み立てられます。
日本の所得税は累進課税のため、所得が高い人ほど税率が高くなります。例えば、課税所得が2,000万円(所得税・住民税率あわせて約50%)の経営者が、月7万円(年84万円)を積み立てた場合、年間約42万円もの節税になります。単に老後のために貯金をしているだけなのに、その行為によって税金が安くなる。これこそが、この制度の真骨頂です。仮に30年間加入し続けた場合、総額で約1,281万円もの節税効果(手取り増)が生まれます。
メリット2:受け取り時も「退職所得控除」で税金が激減
節税効果は入り口だけではありません。出口(受け取り時)にも大きな優遇があります。共済金を一括で受け取る場合、税法上の「退職所得」として扱われます。退職所得には、他の所得にはない強力な控除枠が設けられています。
- 退職所得控除:勤続年数が長いほど控除額が増えます。
- 勤続20年以下:40万円×勤続年数
- 勤続20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
- 2分の1課税:控除後の金額をさらに半分にしてから税率を掛けます。
例えば、30年間加入した場合の退職所得控除額は1,500万円です。受け取る共済金が1,500万円以下なら、税金は一切かかりません。仮に3,000万円受け取ったとしても、(3,000万-1,500万)×1/2=750万円に対してのみ課税されるため、税負担は極めて軽くなります。
メリット3:無担保・無保証の「貸付制度」が使える
「長期積み立ては資金が拘束されるのが怖い」という経営者のために、便利な貸付制度が用意されています。納付した掛金の範囲内(7〜9割)で、事業資金を無担保・無保証で借り入れることができます。手続きも迅速で、最短即日での借入も可能です。金利も低く設定されているため、銀行融資を受けるまでのつなぎ資金や、突発的な資金需要に対応する「保険」としての機能も果たします。
30年で1,670万円得する!?驚異のシミュレーション
では、実際にどれくらいお得になるのか、具体的な数字で見てみましょう。
【条件】
- 課税所得:2,000万円(税率約50%と仮定)
- 掛金:月7万円(年84万円)
- 加入期間:30年間
①積立時の節税効果年間84万円の控除により、毎年約42万円の税金が安くなります。
30年間で累計約1,281万円の節税になります。
②受け取り時の受取額30年間積み立てた場合の返戻率は約120%となり、掛金総額2,520万円に対し、受取額(共済金A)は約3,024万円になります。運用益だけで約504万円プラスになっています。
③最終的な手取り効果受取時の税金(退職所得として計算)は、概算で約111万円で済みます。積立時の節税額+運用益-受取時の税金を合計すると、何もしなかった場合に比べて、約1,670万円も手元に残るお金が増える計算になります。これが、国が用意した制度を活用するだけで得られるリターンです。
加入前に知っておくべき4つのリスクと注意点
メリットばかりに目が行きがちですが、当然デメリットも存在します。これらを理解した上で加入することが重要です。
①20年未満の解約は「元本割れ」する
小規模企業共済は、いつでも任意解約が可能ですが、納付期間が240ヶ月(20年)未満で任意解約した場合、受け取れる解約手当金は掛金総額を下回ります(元本割れ)。節税効果を含めればトータルでプラスになることも多いですが、基本的には「20年以上続ける」あるいは「廃業・退職時まで解約しない」という前提で加入すべきです。
②掛金を減額すると運用効率が下がる
途中で掛金を減額することは可能ですが、減額した部分(減口分)については、それ以降運用されず、放置されることになります。その結果、将来受け取る共済金の利回りが低下する可能性があります。無理のない範囲で、かつ最大限のメリットを享受できる金額設定が重要です。
③利回りはそこまで高くない
予定利率は1.0%〜1.5%程度であり、株式投資などの積極的な運用に比べると利回りは控えめです。あくまで「節税効果」と「元本保全性の高さ」を重視する制度であり、ハイリターンを狙うためのものではありません。
④資金拘束のリスク
一度払った掛金は、解約や貸付制度を利用しない限り、自由には使えません。手元の運転資金に余裕がない状態で限度額いっぱいまで積み立てると、資金繰りを圧迫する恐れがあります。
まとめ
小規模企業共済は、小規模な経営者だけに許された特権的な制度です。「掛金全額控除」による毎年の節税と、「退職所得控除」による出口の節税、このダブルの恩恵により、資産形成のスピードは劇的に加速します。
- 従業員数が少ないうちに加入する。
- 無理のない範囲で上限(月7万円)を目指す。
- 20年以上、または退職時まで継続する。
この3点を守れば、将来の自分への大きなプレゼントとなるはずです。まだ加入していない方は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。詳細なシミュレーションや、貸付制度の活用テクニックについても触れていますので、ぜひご覧ください。