「最近、出張のたびにホテル代が高騰していて、経費精算のたびにため息が出る」「社長として、出張中の食事や移動くらいは、もう少し気を使わずに良いものを選びたい」
インバウンド需要の回復や物価高の影響で、ビジネスホテルの価格が高騰しており、出張経費が企業の利益を圧迫する要因となっています。しかし、この「出張費の高騰」という逆境を逆手に取り、社長個人の手取りを増やしながら、会社の節税も同時に実現する「一石二鳥」の方法があることをご存知でしょうか。
それが「出張手当(出張日当)」の活用です。
さらに、このスキームにとって追い風となる出来事があります。2025年4月から施行された「国家公務員の旅費法改正」です。これにより、公務員の出張費の上限額や支給ルールが抜本的に見直されました。これに伴い、民間企業においても「適正な出張手当」の基準が上がり、これまで以上に手元にお金を残しやすくなる可能性が高まっています。
この記事では、出張手当の基本的な仕組みから、最新の改正を反映した適正金額の設定まで、経営者が知っておくべき全ノウハウを徹底解説します。
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出張手当(日当)とは?実費精算との決定的な違い
通常、出張にかかった新幹線代やホテル代は、領収書を会社に提出して、かかった金額ピッタリを精算する「実費精算」が一般的です。これに対し「出張手当(出張日当)」は、出張という行為に対して、あらかじめ社内規定(出張旅費規程)で定められた「一定額」を定額で支給する制度のことです。
なぜ「定額」で支給するのか?その正当性
出張は、普段のオフィスワークとは異なり、早朝の移動や慣れない環境での業務など、肉体的・精神的な負担が伴います。また、出張先では「ペットボトルの飲み物を買う」「コインロッカーを使う」「外食で食費がかさむ」といった、いちいち領収書をもらうのが面倒な細かな出費(諸雑費)が発生しがちです。
出張手当は、こうした「出張に伴う精神的・肉体的疲労への慰労」や「実費精算しきれない諸雑費の補填」という意味合いを持っています。そのため、税務上も「給与」ではなく「実費弁償的な性格を持つ費用」として扱われるのです。
税務上の強力なメリット:「ポケットマネー」が生まれる仕組み
出張手当には、実費精算にはない、経営者にとって極めて強力な税務メリットがあります。
- 会社側のメリット:支給した全額を「旅費交通費」として経費(損金)に計上できます。これにより法人税を圧縮できます。
- 個人側のメリット:ここが最大の特徴です。受け取った手当は給与所得には含まれません。つまり、所得税・住民税・社会保険料が一切かからない「非課税収入」となります。
例えば、規定で「宿泊費2万円」の支給が決まっていたとします。社長が工夫して1万円のビジネスホテルに泊まった場合、会社からは規定通り2万円が支給されます。差額の1万円は会社に返す必要はなく、そのまま社長個人の「非課税のお小遣い」となります。これを積み重ねることで、年間数十万円〜百万円単位の現金を、無税で個人に移転することが可能になるのです。
出張手当導入がもたらす3つの「実利」
①個人の税金・社会保険料を増やさずに手取りアップ
もし、社長の手取りを増やそうとして役員報酬を月10万円上げたとしたらどうなるでしょうか。日本の税制では、所得税・住民税・社会保険料の負担が増加するため、手元に残るお金は約半分近く目減りしてしまいます。
しかし、出張手当として月10万円(年間120万円)を受け取れば、その全額が手取りとなります。「額面年収」を変えずに「可処分所得(実際に使えるお金)」だけを増やすことができる、非常に効率的な資産移転の方法です。
②法人税・消費税のダブル節税効果
出張手当は全額が法人の経費になるため、法人税の節税になります。さらに見逃せないのが「消費税」の節税効果です。役員報酬や給与は、消費税の計算上「不課税(対象外)」取引ですので、いくら払っても消費税は安くなりません。しかし、出張手当は「旅費交通費」として「課税仕入れ」に該当します。つまり、支給した額に含まれる消費税分を、会社が納める消費税から差し引く(仕入税額控除)ことができるのです。法人税と消費税、両方の負担を減らせる点は、経営上大きなメリットです。
③経理処理の効率化とガバナンス強化
実費精算の場合、毎回領収書を一枚一枚チェックし、金額を集計し、承認印を押す…という煩雑な手間がかかります。定額支給を導入すれば、「東京への出張=一律2万円」のように機械的に処理できるようになります。経理担当者の負担が大幅に軽減されるだけでなく、出張旅費規程を整備することで、社内のガバナンス(統制)強化にもつながります。
いくらに設定するのが妥当?2025年改正の影響と適正額
「節税になるなら、1回の出張で10万円支給したい」そう思うかもしれませんが、金額は好き勝手に決めて良いわけではありません。税務上、「社会通念上妥当な金額」を超えると、その超過分は「給与(賞与)」とみなされ、課税対象になってしまいます。
では、いくらなら「妥当」と認められるのでしょうか?実務上、最も強力な根拠となるのが「国家公務員の旅費法」です。「国が公務員に支給している金額と同水準であれば、民間企業が支給しても文句は言われないだろう」という理屈が、税務調査でも通用しやすいからです。
2025年4月の改正ポイント:上限額の大幅見直し
これまで、国家公務員の旅費(内閣総理大臣クラス)は、日当と宿泊費を合わせて約2万6,000円程度が目安とされてきました。しかし、昨今の宿泊費高騰を受け、2025年4月に基準が大幅に見直されました。
【東京都への出張の場合(改正後の目安)】
- 宿泊費(実費精算の上限):内閣総理大臣クラスで約4万円(※地域により異なります)
- 宿泊手当(定額支給):一律1泊につき2,400円程度
これまでの「定額のみ」から、「実費上限+定額手当」という形へシフトしつつ、全体の上限額が引き上げられる方向です。これにより、民間企業の社長クラスであれば、宿泊費の上限をこれまでの基準より数千円〜1万円程度引き上げても、妥当性を主張しやすくなりました。
例えば、これまで「宿泊費・日当込みで2万円」としていた規定を、物価高騰を理由に「2万5,000円〜3万円」程度に見直すことは、十分に合理的と言えるでしょう。ただし、あまりに急激な引き上げや、同業他社・同規模の会社と比較して突出して高い金額設定は税務リスクを高めるため、顧問税理士と相談の上で設定することが重要です。
出張手当導入時の3つの絶対的注意点(税務調査対策)
メリットばかりの出張手当ですが、運用を一歩間違えると「脱税」を疑われるリスクがあります。以下の3点は鉄則として守ってください。
1.支払いは原則「個人立て替え」で行う
これが最大の落とし穴です。「ホテルの支払いを会社の法人カードで行い、さらに出張手当も支給する」これは絶対にNGです。会社が宿泊費の実費を直接負担している(法人カード決済)のに、さらに手当を出すと、その手当は実費弁償ではなく、単なる「給与の上乗せ」とみなされます。出張手当を支給する場合は、ホテル代や交通費は社長個人のクレジットカードや現金で一旦立て替え払いをし、後から規定に基づいて「手当」として精算するフローを徹底してください。
2.「二重計上」をしない
「手当を受け取っているのに、うっかりホテルの領収書も会社の経費精算に出してしまった」これは経費の二重計上(架空経費の計上)となり、税務調査で発覚すれば重加算税などの重いペナルティを受ける可能性があります。「手当でまかなう範囲(宿泊費、交通費、日当)」と「別途経費精算できる範囲(接待交際費など)」を明確に区分し、混同しないように管理する必要があります。
3.「出張報告書」などの証拠を残す
出張手当は「カラ出張(実際には行っていないのに手当を受け取る)」に使われやすいため、税務調査でも厳しくチェックされます。「いつ、どこへ行ったか」だけでは不十分です。
- 出張の日時、行き先
- 訪問相手(会社名・担当者名)
- 用件(商談、視察、会議など)
- 成果や内容の概要
これらを記載した「出張報告書」や「旅費精算書」を必ず作成し、保存してください。特に海外出張や、観光地への出張の場合は、「観光目的ではないか?」と疑われやすいため、現地の写真や商談メモ、パンフレットなどを保管し、事業のための出張であることを客観的に証明できるようにしておくことが重要です。
まとめ
出張手当は、物価高騰の時代において、社長個人の資産形成と会社の財務強化を同時に実現する強力なツールです。2025年の改正というタイミングは、自社の「出張旅費規程」を見直す絶好の機会と言えます。
- 適正な金額設定(公務員基準などを参考に)。
- 個人立て替え払いの徹底。
- 出張報告書による証拠保全。
これらを守り、適正かつ最大限のメリットを享受できる仕組みを構築してみてはいかがでしょうか。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。ここでは紹介しきれなかった注意点についても触れていますので、ぜひ参考にしてください。