確定申告の時期が近づくと、多くの個人事業主の頭をよぎるのが「税務調査」の存在です。
正しく申告していれば過度に恐れる必要はありませんが、確定申告は記入項目が多く、意図せずミスが生じることもあります。では、どこに注意すれば税務調査で指摘されるリスクを下げられるのか。
その答えを知るには、「税務調査の対象になりやすい個人事業主の特徴」を把握することが最も効果的です。
狙われやすいポイントを理解しておけば、そこを意識して申告するだけで、調査リスクを大幅に低減できます。
本記事では、税務調査で注目されやすい個人事業主の特徴を11項目にわたって整理し、それぞれの対策を解説します。
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売上や経費の「不自然な動き」が疑われるケース
税務署がまず注視するのは、申告書上の数字に表れる不自然な変動です。ここでは、売上・経費・所得に関する4つの特徴を取り上げます。
売上が急激に増加している
事業が好調で売上が伸びること自体は喜ばしいことです。
しかし税務調査の観点からは、「売上が急増した=納める税金も急増する」ことを意味します。
税務署は、税負担の増加に対して「過度な節税や不正な経理操作を行っているのではないか」と警戒します。
特に注視されるのが、売上が伸びているにもかかわらず利益(所得)が横ばい、あるいは減少しているケースです。
通常であれば売上の増加に伴って利益も増えるはずなのに、利益が変わらないとなれば、「売上が増えた分、経費を水増しして利益を圧縮したのではないか」と疑われます。
正当な事業投資によって経費が増加した場合であれば問題はありません。
ただし、「なぜ経費が増えたのか」を合理的に説明できる準備が不可欠です。
領収書だけでなく、契約書や投資計画の資料など、根拠となる証拠書類を確実に保管しておきましょう。
経費が急に増えている
売上が増えていないのに経費だけが膨らんでいるケースも、強く疑われるポイントです。
売上が横ばいなのに経費だけ増加するのは、経営として不自然と見なされます。
特にプライベートと混同しやすい科目である交際費や消耗品費は、厳しいチェックの対象になります。
家族との食事代を「接待交際費」に含めていないか、個人的な買い物を「消耗品費」に計上していないか、税務署は入念に確認します。
領収書があるだけでは不十分です。
「誰と、何のために、どのような事業上の必要性があって支出したのか」を記録に残しておくことが、自分自身を守る最大の防御策になります。
所得が生活費に対して不自然に少ない
税務署は事業の数字だけでなく、申告者の生活状況との整合性も確認しています。
たとえば、配偶者と子ども2人を養い、住宅ローンも抱えているにもかかわらず、申告上の年間所得が100万円しかなければ、常識的に考えて生活が成り立ちません。
そうなると、「申告していない別の収入源があるのではないか」「売上を隠しているのではないか」と疑われることになります。
事業の帳簿だけでなく、生活全体を俯瞰して矛盾がないかを確認する視点が重要です。
売上が900万円台で推移している
消費税の課税事業者となる基準は、基準期間の売上が1,000万円を超えることです。
この1,000万円ラインを回避するため、本来は1,000万円を超えているにもかかわらず、売上を翌年に繰り延べたり計上しなかったりして、意図的に900万円台に調整しているのではないか――税務署はそう見ています。
インボイス制度の導入により環境は変化しましたが、依然としてこの1,000万円ラインは重要な指標です。
期ズレの操作が故意と認定されれば、重加算税の対象になる可能性もあるため、十分な注意が必要です。
消費税の還付申告が高確率でチェックされる理由
消費税の還付申告を行っている事業者も、税務調査の対象になりやすい特徴の一つです。
還付申告とは、支払った消費税が預かった消費税を上回った場合に差額を取り戻す手続きですが、これは国庫からお金を持ち出す行為に当たります。
そのため税務署としても、「本当に正しい申告なのか」を慎重に確認する必要があるのです。
近年は不正還付の事案も増えており、監視体制が強化されています。
還付申告を行う場合は、契約書や請求書などの証拠書類を完璧に揃えておくことが不可欠です。
少しでも曖昧な点があれば、実地調査に至る可能性が高いと認識しておくべきでしょう。
事業形態・業種によるリスク
申告書の数字だけでなく、事業の形態や業種そのものが調査対象として注目される場合もあります。
現金商売を行っている
飲食店、美容室、小売店など、現金での取引が中心の事業は税務調査で狙われやすい傾向にあります。
その理由は、現金は足がつきにくいからです。
銀行振込やクレジットカード決済であれば通帳やデータに記録が残りますが、現金取引はそうした記録が自動的には生成されません。
極端に言えば、レジを通さずに現金を受け取ってしまえば、売上除外が容易にできてしまうと見なされるのです。
税務署は調査に先立ち、客を装って店舗を訪れ、客入りや単価をチェックする「内偵調査」を行うこともあります。
申告書上の売上が少ないのに、実際には多くの顧客が来店していることが確認されれば、調査に踏み切る材料となります。
現金商売を営む方は、日々の売上管理表やレジペーパー、現金出納帳などを正確に記帳し、現金の流れを透明にしておくことが極めて重要です。
狙われやすい業種に該当している
国税庁は毎年、「申告漏れが多い業種ランキング」を公表しています。
ここにランクインする業種は、重点的にマークされる傾向があります。
以下は、令和5事務年度(令和6年公表)における申告漏れ所得金額が高い業種の上位です。
| 順位 |
業種 |
| 1 |
経営コンサルタント |
| 2 |
キャバクラ |
| 3 |
システムエンジニア |
| 4 |
ライバー・YouTuber等のコンテンツ配信 |
| 5 |
ブリーダー |
| 6 |
冷暖房設備工事 |
| 7 |
内装工事 |
| 8 |
キャバクラ以外の飲食店 |
| 9 |
畜産農業 |
| 10 |
保険代理店 |
(出典:国税庁公表資料に基づく)
現金商売の業種がランクインしやすいのはもちろんですが、コンサルタントやシステムエンジニアといった業種も上位に入っている点は注目に値します。
これらは仕入れがなく、形のある商品を扱わないため、売上の計上漏れや架空経費の計上が容易だと見られがちです。
また、副業として行っているケースも多く、無申告の割合が高いことも特徴です。
自分が「狙われやすい業種」に該当するのであれば、そのことを自覚したうえで、通常以上に厳密な経理処理と証拠書類の保存を心がける必要があります。
「どうせ見られる」という前提で準備しておくことが、最善の防御策です。
管理体制と過去の履歴が調査リスクを左右する
申告書の数字や業種だけでなく、税務の管理体制や過去の履歴も、税務署が調査対象を選定する際の重要な判断材料となります。
税理士に関与させていない
自分で確定申告を行っている個人事業主は少なくありませんが、税務署からの信頼度という点では、税理士が関与している場合と大きな差があります。
専門家のチェックが入っていない申告書は、単純な計算ミスや税法の解釈間違いが含まれている可能性が高いと見なされます。
また、税務知識の不足から、悪意なく誤った処理をしている可能性も想定されるのです。
一方、税理士の署名がある申告書は、一定の品質が担保されているという「お墨付き」として機能します。
申告内容のミスを防ぐだけでなく、税務調査のリスクそのものを低減する効果が期待できるため、税理士への依頼は検討に値するでしょう。
過去に申告内容を修正している
過去に申告内容の修正を受けたことがある場合、特に「重加算税」を課された履歴がある場合は、税務調査のリスクが大幅に高まります。
重加算税は、隠蔽や仮装などの悪質な不正に対して課されるペナルティです。
この記録があると、税務署は「過去に不正を行った人物」として認識し、数年ごとに調査が入る周期的な調査サイクルに組み込まれるリスクが高くなります。
過去に指摘された箇所が是正されているか、同じ問題が繰り返されていないか、厳しい目で確認されます。
一度の過ちが長期にわたって影響を及ぼし得るため、不正な処理は絶対に避けるべきです。
無申告と第三者からの通報というリスク
最後に取り上げるのは、そもそも申告をしていないケースと、外部からの情報提供によって調査の端緒が生まれるケースです。
そもそも無申告である
「申告しなければ税務署に認識されない」と考えている方が意外に多いのですが、これは大きな誤解です。
税務署は、取引先が提出する支払調書、銀行口座の動き、国税総合管理システム(KSK)のデータなど、多様な情報源から収入のある個人を特定する手段を持っています。
「バレないだろう」と高を括っていると、ある日突然、無申告加算税や延滞税といった重いペナルティを課されることになりかねません。
結局のところ、真面目に申告することが最も損をしない選択です。
第三者からの通報リスクがある
意外に多いのが、第三者からの通報、いわゆる「タレコミ」をきっかけとした税務調査です。
元従業員、取引先、あるいは個人的な関係者などから、「架空の人件費を計上している」「売上を隠している」といった具体的な情報が国税庁の窓口に寄せられた場合、税務署がかなり高い確率で動くことが知られています。
誰かに恨みを買わない経営を心がけることも大切ですが、それ以上に重要なのは「誰に見られても問題のない申告」をしておくことです。
後ろめたいことがなければ、万が一通報があったとしても堂々としていられます。
まとめ
本記事では、税務調査で狙われやすい個人事業主の特徴を11項目にわたって解説しました。
これらに該当するからといって、即座に調査が入るわけではありません。
しかし、リスクが高まるのは事実です。
最も重要なのは、日頃から「いつ誰に見られても説明できる」経理処理を行っておくことです。
領収書を適切に保管する、帳簿を正確につける、支出の目的を記録に残す――こうした当たり前の積み重ねが、最強の防御策となります。
不安を抱えたままビクビクして過ごすよりも、適正な申告を行い、安心して本業に打ち込める環境を整えることが、事業を守るうえで何より大切です。
本記事の内容は、税理士が動画でもわかりやすく解説しています。
具体的な事例を交えながら、それぞれの特徴についてより詳しく説明していますので、ぜひあわせてご覧ください。