「社長という職業にオンとオフの境目はない。24時間365日、常に事業のことを考えているのだから、食事代もすべて経費にしたい」経営者であれば、一度はそう考えたことがあるのではないでしょうか。しかし、飲食費は「プライベートな支出(家事費)」と「事業上の経費(事業費)」の境界線が非常に曖昧であり、税務調査でも調査官が最も目を光らせるポイントの一つです。
「領収書さえあれば経費になる」というのは大きな間違いです。飲食代が経費として認められるか否かは、「誰と」「どこで」「何のために」行ったかという「事業関連性」を客観的に証明できるかどうかにかかっています。正しい知識とロジックを持っていれば、取引先との会食だけでなく、一人でのカフェ代や従業員へのランチ補助、さらにはキャバクラでの接待さえも、堂々と経費として計上できる可能性があります。逆に、ルールを知らずに計上してしまうと、税務調査で「これは社長の個人的な食事ですね」と否認され、追徴課税のリスクを負うことになります。
この記事では、経営者が飲食代を可能な限り経費にするための「3つの区分(交際費、会議費、福利厚生費)」の使い分けと、税務調査で否認されないための鉄則、さらには40年ぶりに改正が予定されている「食事補助」の最新動向について徹底解説します。
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1.飲食代を経費にする「3つの区分」と判断基準
飲食代を経費にするには、その目的や状況に応じて、以下の3つの勘定科目に適切に振り分ける必要があります。それぞれの要件と限度額を正しく理解しましょう。
①交際費(接待交際費):キャバクラもOK?
取引先や事業に関係のある人への「接待、慰安、贈答」を目的とした飲食代です。原則として、資本金1億円以下の中小企業であれば、年間800万円まで(または飲食費の50%まで)全額を損金(経費)にできます。
- 対象となる相手:取引先、仕入先、親会社・子会社の役職員など、事業に関係のある人物です。ここで重要なのは、「事業関連性」です。事業と全く関係のない地元の友人や家族との食事は、いくら「将来仕事につながるかもしれない」と主張しても、経費としては認められません。逆に、友人であっても、同業者であり情報交換を行っている実態があれば、交際費として認められる余地があります。
- 場所の制限:料亭、レストラン、居酒屋だけでなく、キャバクラやクラブなども、接待の実態があれば経費として認められます。「場所が派手だからダメ」ということはありません。あくまで「接待行為」があったかどうかが問われます。
②会議費:交際費枠を温存する裏ワザ
社内・社外を問わず、打ち合わせや会議に伴う飲食代です。交際費には年間800万円という上限枠がありますが、会議費には金額の上限枠がありません(常識的な範囲内であれば)。そのため、可能な限り会議費として処理する方が節税効果は高まります。
- 「1人1万円以下」の特例ルール:本来は「交際費(接待)」に該当するような取引先との飲食であっても、飲食代が「1人あたり1万円以下」であれば、交際費から除外して「会議費」として全額経費に計上できます。これにより、交際費の800万円枠を消費せずに済みます。※かつては「5,000円以下」でしたが、令和6年度の税制改正により「1万円以下」に引き上げられ、使い勝手が大幅に向上しました。
- ひとりカフェ代の境界線:出張先や外出中に、カフェに入って仕事をすることはよくあるでしょう。この場合、コーヒー代などの飲み物代は「場所代(作業スペースの確保)」として会議費にできる可能性が高いです。しかし、同時に注文した「パスタセット」や「ケーキ」などの食事代はどうでしょうか。税務署の見解としては、「食事は生きていくために不可欠な行為であり、仕事に必須ではない」とみなされ、否認されるリスクが高いです。「コーヒーはOKだが、食事はNG」。このラインを覚えておきましょう。ただし、取引先と2人以上で行う「ランチミーティング」であれば、食事代も含めて会議費として認められます。
③福利厚生費:従業員への還元
役員だけでなく、従業員全員を対象とした飲食代です。「特定の社員だけ」を対象にすると、それは福利厚生ではなく「給与(賞与)」とみなされ、所得税の課税対象になってしまうため注意が必要です。
- 残業食事代の落とし穴:残業中の従業員に夜食を提供する場合、会社が弁当を現物支給したり、デリバリー代を直接支払ったりすれば「福利厚生費」になります。しかし、従業員がコンビニで買ってきたレシートを精算して現金を渡す(立替精算)と、「現金の支給=給与」とみなされるリスクがあります。面倒でも、会社が直接支払う形をとるのが安全です。
- 忘年会・新年会:「全従業員に参加する権利がある」ことが条件です。シフトの都合などで欠席者がいたとしても、全員に声をかけていれば福利厚生費として認められます。規模が大きい会社であれば、部署単位や支店単位での開催も認められます。
2.【注目】40年ぶりに変わる?ランチ補助の最新動向
福利厚生費の中でも、特に関心が高いのが「食事補助(ランチ代の支給)」です。現在、社員食堂や弁当の補助を経費(福利厚生費)にするためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 従業員が食事代の半分以上を負担していること。
- 会社負担額が月額3,500円(税抜)以下であること。
この「月額3,500円」という基準は、昭和59年(1984年)に定められて以来、一度も変更されていません。現在の物価水準で考えると、月3,500円(1日あたり約170円)の補助では、おにぎり1個買うのがやっとです。「ルールと実態がかけ離れている」という批判を受け、政府は2025年6月に見直しの方針を示しました。2026年以降、会社が従業員のランチ代をより多く負担し、それを全額経費にすることで、従業員の手取りを増やしつつ法人税を減らすという節税策がより使いやすくなるでしょう。
3.税務調査で否認されないための「鉄壁の防衛策」
飲食代は、税務調査において最も手軽にチェックできる項目であるため、必ずと言っていいほど見られます。ここで調査官と揉めないための最強の防衛策は、「記録(証拠)を残すこと」に尽きます。
領収書の裏書きを徹底する習慣を
領収書をもらったら、記憶が鮮明なうちに、必ずその裏(または会計ソフトの摘要欄)に以下の情報をメモしてください。
- 誰と(相手の氏名・会社名・関係性)
- 何のために(新商品の打ち合わせ、情報交換、商談後の接待など)
- 人数(1人あたり1万円以下の判定に必須)
このメモがあるだけで、税務調査官に対する説得力が段違いに増します。逆に、高額な高級クラブの領収書があるのに、「誰と行ったか覚えていません」と答えてしまうと、調査官は「では、社長が一人で、あるいはプライベートな友人と行ったとみなします」と判断し、経費を否認します。さらに悪質な場合は、重加算税の対象になることもあります。
グレーゾーンは「説明できるか」で判断する
「友人と食事をしたが、仕事の話も少しした」といったグレーゾーンの支出もあるでしょう。この場合、明確に事業関連性を説明できる自信がなければ、経費にしないのが無難です。「これは仕事のために必要だった」と胸を張って言えるものだけを経費にし、その証拠(メモ)を残す。この積み重ねが、結果として会社と社長個人の資産を守ることにつながります。
まとめ
飲食代は、正しく処理すれば、ビジネスを円滑にし、従業員の満足度を高め、さらに節税にもなる「強い味方」です。
- 接待なら「交際費」(1人1万円以下なら「会議費」へ逃がす)
- 打ち合わせなら「会議費」(ひとりカフェは飲み物のみOK)
- 従業員のためなら「福利厚生費」(現金支給はNG)
この3つの引き出しを使い分け、必ず「誰と何のために」の記録を残すこと。これだけで、飲食代を経費にする際の安全性と効果は格段に高まります。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な事例や、ここでは紹介しきれなかった注意点についても触れていますので、ぜひ参考にしてください。