「この経費は認められるだろうか?」日々の経理業務の中で、多くの経営者の方が不安を感じていることでしょう。曖昧な処理や、事業との関連性が薄い支出の計上は、税務調査で指摘を受け、最悪の場合、経費の全額否認や重加算税といった重いペナルティにつながるリスクがあります。
特に近年は、AI(人工知能)の導入により、税務署の調査能力が向上しており、これまで見過ごされていたような細かなミスや不正も見つかりやすくなっています。「知らなかった」では済まされないのが、税金の世界です。
この記事では、長年の実務経験に基づき、税務調査で特に指摘されることが多い、あるいは脱税を疑われやすい11種類の経費について、その境界線と注意点を詳しく解説していきます。
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税務調査で指摘されやすい経費11選
①交際費:私的利用と贈答品に注意
交際費は、接待飲食費や贈答品など多岐にわたる費用が該当するため、税務調査で最も厳しくチェックされる項目の一つです。調査官は、プライベートな支出が混入していないか、また、贈答品が悪用されていないかを重点的に確認します。
特に注意が必要なのは、土日祝日の飲食費や、会社の近所の居酒屋での高額な支出です。これらは、事業に関係のない友人や家族との私的な飲み会であると疑われやすいため、帳簿に記載する際は、相手先の氏名や関係性、接待の目的を具体的に記録しておくことが不可欠です。
また、取引先への贈答品と称して、実際には経営者自身が使うゴルフクラブやブランドバッグを購入したり、金券類を購入して換金・私的流用したりするケースも散見されます。こうした悪質な行為は、発覚すれば重加算税の対象となる可能性が高いです。
②外注費:実質的な「給与」認定に注意
近年、フリーランスや副業人材への業務委託が増加していますが、この「外注費」も税務調査のターゲットになりやすい項目です。税務署が注目するのは、外注先との関係が、実質的に「雇用(給与)」と変わらないのではないかという点です。
外注費として処理すれば、会社は社会保険料の負担がなく、消費税の仕入税額控除も受けられます。しかし、勤務時間や場所が拘束され、指揮命令を受けている実態があれば、それは税務上「給与」とみなされます。給与認定されると、源泉所得税の徴収漏れや消費税の追徴など、多額の税負担が発生します。
また、架空の外注費を計上して裏金を作る手口は、脱税の典型例として厳しくマークされています。
③従業員のランチ代:全額負担はNG
社員のモチベーション向上のためにランチ代を補助したい、と考える経営者も多いでしょう。しかし、これを福利厚生費として経費にするには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- (1)従業員が食事代の半分以上を負担していること
- (2)会社の負担額が、従業員一人あたり月額3,500円(税抜)以下であること
この条件を知らずに全額負担したり、上限額を超えて負担したりすると、その超えた部分は従業員への「給与」として課税対象となり、所得税や住民税が増えてしまう可能性があります。
④人間ドック費用:特定の役員のみはNG
社員の健康管理のための人間ドック費用も、条件次第で福利厚生費として認められます。重要なのは、「全従業員が受診の対象となっていること」です。役員だけ、あるいは特定の従業員だけを対象としている場合は、その人への給与(経済的利益)とみなされます。
また、検診メニューが一般的であることも必要です。宿泊を伴う豪華なプランや、過度なオプション検査などは、福利厚生の範囲を超えていると判断され、経費として認められないリスクがあります。費用は会社が医療機関に直接支払うことも必須条件です。
⑤出張手当・海外視察旅行費用:観光目的の混入
出張手当(日当)や海外視察旅行の費用は、業務上必要なものであれば経費となります。しかし、出張のついでに観光を行ったり、ゴルフを楽しんだりした場合、その費用まで経費に含めることはできません。
特に海外視察の場合、税務署は「本当に仕事だったのか?」を厳しくチェックします。日程表、訪問先での写真、視察レポート、商談の議事録など、業務の実態を証明できる客観的な証拠資料をしっかりと残しておくことが、否認を防ぐための鍵となります。
⑥決算前の仕入れ:在庫計上漏れに注意
決算期末に、利益を圧縮するために商品を大量に仕入れるケースがあります。しかし、税務会計の原則として、仕入れた商品は、販売されて売上が立つまでは経費(売上原価)になりません。期末に残っている商品は「棚卸資産(在庫)」として資産計上しなければなりません。
決算前に大量に仕入れても、それが売れ残っていれば、単に在庫が増えるだけで、当期の利益を減らす効果はありません。在庫の計上漏れは、税務調査で最も指摘されやすい項目の一つです。
⑦修繕費:機能向上の場合は「資本的支出」
オフィスの改修や設備の修理費用は、「修繕費」として一括で経費にできる場合と、「資本的支出」として資産計上し、減価償却しなければならない場合があります。単なる原状回復であれば修繕費ですが、新たな機能を追加したり、耐久性を高めたりして資産価値が向上した場合は、資本的支出となります。
例えば、壊れた給湯器を修理するのは修繕費ですが、より高機能な最新機種に交換した場合は、資本的支出とみなされる可能性があります。この判断は専門的な知識が必要となるため、大規模な修繕を行う際は税理士に相談することをお勧めします。
⑧スーツ代など身だしなみ費用:原則NG
仕事で着るスーツや靴、鞄などの購入費用は、原則として経費にはなりません。これらはプライベートでも使用可能であり、個人の嗜好によって選ばれるものだからです。税務上は、給与所得者が受ける「給与所得控除」の中に、こうした身だしなみ費用も含まれていると考えられています。
例外として、会社のロゴが入った制服や、特定の業務でのみ着用が義務付けられている特殊な衣服などは、経費として認められる可能性がありますが、一般的なスーツを経費にするのは非常にハードルが高いです。
⑨グループ会社間の取引:循環取引と価格操作
複数のグループ会社を持っている場合、その会社間での取引(親子間、兄弟間)も調査の対象となります。特に、売上や利益を操作するために、実態のない取引を繰り返す「循環取引」や、通常の市場価格とかけ離れた金額での取引は、厳しく追及されます。
グループ間であっても、第三者と取引する場合と同様に、契約書を作成し、適正な価格で取引を行う必要があります。利益の付け替えを疑われないよう、取引の合理性を説明できる準備をしておくことが重要です。
⑩高級車の購入費用:事業実態の証明
法人名義で高級車を購入すること自体は問題ありませんが、それが「事業のために必要か」「実際に事業に使われているか」が問われます。特に、高級車を複数台所有している場合や、社長の家族が専用車として使っているような場合は、私的利用とみなされ、経費計上を否認される可能性が高いです。
運転日報などで利用状況を記録し、事業利用の実態を証明できるようにしておくことが、リスク回避に繋がります。
⑪資格の取得費用:業務関連性が必須
役員や従業員の資格取得費用を会社が負担する場合、その資格が「会社の業務に直接必要であること」が要件となります。例えば、運送会社における大型免許や、不動産会社における宅地建物取引士などは認められやすいでしょう。
一方で、医師や弁護士、税理士といった、個人に帰属する独占業務資格の取得費用は、原則として経費にはなりません。これらは個人のキャリア形成のための費用とみなされるためです。業務との関連性を客観的に説明できるかどうかが判断の分かれ目となります。
まとめ
経費として認められるかどうかの境界線は、時に曖昧で、判断に迷うことも少なくありません。しかし、「事業との関連性」と「実態の証明」という2つの原則を押さえておけば、多くのリスクは回避できます。
今回ご紹介した11の項目は、税務調査で特によく見られるポイントです。これらを参考に、日々の経理処理を見直し、曖昧な点は顧問税理士に相談するなどして、健全な節税と資産防衛に努めてください。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な事例やさらに詳しい情報を知りたい場合に、参考にしてください。