経営者であれば、日々の支出のたびに「これは経費になるのか、ならないのか」と頭を悩ませた経験があるはずです。判断を誤れば税務調査で指摘を受け、追徴課税というリスクを負うことになりますし、逆に本来落とせるはずの支出を「なんとなく怖いから」と諦めてしまい、必要以上に税負担を抱え込んでいるケースも少なくありません。
本記事では、経費計上の判断に迷いやすい20のグレーゾーンを取り上げ、それぞれについて「経費になるのか、ならないのか」「認められるための条件は何か」を具体的に整理していきます。基準を明確に押さえることで、攻めるべきところは攻め、守るべきところは守る、適切な経費計上が可能になります。
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経費になるかどうかを分ける基本原則
そもそも、経費になるかどうかを判断する基準はどこにあるのでしょうか。結論から言えば、判断軸は極めてシンプルで、「その支出が売上に繋がるかどうか」「事業との関連性を合理的に説明できるかどうか」の一点に尽きます。
税務調査で問われるのは、「なぜこの支出が事業に必要だったのか」を客観的に説明できるかどうかです。感覚だけで経費計上していると、調査時に一つひとつ根拠を求められた際に立ち往生し、結果として否認されてしまうリスクが高まります。逆に、事業との関連性を第三者にも理解できる形で示せる状態にしておけば、多少グレーな支出であっても認められる余地は十分にあります。
以下に紹介する20の事例も、この「事業関連性を説明できるか」という視点で読み進めていただくと、判断基準がより明確になるはずです。
資産・記録に関わる支出(事例1〜5)
(1)美術品
オフィスに絵画や彫刻を飾っている企業は少なくありませんが、美術品は一定の条件を満たせば経費計上が可能です。具体的には、1点あたり100万円未満で、時間の経過とともに価値が減耗すると考えられるものが対象となります。受付、社長室、応接室など、事業の場で実際に展示・活用していることが前提です。
一方、経営者の趣味で収集し倉庫に保管しているだけのものは認められません。また、減価償却期間は素材によって異なり、金属製の彫刻は15年、絵画や陶磁器など金属以外の素材は8年となっています。
(2)領収書のない費用
ご祝儀やお香典など、そもそも領収書が発行されない支出も存在します。こうしたやむを得ないケースでは、支払いの事実を客観的に証明できる書類があれば経費として認められます。書面の形式は問われませんが、金額・日時・場所・目的・支払先の名前と関係性を記録しておくことが必要です。
実務では出金伝票を作成し、招待状や案内状などにメモ書きを添えて保管しておくのが一般的です。重要なのは、後から第三者が見ても確認できる状態にしておくこと、そして支払った直後に記録する習慣をつけることです。時間が経ってからまとめて作成すると、信憑性が疑われる原因になります。
(3)商品券
取引先への贈答用として商品券やギフト券を利用するケースは多いものの、これは可能な限り避けたい支出です。商品券は金券ショップで容易に換金できるため、贈答目的を装った私的流用を疑われやすい性質があります。どうしても使用する場合は、「誰に・いつ・何の目的で贈ったか」を必ずリスト化して残しておく必要があります。
(4)人間ドック
経営者や従業員の人間ドック費用は、福利厚生費として経費計上が可能です。ただし条件があり、社員全員が受けられる仕組みとして制度化されていることが必要です。社長だけが受診する形になっていると、役員賞与とみなされて経費にできません。全社員を対象とした健康診断制度を整備したうえで、社長もその一員として受診する形にしましょう。
(5)役員だけの観光旅行
役員のみで行う観光旅行は、名目がチームビルディングや連携強化であっても、経費にはできません。この場合は役員賞与とみなされ、所得税の課税対象となります。社員旅行が福利厚生費として認められる前提には「社員全員が等しくサービスを受けられること」があるため、役員に限定した慰安目的の旅行は、特定の人だけへの利益供与と判断されてしまうのです。
経営判断が問われる支出(事例6〜10)
(6)ビジネスクラス
長距離フライトでのビジネスクラス利用は、社会常識から著しく外れた金額でなければ経費として認められます。ポイントは、旅費規程で「社長や役員については新幹線はグリーン車、飛行機はビジネスクラスを利用する」と明確に定めておくことです。これにより、正規運賃を必要経費として計上できます。
(7)同族会社での会社と経営者の取引
日本の会社の約9割は同族会社であり、家族が所有する不動産を会社が借りるといった取引は珍しくありません。ただし、家族所有の土地を相場より著しく高い賃料で借りるなど、法人税を不当に下げる目的の利益操作とみなされる取引は経費として認められないリスクがあります。適正な取引価格を意識するとともに、稟議書や議事録などの証拠書類を整備し、取引の合理性を後から説明できるようにしておくことが重要です。
(8)税金
支払った税金の一部は、租税公課として経費に計上できます。経費計上できる主な税金は以下のとおりです。
| 経費にできる税金 |
経費にできない税金 |
| 事業税 |
法人税 |
| 固定資産税 |
法人住民税 |
| 自動車税 |
所得税 |
| 不動産取得税 |
加算税・延滞税 |
| 登録免許税 |
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| 印紙税 |
|
固定資産税は金額も大きくなりやすいため、確実に経費計上したい項目です。
(9)寄付金
寄付金は経費計上が可能ですが、寄付先の区分によって認められる範囲が大きく変わります。国や地方公共団体への寄付、および国税庁が指定した指定寄付金は全額を損金算入できます。国立大学法人への寄付もここに含まれます。認定NPOや公益財団法人などへの寄付は、通常の寄付金とは別枠で限度額が設けられており、一般の寄付金は資本金と所得金額に基づいて計算された限度額の範囲内でのみ損金算入が可能です。寄付を実行する前に、寄付先の区分を確認しておくことが節税上の重要ポイントとなります。
(10)従業員の出産祝い金
従業員への出産祝い金は、社会通念上相当な範囲であれば福利厚生費として経費計上できます。受け取る従業員側も非課税扱いとなるため、双方にメリットのある制度です。ただし福利厚生費として計上する以上、全社員を対象とした制度として整備しておく必要があります。
福利厚生と業務関連費用(事例11〜15)
昼食代については、条件を満たせば福利厚生費として経費計上が可能です。条件は二つあり、一つは役員や従業員が食事代の50%以上を負担していること、もう一つは会社負担額が月額7,500円以下であることです。従来は月3,500円という現在の物価にそぐわない金額でしたが、2026年の税制改正により4月から月額7,500円に引き上げられました。
例えば食事代15,000円のうち従業員が7,500円を負担し、会社が7,500円を負担するケースでは、会社負担分の7,500円が所得税非課税となります。ただし、これは会社が食事そのものを支給する形でなければならず、社員が外食した費用を後から会社が補填する形は認められません。会社でまとめてお弁当を注文するなどの運用が現実的です。なお、残業時の食事代についてはこの金額条件はなく、会社から支給する形をとれば全額経費計上が可能です。
続いて同業者組合とのゴルフコンペですが、意外にもこれは経費として認められません。「同業者との親睦を深める目的」とみなされ、事業との直接的な関連性が薄いと判断されるためです。取引先との接待ゴルフは接待交際費として計上できますが、同業者仲間内でのコンペは対象外となります。ゴルフを経費化する際は、相手が誰で目的が何かを明確にしておく必要があります。
スポーツ観戦のチケットは、全社員を対象とした形であれば福利厚生費として経費計上できます。金額が常識の範囲内であること、代金の建て替えではなく会社から支給する形をとることが条件です。プロ野球の年間シートやディズニーランドのチケットも同様の考え方で処理できますが、特定の役員だけが利用している実態があると役員賞与とみなされるリスクがあります。
スーツ代については、仕事で毎日着用するものであっても経費計上はできません。スーツやビジネスバッグなどは給与所得控除に含まれるものと考えられているためです。一方でクリーニング代は経費計上が可能で、制服や作業着はもちろん、出張先でのスーツのクリーニング代など業務使用が明確なものは認められやすくなります。プライベートの衣類のクリーニング代を紛れ込ませることは避けてください。
健康・投資・自宅関連の支出(事例16〜20)
予防接種の費用は、会社が福利厚生として負担すれば経費計上が可能です。インフルエンザの予防接種はもちろん、海外出張時に必要となる狂犬病や腸チフスなどのワクチン接種費用も同様に福利厚生費として計上できます。全社員を対象とした制度設計が前提となります。
法人で運用している株式の損失については、売却して確定した損失であれば損金として計上でき、本業の利益と相殺することが可能です。個人の場合、株式譲渡損失は株式の譲渡益とのみ相殺可能で他の所得とは通算できませんが、法人であれば全体で損益計算できるため、この点で法人のほうが融通が利きます。ただし、保有し続けている状態での「含み損」は原則経費にできない点に注意してください。
マッサージ代についても、福利厚生費として経費計上が可能です。柔道整復師のような国家資格者に限定されず、整体師などの民間資格者への支払いや、エステ・ヘッドスパの費用も対象となります。近年は社員の健康維持を目的として、これらを福利厚生に組み込む企業が増えています。特定の人だけが利用する実態にならないよう、全社員を対象とした制度として整備することが条件です。
学費については、経営者の子どもの学費を会社が負担する形は基本的に経費にできません。一方、経営者自身や従業員が業務に必要な資格や知識を習得するための費用は、経費として認められる可能性があります。不動産業の社員が宅建の学校に通う費用や、業務に必要な簿記の資格学校の費用などが典型例です。MBAについては業務との関連性を客観的に説明できるかどうかが問われ、単に「経営を学びたい」というだけでは認められにくいのが実情です。海外事業展開のために英語でのビジネス知識が必要といった、明確な業務上の理由と説明資料を準備しておく必要があります。
自宅兼事務所の敷金・礼金・リフォーム費用については、項目ごとに扱いが異なります。礼金は返還されない性質のため、事業用に使用する割合で按分して経費計上でき、リフォーム費用は修繕費として処理できます。一方、敷金は原状回復のための預け金であり、退去時に戻ってくる性質のものなので経費にはできません。事務所とプライベート空間が同じ場合は、事業用に使用している面積などで按分計算する必要があり、プライベートで使用している部分を経費計上することはできません。
まとめ
経費になるかどうかの判断は、最終的にすべて「事業との関連性を合理的に説明できるかどうか」に集約されます。今回取り上げた20の事例を見ても、同じような支出でも運用の仕方や制度設計次第で経費計上の可否が変わることがおわかりいただけたはずです。
特に福利厚生費として計上する項目は、「全社員を対象とした制度になっているか」がほぼ共通した条件となっています。特定の役員だけが恩恵を受ける形になっていると、役員賞与とみなされて経費計上できないだけでなく、所得税の課税対象となってしまいます。一方で、旅費規程や福利厚生規程などをきちんと整備しておくことで、堂々と経費計上できる支出も数多く存在します。
重要なのは、「なんとなく」で判断せず、支出の根拠と目的を明確にした記録を残すことです。証拠書類の整備と制度設計を丁寧に行うことで、税務調査でも自信を持って対応できる経費計上が実現します。
なお、今回紹介した各項目については、動画内で税理士がより詳細な条件や実務上のポイントを解説しています。個別の判断に迷ったときの参考として、ぜひ動画本編もあわせてご覧ください。