
あなたは、ご自身の会社の全ての株式がきちんと譲渡制限株式になっているか、定款を確認したことはありますでしょうか。
あるいは、全ての株式が議決権制限株式になっていなくて、株式がいろいろなところに分散してしまわないか、頭を悩ませていませんでしょうか。
それとも、投資したお金を回収したい株主や、株主から株式を譲り受けた第三者から、「譲渡を認めろ!」と要求されているでしょうか。
全株式を譲渡制限株式にしておくことは、特に、親族や仲間内といった少人数の親密な間柄の人々で経営している会社にとっては、経営がスムーズにいき、運営コストも抑えることができます。
また、事業承継、つまり経営者の方から後継者の方への株式の引き継ぎをスムーズにするのにも役立ちます。
そして、実際、大部分の中小企業では、全ての株式に譲渡制限が付けられています。
ただし、株主が株式を手放したい、つまり会社への出資をやめて経営から離れたいということになった場合、株主がお金を取り返せる道を確保してあげる必要があります。
また、後継者の方への相続の際にも、思わぬ落とし穴があります。
この記事では、譲渡制限株式のメリットを確認するとともに、3つの落とし穴について分かりやすく説明します。
1.譲渡制限株式の4つのメリットのおさらい
ここで、譲渡制限株式のメリット4つについて整理しておきましょう。
譲渡制限株式とは、自由に他人に売り渡すことができない株式のことです。
もし株主が譲渡制限株式を他人に売り渡そうとするなら、その会社の承認をもらわなければなりません。なお、「承認」を与える権限は社長が持つこともできますし、取締役会(あれば)や株主総会が持つこともできます。
つまり、全ての株式に譲渡制限を付けておけば、社長が気付かないうちに株主のメンバーに見ず知らずの人が入っていたり、株主の力関係(株式を誰が何%持っているか)が変わっていたりするということが起こりにくいのです。
その結果、以下のようなメリットがあります。
- アカの他人による乗っ取りを防げる
- 事業承継の時に後継者に株式を集中しやすくできる
- 当然に認められる「特別扱い」がある
- 定款に定めれば「特別扱い」が認められる事項がある
なお、全ての株式に譲渡制限が付いている会社を「非公開会社」、それ以外の会社を「公開会社」と言います。
以下、全ての株式に譲渡制限を付けるメリットについてお伝えします。
1-1.メリット1|アカの他人による乗っ取りを防げる
まず、乗っ取り防止です。
たとえば、あなたが社長を務めていて、株式の半分を持ち、残りの半分をご家族や創業メンバー等の仲間等に割り振って持たせているとします。もしもある日突然、たとえば「○○エモン」とか名乗る見知らぬ人物が現れ、「他の株主全員から株式を買い取りました。今日から株式の半分は私のものです」と言ってきたら、困りますよね。
そんな時、全ての株式に「譲渡制限」が付いている「非公開会社」であれば、そういうアカの他人に対しては、原則としては、「その譲渡は認めません」と突っぱねることができます。
ただし、譲渡を受けた買主が譲渡について承認を求める時に「私が新たに株主になることを認めないなら、会社が株式を買い取るか、他に買取人を指定するかしなさい!」という主張をしてきた場合はやっかいです。
このような場合の対処法については、後で説明します。
1-2.メリット2|事業承継の時に後継者に株式を集中しやすくできる
全ての株式に譲渡制限を付けておくことは、事業承継にも役に立ちます。具体的には以下の2点です。
- 株式の分散を防いで後継者に株式を集中しやすくできる
- 後継者の相続税等を抑えるため、株式を買い取ってあげやすい
1-2-1.株式の分散を防いで後継者に株式を集中しやすくできる
事業承継、つまり後継者への引き継ぎをする場合、後継者が強い発言力を持てるようにしてあげる必要があります。
発言力の大きさは株式をどれだけ持っているかによります。したがって、後継者に株式を集中しやすくする必要があります。そして、そのためには、株式がよく分からない人の手に渡ってはまずいのです。
株式に譲渡制限を付けておけば、そういった事態を防ぎ、いざとなれば後継者のところに株式を集中しやすくできるのです。
1-2-2.後継者の相続税等を抑えるため、株式を買い取ってあげやすい
後継者を最も苦しめるのは、株式にかかる相続税や贈与税です。
特に、会社の規模が小さければ小さいほど、株式の評価額は高くなってしまう傾向があります。詳しくは「株式の評価方法|株式の相続税対策に役立つ全知識まとめ」をご覧ください。
これに対する有効な方法の一つは、会社が、後継者の株式を、発言力を損ねない限度で買い取ってあげることです。逆に言えば、後継者が株式の一部を会社に売って代金を受け取り、そのお金を相続税・贈与税の納税の資金にできるようにしてあげるということです。
この方法は、全株式に譲渡制限が付いている会社だからこそとれるものです。
どういうことかというと、原則として、会社が特定の株主から株式を買い取ろうとする場合、他の株主は、「それなら俺の株式も一緒に買い取れよ!」と言えることになっています(売主追加請求権)。
しかし、全株式に譲渡制限が付いていれば、相続人からの買い取りの場合に、他の株主の「売主追加請求権」を認めなくてよいのです。
1-3.メリット3|当然に認められる「特別扱い」がある
全ての株式に譲渡制限を付けて「非公開会社」になることで、当然に自動的に「特別扱い」がされる事項があります。
以下の3つです。
- 取締役会を置かなくていいので会社の組織の運営コストが節約できる
- 株主総会の招集期間を短縮できる
- 計算書類の「注記」を簡略化できるので作成の手間が省ける
それぞれについて説明します。
1-3-1.取締役会を置かなくていいので会社の組織の運営コストが節約できる
全ての株式に譲渡制限を付けている場合、取締役会を置く必要がありません。取締役を1人だけにすることもできます。
これは、株式に譲渡制限が付いている会社では、基本的に株主の変動がないので、株主が誰か分かるし第三者が入ってくることもありません。家族や仲間内といった気心の知れた間柄の少数の人が株主であることがほとんどです。
そのため、株主総会が取締役会と同じ役割を果たせばいいということになります。
したがって、取締役会の設置を義務付ける必要がないということになっているのです。
その結果、取締役は1人でもよく、また、取締役会を維持運営する必要もないので、会社の組織を運営するためのコストが節約できます。
1-3-2.株主総会の招集期間を短縮できる
株式会社では、株主総会の招集は総会の2週間前までにしなければならないのが原則です。
しかし、非公開会社であれば、取締役会のある会社なら1週間前までに短縮することができます。
しかも、取締役会を置いていない会社であれば定款でさらに短縮できます。極端な話、直前に招集してもいいのです。
1-3-3.計算書類の「注記」を簡略化できるので作成の手間が軽減される
株式に譲渡制限が付いている場合、計算書類の「注記」を簡略化できます。
以下の19個の注記項目のうち、赤で示した6個の項目だけあれば良いということです。
これによって、計算書類の作成の手間が軽減されます。
(1)継続企業の前提に関する注記
(2)重要な会計方針に係る事項に関する注記
(3)会計方針の変更に関する注記
(4)表示方法の変更に関する注記
(5)会計上の見積もりの変更に関する注記
(6)誤りの訂正に関する注記
(7)貸借対照表等に関する注記
(8)損益計算書に関する注記
(9)株主資本等変動計算書に関する注記
(10)税効果会計に関する注記、
(11)リースにより使用する固定資産に関する注記
(12)金融商品に関する注記
(13)賃貸等不動産に関する注記
(14)持ち分損益等に関する注記
(15)関連当事者との取引に関する注記
(16)1株当たり情報に関する注記
(17)重要な後発事象に関する注記
(18)連結配当規制適用会社に関する注記
(19)その他の注記
1-4.メリット4|定款に定めれば「特別扱い」が認められる
以上はいずれも、株式譲渡制限会社であれば当然に「特別扱い」をするというものでした。
これに対し、事柄によっては、一般論として「特別扱い」を認める必要はないけれども、それぞれの会社の実情に応じて「特別扱い」を認めてあげてもいいんじゃないか?というものもあります。
そのような場合は、定款に定めをおけば、その「特別扱い」が認められます。具体的には次の6つです。
- 定款で株主一人ひとりの株式の内容をばらばらに定められる
- 定款に定めれば株主から株式を相続した人に対し、会社が「株式をよこせ」と言える
- 定款で取締役を株主の中からしか選べないようにできる
- 定款で役員の任期を10年まで設定できる
- 定款に定めれば役員人事を特定の株主だけで決めることができる
- 会計参与を置けば監査役を置かなくてよい(取締役会のある会社のみ)
以下、説明していきます。
1-4-1.定款で株主一人ひとりの権利の内容をばらばらに定められる
多様な人が株主になっていれば、その分だけ、平等・公平に扱わなければならなくなります。
しかし、譲渡制限が付いている場合、株主のメンバーは限られているので、株主ごとに違う扱いをしても文句を言う人はあまり出てきません。
したがって、定款で定めておけば、株主一人ひとりの権利の内容を別々にしてしまうことができます。
1-4-2.定款に定めれば株主から株式を相続した人に対し、会社が「株式をよこせ」と言える
株主が没して、その株式を相続した人が会社に全くノータッチのなじみの薄く、会社にとって好ましくない人物だということが起こりえます。たとえば「ドラ息子」です。
そこで、会社は、定款で予め定めておけば、相続があったことを知った日から1年以内に、その相続人対して株式の売り渡しを請求できます。この手続は、株主総会で、議決権の過半数を持つ株主の出席の上、議決権の2/3以上の多数決で決める必要があります(特別決議)。
相続人はこの売渡請求を拒むことができません。
なお、「1-2-2.後継者から株式を買い取ってあげやすい」でも述べましたが、このように会社が特定の株主から株式を買い取る場合、原則として、他の株主も、「それなら俺の株式も一緒に買い取れよ!」と言えることになっています(売主追加請求権)。しかし、相続人から株式を買い取る場合については、他の株主の売主追加請求権を認めなくてよいのです。
その際の買取資金は、株主への配当に回すことのできる利益(分配可能額)の中から準備しなければなりません。この点については「3-3-1.株式の買取資金は分配可能額の中から用意しなければならない」で改めて詳しく説明します。
また、定款で株式の相続人に対する売渡請求権を定めておくことには、落とし穴もあります。詳しくは、「4.『相続クーデター』にご用心」で説明します。
1-4-3.定款で取締役を株主の中からしか選べないようにできる
取締役になれるのは原則として株主に限られません。これは、会社のためには会社の内外、つまり株主か否かを問わず広く有能な人材が選べるようにした方が都合が良いことが多いからです。
ただ、株式に譲渡制限を付けるような会社は逆に、身内・仲間内(=株主どうし)だけで経営したくて、外部の人間に入ってきてほしくないことが多いでしょう。
そこで、定款で定めておけば、取締役を株主の中からしか選べないようにできるのです。
1-4-4.定款で役員の任期を10年まで設定できる
役員(取締役、監査役、会計参与等)の任期は原則として、取締役は2年以内、監査役は4年以内と決まっています。なぜなら、権力は腐敗するのが世の常だからです。よく政治家の多選が批判されるのと同じ理屈です。
ただ、身内・仲間内で経営している会社だと、むしろ、同じ人がずっと役員を務めた方が有益な場合もあります。
そこで、定款に定めておけば、役員の任期を最長10年まで設定することができます。
1-4-5.定款に定めれば役員人事を特定の株主だけで決めることができる
取締役、監査役等の役員は株主総会で決めることになっています。そして、株主総会の多数決は原則として、参加している株主全員でしなければなりません。
しかし、身内・仲間内で経営している会社だと、たとえば創業メンバーつまり「長老」のような特別な人だけが役員人事を握ることによって、創業の精神を貫くといった考え方もあり得ます。
そこで、役員の人事については、定款で特別に定めておけば、特定の株主だけで決めるということにできます。
1-4-6.会計参与を置けば監査役を置かなくてよい(取締役会のある会社のみ)
「会計参与」という役員はなかなかイメージしにくいかも知れません。
取締役と一緒に計算書類を作成する会計の専門家です。
全株式に譲渡制限が付いている会社では、このような専門家が一緒に書類を作っていれば、間違えるおそれが少ないので、無理に監査役を置く義務を課さなくても良いのではないか、ということなのです。
そこで、定款で定めれば、会計参与を置けば監査役を置かなくていいことにしたのです。
ただし、これが許されるのは取締役会のある会社に限られます。取締役会という合議体と会計参与とが協力して計算書類を作れば、ちゃんとしたものができるだろうということです。
以上、譲渡制限株式のメリットをおさらいしてきました。
ただ、これらのメリットを享受するには、前提として、本当に全株式に譲渡制限が付いているか、確認しておく必要があります。
また、他にも注意が必要なことがあります。
2.落とし穴1|あなたの会社の株式には本当に譲渡制限が付いているか?
ほとんどの中小企業は、上場を志向している場合等は別として、設立時から定款で全株式に譲渡制限を付けています。
しかし、昭和41年以前に創業した会社だと、まれに、譲渡制限が付けられていないことがあります。というのは、昭和25年~昭和41年の間、株式に譲渡制限を付けることが認められていなかったからです。
ここまでお読みになって、「もしかして」と思い当たった方は、すぐに定款を確認してみてください。
そして、もしも全株式に譲渡制限が付いていないならば、急いで定款変更の手続をとってください。
株式に譲渡制限を付けるための定款変更は、株主総会で、議決権を持つ株主の頭数の半数以上かつ議決権の2/3以上の多数決で決める必要があります(特殊決議)。
この条件はきわめて厳しいように見えますが、株主があなたお1人だけであれば簡単にクリアできるし、親族や仲間内でやっている会社でも比較的クリアしやすいのではないかと思います。
3.落とし穴2|株式買取請求権にご用心
ただ、株式に譲渡制限を付ける時には、気を付けなければならないことがあります。
譲渡制限が付いている場合でも、株主が第三者との間で株式を譲渡すること自体は違法でもなんでもありません。
そして、株主は会社に対し、「譲渡を認めろ」と言えます(譲渡承認請求権)。また、同時に、「さもなくば会社が買い取るか、買い取ってくれる人を指定して買い取らせろ」と主張することができます(株式買取請求権)。
株主から株式を譲り受けた人も、会社に対して同様の主張することができます。
なぜこんな強力な権利が認められているかというと、株主が会社に出資したお金を回収する権利を確保しなければならないからです。
この点は重要なことですので、次に少し詳しく説明しておきます。
3-1.株式買取請求権は株主が出資したお金の回収の機会確保のため
株式は、会社にお金等を出資した人が、出資した人(社員)のあかしとして、出資の額に相当する数だけ持つことができるものです。なお、出資されたお金は一部を除いて「資本金」と扱われます。
そして、この資本金は、万が一会社がつぶれてしまった場合には取引先等への支払いや借金の返済に使われることになっています。したがって、取引先・金融機関等が安心して会社と取引できるようにするために、最低限、株主が出資した分のお金(≒資本金)くらいは会社にずっとプールされていなければならないのです。
だから、株主は、会社が続いている間は、原則として、会社に出資したお金等を返してもらえません。ただ、その代わりとして、原則として自由に株式を他に売り渡し、お金を回収できることになっているのです(株式譲渡自由の原則)。
ところが、株式に譲渡制限を付けると、ある意味、出資したお金を回収するのを妨害してしまうことになります。
そこで、株式を譲渡した場合に、譲渡人・譲受人のいずれからも、譲渡承認請求と株式買取請求権という強い権利が認められているのです。
3-2.株式買取請求がされた場合に会社がするべきこと
3-2-1.会社自らが買い取るか、他の買取人を用意しなければならない
会社は、株式の譲渡を認めないのであれば、会社は、株主(または株主から株式を買い取った人)から株式を買い取ってあげるか、あるいは、「指定買取人」を指定してその人に株式を買い取らせなければなりません。「指定買取人」は既存の株主でもいいし、それ以外でも会社から見て「この人なら株式を持たせても大丈夫だろう」という人ならば大丈夫です。
なお、ここで、「会社が株式を買い取ってあげる」ということを聞いて、「あれ?」とお思いになるかもしれません。上でお伝えしたように、株主は、原則として、会社から出資した分を払い戻してもらうことが認められません。それなのにどうして、「会社が株式を買い取る」ということが許されるのか?ということです。
この点については、「買い取り代金が資本金を食ってしまわなければ大丈夫」ということになっています。
後ほど「3-3-1.株式の買取資金は分配可能額の中から用意しなければならない」で改めて説明します。
3-2-2.買取価格の交渉が決裂したら裁判所に決めてもらう
会社が買い取る場合、買取価格をいくらにするかという交渉を行わなければなりません。もし交渉がうまくいかなかった場合、裁判所に買取価格決定の申立てをすることもできます。
この場合、裁判所が合理的な買取価格を定めることになります。
3-2-3.時間稼ぎ・引き延ばしは許されない
なお、もしも会社が返答を引き延ばした場合、一定期間が経てば譲渡を認めたことになってしまいます(みなし承認)。
「みなし承認」になってしまうケースは、主に以下の3つです。他にもありますが、かなり特殊だし些末な話になってしまうので省略します。
- 会社が2週間以内に何の返答もしなかった場合
- 「ダメ」と返答した後40日以内に、「会社が買い取る」との通知をしなかった場合
- 「指定買取人に売れ」と返答した後10日以内に指定買取人が「買い取る」という通知をせず、さらにその後30日以内に会社から「会社が買い取る」という通知をしなかった場合
これらの中で圧倒的に多いのが、一番上に赤で示した「会社が2週間以内に何の返答もしなかった場合」です。
なぜかというと、会社法上、譲渡承認請求は特に定款に定めがない限り、口頭ですればOKということになっているからです。
それが嫌であれば、定款で「譲渡承認請求を行うには、所定の書式による譲渡承認請求書に記名押印して提出しなければならない」などと規定しておくようにしてください。
3-3.株式の買取代金をねん出できなかった場合に、新たな株主の介入を防ぐ方法
3-3-1.株式の買取資金は分配可能額の中から用意しなければならない
会社が株式を株主から買い取る資金については、会社法上、財源の規制が置かれています。買取資金は、株主への配当に回すことのできる利益(分配可能額)の中からねん出しなければなりません。
どういうことかというと、株式会社では、上述のように、会社は、取引先・金融機関等が安心して取引できるようにするために、最低限、株主が出資した分のお金(≒資本金)くらいは会社にずっとプールし続けなければなりません。取引先・金融機関等という社外の人に迷惑をかけてはならない以上、この原則は曲げることができません。
つまり、会社が株主(または株主から株式を買い取った人)から株式を買い取る場合、その代金の支払いのために資本金を食ってしまってはいけないのです。
したがって、会社は、分配可能額がないならば、結局は株式の譲渡の承認を認めざるを得なくなります。
これを防ぐためには、他の株主等を「指定買取人」に指定して、その人に買い取ってもらう方法があります。
それでも対処できないのであれば、株式を譲り受けた人を新たな株主と認めざるをえません。ただし、その場合でも、奥の手として、株主総会での議決権を認めないことにする方法が考えられます。
3-3-2.株式を買い取れなかったら株主総会での議決権を制限する方法もある
株式を買い取れるだけの財源(配当可能な利益)が足りなかった場合、最後の手段があります。
株式の譲受人の株式だけを、「議決権制限株式」(特に「完全無議決権株式」)にして、株主総会での議決権を行使できなくする方法です。
これは、特定の株主の株式のみ、他の株主と違う扱いをするもので、「属人的種類株式」とも呼ばれます。株主総会で、総株主の頭数の半数以上、かつ、総株主の議決権の3/4以上の賛成が必要です(格別決議)。
株式に譲渡制限を付ける最大の目的は、会社にとって好ましくない者が株主になって経営に介入してくるのを防ぐということにあります。「議決権制限株式」にしてしまえば、株主の地位自体は奪えないものの、最低限、経営への介入を防ぐという目的を達することができます。
4.落とし穴3|「相続クーデター」にご用心
4-1.経営者の株式を相続した後継者が会社を追い出されてしまうリスク
「1-4-2.株主から株式を相続した人に対し、会社が『株式をよこせ』と言える」のところでお話ししましたが、全株式に譲渡制限が付いている非公開会社では、株式が相続された場合、定款の定めがあれば、その相続人に対して株式の売り渡しを請求できます。この手続は、株主総会の特別決議、つまり、議決権の過半数を持つ株主の出席の上、議決権の2/3以上の多数決で可能です。
しかし、これには重大な落とし穴があります。
どういうことかというと、定款にこの株式の売渡請求の定めは対象となる株主を選ばないため、極端な話、経営者の後継者に対しても行使できてしまうからです。
たとえば、あなたがお子様を後継者にしたい場合、お子様があなたから株式を相続した時に、他の株主が、お子様に対して売渡請求をするため株主総会を招集してしまう可能性があります。
株主総会の招集は3/100以上の議決権をもっていれば可能です。しかも、請求の相手方になっている株主(相続人)は、売渡請求するか否かの議決に参加できません。
つまり、お子様は、たとえ株式の圧倒的多数を握っていたとしても、自分自身が売渡請求の相手方になっていれば、売渡請求に反対票を投じることができないのです。
その結果、お子様以外の株主だけで特別決議が成立してしまい、後継者であるはずのお子様の株式が取り上げられ、会社から追い出されてしまうということがありえます。
これが「相続クーデター」です。
4-2.相続クーデター問題への対処方法
では、経営者として、後継者の方に確実にバトンタッチするために、上述の「相続クーデター」にはどのように備えておけば良いのでしょうか。
考えられる方法は以下の7つです。
〈定款で売渡請求の定めを置く場合〉
- 株式を持株会社に移行しておく
- 自分以外の株式を「取得条項付株式」にしておく
- 自分以外の株式を「議決権制限株式」にしておく
- 後継者に株主総会での売渡請求権決議を拒否できる「拒否権付種類株式」を発行しておく
- 後継者に対して「遺贈する」という内容の遺言書を残しておく
〈定款で売渡請求の定めを置かない場合〉
- 自分の株式だけ譲渡制限を外しておく(非公開会社でなくなりそもそも定款に売渡請求の定めを置けない)
- 定款に敢えて売渡請求の定めを置かず、問題が起こった時に初めて定めを置く
4-2-1.相続クーデター対策1|株式を持株会社に移行しておく
あなたの会社の株式を持つことを目的とする別会社(持株会社)を作って、あなたの全株式をその持株会社に持たせる方法が考えられます。
こうすれば、持株会社自体には相続が生じませんので、「相続クーデター」は起こりようがありません。
しかし、株式という財産を持株会社に現物出資することになるので、所得税(譲渡所得)がかかってしまいます。
4-2-2.相続クーデター対策2|自分以外の株式を「取得条項付株式」にしておく
自分以外の株式をあらかじめ「取得条項付株式」にしておくという方法があります。
取得条項付株式は、一定の条件がみたされた場合にその株式を全部会社が買い取れるという株式です。これは、株主の理解と同意が得られれば問題ありませんが、得られない場合はやっかいです。
同意が得られかった場合に強制的に実行する方法もありますが、やや複雑なので、改めて別の機会にお伝えします。
4-2-3.相続クーデター対策3|自分以外の株式を「議決権制限株式」にしておく
自分以外の株式をあらかじめ「議決権制限株式」にしておくという方法もあります。
これも、株主の理解と同意が得なければならないのが難点です(同意が得られかった場合に強制的に実行する方法については、改めて別の機会にお伝えします)。
4-3-4.相続クーデター対策4|後継者に株主総会での売渡請求権決議を拒否できる「拒否権付種類株式」を発行しておく
「拒否権付種類株式」は、ある事項について、株主総会の決議が成立してもそれを拒否できるという権利を与えるものです。別名「黄金株」とも呼ばれます。
後継者に株主総会での売渡請求権決議を拒否できる「拒否権付種類株式」を発行しておけば、相続人は売渡請求権の決議自体には参加できませんが、もし可決されてしまったとしても、売渡請求権を拒否することができます。
4-3-5.相続クーデター対策5|後継者に対して『遺贈する』という内容の遺言書を残しておく
「遺贈」とは、遺言によって財産の所有権を渡すもので、相続にあたりません。
したがって、定款に株式の相続人への売渡請求ができることを定めがあっても、その対象になりません。
方法としては、遺言書を残しておき、その中に後継者に対して「相続させる」ではなく「遺贈する」と記載しておくことになります。遺言書は、作成の時点で公証人という公的機関が関与する「公正証書遺言」をおすすめします。
ただし、遺贈の場合、会社の承認手続が必要になります。あらかじめ定款で、「○%以上の株式を有していた者からの遺贈による株式の取得は、会社が承認したものとみなす」といった規定を置いておくと良いでしょう。
4-3-6.相続クーデター対策6|自分の株式だけ譲渡制限を外しておく
あなたの株式だけ譲渡制限を外しておくという方法もあります。こうすれば、公開会社となるので、定款で株式の相続人への売渡請求の定めをおくこと自体ができなくなります。
ただし、公開会社となる結果、非公開会社のメリットが受けられなることがあります。
特に、「1-3.メリット3|当然に認められる『特別扱い』がある」「1-4.メリット4|定款に定めれば『特別扱い』が認められる」でお伝えしたメリットが得られなくなります。
4-3-7.相続クーデター対策7|定款に敢えて売渡請求の定めを置かず、問題が起こった時に初めて定めを置く(後出しジャンケン方式)
「相続クーデター」は、そもそも相続人に対する株式の売渡請求の定めを定款に置かなければ発生しようがありません。そうだとすれば、定款に敢えて売渡請求の定めを置かず、問題が起こりそうになったらその都度定めをおき、解決したらまた定款変更して廃止するということをすれば良いではないか、ということです。
たとえば、ある株主に相続が発生した時に、その株式を相続した相続人との間で株式を買い取る交渉を行い、それが決裂したら定款で相続人に対する株式の売渡請求の定めをおきます。そして、売渡請求を実行して相続人から強制的に株式を買い取ったところで、再び定款で売渡請求の定めを廃止するのです。
つまり、「後出しジャンケン」のようなものです。
まとめ
全ての株式を譲渡制限株式にして「非公開会社」になると、見ず知らずのアカの他人が経営に介入してくるおそれが少なく、乗っ取り防止等に役立ちます。
それ以外にも、会社の組織を運営するためのコストも抑えることができます。
さらに、事業承継をする時に後継者への株式の移動、相続税対策等がスムーズにしやすくなります。
ただし、株主は、株式をどうしても譲渡したければ、会社に対して譲渡承認請求と買取請求をすることができます。そして、買取請求がされた場合、会社は買取資金を配当可能利益の中からねん出するか、それがねん出できなければ他の買取先を用意しなければなりません。そして、そのいずれもできなかった場合は、結果的に株式の譲渡を認めなければならなくなります。その場合、次善の策として、株主総会での議決権を制限する方法もあります。
また、株式を相続した人が好ましくない人物であった場合等に備え、定款で相続人から強制的に株式を買い取るという条項を定めておくことができますが、これが経営者の後継者に対して発動されてしまう「相続クーデター」というやっかいな問題が生じる可能性がありますので、注意が必要です。
なお、昭和41年以前に設立された会社だと、まれに、譲渡制限を付けていない場合がありますので、もしやと心当たりがあれば、確認してみることをおすすめします。