会社の決算期が近づき、予想以上に利益が出そうな場合、経営者の方は効果的な節税策を模索されることでしょう。
オペレーティングリースのような高額な投資は難しいものの、「1,000万円程度の予算で、利益を繰り延べられる良い方法はないか」というニーズは少なくありません。そうした選択肢の一つとして、近年注目を集めているのが「トランクルーム投資」です。
トランクルーム市場は成長を続けており、比較的少額から始められる上に、短期での減価償却による高い節税効果が期待できるという魅力があります。しかし、その一方で、投資である以上はリスクも存在し、特に税務上の取り扱いについては注意すべき重要なポイントがあります。
この記事では、まずトランクルームとは何かという基本から、具体的な投資の仕組み、節税になる理由、その他のメリット、そして投資を成功させるために必ず知っておくべき注意点について、詳しく解説していきます。
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1. トランクルームとは?~2つのタイプとその違い~
一般に「トランクルーム」と呼ばれる収納サービスには、大きく分けて2つのタイプが存在します。
屋外型「コンテナ収納」と屋内型「トランクルーム」
- 屋外型(コンテナ収納): 屋外に設置された貨物用コンテナなどを、収納スペースとして貸し出すタイプです。比較的賃料が安く、広いスペースを確保できるため、バイクやタイヤ、アウトドア用品といった大型のものの保管に適しています。
- 屋内型(トランクルーム): 建物の内部をパーテーションなどで区切り、個別の収納スペースとして貸し出すタイプです。多くの場合、空調やセキュリティが完備されており、温度や湿度に影響されやすい衣類、書籍、趣味のコレクションなどの保管に向いています。都市部を中心に展開されています。
【図表】トランクルームとコンテナ収納の比較

なぜ節税目的なら屋内型「トランクルーム」なのか?
かつて、屋外のコンテナ収納は、そのコンテナが「器具及び備品」として扱われ、法定耐用年数3年という非常に短い期間で減価償却できることから、節税スキームとして注目された時期がありました。
しかし、2020年頃から国税庁は、地面に定着し容易に移動できないコンテナは「建築物」に該当するという見解を強めています。
「建築物」とみなされた場合、耐用年数は大幅に長くなり(場合によっては30年以上)、短期償却による節税効果はほとんど期待できなくなります。
このような税務否認リスクを考慮すると、現在、節税を主目的として投資を検討する場合、対象は屋内型「トランクルーム」の設備投資に絞られるのが一般的です。
2. トランクルーム投資の仕組みと節税効果
市場の成長性と需要背景
トランクルーム市場は、調査会社の発表によると15年連続で拡大を続けており、今後も成長が見込まれています。
その背景には、都心部を中心とした居住スペースの狭小化や、ライフスタイルの多様化による「モノを所有しつつも、居住空間はすっきりとさせたい」というニーズの高まりがあります。成長市場への投資であるという点は、魅力の一つと言えるでしょう。
トランクルーム投資の基本的な仕組み(フランチャイズ運営)
トランクルーム投資は、自分で土地や建物を所有(または賃借)し、その内部をパーテーションなどで区切って収納スペースとして利用者に貸し出し、賃料収入を得るというビジネスモデルです。
運営形態としては、専門の運営会社が展開するフランチャイズに加盟する形が一般的です。
この場合、オーナー(投資家)は初期投資を行いますが、実際の運営(利用者の募集・契約、賃料の集金、清掃、トラブル対応など)はフランチャイズ本部が代行してくれるため、手間をかけずに事業を行うことが可能です。
節税になる理由:減価償却の活用
トランクルーム投資が節税につながる最大の理由は、初期投資にかかる費用の多くを「減価償却費」として、比較的短い期間で損金(経費)に計上できる点にあります。
【図表】初期費用1,000万円プランの損金算入シミュレーション例
仮に、初期投資額1,000万円のトランクルーム投資(フランチャイズ加盟)のプランがあったとします。その費用の内訳と、それぞれの会計・税務上の取り扱いは以下のようなイメージになります。

※償却方法は定率法を仮定。実際の金額は契約内容や会計処理により異なります。
- 各設備の耐用年数: フランチャイズ加盟金(権利金)は繰延資産として5年、可動式の簡易なパーテーションや看板は器具備品として3年、建物に付随する内装設備は10~15年といったように、各資産の耐用年数に応じて減価償却を行います。
- 少額減価償却資産の特例の活用: 鍵の管理装置や監視カメラ、台車、インターネット設備、ウェブサイトのデザイン費など、取得価額が30万円未満の資産については、青色申告を行う中小企業者等であれば、年間合計300万円まで一括で損金に算入できる「少額減価償却資産の特例」を活用できます。
この例では、投資初年度に合計350万円を損金として計上できます。法人実効税率を30%と仮定すると、約105万円(350万円×30%)もの税負担軽減(課税の繰延べ)効果が期待できる計算になります。
3. 節税以外の3つのメリット
トランクルーム投資には、短期償却による節税効果以外にも、以下のようなメリットがあります。
メリット①:約1,000万円から取り組める
航空機などを対象とするオペレーティングリースでは、最低投資額が3,000万円以上となるケースが多いですが、トランクルーム投資は1,000万円程度から始められる案件も多く、比較的少額から取り組むことが可能です。
作りたい損金の額が数百万~1,000万円程度の企業にとって、検討しやすい選択肢となります。
メリット②:駅近や築浅でなくても成立しやすい
一般的な不動産投資(居住用賃貸など)では、駅からの距離や築年数が収益性を大きく左右します。
しかし、トランクルームの主なターゲットは近隣住民であり、必ずしも駅近である必要はありません。また、建物の構造がしっかりしていれば、築年数が古いビルや倉庫の空きフロアなどを活用することもできるため、立地や物件の選択肢が比較的広いと言えます。
メリット③:修繕コストなど追加費用が少ない
居住用の不動産投資では、入居者の退去時に原状回復のためのリフォーム費用が数十万円単位でかかることも珍しくありません。
また、給排水設備などのトラブルも発生しがちです。その点、トランクルームは、利用者が退去する際の原状回復は簡単な清掃程度で済むことが多く、修繕コストはほとんどかかりません。また、騒音などの近隣トラブルも発生しにくいというメリットがあります。
4. トランクルーム投資の注意点
多くのメリットがある一方で、投資である以上、以下のような注意点やリスクも存在します。
注意点①:黒字化までに数年かかる場合がある
トランクルーム事業は、開業後すぐに満室稼働になるわけではなく、地域の認知度が徐々に高まるにつれて、1ヶ月に数部屋ずつ契約が増えていく、といった形でゆっくりと稼働率が上がっていくのが一般的です。
そのため、事業収支が黒字化するまでには、通常2~3年程度の期間がかかると言われています。当初は赤字経営となることを想定しておく必要があります。
ただし、一度稼働率が安定すれば、長期利用者が多いため、経営も安定しやすいという側面もあります。
注意点②:融資が受けにくい傾向
トランクルーム事業は、不動産投資などに比べてまだ歴史が浅く、金融機関にとって担保評価が難しい側面があるため、融資のハードルが高い傾向にありました。
そのため、始めるには1,000万円以上の自己資金(キャッシュ)が必要となるケースが多かったです。しかし、近年では市場の成長性も評価され、一部の金融機関では500万円~1,000万円程度の融資を受けられるケースも出てきています。
注意点③:信頼できる運営会社の選び方
フランチャイズ形式で運営する場合、パートナーとなる運営会社(フランチャイザー)の選定が、事業の成否を大きく左右します。以下の3つのポイントは必ずチェックしましょう。
- (1) 実績の豊富さ: 多くの店舗を出店・運営している会社は、成功する立地の選定ノウハウや、効率的な運営データを豊富に蓄積しています。
- (2) 現実的な事業計画: 提示される事業計画の収支シミュレーションが、現実的な稼働率(例えば、安定期で80%程度)に基づいて作成されているかを確認しましょう。稼働率100%を前提とした甘い計画を提示する業者は注意が必要です。
- (3) インターネット集客力: 現在、トランクルーム利用者の多くはインターネットで物件を探します。そのため、運営会社のウェブサイトが、Googleなどの検索エンジンで「トランクルーム 〇〇(地名)」といったキーワードで検索した際に、上位に表示されるようなSEO対策(検索エンジン最適化)に力を入れているかどうかは、非常に重要なポイントです。
まとめ
屋内型のトランクルーム投資は、1,000万円程度の投資額から、その初期投資の多くを比較的短期で減価償却することで、初年度に大きな損金を作り出すことが期待できる、有効な節税(利益繰延べ)スキームの一つです。
また、成長市場であること、立地条件が比較的緩やかであること、運営の手間が少ないことなども魅力です。
一方で、黒字化までの期間、融資のハードル、そして何よりも信頼できるフランチャイズ運営会社を見極める必要があるといった注意点も存在します。
屋外コンテナ収納とは税務上のリスクが全く異なる点も、正しく理解しておく必要があります。