美容室の倒産が過去最多、その背景にある「三重苦」と生き残り戦略

街を歩けば、コンビニエンスストアよりも多くの美容室が目につく、と言われるほど、日本の美容室市場は飽和状態にあります。その言葉を裏付けるように、2024年度には、美容室の倒産件数が過去最多を記録したという衝撃的なニュースが報じられました。

長年、私たちの生活に彩りを与えてくれた身近な存在である美容室が、なぜこれほどまでに厳しい状況に立たされているのでしょうか。そして、この熾烈な競争環境の中で、着実に顧客を掴み、成長を続けている美容室と、淘汰されていく美容室とでは、一体何が違うのでしょうか。

この記事では、美容室業界が直面している「三重苦」とも言える構造的な問題を解き明かし、その中で成功している店舗が実践している具体的な「差別化戦略」や、これからの時代に求められる新たなビジネスモデルについて、詳しく解説していきます。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

1.美容室の倒産が過去最多、その背景にある「三重苦」

帝国データバンクの調査によれば、2023年度(2023年4月~2024年3月)における美容室の倒産件数は、過去最多を更新しました。この背景には、業界が抱える深刻な「三重苦」が存在します。

苦①:深刻な人手不足と人件費の高騰

まず挙げられるのが、どの業界でも課題となっている「人手不足」です。特に美容業界は、スタイリスト個人の技術や人気に顧客がつく、「人に依存する」ビジネスモデルです。人気スタイリストが一人退職、あるいは独立してしまうと、そのスタイリストを指名していた顧客も一緒にごっそりと離れてしまう、という事態が頻繁に起こります。

そのため、経営者としては、優秀な人材を引き止め、確保するために、給与や待遇を改善せざるを得ません。結果として、人件費は高騰し、経営を圧迫する大きな要因となります。

苦②:原材料費の高騰

シャンプー、トリートメント、カラー剤といった、日々の施術に欠かせない薬剤やヘアケア用品の価格も、世界的な物価上昇の煽りを受け、高騰を続けています。仕入れ価格が15%以上も上昇しているケースも珍しくなく、これもまた、利益を圧迫する直接的な原因となっています。

苦③:過当競争と低価格化の圧力

そして、最も構造的な問題が「過当競争」です。驚くべきことに、日本全国にある美容室の店舗数は、約27万店(令和4年度末時点)にも上ります。これは、全国のコンビニエンスストアの店舗数(約5.6万店)や、歯科診療所の数(約6.7万店)を、はるかに上回る数字です。単純計算すると、国民450人あたりに1店舗の美容室が存在するという、極めて競争の激しい市場なのです。

この過当競争は、必然的に価格競争へと繋がります。新規顧客を獲得するために、多くの店舗がクーポンサイトなどで割引合戦を繰り広げざるを得ません。原材料費や人件費、そして店舗の家賃は上昇し続けているにもかかわらず、サービスの提供価格は上げにくい、むしろ下げざるを得ない。この収益構造の悪化が、多くの美容室を倒産の危機へと追い込んでいるのです。

さらに、コロナ禍を経て、人々のライフスタイルが変化したことも、追い打ちをかけています。外出機会の減少により、美容室へ行く頻度が低下した人や、セルフカットやセルフカラーに慣れてしまった人も増え、市場全体のパイが縮小している可能性も指摘されています。これらの「三重苦」に加え、コロナ禍で受けたゼロゼロ融資の返済が本格化し、資金繰りに行き詰まるケースが急増しているのが、現在の美容室業界の厳しい実情です。

2.厳しい市場で生き残る美容室の「差別化戦略」

では、このような厳しい市場環境の中で、成功している美容室は、どのような取り組みを行っているのでしょうか。その鍵は、単なる「カットが上手い」だけではない、独自の価値を提供する「差別化戦略」にあります。

①物販の強化

カットやカラーといった技術サービス(役務提供)だけでなく、「物販」に力を入れることは、有効な差別化戦略の一つです。プロ仕様のシャンプーやトリートメント、スタイリング剤はもちろんのこと、近年では、リファ製品に代表されるような高機能な美容家電や、ドライヤーなどを積極的に販売し、新たな収益の柱としているサロンが増えています。顧客との信頼関係を基盤に、その人の髪質やライフスタイルに合った商品を提案することで、客単価の向上と、顧客満足度の向上を同時に実現しています。

②付加価値サービスの導入(ネイル、ヘッドスパなど)

「髪を切る」という基本機能だけでなく、顧客の「美」や「癒し」に対する、より幅広いニーズに応える付加価値サービスを導入することも、重要な差別化戦略です。

  • ネイルサロンの併設:ヘアメンテナンスと同時にネイルケアもできるという利便性は、多忙な女性客にとって大きな魅力となります。
  • ヘッドスパの専門性強化:近年、リラクゼーションや頭皮ケアへの関心が高まり、「ヘッドスパ」の需要は急増しています。単なるシャンプーの延長ではなく、個室空間で、専門的な知識と技術を持ったスタッフが施術を行う「専門店」レベルのヘッドスパを提供することで、高い付加価値を生み出しているサロンもあります。「悟空のきもち」に代表されるような、コンセプトや世界観を徹底的に作り込み、極上のリラックス体験を提供することで、予約困難な人気店となっている例もあります。

③新たなビジネスモデルの模索(シェアサロン)

従来の「店舗がスタイリストを雇用する」という形だけでなく、新しいビジネスモデルも登場しています。その一つが「シェアサロン(面貸し)」です。

これは、フリーランスの美容師が、サロン内の1席(1ブース)を時間単位や月単位で借りて、自身の顧客を施術するという働き方です。独立したい美容師にとっては、多額の初期投資をかけて自身の店舗を持つリスクを負うことなく、低コストで事業を開始できるメリットがあります。サロン側にとっても、空いている席を有効活用し、場所代としての安定した収益を得ることができます。個々の美容師が、自身の名前と技術で顧客を集める「個人のブランディング」が、より重要になる時代を象徴するビジネスモデルと言えるでしょう。

3.これからの美容室経営で最も重要なこと

物販の強化、付加価値サービスの提供、新しいビジネスモデルの模索。これらの差別化戦略に共通して言える、これからの美容室経営で最も重要なことがあります。それは、「個人のブランディング」です。

前述の通り、美容室は「人につく」ビジネスです。顧客は「〇〇というお店」に通っているようで、実は「△△さんというスタイリスト」を指名して通っています。この現実を直視し、店として、あるいはスタイリスト個人として、いかに魅力的なブランドを築き、顧客との強い信頼関係を構築できるかが、生き残りの鍵を握ります。

InstagramやTikTokといったSNSを活用し、自身の得意なスタイルや技術、人柄などを発信し、ファンを増やしていく。そして、そのファンが、お店の場所が変わっても、あるいは独立しても、ついてきてくれるような関係性を築く。もはや、店舗の立地や内装の豪華さだけで顧客を惹きつけられる時代ではありません。スタイリスト一人ひとりが、自立した「個人事業主」としての意識を持ち、自身の価値を高めていく努力が求められています。

まとめ

美容室業界は、コンビニエンスストアの4倍以上という店舗数がひしめき合う、極めて厳しい過当競争の時代に突入しています。人手不足、人件費・原材料費の高騰という逆風も重なり、旧来のビジネスモデルのままでは、生き残っていくことすら困難な状況です。

このような時代に勝ち残っていくためには、単に髪を切る技術を磨くだけでなく、

  • 物販や付加価値サービスによる客単価向上
  • シェアサロンなど、時代に合った新しいビジネスモデルの採用
  • SNSなどを活用した、スタイリスト個人のブランディング強化といった、明確な「差別化戦略」が不可欠です。

厳しい環境であることは間違いありませんが、それは裏を返せば、本当に価値のあるサービスを提供できる店舗や個人だけが正当に評価される、健全な市場へと移行していく過程と捉えることもできます。自店の強みは何か、顧客にどのような独自の価値を提供できるのかを深く見つめ直し、変革を恐れずに挑戦し続けること。それが、これからの美容室経営者に求められる姿勢と言えるでしょう。

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