役員報酬の「もらい方」で手取りが変わる?配偶者への所得分散メリットと注意点

会社経営者の方から、「年収はそれなりにあるはずなのに、所得税や住民税、社会保険料の負担が重く、なかなか手取りが増えない」というお悩みを聞くことがあります。確かに、経営者の所得が高くなると税負担は大きくなりがちです。

しかし、役員報酬の「もらい方」を少し工夫するだけで、税金や社会保険料の負担を軽減し、世帯全体の手取り額を増やすことができる可能性があります。

その有効な手段の一つが、配偶者を役員にして報酬を支払うことによる「所得分散」です。この記事では、所得分散の仕組みや具体的な節税効果、実行する上での注意点、そして実務上よく用いられる報酬額の設定について解説します。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

1. 所得分散の基本:配偶者を役員にするメリット

なぜ所得分散で手取りが増えるのか?

日本の所得税は「超過累進課税」という仕組みを採用しており、所得が高くなるほど、より高い税率が課せられます。例えば、課税される所得金額が195万円以下の部分の税率は5%ですが、1,800万円を超え4,000万円以下の部分には40%、4,000万円を超えると最高の45%もの税率がかかります(これに住民税約10%が加わります)。

社長一人が高額な役員報酬を受け取ると、高い税率が適用される部分が大きくなります。そこで、例えば配偶者を役員とし、社長の役員報酬の一部を配偶者への役員報酬として支払うことで、世帯としての所得を分散させます。これにより、それぞれに適用される所得税率が下がり、結果的に世帯全体で納める所得税・住民税の合計額を減らすことができるのです。

役員報酬の性質と業務実態の必要性

配偶者を役員にする場合、単に名前を連ねるだけでなく、実際に役員としての業務(例えば、経理補助、総務、経営に関する相談・助言など)を行っている実態が必要です。役員報酬は、従業員の給与とは異なり、会社から経営を委任されたことに対する対価としての性質を持ちます。そのため、必ずしも毎日出勤する必要はありませんが、その報酬額に見合った業務を行っているという客観的な事実が重要になります。

役員報酬のルール(定期同額給与など)

法人税法上、役員報酬を経費(損金)として認めるためには、厳しいルールがあります。主なものに「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」がありますが、多くの場合「定期同額給与」が用いられます。

これは、原則として事業年度を通じて毎月同額を支給するもので、事業年度開始から3ヶ月以内などの決められた時期以外は、基本的に金額を変更できません。期中で恣意的に報酬額を変更して利益調整することを防ぐためです。配偶者への役員報酬も、このルールに則って設定・支給する必要があります。

2. 所得分散による節税効果のシミュレーション

所得税の超過累進課税とは

前述の通り、所得税は所得が多いほど税率が上がる仕組みです。以下の図のように、所得区分に応じて税率が段階的に高くなっていきます。

(出典:国税庁 所得税の税率)

具体例:1000万円を1人で受け取る場合 vs 2人で分ける場合

仮に、社長の役員報酬が年1,000万円だった場合と、社長が500万円、役員である配偶者が500万円、合計1,000万円を世帯で受け取る場合を比較してみましょう(社会保険料や扶養控除等は簡略化して計算します)。

  • 社長1人で1,000万円受け取る場合:
    • 給与所得控除(195万円)や基礎控除(48万円)などを差し引いた課税所得は約700万円強となり、所得税額はおおよそ100万円程度になります。
  • 社長と配偶者で500万円ずつ受け取る場合:
    • それぞれの課税所得は、給与所得控除(144万円)や基礎控除(48万円)などを引くと約300万円強となり、適用される所得税率は主に10%となります。一人あたりの所得税額は約21万円程度となり、二人合わせても約42万円です。

この簡易計算でも、所得を分散することで世帯全体の所得税負担が約60万円も軽減される可能性があることがわかります。所得が高額になるほど、この分散効果はより大きくなります。

その他のメリット(配偶者の財産形成、リスク対策)

節税効果以外にも、配偶者へ役員報酬を支払うことで、配偶者自身の名義で資産を形成することができます。これは、将来の相続対策になるだけでなく、万が一、会社が倒産するなどの事態に陥った場合に、社長個人の資産とは別に、配偶者名義の財産を確保しておくというリスク分散の効果も期待できます。

3. 配偶者を役員にする際の注意点

配偶者を役員にして所得分散を行う際には、いくつか注意すべき点があります。特に税務調査で問題視されないように、以下の点を押さえておく必要があります。

業務実態の重要性

最も重要なのは、役員報酬に見合うだけの業務を配偶者が実際に行っているか、という「業務実態」です。名目だけで実態が伴わない場合、役員報酬の支払いは否認されるリスクがあります。どのような業務を担当しているのか、具体的に説明できるようにしておく必要があります。

役員報酬額の妥当性

支払う役員報酬の金額が、その業務内容や会社の収益状況、他の従業員の給与水準、同業他社の役員報酬水準などと比較して、社会通念上、不相当に高額でないかも重要なポイントです。税務署はこれらの要素を総合的に勘案して、報酬額の妥当性を判断します。

過去の判例(参考情報)

過去の裁判例の中には、社長の母親(役員)に対して「良き相談相手」という比較的曖昧な役割で支払われた役員報酬について、年180万円程度までなら妥当と判断されたケースもあります。ただし、これはあくまで個別の事案に対する判断であり、全てのケースに当てはまるわけではありません。報酬額の設定にあたっては、具体的な業務内容とのバランスを慎重に検討する必要があります。

4. 実務上おすすめの報酬額設定(月8万円/年96万円)とその理由

では、配偶者への役員報酬はいくらに設定するのが現実的でしょうか。税務リスクを抑えつつ、税・社会保険のメリットも考慮した場合、実務上よく用いられる一つの目安として「月額8万円(年額96万円)」程度の設定があります。その理由としては、以下の点が挙げられます。

  • (1) 所得税が非課税になる可能性: 給与収入には給与所得控除(最低55万円)と基礎控除(合計所得2400万円以下なら48万円)があります。年収が103万円(55万円+48万円)以下であれば、基本的に所得税はかかりません。年収96万円はこの範囲内に収まります。
  • (2) 住民税が非課税になる可能性: 住民税の非課税限度額は自治体によって多少異なりますが、多くの場合、年収100万円程度が一つの目安です。年収96万円であれば、住民税もかからない可能性が高いです。
  • (3) 社会保険の扶養内で済む可能性: 配偶者が社長(被保険者)の社会保険の扶養に入るための収入要件は、一般的に年収130万円未満(または一定条件下で106万円未満)です。年収96万円であれば、この要件を満たし、配偶者自身が社会保険料を負担する必要がなくなります(会社の社会保険料負担も増えません)。
  • (4) 社長本人の配偶者控除: 配偶者の合計所得金額が48万円以下(給与収入のみなら103万円以下)であれば、社長自身が配偶者控除(最大38万円)を受けられます。年収96万円なら、この要件も満たします。
  • (5) 税務リスクの低減: 年間100万円程度の報酬額であれば、業務実態が伴っていれば、不相当に高額であると指摘されるリスクは低いと考えられます。

(補足)源泉徴収について: 原則として、給与月額が8万8千円未満の場合は源泉徴収が不要となるため、月8万円設定は事務負担軽減にもつながります(ただし、定額減税等の制度により取り扱いが変わる可能性もあります)。

5. 「年収の壁」見直し(税制改正)の影響は?

近年、「年収の壁」問題が社会的に注目され、税制や社会保険制度の見直しに関する議論が行われています。例えば、令和7年度(2025年度)税制改正大綱では、子育て世帯等に対する支援策として、特定の条件下で扶養控除等の見直し案が盛り込まれましたが、多くの人に関係する所得税の非課税ライン(いわゆる103万円の壁)や、社会保険の扶養の基準(106万円/130万円の壁)が、現時点で大幅に変更されるという確定情報はありません(2025年4月21日現在)。

したがって、当面の間は、前述した「年収100万円前後」を目安とした報酬設定の考え方は、依然として有効であると考えられます。ただし、今後の法改正の動向には常に注意を払う必要があります。

6. より高額な報酬設定が有利なケース

月8万円(年96万円)は、リスクを抑えつつメリットを得やすい一つの目安ですが、必ずしも最適な金額とは限りません。特に社長自身の役員報酬が高額な場合、配偶者への報酬額をより高く設定した方が、世帯全体での節税効果は大きくなります。

所得分散効果は高所得ほど大きい

例えば、社長一人の役員報酬が1,500万円の場合と、社長900万円・配偶者600万円に分散した場合を比較すると、所得税・住民税の合計負担額の差は、1,000万円を分散したケースよりもさらに大きくなる可能性があります(簡易計算で100万円以上の差が出ることも)。

高額報酬設定の前提

ただし、配偶者に高額な役員報酬を支払う場合は、その金額に見合うだけの重要な業務を担っており、会社への貢献度が明確であることが大前提となります。業務実態が伴わない高額報酬は、税務調査で厳しく指摘されるリスクが高まります。

まとめ

役員報酬を社長一人で受け取るのではなく、業務実態のある配偶者を役員に加え、所得を分散させることは、所得税の超過累進課税の影響を緩和し、世帯全体の手取り額を増やすための有効な手段です。

「月8万円(年96万円)」といった、税金や社会保険の扶養の範囲内に収まる報酬設定は、税務リスクも低く、多くのケースで検討しやすい選択肢となります。一方で、社長自身の所得が高く、かつ配偶者が相応の業務貢献をしている場合には、より高額な報酬を設定することで、さらに大きな節税効果を享受することも可能です。

いずれの場合も、重要なのは「業務実態との整合性」です。配偶者への役員報酬を設定・変更する際には、その金額の妥当性を客観的に説明できるように準備し、不明な点があれば税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な計算例などを知りたい場合に、参考にしてください。

 

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