役員が在籍中でも支給可能?「みなし退職金」の活用メリットと注意点

役員退職金は、経営者の長年にわたる会社への貢献に報いるための重要な報酬であると同時に、法人にとっては損金算入による節税効果、個人にとっては税制優遇された退職所得として受け取れるという、税務上の大きなメリットを持つ制度です。

しかし、通常、役員退職金は役員が会社を完全に退職する際にしか支給できません。そのため、「利益が出たタイミングで退職金を支給して節税したい」「繰延べ型の節税策の出口として退職金を活用したい」と考えても、役員の退職時期とタイミングが合わないという問題がありました。

この問題を解決する可能性を秘めているのが、「みなし退職金」という考え方です。これは、役員が法的には退職していなくても、特定の状況下においては「実質的に退職した」とみなして退職金を支給できるというものです。

この記事では、この「みなし退職金」とはどのようなものか、どのようなメリットがあり、どう活用すべきか、そして利用する上での重要な注意点について解説していきます。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

1. 「みなし退職金」とは?

みなし退職の定義(実質的な退職状態)

みなし退職金とは、その名の通り、「みなし退職」をした役員に対して支給される退職金のことです。「みなし退職」とは、法的な退職手続きは取っていないものの、役員の地位や職務内容、報酬などが大幅に変更され、実質的には退職したのと同様の状態にあると税務上認められる状況を指します。

みなし退職金が認められる基準

どのような場合に「みなし退職」と認められ、退職金の支給が可能になるのでしょうか。法人税法基本通達では、以下のようなケースが例示されています。

  • (1) 常勤役員から非常勤役員へ: 日々会社経営に従事していた常勤役員が、非常勤役員(例えば、週に数回程度しか出社しない顧問など)になった場合。ただし、非常勤になった後も経営上の主要な地位にあると認められる場合は除かれます。
  • (2) 取締役から監査役へ: 会社経営の意思決定に関与する取締役から、経営を監督する立場である監査役になった場合。ただし、監査役になった後も実質的に経営に関与している場合や、会社の株式の多くを保有している場合(オーナー経営者など)は認められない可能性があります。
  • (3) 分掌変更(役職や職務内容の大幅な変更)に伴う報酬減額: 役員の役職(例:代表取締役→取締役会長、平取締役など)や職務内容が大きく変わり、それに伴って役員報酬がおおむね50%以上減少した場合。これは「分掌変更」と呼ばれます。

これらの基準はあくまで例示であり、最も重要なのは「実質的に退職したと認められるかどうか」です。

重要:「実質的な退職」と認められるか?

上記の形式的な基準を満たしていても、税務調査ではその「実態」が厳しく問われます。例えば、代表取締役から平取締役になり、報酬を大幅に減らしたとしても、依然として会社の重要な意思決定に関与していたり、大株主として会社経営に強い影響力を持ち続けていたりする場合は、「実質的な退職」とは認められず、支給した金員は退職金(損金)ではなく、役員賞与(損金不算入)などとして扱われるリスクがあります。

過去には、代表取締役から平取締役になり報酬を3分の1にしたにも関わらず、退職とは認められなかった判例もあります。みなし退職金の支給は、税務調査で否認されやすい論点の一つであることを十分に認識しておく必要があります。

2. みなし退職金の節税メリット

みなし退職金が税務上「退職金」として認められた場合、法人・個人双方に大きな節税メリットがあります。

メリット①:退職所得として税制優遇を受けられる

受け取った役員個人にとって、みなし退職金は「退職所得」として扱われます。退職所得は、給与所得や事業所得など他の所得と比べて、税制面で非常に優遇されています。

  • 分離課税: 他の所得と合算されず、退職所得だけで税額が計算されるため、高い累進税率の影響を受けにくくなります。
  • 退職所得控除: 勤続年数(役員としての在任期間)に応じて計算される大きな控除額が適用されます。例えば、勤続20年超であれば最低でも800万円の控除があります。
  • 2分の1課税: 退職金の額から退職所得控除を差し引いた後の金額を、さらに2分の1にした額が課税対象となります。

これらの優遇措置により、同額の給与所得などを受け取る場合と比較して、所得税・住民税の負担が大幅に軽減されます。

メリット②:社会保険料がかからない

通常の退職金と同様に、みなし退職金は社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)の算定基礎に含まれません。これも、給与や賞与として受け取る場合との大きな違いであり、手取り額を増やす要因となります。

メリット③:法人側で損金算入できる(利益圧縮効果)

支給したみなし退職金は、法人側で損金(経費)として計上することができます。役員退職金は比較的高額になるケースが多いため、多額の利益が出た事業年度に支給することで、課税所得を大きく圧縮し、法人税等の負担を軽減する効果があります。

利益の繰延べ策の出口としての活用

この損金算入効果は、生命保険やオペレーティングリースなどを活用した「利益の繰延べ」策の出口対策としても有効です。繰延べ期間が終了し、保険の解約返戻金やリースの償還金などで大きな利益(益金)が発生するタイミングに合わせてみなし退職金を支給し、利益を相殺することで、法人税の負担を平準化することが可能になります。

3. みなし退職金の適正額と計算方法

不相当に高額な場合は否認リスク

みなし退職金をいくら支給するかは、基本的には会社の任意ですが、税務上「不相当に高額」と判断される部分については、損金算入が認められません。したがって、適正な金額を算定することが重要になります。

一般的な計算方法:「功績倍率法」

役員退職金の適正額を算定する際、実務上よく用いられるのが「功績倍率法」です。 みなし退職金 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

  • 最終報酬月額: 原則として、退職(みなし退職)直前の月額報酬。
  • 役員在任年数: その役職に就いていた年数。
  • 功績倍率: 役員の会社への貢献度を反映する係数で、役職に応じて一般的に以下のような目安があります。
    • 代表取締役:3.0倍程度
    • 専務取締役:2.4倍程度
    • 常務取締役:2.2倍程度
    • 平取締役:1.8倍程度
    • 監査役:1.6倍程度

計算上の注意点と他の考慮事項

功績倍率法は広く用いられていますが、絶対的な基準ではありません。特に、最終報酬月額が業績に比べて不相当に高かった場合などは、この計算式で算出した金額でも高額すぎると判断されるリスクがあります。

そのため、より安全性を高めるためには、同業種・同規模の他社の役員退職金の支給事例と比較検討することが有効です。自社の計算結果が、世間相場から大きくかけ離れていないことを確認することで、税務調査での否認リスクを低減できます。

4. みなし退職金を活用する上での注意点

みなし退職金は有効な節税・資金移動の手段となり得ますが、実行にあたっては以下の点に注意が必要です。

注意点①:税務調査のリスク

前述の通り、みなし退職金は税務調査で重点的にチェックされやすい項目です。特に、オーナー経営者の「みなし退職」については、形式的な要件を満たしていても、「実質的に経営から離れているか」という点が厳しく問われます。

また、支給額の妥当性についても争点となりやすいです。支給を決める際には、議事録の作成、定款や株主総会での退職金支給決議など、法的な手続きを適切に行うとともに、なぜ「みなし退職」と判断したのか、金額算定の根拠は何か、といった点を明確に説明できるよう準備しておくことが不可欠です。

注意点②:支給のためのキャッシュ準備

みなし退職金の支給には、当然ながらまとまった現金が必要です。節税効果があるからといって、会社の資金繰りを圧迫するような無理な支給は避けなければなりません。将来的にみなし退職金の活用を考えているのであれば、生命保険などを活用し、計画的に退職金の原資を準備しておくことが重要です。

注意点③:短期間での再度の退職金受給による控除額調整

みなし退職金を受け取った後、近い将来に完全に退職し、再度(最終的な)退職金を受け取るケースも考えられます。この場合、退職所得控除の計算に注意が必要です。

退職金を受け取る年の前年以前「4年以内」に、他の退職金(みなし退職金を含む)を受け取っていた場合、それぞれの勤続(在任)期間のうち重複している期間については、後から受け取る退職金の退職所得控除額が調整(減額)されるルールがあります。つまり、みなし退職金の受給から5年以上の間隔を空けずに最終的な退職金を受け取ると、退職所得控除のメリットを最大限に享受できない可能性があるのです。

さらに、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC(企業型確定拠出年金)を一時金で受け取る場合も、税法上は退職所得として扱われます。こちらは、受け取る年の前年以前「19年以内」に他の退職金(みなし退職金、会社の退職金を含む)を受け取っていると、同様に重複期間の退職所得控除が調整されます。

したがって、みなし退職金、最終退職金、iDeCo/企業型DC一時金の受け取りタイミングによっては、控除額が大幅に減ってしまう可能性があります。複数の退職金を受け取る可能性がある場合は、受け取り時期を十分に検討する必要があります。場合によっては、iDeCo/企業型DCを税制優遇のある「年金形式」で受け取る方が有利になることもあります。

まとめ

みなし退職金は、役員が完全に会社を離れる前であっても、その役位や職務内容の大きな変更などを理由に、「実質的な退職」と認められる場合に支給できる退職金です。法人にとっては損金算入による節税、個人にとっては退職所得控除などの税制優遇という大きなメリットがあります。利益の繰延べ策の出口としても活用可能です。

しかし、その適用にあたっては「実質的な退職といえるか」という点が税務調査で厳しく問われやすく、支給額の妥当性にも注意が必要です。また、支給のためのキャッシュ準備や、将来受け取る可能性のある他の退職金との関係(特に退職所得控除の調整)も考慮しなければなりません。

みなし退職金は、計画的に活用すれば非常に有効な手段となり得ますが、リスクも伴います。実行を検討する際には、必ず税理士などの専門家に相談し、自社の状況に照らして要件を満たすか、金額は妥当か、将来的な影響はどうかなどを十分に検討することが不可欠です。

この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な計算例や注意点について知りたい場合に、参考にしてください。

 

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