役員報酬と配当、どっちが得?オーナー経営者の手取りを最大化する報酬戦略

会社の経営者、特にオーナー経営者がご自身への報酬をどのように設定するかは、会社の資金繰りだけでなく、個人の手取り額にも直結する重要なテーマです。

一般的には「役員報酬」として毎月定額を受け取る形が主流ですが、オーナー経営者の場合、ご自身が会社の株主でもあるケースがほとんどです。

そのため、理論上は「配当金」という形で会社から資金を受け取ることも可能です。

「役員報酬より配当で受け取った方が節税になるのでは?」と考えたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、実際には配当で受け取ることにはメリットとデメリットの両方が存在し、一概にどちらが得とは言い切れません。大切なのは、それぞれの特徴を正しく理解し、自社の状況に合わせて最適な戦略を考えることです。

本記事では、会社からの報酬を配当で受け取る場合のメリット・デメリット、役員報酬との比較、そしてどのような場合に配当の活用を検討すべきかについて解説していきます。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

なぜ配当で受け取れるのか?(オーナー経営者の特性)

本題に入る前に、なぜ経営者が配当金を受け取れるのか、その背景について触れておきます。

日本の中小企業の多くは、会社の所有者(株主)と経営者が同一人物である、いわゆる「同族会社」です。オーナー経営者は会社の経営を行うと同時に、会社の株式を保有する株主でもあります。 会社が得た利益は、株主に還元することが可能です。

その還元方法の一つが「配当金」の支払いであり、オーナー経営者は株主としての立場で、会社から自分自身へ配当金を支払うことができるのです。

配当で報酬を受け取るメリット

では、役員報酬の代わりに、あるいは役員報酬と組み合わせて配当金を受け取ることには、どのようなメリットがあるのでしょうか。主に以下の2点が挙げられます。

(1) 税負担の軽減効果:「配当控除」による二重課税の調整

個人が会社から配当金を受け取った場合、その所得は「配当所得」として扱われます。

非上場株式の配当金の場合、支払い時に所得税及び復興特別所得税として20.42%が源泉徴収されますが、原則として他の所得と合算して総合課税として確定申告を行う必要があります(年間の配当額が10万円以下の場合は所得税について申告不要を選択することも可能)。 この確定申告の際に適用できるのが「配当控除」です。

会社が株主に支払う配当金の原資は、法人税を支払った後の利益です。この法人税課税後の利益から支払われた配当金に対し、さらに個人段階で所得税・住民税が課税されると、元々の会社の利益に対して二重に税金がかかることになってしまいます。

この二重課税を調整するために設けられているのが配当控除であり、個人の税負担を軽減する効果があります。

配当控除の額は、個人の課税総所得金額によって異なります。

課税総所得金額が1,000万円以下の場合、配当所得の金額に対し、所得税は10%、住民税は2.8%が控除されます。これは税額控除なので、算出された税額から直接差し引くことができます。

例えば、他に所得がなく、配当金100万円を受け取った場合(課税総所得金額1,000万円以下と仮定)、所得税額は約3万円と計算されますが、配当控除額が10万円(100万円 × 10%)あるため、これを差し引くと所得税の納税額はゼロになります。

ただし、課税総所得金額が1,000万円を超えると、その超えた部分に対応する配当所得に対する控除率は半減(所得税5%、住民税1.4%)します。また、配当控除を受けるためには確定申告が必須であり、申告不要制度を選択した場合は適用できません。

(2) 社会保険料負担の回避

配当で報酬を受け取るもう一つの大きなメリットは、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)の算定対象にならないことです。

役員報酬は、従業員の給与と同様に社会保険料の算定基礎に含まれます。役員報酬が高額になれば、それに応じて社会保険料の負担も増加します。現在の社会保険料率は、会社負担分と個人負担分を合わせると報酬額の約30%にも達し、経営者にとっては大きなコスト負担となっています。

一方、配当金は役員報酬とは異なり、社会保険料の算定基礎には含まれません。したがって、役員報酬の一部を配当金に置き換えることで、社会保険料の負担を増やさずに手取り額を調整することが可能になります。

配当で報酬を受け取るデメリット

メリットがある一方で、配当には無視できないデメリットも存在します。

法人税の負担増(配当は損金不算入)

これが最大のデメリットと言えますが、配当金は法人税法上の損金(経費)として認められません。会社がどれだけ多額の配当金を支払ったとしても、会社の利益を減らす効果はなく、法人税額は一切変わりません。

これに対し、役員報酬は、「定期同額給与」などの一定の要件を満たせば、全額を損金として算入できます。役員報酬は年間で数百万円から数千万円になることも珍しくなく、これを損金に算入できることは、法人税の節税において極めて重要な要素です。法人税負担を軽減するという観点では、配当よりも役員報酬の方が圧倒的に有利です。

給与所得控除が使えない

個人が受け取る所得に対する控除の面でも違いがあります。役員報酬は給与所得に分類されるため、「給与所得控除」が適用されます。給与所得控除は収入に応じて計算され、最大で年間195万円(給与収入850万円超の場合)が所得金額から控除されます。これは個人の所得税・住民税を計算する上で大きな控除額です。

一方、配当金は配当所得であり給与所得ではないため、給与所得控除は適用されません。配当控除はありますが、給与所得控除とは性質が異なります。

確定申告の手間

役員報酬のみであれば、多くの場合、年末調整で所得税の計算・納税が完結するため、経営者自身が確定申告を行う必要はありません。しかし、配当金を受け取った場合、前述の通り、配当控除の適用を受けるため、あるいは年間の配当額が10万円を超える場合は、原則として確定申告が必要になります。申告手続きの手間が増える点はデメリットと言えるでしょう。

株価上昇による事業承継への影響

配当金を継続的に支払えるということは、それだけ会社の業績が好調で内部留保が蓄積されている証拠と見なされ、会社の株式評価額(株価)が上昇する要因となります。

株価の上昇は、一見すると良いことのように思えますが、将来的に事業承継を考えている場合には問題となる可能性があります。非上場株式の株価が高くなると、後継者が株式を相続または贈与される際の相続税・贈与税の負担が非常に重くなり、円滑な事業承継の妨げとなるリスクがあります。

将来、親族等へ事業を引き継ぐことを予定している場合は、配当の実施が株価に与える影響も考慮する必要があります。

役員報酬と配当の比較:結局どちらがお得か?

これまで見てきたメリット・デメリットを整理すると、以下のようになります。

項目 役員報酬 配当金
法人税 損金算入可(節税効果大) 損金不算入(節税効果なし)
所得税・住民税 給与所得控除あり 配当控除あり(要確定申告)
社会保険料 対象となる(負担増) 対象外(負担なし)
確定申告 原則不要(年末調整で完結) 原則必要(控除適用・10万円超)
事業承継 直接的な株価影響は小さい 株価上昇要因となり得る

このように、一概にどちらが有利とは言えません。法人税の節税を最優先するなら役員報酬、社会保険料の負担を抑えたいなら配当が有利です。所得税については、個人の所得水準や控除額によって有利不利が変わってきます。

ここで注目したいのが、法人税率と社会保険料率の比較です。中小企業の場合、所得800万円以下の部分に対する法人税の実効税率は、概ね20%~25%程度です。一方、社会保険料率は会社負担・個人負担を合わせると約30%です。つまり、状況によっては法人税率よりも社会保険料率の方が高いという逆転現象が起こり得るのです。

この点を考慮すると、「役員報酬を低めに設定し、残りを配当金で受け取る」という組み合わせ戦略が有効になるケースがあります。

例えば、法人税の負担が増えることを覚悟の上で役員報酬を社会保険料負担が比較的軽い水準まで下げ、その分を配当で補うことで、法人税・所得税・住民税・社会保険料のトータルでの負担額が最小化され、結果的に手取り額が増える可能性があるのです。

配当を活用する際の注意点

最後に、配当を行う際の法的な注意点です。株式会社の場合、会社法により、配当(剰余金の分配)を行うことができるのは、分配可能額の範囲内に限られます。

また、配当を行った結果、会社の純資産額が300万円を下回るような配当は認められていません。当然、配当を行う前の純資産額が300万円未満の場合も配当はできません。

資本金1円から会社設立が可能になった現在ですが、配当を行うためには最低でも300万円の純資産が必要となる点に注意が必要です。なお、この純資産300万円規制は合同会社には適用されません。

まとめ

オーナー経営者が会社から報酬を得る方法として、役員報酬と配当金にはそれぞれメリットとデメリットがあります。法人税の節税効果では役員報酬が有利ですが、社会保険料の負担軽減という点では配当金に大きなメリットがあります。所得税に関しては、給与所得控除と配当控除のどちらが有利になるか、個人の所得状況によって異なります。

近年、社会保険料の負担が増加している状況を考えると、役員報酬を最適化し、配当金を組み合わせることで、トータルの手取り額を最大化できる可能性は十分にあります。ただし、配当は損金不算入であることや、株価への影響、確定申告の手間、純資産要件などを考慮する必要があります。 自社の利益水準、経営者の所得状況、将来の事業承継計画などを総合的に勘案し、最適な報酬体系を設計することが重要です。複雑な判断が伴いますので、税理士などの専門家に相談しながら、シミュレーションを行った上で決定することをおすすめします。

この記事で解説した役員報酬と配当の比較や、配当を活用した報酬戦略について、税理士がよりわかりやすく解説している動画もご覧ください。

 

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