社長の役員報酬、最適な設定額は?税金・社会保険料から見る手取り最大化の分岐点

会社の経営者にとって、ご自身の役員報酬をいくらに設定するかは、常に悩ましい問題の一つではないでしょうか。生活に必要な金額を確保するのはもちろんですが、会社の利益状況とのバランス、そして何よりも「税金や社会保険料を考慮した上で、会社と個人の手元に残るキャッシュを最大化したい」という思いは、多くの経営者に共通するものでしょう。

実は、役員報酬の金額設定一つで、年間の手取り額が数百万円単位で変わってくることも珍しくありません。細かな節税対策を積み重ねることも重要ですが、役員報酬の最適な設定を見直す方が、より大きなインパクトをもたらすケースも多いのです。

この記事では、役員報酬の基本的な決定ルールから、手取り額を最大化するために押さえておくべき3つの重要なポイント、そして具体的な会社の利益水準(「経常利益+役員報酬」の合計額が1,000万円、2,000万円、3,000万円)に応じた最適な役員報酬設定のシミュレーション結果について詳しく解説していきます。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

1. 役員報酬の基本的な決め方とルール

役員報酬の最適な金額を考える前に、まずはその決定に関する基本的なルールを理解しておく必要があります。

定期同額給与の原則

役員報酬は、原則として「定期同額給与」でなければ、法人税法上の損金(経費)として認められません。定期同額給与とは、その支給時期が1ヶ月以下の一定の期間ごとであり、かつ、その事業年度の各支給時期における支給額が同額である給与を指します。

つまり、毎月決まった日に、決まった金額を支払う必要があるということです。

役員報酬の変更時期

一度決定した役員報酬の金額は、原則としてその事業年度中は変更できません。変更が認められるのは、通常、事業年度開始の日から3ヶ月以内に行われる改定のみです(業績悪化など例外的なケースを除く)。期中に恣意的に役員報酬を変動させて利益調整することを防ぐためです。

役員賞与の損金算入(事前確定届出給与の活用と注意点)

役員に対して賞与(ボーナス)を支給することも可能ですが、これを損金として認めてもらうためには、「事前確定届出給与」の手続きが必要です。

これは、役員賞与の支給日と支給金額をあらかじめ決定し、その内容を記載した「事前確定届出給与に関する届出書」を、所定の期限(原則として、株主総会等の決議日から1ヶ月以内、または会計期間開始日から4ヶ月以内のいずれか早い日)までに税務署に提出する方法です。

この届出書に記載した通りの日付・金額で支給した場合に限り、その役員賞与は損金として認められます。1円でも金額が異なったり、1日でも支給日がズレたりすると、その全額が損金不算入となってしまう非常に厳格な制度です。

2. 役員報酬設定で手取りを最大化する3つのポイント

役員報酬を設定し、会社と個人の手元に残るキャッシュを最大化するためには、税金と社会保険料の仕組みを理解し、以下の3つのポイントを総合的に考慮することが重要です。

(イメージ図:会社の利益から、法人負担社会保険料、役員報酬、法人税、個人負担社会保険料、所得税・住民税が引かれ、最終的に会社の手残りキャッシュと個人の手取りキャッシュが残る流れ)

ポイント①:役員報酬と個人の所得税・住民税の関係

役員報酬を増やすと、その分会社の利益は圧縮され、法人税の負担は軽減されます。しかし、受け取る役員個人の所得が増えるため、所得税と住民税の負担が増加します。

日本の所得税は超過累進課税制度が採用されており、所得が高いほど税率も高くなるため、役員報酬を増やしすぎると、法人税の節税効果以上に個人の税負担が重くなってしまう可能性があります。

逆に、役員報酬を極端に低く設定すれば、個人の税負担は軽くなりますが、その分会社に利益が多く残り、法人税の負担が増加します。 したがって、役員報酬が多すぎても少なすぎても、トータルでの税負担は最適化されません。「会社」と「個人」の両方にかかる税金のバランスを見極めることが重要です。

ポイント②:役員報酬と社会保険料の関係

役員報酬には、所得税・住民税だけでなく、健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料もかかります。社会保険料は、会社と個人がそれぞれ折半して負担します(労使折半)。

そのため、役員報酬を上げると、個人の社会保険料負担が増えるだけでなく、会社の社会保険料負担も増加し、双方の手取りを圧迫する要因となります。 ただし、社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額には上限が設けられています。

そのため、役員報酬がある一定の水準を超えると、それ以上報酬が増えても社会保険料の負担額はあまり増加しなくなります。つまり、高額な役員報酬を受け取る場合、報酬額に対する社会保険料の「相対的な負担割合」は低下していく傾向にあります。この点も考慮に入れる必要があります。

ポイント③:会社の経常利益と法人税の関係

法人税は、会社の経常利益(税引前利益)に対して課税されます。法人税率(実効税率)は、会社の規模や所得金額によって異なりますが、中小企業(資本金1億円以下など)の場合、大まかに以下のような税率区分があります。

  • 年間所得800万円以下の部分:約20%25%程度 (所得税の軽減税率が適用される部分)
  • 年間所得800万円超の部分:約34%程度 (※上記は法人税、法人住民税、法人事業税を考慮した実効税率のおおよその目安です。実際の税率は個別の状況により異なります。) つまり、会社の経常利益が800万円を超えると、その超えた部分にはより高い税率が適用されるため、法人税の負担が重くなります。役員報酬を調整することで、会社の経常利益をこの800万円のラインのどちら側に持っていくか、という視点も重要になります。

総合的なバランスの重要性

結局のところ、最適な役員報酬額を見つけるには、個人の所得税・住民税・社会保険料の負担と、法人の法人税・社会保険料の負担の双方をシミュレーションし、会社と個人の「手取り合計額」が最大となるポイント、あるいは税負担の合計が最小となるポイントを探る必要があります。

どちらか一方だけを考えて極端な設定をすると、かえって全体のキャッシュを減らしてしまうことになりかねません。

3. 【利益額別】役員報酬の最適設定シミュレーション

では、具体的にどの程度の役員報酬が手取りを最大化するのでしょうか。ここでは、特定のモデルケース(35歳、扶養家族なし、ひとり社長、自宅兼事務所、東京都内)を前提に、「経常利益+役員報酬」の合計額が1,000万円、2,000万円、3,000万円の各ケースについて、役員報酬額を変動させた場合の「会社と個人の手取り合計額」のシミュレーション結果を見ていきます(税金・社会保険料の計算は簡略化しています)。

シミュレーションの前提条件

  • 社長:35歳、扶養家族なし
  • 会社:ひとり社長(従業員なし)
  • 事務所:自宅兼事務所(交通費等なし)
  • 所在地:東京都
  • 社会保険:協会けんぽ加入

ケース①:経常利益+役員報酬の合計額が1,000万円の場合

このケースで役員報酬を0円から100万円刻みで1,000万円まで設定した場合、「会社と個人の手取り合計額」が最も大きくなるのは、役員報酬を年間100万円~200万円(月額約8.3万円~16.7万円)に設定したときで、約743万円となりました。

逆に、最も手取り合計額が少なくなるのは、役員報酬を1,000万円(全額)に設定した場合で、約596万円でした。この差は年間で約147万円にもなります。役員報酬を全額取ってしまうと、会社負担分の社会保険料で会社が赤字になり、個人の税・社会保険料負担も重くなるためです。

ケース②:経常利益+役員報酬の合計額が2,000万円の場合

同様にシミュレーションすると、このケースでは、役員報酬を年間500万円(月額約41.7万円)に設定したときに手取り合計額が最も大きく、約1,394万円となりました。役員報酬600万円~1,000万円の範囲でも、比較的高い手取り額が維持されます。

最も手取り合計額が少なくなるのは、役員報酬を2,000万円(全額)に設定した場合で、約1,133万円でした。この差は年間で約261万円です。

ケース③:経常利益+役員報酬の合計額が3,000万円の場合

このケースでは、役員報酬を年間500万円(月額約41.7万円)に設定したときに手取り合計額が最も大きく、約2,026万円となりました。役員報酬600万円~1,200万円の範囲でも、比較的高い手取り額となります。

最も手取り合計額が少なくなるのは、役員報酬を3,000万円(全額)に設定した場合で、約1,615万円でした。この差は年間で約411万円にも達します。

シミュレーションから見える傾向と法人利益を残すメリット

これらのシミュレーション結果から、必ずしも役員報酬を高くすれば手取りが増えるわけではなく、むしろある一定のラインを超えると手取り合計額は減少していく傾向が見て取れます。

また、仮に役員報酬が低い場合と高い場合で手取り合計額が同程度であったとしても、あえて役員報酬を低めに設定し、法人に利益を残すことを検討する価値があります。

なぜなら、法人には、経営セーフティ共済への加入、役員退職金の積立、役員社宅制度の活用など、個人の節税策とは異なる多様な節税・資産形成の手段があるためです。

まとめ

社長の役員報酬をいくらに設定するかは、会社の利益状況、経営者の生活費、そして税金・社会保険料の負担という3つの要素を総合的に勘案して決定すべき、非常に重要な経営判断です。「会社と個人の手取り合計額」を最大化するという観点から見ると、一般的には、会社の利益水準に応じて最適な役員報酬のレンジが存在します。

 

シミュレーション結果はあくまで特定の条件下での一例であり、個々の状況(家族構成、他の所得、会社の業種や規模など)によって最適な金額は異なります。しかし、役員報酬の設定次第で、手元に残るキャッシュが年間で数百万円単位で変動し得るということは、全ての経営者にとって認識しておくべき重要な事実です。

極端に役員報酬を高く設定して個人の税・社会保険料負担を重くしたり、逆に極端に低く設定して法人税負担を重くしたりするのではなく、両者のバランスを見極めることが肝要です。

また、経営者のライフプランや会社の成長ステージ、そして法人として活用できる様々な節税策(役員退職金の準備、役員社宅制度、経営セーフティ共済など)も視野に入れ、中長期的な視点で戦略的に役員報酬額を決定していくべきでしょう。

最適な役員報酬額の算出は複雑な要素が絡み合うため、税理士などの専門家と十分に相談し、詳細なシミュレーションを行った上で決定することをお勧めします。

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