役員貸付金の潜在リスク|メリットとデメリット、安全な解消法を解説

会社経営において、急な資金需要が発生することは珍しくありません。社長個人の住宅購入や子どもの教育費など、プライベートでまとまったお金が必要になった際、「一時的に会社のお金で立て替える」という選択肢を考えてしまう経営者の方もいるかもしれません。

しかし、この行為は会計上「役員貸付金」として扱われ、多くの経営者が考える以上に、会社の財務と信用に深刻な悪影響を及ぼす可能性があります。安易な利用は、金融機関からの融資停止や、税務調査での指摘、さらには将来の相続問題にまで発展しかねません。

この記事では、まず役員貸付金がどのようなものかを解説し、その利用に伴う4つの重大なデメリット、限定的なメリット、そして発生してしまった役員貸付金を安全に解消するための具体的な方法について、詳しく解説していきます。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

1.役員貸付金とは何か?

役員貸付金とは、その名の通り「会社が社長や役員にお金を貸し付けている」状態を指す勘定科目です。社長個人の視点から見れば、「会社からお金を借りている」状態であり、これは法的には借金です。会社と社長は別人格であるため、たとえオーナー社長であっても、会社のお金を個人の財布のように使うことはできません。

この役員貸付金は、様々な場面で意図せず発生します。例えば、以下のようなケースが代表的です。

  • 住宅購入など、プライベートで高額な支払いを会社の資金で行った場合
  • 節税のために役員報酬を低く設定し、生活費の不足分を会社から引き出した場合
  • 経費精算が間に合わず、使途不明な支出を仮に役員貸付金として処理した場合
  • 複数の会社を経営しており、一方の会社の資金をもう一方の会社に融通する際に、個人を経由した場合

いずれのケースであっても、役員貸付金は会社の資産であり、社長には会社へ返済する義務が生じます。そして、この貸付金を放置することは、多くのデメリットをもたらします。

2.役員貸付金がもたらす4つの重大なデメリット

役員貸付金を決算書に残しておくことには、主に4つの大きなデメリットが存在します。これらを理解することが、リスク管理の第一歩です。

①利息の発生と計上義務

会社が社長にお金を貸し付ける行為は、第三者への貸付と同様に、適正な利率で利息を受け取る必要があります。この受取利息は、会社の収益(雑収入)として計上しなければならず、その分、法人の利益が増え、法人税の課税対象となります。

利率は国税庁によって定められており、例えば令和4年~令和6年中に貸付を行ったものであれば、年0.9%の利率が適用されます。もし、会社がこの利息を受け取っていなかったり、定められた利率よりも低い利息しか受け取っていなかったりした場合、その差額分は「社長が会社から経済的利益を受けた」と見なされ、役員賞与として社長個人に所得税が課税される可能性があります。

②金融機関からの信用失墜と融資への悪影響

金融機関が融資審査を行う際、決算書の「役員貸付金」の項目は厳しくチェックされます。多額の役員貸付金が存在すると、金融機関は以下のように判断します。

  • 「融資した資金が、本来の事業目的ではなく社長個人に流用されるのではないか」
  • 「会社の資金管理がずさんで、公私混同が常態化しているのではないか」

金融庁の金融検査マニュアルにおいても、役員貸付金はその回収可能性を検討し、実質的に回収不能と判断されれば、その分、会社の自己資本から減額して評価するよう指導されています。結果として、会社の財務評価は著しく悪化し、新規融資が受けられなくなったり、既存の融資の継続が困難になったりする可能性が非常に高くなります。

③税務調査で「役員賞与」と認定されるリスク

役員貸付金が、契約書もなく、返済もされないまま長期間にわたって放置されていると、税務調査において「これは貸付ではなく、実質的な役員賞与である」と認定されるリスクがあります。貸付金が「滞留債権」と見なされ、事実上、返済の意思がないと判断されるためです。

役員賞与と認定された場合、その金額は法人税法上、原則として損金(経費)にはなりません。会社は法人税を追徴される上、社長個人に対しても、その賞与に対する源泉所得税の納付漏れを指摘されます。結果として、法人と個人の両方で、延滞税などを含めた重い税負担が発生することになります。

④相続時に「負の遺産」となる

役員貸付金は、社長が会社に対して負っている「債務」です。もし、この貸付金を返済しないまま社長が亡くなった場合、この返済義務は相続人に引き継がれます。

相続人は、亡くなった社長に代わって、会社に対して貸付金を返済する義務を負うことになるのです。もし返済できなければ、会社は相続人に対して返済を求めることになります。相続放棄をすれば返済義務は免れますが、その場合は他のプラスの財産もすべて放棄しなければなりません。役員貸付金の放置は、愛する家族に「負の遺産」を残すことに他なりません。

3.役員貸付金の限定的なメリットとは?

これほど多くのデメリットがある役員貸付金ですが、あえてメリットを挙げるとすれば、どのようなケースが考えられるのでしょうか。それは、極めて限定的かつ、リスクを理解した上での活用に限られます。

①役員報酬の柔軟な調整弁としての活用

役員報酬は、一度決めると期中に自由に変更できないという厳しいルールがあります。特に創業期などで利益の見通しが立てにくい場合、下手に高い役員報酬を設定すると、会社の資金繰りを圧迫しかねません。

そこで、あえて役員報酬をゼロ、あるいは生活できる最低限の金額に設定しておき、実際の生活費の不足分を、役員貸付金として会社から借り入れる、という方法を取るケースがあります。これは、役員報酬を柔軟に調整できない制度の抜け道的な活用法と言えます。

また、社会保険料や所得税の負担を抑える目的で、意図的に役員報酬を低く設定し、生活費を役員貸付金で賄うという考え方もあります。しかし、これは前述のデメリットを全て内包する、極めてリスクの高い行為であることを理解しておく必要があります。

②他のローンに比べて低金利であること

デメリットの裏返しになりますが、会社からお金を借りる際の利率(年0.9%など)は、銀行のカードローン(年2~14%程度)や消費者金融(年3~18%程度)に比べて、はるかに低金利です。どうしても資金が必要な場合に、他から借りるよりは有利な条件で資金を調達できる、という側面はあります。

ただし、これも金融機関からの信用を損なうという大きな代償を伴います。あくまで緊急避難的な選択肢と考えるべきでしょう。

4.役員貸付金の安全な返済・解消方法

発生してしまった役員貸付金は、放置せず、できるだけ速やかに解消することが重要です。主な返済・解消方法としては、以下の3つが挙げられます。

(1)毎月の役員報酬から返済する

最も基本的で安全な方法です。毎月の役員報酬や役員賞与の手取りの中から、計画的に会社へ返済していきます。ただし、この方法は個人の手取り額が減少するため、生活に影響が出る可能性があります。返済のために役員報酬を増額すると、今度は個人の税・社会保険料負担が増加するというジレンマがあります。

(2)社長個人の資産を会社に売却する

社長が個人的に所有している土地や建物、有価証券などを会社に売却し、その売却代金と役員貸付金を相殺する方法です。これにより、貸付金を一気に解消することが可能です。ただし、売却した資産に含み益があった場合、社長個人に譲渡所得税が課税される点には注意が必要です。

(3)役員退職金で相殺する

社長が退職する際に、会社から支給される退職金と、役員貸付金を相殺する方法です。これにより、貸付金残高をゼロにすることができます。ただし、この方法の最大の欠点は、退職するまで貸付金が決算書に残り続け、その間、金融機関からの信用低下などのデメリットを受け続けることです。また、実質的な経営実態が変わらない「形だけの退職」と見なされた場合、退職金そのものが否認されるリスクもあります。

まとめ

役員貸付金は、一見すると便利な「社長の第二の財布」のように思えるかもしれません。しかし、その実態は、会社の信用を蝕み、税務リスクを高め、最終的には家族にまで負担を強いる可能性のある、極めて危険な存在です。

限定的なメリットもないわけではありませんが、それは金融機関からの信用失墜という大きなデメリットと引き換えの、諸刃の剣です。原則として、役員貸付金は「発生させないこと」が最善の策であり、もし発生してしまった場合は、それが少額のうちに、計画的に返済・解消することが不可欠です。

会社の資金と個人の資金を明確に分離し、健全な財務状態を保つことこそが、会社の持続的な成長と、経営者自身の資産を防衛するための最も確実な道筋と言えるでしょう。

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