役員報酬が低いと銀行融資に不利?デメリットと対応策を解説

会社の節税策を考える上で、「役員報酬をいくらに設定するか」は重要なテーマです。役員報酬を低めに設定すれば、経営者個人の所得税・住民税や社会保険料の負担を抑えられるというメリットがあります。そのため、中には月額10万円など、意図的に役員報酬を低くしている経営者の方もいます。

しかし、役員報酬を低く設定することには、節税上のメリットだけでなく、デメリットも存在します。特に見過ごされがちなのが、「金融機関からの融資審査において不利になる可能性がある」という点です。

なぜ役員報酬の金額が融資の可否に影響するのでしょうか?この記事では、その理由と、役員報酬を抑えつつも銀行融資を受けやすくするための具体的な対策について解説していきます。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

1. 役員報酬は銀行にとって「業績のバロメーター」

なぜ役員報酬が注目されるのか?

役員報酬の金額は、法律で上限や下限が定められているわけではなく、基本的には会社が自由に決めることができます。しかし、金融機関が会社の融資審査を行う際、損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)といった財務諸表を詳細に分析しますが、その中で「役員報酬」の金額も重要なチェックポイントの一つとなります。

表面的な黒字と実態の見極め

例えば、決算書上はギリギリ黒字になっている会社があったとします。役員報酬の額が非常に低い場合、表面的には「黒字企業」と見えますが、銀行員の視点では「役員報酬を低く抑えているから、なんとか黒字になっているだけではないか?」「もし一般的な水準の役員報酬を支払っていたら、この会社は赤字なのではないか?」という見方をされる可能性があります。

総合的な判断材料の一つ

もちろん、銀行は役員報酬の額だけで融資の判断をするわけではありません。キャッシュフローの状況、売上や費用の構成、事業計画の妥当性など、様々な情報を総合的に評価します。

しかし、役員報酬の金額は、その会社の収益力の実態や経営者の経営姿勢を推し量る上での「バロメーター」の一つとして見られていることは事実です。そのため、極端に低い役員報酬は、融資審査においてマイナスの印象を与えかねないのです。

2. なぜ役員報酬が少ないと融資を受けづらいのか?

では、具体的にどのような理由で、役員報酬が低いと融資審査で不利になる可能性があるのでしょうか。主に以下の4つの懸念を銀行側が抱く可能性があるためです。

理由:利益の水増しを疑われる

銀行が融資を行う上で最も重視するのは、「貸したお金をきちんと返済してもらえるか」という返済能力です。その返済能力を測る指標の一つとして、企業が生み出す利益、特に「返済原資」となるキャッシュフローが重要視されます。

銀行によって評価方法は異なりますが、返済原資の一つの目安として「(経常利益 × 60%)+ 減価償却費」といった計算式を用いることがあります。(利益から法人税等の支払いを考慮し、手元に残るキャッシュフローに近い数値を算出するイメージです。)

この計算からも分かるように、経常利益は返済能力評価の重要な要素です。しかし、役員報酬が極端に低い場合、「役員報酬を不当に低くすることで、経常利益を実態よりも良く見せかけようとしているのではないか(利益の水増し)」という疑念を持たれる可能性があります。

もし、事業規模に見合った標準的な役員報酬額で再計算した場合に十分な返済原資が確保できないと判断されれば、融資は難しくなります。たとえ経営者に利益を水増しするつもりがなくても、銀行側の心証が悪くなることは避けられません。

理由:将来の利益予測に不安があると見られる

多くの経営者は、前期の業績や当期の事業計画を踏まえ、将来の利益を予測した上で、会社のキャッシュフローに無理のない範囲で役員報酬額を決定します。つまり、役員報酬の額には、経営者の自社に対する利益予測がある程度反映されていると考えることができます。

そのため、銀行も役員報酬の額を、経営者が自社の将来性をどう見ているかの参考指標とすることがあります。役員報酬が著しく低い場合、「経営者自身が、今後の利益見通しに自信を持てていないのではないか」「業績が悪化するリスクを見込んでいるのではないか」といった不安を銀行側に与え、融資判断における懸念材料となる可能性があります。

理由:経営者の生活費の出どころを疑われる

役員報酬が、経営者の家族構成や生活状況から見て、明らかに生活を維持するのが困難と思われるほど低い水準である場合、銀行は「この経営者はどうやって生活しているのだろうか?」という素朴な疑問を持ちます。

個人の貯蓄を取り崩しているのかもしれませんが、銀行としては「会社に隠れて個人的な借入(例えば消費者金融など)があるのではないか」「生活費を会社から不透明な形で引き出している(役員貸付金など)のではないか」といった、経営者個人の信用に関わる疑念を抱く可能性があります。

特に、決算書に「役員貸付金」が多く計上されているような場合は、その原資について厳しく問われることになるでしょう。経営者個人の返済能力や信用状況に疑問符が付けば、会社への融資も難しくなります。

理由:実効支配者の存在を疑われる可能性(最悪のケース)

これは稀なケースですが、銀行が最も警戒するシナリオの一つとして、融資を申し込んでいる経営者が名ばかりの「雇われ社長」で、会社の裏には破産歴があるなどの理由で表に出られない「実効支配者」が存在する可能性です。

このような場合、名ばかり社長の役員報酬が極端に低く設定されているケースが見られます。 銀行は多くの企業を取引相手とする中で、このようなリスクも想定して審査を行う必要があります。そのため、役員報酬が不自然に低い場合、このような最悪のケースではないかという疑念を持つ可能性もゼロではないのです。

3. 役員報酬が少なくても融資を受けやすくする方法

役員報酬が低いと融資に不利になる可能性があることは分かりましたが、節税のために報酬を抑えたいというニーズも根強くあります。では、役員報酬を低めに設定しつつ、銀行融資を受けやすくするためにはどうすればよいのでしょうか。

前提:生活可能な最低限の報酬設定

まず大前提として、いくら節税目的とはいえ、経営者が生活を維持できるか疑われるほどの極端に低い役員報酬(例:月10万円未満など)は避けるべきです。客観的に見て、経営者とその家族が最低限の生活を送れるであろう水準(具体的な金額は地域や家族構成によりますが、少なくとも月額数十万円程度)は確保することが、銀行からの無用な疑念を避ける第一歩です。

対策:返済原資となる十分な利益の確保

役員報酬が低めであっても、それを支払った上で、なおかつ十分な返済原資(前述の経常利益+減価償却費など)を生み出せていることを決算書で示すことができれば、銀行側の懸念は和らぎます。結局のところ、銀行が最も重視するのは返済能力です。

対策:役員報酬以外の収入証明(確定申告書の提示)

経営者個人に、役員報酬以外にも不動産収入や他の事業からの収入、顧問料収入などがある場合は、それを証明することが有効です。銀行との面談時に、個人の確定申告書を提示し、「会社の役員報酬は低いが、個人としては他の収入源があり、生活には全く問題ない」ことを具体的に説明しましょう。銀行から求められなくても、こちらから積極的に情報開示することで、信頼を得やすくなります。

対策:個人の十分な貯蓄の証明(融資希望銀行への預金移動)

過去の事業売却益や資産運用などで、経営者個人が十分な金融資産(貯蓄)を持っている場合もあります。この場合、「役員報酬を多く取る必要がなく、会社の内部留保を厚くすることを優先している」という説明が可能です。

ただし、口頭で「貯金は十分にある」と言うだけでは、銀行は信用しにくいものです。最も効果的なのは、その個人資産の一部(できれば融資希望額に見合う程度の額)を、融資を申し込みたい銀行の経営者個人の口座に移しておくことです。これにより、銀行は自行のシステムで預金残高を正確に把握でき、「経営者個人には十分な資力がある」ことの客観的な証明となります。手間はかかりますが、融資の確度を高める上では非常に有効な方法です。

結論:低い理由を客観的証拠で説明する

役員報酬が低くても、その理由を客観的な証拠(確定申告書、預金残高など)をもって明確に説明でき、かつ会社自体の返済能力が十分であると示すことができれば、融資を受けられる可能性は十分にあります。

まとめ

役員報酬を低く設定することは、節税面でのメリットがある一方で、銀行融資の審査においては、「利益操作の疑い」「将来性の不安」「経営者個人の信用問題」といったネガティブな見方をされるリスクを伴います。銀行は、役員報酬の金額も企業の財務状況や経営実態を判断するための一つの指標として捉えています。

将来的に銀行融資を活用する可能性がある場合、極端に低い役員報酬設定は避けるのが賢明です。もし節税等の理由で報酬を低めに設定したいのであれば、その理由(役員報酬以外の収入がある、個人資産が十分にある等)を確定申告書や預金残高といった客観的な証拠をもって説明できるように準備しておくことが重要です。

節税メリットと資金調達の必要性のバランスを考慮し、自社にとって最適な役員報酬の水準を検討することが、持続的な企業経営につながります。

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