「所得税が高い…」毎年、確定申告の時期や給与明細を見るたびに、そう感じている経営者や個人事業主の方は多いのではないでしょうか。日本の所得税は、所得が大きくなるほど税率も上がる累進課税が採用されており、住民税と合わせると最高で約55%もの税率になります。
稼いだ所得の半分以上が税金で引かれてしまうというのは、事業を頑張るモチベーションにも影響しかねません。しかし、この負担を合法的に軽減するための強力な武器が、私たち納税者には用意されています。それが「控除」です。
控除と聞くと少し難しく感じるかもしれませんが、その仕組みを正しく理解し、適用できるものを漏れなく活用することで、年間の税負担を数十万円、場合によってはそれ以上に減らすことも可能です。
この記事では、所得税を大幅に下げるために絶対に知っておきたい「控除」の基本から、経営者や個人事業主が特に活用すべき10の控除制度まで、網羅的に解説していきます。ご自身の状況と照らし合わせながら、適用漏れがないか確認してみてください。
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控除の基本を理解する|所得控除と税額控除の違い
所得税の負担を軽減する「控除」には、大きく分けて「所得控除」と「税額控除」の2種類があります。この2つは、税金を計算する過程のどのタイミングで差し引かれるかが異なります。この違いを理解することが、節税の第一歩となります。
所得控除とは?
所得控除は、税率を掛ける前の「所得金額」から差し引かれるものです。これにより、課税対象となる所得金額そのものを小さくすることができます。所得が高い人(適用される税率が高い人)ほど、所得控除による節税効果は大きくなります。
税額控除とは?
一方、税額控除は、税率を掛けて算出した「所得税額」から直接差し引かれるものです。税額そのものがダイレクトに減るため、非常に強力な節税効果があります。
それでは、具体的にどのような控除があるのか、所得控除から順番に見ていきましょう。
【所得控除】活用すべき7つの制度
まずは、課税所得を圧縮するための「所得控除」です。ここでは経営者や個人事業主の方が特に活用すべき7つの制度を厳選して解説します。
(1)小規模企業共済
小規模企業共済は、中小企業の経営者や個人事業主のための「退職金積立制度」です。最大のメリットは、その掛金が全額「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象になることです。
掛金は月額最大7万円、年間84万円まで拠出可能で、その全額が課税所得から差し引かれます。将来の退職金を準備しながら、所得税・住民税を大幅に軽減できる、経営者にとって必須の制度です。
(2)個人型確定拠出年金(iDeCo)
iDeCoは、自分で掛金を拠出して運用し、私的年金を準備する制度です。この掛金も全額が所得控除の対象となり、その年の所得税と翌年の住民税を下げることができます。
掛金の上限額は加入者の状況によって異なりますが、これも将来の資産形成と節税を両立できる強力なツールです。
(3)医療費控除
医療費控除は、ご自身や生計を同一にする家族のために支払った年間の医療費が、原則として10万円を超えた場合に受けられる所得控除です。
控除額の計算式は以下の通りです。
医療費控除額=(実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補てんされる金額)-10万円(※控除額の上限は200万円)
この控除は年末調整では適用されないため、会社員の方でも確定申告が必要です。治療費のほか、レーシック手術や子供の歯列矯正なども対象になる場合があります。
(4)生命保険料控除
多くの方が加入している生命保険も、所得控除の対象となります。この控除は、「一般生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」の3つの区分に分かれており、それぞれで支払った保険料に応じて控除額が計算されます。
それぞれの区分で最大4万円ずつ、合計で最大12万円の所得控除を受けることができます。年末に保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」を元に、忘れずに申告しましょう。
(5)配偶者控除・配偶者特別控除
配偶者の所得が一定額以下の場合に受けられるのが、配偶者控除および配偶者特別控除です。
配偶者の合計所得金額が48万円以下(給与収入のみなら103万円以下)の場合、納税者本人の所得に応じて最大38万円の「配偶者控除」が受けられます。
また、配偶者の所得が48万円を超えていても、133万円以下であれば、段階的に控除額が減少していく「配偶者特別控除」の適用が受けられます。配偶者がパートで働いている場合や、事業を手伝い役員報酬を受け取っている場合に重要な控除です。
(6)扶養控除
お子さんやご両親など、配偶者以外の扶養親族がいる場合に受けられるのが扶養控除です。主な要件は「生計を同一にしていること」「扶養親族の合計所得金額が48万円以下であること」などです。
別居している親に仕送りをしている場合なども対象になり得ます。特に19歳以上23歳未満の「特定扶養親族」は控除額が63万円と大きくなるため、大学生のお子さんがいるご家庭などでは大きな節税につながります。
(7)ふるさと納税(寄附金控除)
ふるさと納税は、応援したい自治体に寄付をすることで、自己負担額の2,000円を除いた全額が所得税および住民税から控除される制度です。税制上は「寄附金控除」という所得控除の一種として扱われます(住民税については税額控除)。
【税額控除】直接税金が減る3つの制度
ここからは、算出された税額から直接差し引くことができる、より強力な「税額控除」について解説します。
(1)配当控除
これは法人オーナーである経営者にとって、極めて重要な税額控除です。会社からの配当金は、法人税が課された後の利益から支払われます。その配当金にさらに所得税が課されると二重課税になってしまいます。
この二重課税を調整するのが配当控除です。配当所得を確定申告で「総合課税」として申告した場合に、配当所得の金額の最大10%(住民税と合わせると12.8%)を、算出した所得税額から直接差し引くことができます。役員報酬だけでなく、配当での利益還元を考える経営者にとっては必須の知識です。
(2)寄附金特別控除(税額控除)
政党や認定NPO法人などに寄付をした場合、「寄附金控除(所得控除)」か、この「寄附金特別控除(税額控除)」のどちらか有利な方を選択できます。多くの場合、税額から直接控除できるこちらの方が有利になります。
寄付先の団体が、税制上の優遇措置の対象となる「認定NPO法人」や「公益社団法人」であるかを事前に必ず確認することが重要です。
(3)住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)
住宅ローン控除は、住宅ローンを利用してマイホームを取得等した場合に、年末のローン残高の0.7%を、最大13年間にわたって所得税などから控除できる強力な制度です。
所得税から控除しきれない場合は、残りの額が住民税からも控除されます。ただし、合計所得金額2,000万円以下という所得制限や、住宅の省エネ性能に関する要件があるため、注意が必要です。
控除を適用するための注意点
ここまで10の控除制度を解説してきましたが、これらの適用を受けるためには、原則として確定申告が必要になります。
個人事業主の方は毎年確定申告を行いますが、その際に適用できる控除を漏れなく申告することが重要です。
サラリーマンの方も、会社の年末調整では適用されない「医療費控除」や「寄附金控除」などを受けるためには、ご自身で確定申告を行う必要があります。「住宅ローン控除」も初年度は確定申告が必須です。
まとめ
今回は、所得税を軽減するための10の主要な控除制度について解説しました。
- 控除には「所得控除」と「税額控除」の2種類がある
- 小規模企業共済やiDeCoは、将来の資産形成と節税を両立できる強力な所得控除である
- 生命保険料控除や家族に関する控除(配偶者・扶養)は、適用できる人が多い身近な控除である
- 配当控除や住宅ローン控除などの税額控除は、税額から直接引かれるため効果が大きい
- ほとんどの控除は、確定申告をしなければ適用されない
税金の制度は複雑で、毎年少しずつ変化していきます。しかし、正しい知識を身につけ、活用できる制度を漏れなく利用することで、手取り額を大きく改善させることが可能です。年に一度、ご自身のライフイベントや支出を振り返り、使える控除がないかを見直す習慣をつけてみてはいかがでしょうか。
この記事で解説した内容を、税理士が分かりやすく解説している動画もあります。復習も兼ねて、ぜひ一度ご覧になってみてください。