年末調整や確定申告、税金関係の手続きでよく目にする「控除」。
言葉は知っていても、具体的な意味や仕組みについては、知らない人も多いのではないでしょうか。
一見ややこしく感じる控除ですが、きちんと申告することで、節税対策にもつながります。この記事では、個人事業主はもちろん、会社員でも知っておきたい控除の種類や適用方法についてわかりやすく解説します。
The following two tabs change content below.
1 控除とは
そもそも「控除」とは、金額や数量などを差し引くことを意味する言葉です。税制上は、課税の対象となる所得から一定の金額を差し引くことを指します。
節税になる控除には、大きく分けて所得控除と税額控除があります。どちらも、国税である所得税および地方税である住民税の二つに適用されますが、所得税と地方税では、差し引かれる控除の額が異なります。
まず所得控除は、課税の対象となる所得金額を減らすことができる制度です。私達が支払わなければならない税金の額は、所得金額を基に計算されます。そのため、控除によって所得から一定額を差し引くと、その分だけ税金の支払いを減らすことができ、結果として節税につながります。
もう一方の税額控除は、算出された税額から一定額を差し引くことで、税金の支払いそのものを減らすことができる制度です。税額を直接的に差し引けるため、所得控除以上に高い節税効果が期待できます。住宅ローン控除などがこれに当たります。
2 所得税の計算方法
所得税の算出方法は、以下のとおりです。
・収入 − 必要経費(会社員の場合は給与所得控除) = 所得
・所得金額 − 所得控除 = 課税所得
・課税所得金額 × 税率 = 所得税
・所得税額 − 税額控除 = 基準所得税
そして最終的には、この基準所得税に復興特別所得税を加えた額が、納税額となります。
以下の「所得税の速算表」のように、課税所得金額が上がれば上がるほど、所得税・住民税の負担が増えるので、所得控除できるものは可能な限り控除したほうが税金を下げられるというわけです。
(国税庁より引用)
一方、住民税については計算がかなり複雑で、正確な税額は専門家でなければ難しいというのが正直なところです。一般的に、住民税は課税所得の10%程度と理解をしていれば問題ないでしょう。
3 所得控除による節税対策の具体策
それでは、所得控除による節税対策の具体策を10個にしぼり、順番に見ていきましょう。
①扶養控除
納税者に控除対象の扶養親族(扶養親族のうち、12月31日現在の年齢が16歳以上の人)がいる場合には、一定額の所得控除が受けられます。これが扶養控除です。
扶養親族とは、配偶者以外の親族で生計を共にしており、合計所得金額が48万円以下である人をいいます。
<控除額>
一般扶養親族の場合:38万円
特定扶養親族(控除対象の扶養親族のうち、19歳以上23歳未満の人)の場合:63万円
老人扶養親族(控除対象の扶養親族のうち、70歳以上の人)の場合:48万円
同居老親など(老人扶養親族のうち、納税者またはその配偶者の直系の父母・祖父母などで同居している人)の場合:58万円
②配偶者控除
納税者(合計所得金額が1,000万円以下に限ります)に控除対象の配偶者(合計所得金額が48万円以下など一定の人)がいる場合には、納税者の合計所得金額に応じて13万円から38万円の所得控除が受けられます。
また、老人控除対象の配偶者(70歳以上)がいる場合には、16万円から48万円の所得控除が受けられます。
③iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは、自分で掛金を出して自ら運用方法を選び、将来に掛金と運用益での給付を受ける私的年金制度です。
税制面で3つのメリットがあります。
1、毎月の掛金を支払う時には、支払った掛金の全額が所得控除となり、その年の所得税と翌年の住民税が安くなる。
2、確定拠出年金制度内の運用益が非課税になる。
3、受取時に、一時金で受給する場合は退職所得控除、年金で受給する場合は公的年金等控除が受けられる。
④小規模企業共済
小規模企業共済は、個人事業者等や小規模企業の経営者のための、退職金積み立ての制度です。掛金は、月額1,000円から70,000円で設定できます。
掛金は全額所得控除でき、受け取る際には退職所得扱いになるなど、税制上のメリットがあります。
掛金は前納することができ、年内の支払で前納1年分まで、その年の所得金額から控除できます。
該当する人にはぜひとも利用してほしいお得な制度です。
⑤ふるさと納税
ふるさと納税は、自治体に寄付をして、控除上限額内の寄付合計額から2000円を差し引いた金額が所得税や住民税から還付・控除を受けられる制度です。
ふるさと納税ワンストップ特例制度により、確定申告が不要な給与所得者等で1年間の寄付先が5自治体以内である場合には、各自治体に「寄附金税額控除に係る申告特例申請書」を提出することで確定申告が不要となります。
この場合、所得税が還付されるのではなく、ふるさと納税を行った翌年の住民税の減額という形で控除されます。
⑥保険料控除
納税者が生命保険料、介護医療保険料や個人年金保険料を支払った場合には、保険の種類によって最大12万円の所得控除を受けることができます。
実際に支払っている人が適用を受けられますので、保険に多く加入している人は、支払い者をよく確認した上で生命保険料控除の適用を受けましょう。
また、納税者が地震保険料を支払った場合も、一定額(最高5万円)の所得控除を受けることができます。
⑦医療費控除・セルフメディケーション税制
医療費控除は、原則として年間10万円超の医療費を支払った方が対象となります。
「医療費ー保険金ー10万円」が控除されます。上限は200万円です。
セルフメディケーション税制は、特定一般用医薬品等を1万2千円を超えて購入した方が対象です。「特定一般用医薬品等合計額ー1万2千円」が控除されます。上限は8万8千円です。
医療費控除といずれかを選択して適用となるため、両方は利用できない点に注意してください。
⑧雑損控除
災害や盗難の被害に遭ったとき受けられる控除として、「雑損控除」と「災害減免法による税金の軽減・免除」の2種類があります。
雑損控除の控除対象は、住宅、家財、衣服など生活に必要な財産のみです。住宅の取り壊し費用など災害に関連してやむなく支出した費用があれば、「災害関連支出」として控除対象となります。
災害減免法による税金の軽減・免除については、災害により、住宅や家財の時価の2分の1以上の損失があると、直接税金を軽減・免除してもらうことができます。
また、現金の盗難も対象となるので、万が一そのような事態になった場合には、証拠として警察へ被害届を出しておきましょう。
⑨寡婦(寡夫)控除
納税者(女性)が一般の寡婦であれば、27万円の所得控除を受けることができます。
一般の寡婦とは、納税者本人が12月31日の時点で次のいずれかの条件に当てはまる場合です。
・夫と死別、もしくは離婚した後、婚姻をしておらず、扶養親族がいる、または生計を一にする子がいる
・夫と死別した後、婚姻をしていない人で、合計所得金額が500万円以下の人
さらに、一般の寡婦に該当する人に扶養親族である子がいて、かつ、合計所得金額が500万円以下の場合には、特別の寡婦として35万円の所得控除が受けられます。
また、納税者(男性)が寡夫に該当するときは、27万円の所得控除を受けることができます。寡夫とは、合計所得金額が500万円以下で妻と死別、もしくは離婚をして生計を一にする子がいる人です。
⑩障害者控除
納税する本人、配偶者または扶養親族が一定の障害者に該当する場合は、一定額の障害者控除を受けることができます。
控除額は一般障害者の場合で27万円、特別障害者(身体障害1級または2級の方や精神障害1級の方など)の場合は40万円、同居特別障害者だと75万円です。
まとめ
節税になる控除には、大きく分けて所得控除と税額控除の2種類があり、どちらも、国税である所得税および地方税である住民税の二つに適用されます。
課税所得金額が上がれば上がるほど所得税・住民税の負担が増えるため、所得控除できるものは可能な限り控除すれば、税金を下げることが可能です。
所得控除による節税対策の具体策としては、代表的なものに ①扶養控除②配偶者控除③iDeCo(個人型確定拠出年金)④小規模企業共済⑤ふるさと納税⑥保険料控除⑦医療費控除・セルフメディケーション税制⑧雑損控除⑨寡婦(寡夫)控除⑩障害者控除 の10種があります。
自分に該当するものは積極的に利用し、効果的に節税していきましょう。