議決権制限株式を会社の経営・事業承継に活用する方法

公開 2016年7月31日更新 2021年9月8日
議決権制限株式を会社の経営・事業承継に活用する方法
議決権制限株式を会社の経営・事業承継に活用する方法

あなたは、ご自身が経営されている会社の株式がいろいろな人に分散してしまうのを防ぐため、議決権制限株式が活用できないかとお考えのことと思います。

議決権制限株式は、文字通り、株主総会の議決に参加できる事柄が限られている株式です。

経営の核となるメンバー以外の株主の議決権を制限できれば、会社の意思決定がスムーズに行われるのに役立ちます。また、会社の意思決定を経営陣だけで行えるようにできるので、経営を後継者に引き継がせる「事業承継」をスムーズに行うのにも役立ちます。

この記事では、議決権制限株式を有効活用する方法と、今ある株式をスムーズに議決権制限株式に変える方法についてお伝えします。

会社の意思決定の合理化と、スムーズな事業承継にお役立ていただけたらと思います。

はじめに

本来、一般の株主が経営に口出しできないようにする方法としては、株主を手放してもらうこと、つまり、会社が株式を買い取ってしまう方法が最もスマートのはずです。

しかし、会社法で、会社が株式を買い取る場合、その代金は、株主への配当に回すことのできる利益(配当可能利益)の中から支払わなければならないことになっています。そのため、この「配当可能利益」の額が足りない場合には、会社は、株式を買い取りたくても買い取ることができません。

そこで、次に考えられるのが、経営者以外の株主の経営への口出しを防ぐ方法、つまり、株主総会で議決権を行使できないようにする方法です。そして、そのために役立つのが、今回お伝えする議決権制限株式です。

1.議決権制限株式とは

1.1.議決権制限株式はその株主の経営への口出しをしにくくするもの

議決権制限株式とは、文字通り、株主総会で議決に参加できることがらが限られている株式です。

定款に、たとえば

  • 「○○に関する議決権を有しない」
  • 「○○に関してのみ議決権を有する」
  • 「議決権を有しない」

といった定めをおくことで、その株式の議決権を制限することができます。

株式に議決権の制限が付いていると、会社の経営への口出しが制限されます。特に、最後に挙げた「議決権を有しない」という定めがあるものは、「完全無議決権株式」と言います。そして、実際にはこの完全無議決権株式が最もよく活用されています。

1.2.議決権制限株式は会社の意思決定をスムーズにするのに役立つ

1.2.1.会社の意思決定権限を経営陣だけに集中させられる

経営陣以外の株式を議決権制限株式にしておくと、会社の意思決定の権限を経営者等に集中させることができます。これによって、日頃から経営に関わっていない株主があれこれと口出ししにくくなり、意思決定がスムーズにいきます。

1.2.2.議決権制限株式の発行は、全株式に「譲渡制限」が付いていれば無制限

議決権制限株式は、会社の経営への参加が制限される株式です。したがって、たくさん発行すればするほど、少数の人間で会社を牛耳ることができるようになります。

言い換えると、議決権制限株式が多くなればなるほど、会社の運営が非民主的、不公平になるということです。そのため、原則は、議決権制限株式を発行する場合、その数が1/2を超えてはならないということになっています。

ただし、「非民主的・不公平」が全て悪いわけではありません。その方がいい会社もあります。それは特に、いわゆるカリスマ経営者がワンマン経営をしている会社や、親族や仲間内といったごく限られた範囲の人で運営されている会社です。

こういう会社の多くは、定款で、全ての株式に「譲渡制限」、つまり、株式を他へ売るのに社長のOKが必要だという制限を定めています(「非公開会社」と言います)。なぜなら、簡単に一般人に株式が渡ってしまうと、その人たちが株主として経営に口出できるようになってしまい、かえって不都合だからです。

そして、この「非公開会社」では、議決権制限株式の発行に限度はなく、1/2を超えてもいくらでも発行して良いことになっています。極端な話、1,000株発行しているうち、999株を議決権制限株式にしても良いわけです。

このように、経営者等以外が株主総会で議決権を行使できないようにすれば、会社の意思決定が非常にスムーズになります。

1.3.議決権制限株式は事業承継をスムーズに行う準備に役立つ

次に、議決権制限株式は、事業承継、つまり経営権を後継者へとスムーズに移すのに役立ちます。

事業承継をスムーズにするには、会社の意思決定をする権利、つまり、株主総会での議決権の大部分を経営者自身が握っていた方が良いでしょう。

そこで、経営者以外の株主の株式を全て議決権制限株式にして、株主総会で議決権を行使できないようにするのです。こうすれば、経営者は、自分の株式をそのまま後継者に渡すだけで、スムーズに経営権を後継者に移すことができます。

1.4.議決権制限株式の株主の「逆襲」に注意

このように、議決権制限株式は、会社の意思決定、事業承継にとって役に立つ面があります。

ただし、注意が必要な点があります。どういうことかというと、議決権が制限されているからといって、その株主が何もできないわけではありません。

議決権のない株主でも、取締役が会社の利益を害する行為をしたとみれば「株主代表訴訟」という訴えを起こすことができるのです。

株主代表訴訟は1人でも訴えを起こせてしまうので、中小企業では非常に多いです。逆に言うと、経営者等が完全に好き勝手できるわけではないのです。

株主代表訴訟を防ぐには、日頃から一般株主との関係を良好に保ち、法令の遵守に努めることが大切です。公私混同もNGです。

法令を遵守するとは、たとえば、株主総会をちゃんとした手続にしたがって招集する(所定の期限までに書面で日時・議題等を通知するか、定款に定めておけばメールでも良い)といったことです。

ささいと言えばささいなことです。しかし、小規模な会社であればあるほど、こういった手続がいい加減になっていることが多いのです。そして、そこを突かれて株主代表訴訟を起こされたりするので、注意が必要です。

2.今ある株式を議決権制限株式にする方法|「全部取得条項付種類株式」を活用する

ここでは、経営陣以外の株式を議決権制限株式に変えてしまいたい場合、どうすれば良いのかについてお伝えします。

株主がすんなり納得してくれれば問題ありませんが、自分の発言権が奪われるとなると、納得してもらうのは難しいでしょう。そこで、考えられるのは以下の2通りの方法です。

  • 議決権制限を付ける見返りに「特別扱い」をしてあげる
  • 「全部取得条項付種類株式」を活用してうむをいわさず議決権制限を付ける

それぞれについて説明します。

2.1.株主を説得して議決権制限を付ける方法|見返りに「特別扱い」をしてあげる

まず、考えられるのが、議決権を制限する代わりに、何らかの見返りを与えてあげることです。たとえば、議決権制限株式の株主が優先的に配当を受けられるようにしてあげるなどの方法が考えられます。

ここで重要なのは、株主に対し、議決権の制限を付ける理由と、その見返りの内容について、丁寧に説明することです。

2.2.説得に失敗した場合の最後の手段|「全部取得条項付種類株式」を活用してうむをいわさず議決権制限を付ける

株式を買い取れるだけの財源(配当可能な利益)が足りず、また、議決権制限を付けることについて説得しきれなかった場合、最後の手段があります。それは、「全部取得条項付種類株式」という株式を使う方法です。

「全部取得条項付種類株式」なんて、いかにも長ったらしくて耳慣れない名前で、非常にイメージしにくいと思いますので、分かりやすく説明します。

「全部取得条項付種類株式」は、株主総会で決議すればその種類の株式を会社がうむをいわさず株主から取り上げてしまえる株式です。なお、この株主総会決議は「特別決議」といって、「議決権の過半数を持つ株主が出席の上、2/3の賛成」があれば成立します。

特定の種類の株式だけを狙い撃ちして「全部取得条項」を付けるのです。そのため、前提として、会社が2種類以上の株式を発行している必要があります。

「2種類以上」と書くと「今1種類しかないよ!これから新しい種類の株式を発行しなければならないのか?」とお思いになるかも知れません。しかし、実際に現時点で2種類以上の株式発行している必要はなく、定款で、今後新たに発行すると定めておけば良いのです。

これを使って、以下の手順で、従来の株式を議決権制限株式にします。

なお、話を単純にするため、株式数は100株とします。

  1. 定款変更し、新たに議決権制限株式を発行する旨を定める(2種類の株式を発行する会社となる)
  2. 定款変更し、従来の株式(普通株式or譲渡制限株式)を全部取得条項付種類株式にする
  3. 従来の株式(全部取得条項付)を全て会社が買い取り、対価として議決権制限株式を発行する
  4. 経営者等だけに従来の株式(普通株式or譲渡制限株式)を発行する

なお、これら1~4の手順は全部、株主総会で1回の「特別決議」(議決権の過半数を持つ株主が出席し、2/3の賛成で成立)でまとめて済ませることができます。

手順1.定款変更し、新たに議決権制限株式を発行する旨を定める

まず、2種類以上の株式を発行する会社になる必要があります。この点については、上述の通り、現時点で2種類以上の株式発行している必要はなく、定款で、今後新たに発行すると定めておけば良いことになっています。

そこで、定款で、新たに議決権制限株式を発行する旨を定めます。

この段階で、株式の内訳は以下の通りです。

  • 従来の株式:100株
  • 議決権制限株式:0株

手順2.定款変更し、従来の株式(普通株式or譲渡制限株式)を全部取得条項付種類株式にする

次に、従来の株式に「全部取得条項」を付けるという定款変更を行い、全部取得条項付種類株式にします。全部取得条項とは、強制的に会社が取り上げてしまっていいという条項です。

この段階で、株式の内訳は以下の通りです。

  • 従来の株式(全部取得条項付):100株
  • 議決権制限株式:0株

なお、従来の株主は、全部取得条項、つまり強制的に会社が取り上げてしまっていいという条項を付けられるのに反対であれば、会社に対し、「株式を適正な価格で買い取れ!」と請求することができます(反対株主の株式買取請求権)。

手順3.従来の株式(全部取得条項付)を全て会社が買い取り、対価として議決権制限株式を発行する

さらに、会社が従来の株式(全部取得条項付)を全て「全部取得条項」によって強制的に買い取り、その対価として、議決権制限株式を発行します。この時点で、株式の内訳は以下のようになります。

  • 従来の株式:0株
  • 議決権制限株式(強制的に買い取る対価):100株

なお、この時、従来の株主は、株式を取り上げられる見返りとして受け取る対価が議決権制限株式だということに反対であれば、20日以内に裁判所に対し、「適正な価格を決めてくれ!」と申し立てることができます(反対株主の価格決定申立権)。

手順4.経営者等だけに従来の株式(普通株式or譲渡制限株式)を発行する

そして、経営者等の中心メンバーにだけ、従来の株式、つまり、議決権の制限が付いていない株式を発行します。

たとえば従来の株式を経営者等だけに10株発行する場合、株式の内訳は以下のようになります。

  • 従来の株式:10株
  • 議決権制限株式:100株

以上、手順1~4のように、「全部取得条項付種類株式」を活用することで、半ば強引に、経営陣以外の株主が株主総会での議決権を持たないようにすることができるわけです。

ただ、この方法はかなり強引なので、いきなり実行すると株主から総スカンを食らうリスクがあります。あくまで、「議決権の制限を付けさせてください、その代わり優先的に配当します」などと説得を試みて、それでもうまくいかなかった場合の最後の手段として考えておくべきでしょう。

3.新たに議決権制限株式を発行するには株主総会の特別決議

なお、これから新規に議決権制限株式を発行したいという場合についても、手続を簡単に説明しておきます。

必要な手続は、株主総会の特別決議(議決権の過半数をもつ株主が出席し、議決権の2/3以上の賛成があれば成立)です。この条件は厳しいように見えますが、中小企業では満たしやすいでしょう。

まとめ

議決権制限株式を活用すると、株主総会での議決権を経営者に集中させることができます。そうすれば、意思決定が円滑に行えるようになり、また、事業承継をスムーズに行うのにも役立ちます。

ただし、株主にとっては、自分の株式の議決権が制限されるというのは、すんなりとは受け入れにくいものだと考えられます。したがって、議決権を制限する見返りとして相応の特典を与える等の配慮をして、説得を試みることをおすすめします。

そして、それができなかったならば、最後の手段として、「全部取得条項付種類株式」を活用して強制的に議決権制限株式にする方法も考えられます。

動画でも解説しています

社長の資産防衛チャンネルでは、税理士が同じテーマをより詳しく解説しています。 文字で追いきれなかったところは、動画でご覧ください。

社長の資産防衛チャンネルを見る →
M&A

副業発の会社でも1億円で売却可能。スモールM&Aで創業者利益を最大化する準備と戦略

「会社を売る」と聞くと、後継者不在や経営者の高齢化といった消極的な理由を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし近年、1人社長の会社や副業から立ち上げた小さな会社が、億単位で売却されるケースが急増しています。むし…

2026年7月27日
M&A

売上3億円・営業利益5,000万円の会社はいくらで売れるのか|M&Aにおける企業価値の算定と高値売却のポイント

「自分の会社は、もし売却したらいくらになるのだろうか」——経営者であれば、一度は考えたことがあるテーマではないでしょうか。後継者不足が深刻化するなか、第三者へのM&Aによる事業承継は今や有力な選択肢のひとつとなっ…

2026年6月26日
M&A

株式の評価方法|株式の相続税対策に役立つ全知識まとめ

あなたは、経営している会社の株式の相続や事業承継の対策を立てるため、手始めに、株式の財産価値の評価方法を知りたいことだと思います。 大多数の会社の株式は、上場しておらず取引もされていないため、財産価値をどうやって評価する…

2024年9月25日
M&A

法定相続人とは?必ず押さえておくべき5つのポイント

ここをお読みの皆様は、相続対策について書物やウェブサイトを調べていて、「法定相続人」という言葉をよく目にしていることと思います。 しかし、専門用語が多くて分かりにくかったり、「法定相続人」をめぐる法律上のルールが複雑に見…

2022年11月18日
通話料無料で今すぐ電話で相談予約フォームから無料相談予約