住宅ローンの繰上げ返済を行なうときの2つの注意点

「住宅ローンの繰り上げ返済は、最高の資産運用術だ。」と言われています。そのため、日本人は、貯金ができれば、すぐに繰り上げ返済という方が多いと感じています。

確かに、繰り上げ返済を行なうと総返済額を減らすことができます。しかし、そこだけにとらわれると、家族でより幸せな時間を持つために買った住宅なのに、節約で頭が一杯になるということにもなりかねません。

また、なんでもかんでも繰り上げ返済にあてていると、預貯金が減り、事故や災害など突発的なことがあった時に、首が回らなくなってしまいます。

答えから言うと、基本的に、繰上げ返済は最高の資産運用などではありません。むしろ、最悪の部類になることもあり得ます。

今回は、繰上げ返済の基本から、どう言う人がどう言う場合に活用すべきかなども解説しています。ご覧いただくと、繰り上げ返済が最高の資産運用なんかではないということを感じていただけることでしょう。

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野沢 勝久

野沢 勝久

ファイナンシャルプランナーCFP 住宅ローンアドバイザー
1級ファイナンシャルプラン二ング技能士 相続診断士
大手生命保険会社ライフプランナーで人生の地図といわれるライフプランニングにより、マイホーム購入・学費・老後の安心を与えてきました。1人でも多くの方の夢や希望をサポートしていきたいと考えています。生命保険・損害保険・税務・相続に強いファイナンシャルプランナー。

1. 繰上げ返済とは

住宅ローンの繰り上げ返済とは、単純に言うと、ローンの総返済額を少なくすることです

住宅ローンの借り入れをするとき、借り入れる金額、借入期間、支払う金利で、毎月いくら返していけばよいのか(毎月返済額)が決まります。例えば、4,000万円を35年間1%の金利で借り入れるとしましょう。その場合、毎月13万2,505円の返済を35年(420回)続ければ完済となります。

それでは、ここで毎月の返済額13万2,505円を420回で掛けて見ましょう。いくらになっているでしょうか?答えは約5,565万円です。総返済額の5,565万円と、借入金額4,000万円の差1,565万円は全て金利分です。金利1%と言うと、とても小さい数字のように見えるかもしれませんが、4,000万円を借りたとしたら、35年後には金利部分だけで約1,565万円にもなるのです。

さて、このように、毎月の返済額13万2,505円は、4,000万円に対する「元金返済分」と先ほどの1,565万円に対する「利息支払分」の2つで構成されています。しかし、4,000万円借りたのに、実際には5,565万円も返さないといけないと言うのは、なんとなく損した気分になりますよね。

そこで、繰上げ返済の出番です。

繰り上げ返済とは、決められた毎月の返済額13万2,505円とは別、100万円などの返済を行うことで、ローンの残り(元金)を予定より早く減らしていくことです。元金を減らせれば、利息分も減らすことができます。

従って、例えば、今100万円を前倒しして支払うことは、将来の150~160万円の負担をなくすことと同じ意味になるのです。

2. 繰り上げ返済の2つの効果

繰上げ返済には、以下の2種類があります。

  • 期間短縮型:将来の利息分の支払い総額を減らすための繰上げ返済
  • 返済額軽減型:月々の支払額を少なくするための繰上げ返済

一般的に繰り上げ返済と言われよく利用されるのは前者です。しかし、それぞれに特徴があり、返済の目的によって、上手に使い分けることが大切です。

2.1. 期間短縮型 |支払利息を効果的にカット

期間短縮型の繰上げ返済は、返済期間を前倒しにすることで、利息分の支払い総額をカットするために行います。

例えば、先ほどの例で、購入1年後に100万円を返済した場合、それだけで返済期間を1年1ヶ月短縮することができて、ローンの総返済額も約145万円減らせることができます。

従って、期間短縮型は、

  • 総返済額を効率的に減らしたい
  • ローンの早期完済を目指したい

と言う方に効果的です。

2.2. 返済額軽減型|将来のキャッシュフローを安定させる

返済額軽減型は、その名の通り、返済期間は変えずに、月々の支払額を減らす目的で行うものです。これも先ほどの例で、購入1年後に100万円の繰り上げ返済をしたとします。

その場合、毎月の返済額は2,715円減って、12万9790円にすることができます。そして、これによって、ローンの総返済額は約81万円減ることになります。こちらのタイプは、このような方におすすめです。

  • 月々の家計支出を減らしたい
  • 奥様が退職するなど将来の収入減に備えたい
  • 将来の住宅ローンの借り換えを検討している

3. 繰り上げ返済を行なう時の2つの注意点

住宅ローンの繰り上げ返済の基本的考え方は、預貯金とのバランスが最も重要です。先ほどの効果を考慮して計画的に繰り上げ返済を利用することが求められます。そこで、繰り上げ返済の利用方法の2つの注意点をみていきます。

3.1. 期間短縮型は預貯金に余裕がないと危険

住宅ローンの支払い利息の大きさに腹を立てて、100万円などのまとまったお金ができたら、すぐに繰り上げ返済にあててしまう方がいます。しかし、これはある意味で危険です。
なぜなら、人生の中では予期せぬ出費が必要なときがあります。急な病気や事故にあってしまったり、予測できない災害によって家を補修しなければならなくなったり。そんな時に、預貯金が少ないと乗り切ることができません。

また、繰上げ返済にやっきになるばかりに、人生の楽しみの部分まで削るぐらい極端な節約をされる方もいます。家族のより大きな幸せのための住宅購入なのに、ローンが元で、生活を切り詰めないといけないと言うことになれば本末転倒ですね。

つまり期間短縮型は、ある程度預貯金に余裕がある方向けのものと言えます。

3.2. 返済額軽減型ですぐに毎月の返済額を減らすのは不可能に近い

家計が厳しいから、返済額軽減型を検討しようとするのは、あまり良い考えではありません。なぜなら、100万円や200万円を返済にあてても、月々の返済額は数千円しか減らないからです。それだと、今現在の家計が厳しいなら、預貯金を持っておいた方が、まだ安全です。

返済額軽減型は、、10年後や20年後などのある時期までに、月々の返済額をいくらまで減らすという長期的な目標を持って行なうものです。

これは、期間短縮型にも返済額軽減型にも言えることですが、繰り上げ返済は、「利息がもったいないから」「月々の返済がきついから」と言う逃げの理由で行なうものではありません。あくまでも、将来の家計の状況をシミュレーションして、将来の家計のキャッシュフローを良くするために行うものです。

終わりに

繰り上げ返済への認識を誤ると、突発的にお金が必要となった時に、人生設計が大幅に狂ってしまう可能性があります。場合によっては、新たに別の場所からお金を借りなければならないこともあり得ます。

基本的に、繰上げ返済は、預貯金に余裕がある人が行うものです。しかし、預貯金があって金融の知識がある人は、資産運用という選択肢もあります。現在の住宅ローン金利は0.8%前後ととても低いです。そのため、これ以上の利回りを出している方は少なくないでしょう。

その場合は、繰り上げ返済に資金を充てるより、運用に回した方が良いのです。この点から、繰上げ返済は、最高の資産運用術などではあり得ないのです。
最後に、繰上げ返済は、あくまでも、シミュレーションを行って、より良い将来を作り上げるために行ってください。利息が勿体無いとか、月々の返済がきついとか、そうした後ろ向きな理由で行うべきものではないということをご理解いただければと思います。

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