純資産価額方式とは?自社株の相続税対策に必要な知識まとめ

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あなたは、ご自身が経営している会社の株式、あるいは役員を務めている会社の株式について、相続対策をお考えになっていると思います。そして、株式の財産価値の評価方法の一つとして、純資産価額方式という方法があるということで、その内容について調べようとしていると思います。

株式の評価方法についてはややこしい話がいっぱいあります。たとえば、同じ会社の株式でも、株主によって評価方法が違うのです。

株式の評価方法の中でも、純資産価額方式は、会社のナマの資産価値に着目した評価方法です。そして、会社の財産価値を強く支配していればいるほど、純資産価額方式が適していることになります。したがって、特に、株主と会社との結びつきが強い中小企業では、最も多くのケースで用いられる評価方法なのです。

この記事では、純資産価額方式とはどのようなものか、どのような株式が対象となるのか、どうやって使われるのかについて、分かりやすく説明します。

1.純資産価額方式とは

純資産価額方式とは、簡単に言えば、会社の「純資産価額」を株式の数で割って算出する計算方法です。

イメージとしては、現時点で会社が仮に解散したとしたら、株主がいくらの財産を受け取れるのか、という視点です。その場合の会社の正味の財産の価額を「純資産価額」ととらえるのです。

この「純資産価額」というのは、会社の今あるプラスの財産(資産)からマイナスの財産(負債)を差し引いた額で、全ての売掛金等を回収し終えて、全ての借金や買掛金等を支払い終え、残った財産を売り払った後に、最終的に残る財産です。

もし今会社が解散すればこの「純資産価額」が株主に分配されるので、それを株式の価値ととらえるのです。

ここで、「純資産価額」というと、下図のような、貸借対照表の「純資産の部」を思い浮かべると思います。

「資産の部」-「負債の部」=「純資産の部」となっています。

貸借対照表イメージ

しかし、純資産価額方式でいう「純資産価額」は、この貸借対照表上の「純資産の部」の総額とイコールではありません。

純資産価額方式の「純資産価額」は、「純資産の部」に記載されている内容を前提として、そこに、以下の2つのプロセスを加えて算出されます。

  1. 「資産の部」と「負債の部」の財産の価値を相続税法のルールで時価評価し直し、「ナマの純資産」の額を算出する
  2. 「ナマの純資産」の額から、「純資産の部」の総額との差額分にかかる法人税等の額を差し引く

字面だけだとなかなかイメージしにくいと思いますので、以下、それぞれのプロセスについて具体的に説明していきます。

1-1.「資産の部」と「負債の部」の財産の価値を相続税法のルールで時価評価し直し、「ナマの純資産」の額を出す

税法は、基本的には、税金を課税する時点での財産の価値をとらえます(時価主義)。それが最も公平だからです。

しかし、貸借対照表上の「純資産の部」の総額は、それぞれの財産について現時点での正確な価値を反映しているとは言えません。というのは、「資産の部」と「負債の部」の項目はいずれも、取得価格、つまり手に入れた時点での価格が記載されているからです。たとえば、工場用の敷地を5,000万円で購入して、それが現在6,000万円になっていたとしても、貸借対照表の「資産の部」には5,000万円として記載されます。

これでは、現時点で同じ価値の財産でも、手に入れた時によって帳簿上の価格が変わってしまうことになり、税金を課税する上で不公平が生じてしまいます。

そこで、「資産の部」「負債の部」のそれぞれの財産について、相続税法のルールで時価評価し直し、「ナマの資産額」「ナマの負債額」を算出する必要があります。

そうして、それらの差額、つまり「ナマの純資産」を出します。

※イメージ

計算プロセス1

1-2.「ナマの純資産」の額から、「純資産の部」の総額との差額分にかかる法人税等の額を差し引く

上述のプロセスで「ナマの純資産」の額を算出すると、貸借対照表上の「純資産の部」の総額よりも高く出ることがあります。

ここでもう一度、「純資産価額」とは何かということをおさらいしておきます。

「純資産価額」というのは、会社の今あるプラスの財産(資産)からマイナスの財産(負債)を差し引いた額です。言い換えると、全ての売掛金等を回収し終えて、全ての借金や買掛金等を支払い終え、残った財産を売ってカネに換えた後に、最終的に残る財産です。

残った財産を売ってカネに換えると、「ナマの純資産」の額と「純資産の部」の額との差額が出ます。

本来ならば、「ナマの純資産」-「純資産の部」の額は会社の利益(益金)なので、そこから法人税等が持っていかれるはずです。したがって、その税金として差し引かれる部分の金額に相続税を課税するわけにはいきません。

そこで、まず、評価差額にかかる法人税等の分の金額を算出し、それを、「ナマの純資産」の額から差し引く必要があります。

なお、税率(法人税と住民税等を合計したもの)は37%として計算することになっています(平成28年5月時点)。

つまり、

「ナマの純資産」の額 - (「ナマの純資産」の額-「純資産の部」の額) × 37% = 純資産価額

ということになります。

そして最後に、株式の1株あたりの評価額は、

純資産価額 ÷ 株式数 = 1株あたりの評価額

ということになります。

以上が、純資産価額方式による株式の評価額の計算方法です。

では、この純資産価額方式は、どのような場合に、どうやって適用されるのでしょうか。次に説明します。

2.純資産価額方式の対象となる株主・株式と適用の方法

2-1.純資産価額方式は会社への影響力が大きい株主が持っている株式に使われる

2-1-1.純資産価額方式は未上場でかつ取引されていない株式の評価方法の一つ

次に、純資産価額方式がどのような株式に使われるかを整理しておきます。

株式は必ず、以下の3通りに分けることができます

  1. 上場株式
  2. 上場していないが取引相場がなんとなく分かる株式
  3. 上場しておらず取引もされていない株式

あなたが経営者または役員を務めていて会社の株式の多数を握っている場合、その株式は「3.上場しておらず取引もされていない株式」にあたります。そして、相続税の計算において株式の評価額が問題になるのは、もっぱらこのタイプなのです。

なぜかというと、「3.上場しておらず取引もされていない株式」は売り買いされること自体がまれなので、客観的な価格をつけることが非常に難しいからです。

なお、「1.上場株式」は、市場価格が客観的に明らかになっているので、それを評価額とすれば良いだけです。また、「2.上場していないが取引相場がなんとなく分かる株式」、これはたとえば上場準備をしている株式等ですが、取引相場をある程度客観的に計算することができるので、特に評価について問題は生じません。

2-1-2.純資産価額方式だと評価額が最も高くなりやすい

「3.上場しておらず取引もされていない株式」について、法令で定められている株式の評価方法は、以下の3種類です。

「原則的」と「特例的」というのがそれぞれどういう意味なのかは後述しますが、とりあえずここでは「原則的評価方法」は評価額が高め、「特例的評価方法」は評価額が低めに出るとイメージしておいてください。

〈原則的評価方法(高め)〉

〈特例的評価方法(低め)〉

これら3つの方式のうち、純資産価額方式が最も、株式の評価額が高めに出る傾向があります(ただし、必ずそうなるわけではありません)。また、配当還元方式が最も低く出ます。

2-2.純資産価額方式と他の方式との使い分け

これらの3種類の評価方法をどのように使い分けするかは、法令と税務当局の解釈基準(通達)でこと細かに定められています。詳細については改めてお伝えしますので、現時点では、以下のことをざっくりと理解していただければけっこうです。

  • 会社の意思決定への影響力が強いほど純資産価額方式が使われる
  • 会社の規模が小さいほど純資産価額方式が使われる
  • 特殊な会社の株式は全て純資産価額方式が使われる

以下、それぞれについて説明していきます。

2-2-1.会社の意思決定への影響力が強いほど純資産価額方式が使われる

まず、会社の意思決定への影響力の強弱による区別です。

同じ会社の株式でも、それを持っている株主が会社に及ぼす影響力によって、財産価値の評価が違ってきます。

ここがなかなかイメージしにくいところだと思いますので、説明しておきます。

株式とは、ざっくりと言えば、会社の財産価値を細かく均等に分けたものです。

そして、会社の意思決定は、会社の組織構成により多少の違いがありますが、株主総会や取締役会・代表取締役が行います。

株主総会では、1株につき1票(1議決権)というのが原則なので、株式をたくさん持っている株主ほど、会社の意思決定への影響力が大きいといえます。

また、株主が役員を兼ねていれば、より一層、経営への発言権・影響力が大きいでしょう。

たとえば、株式を1000株発行している会社があったとします。

もしも、あなたが株式を900株(90%)持っていて、かつ代表取締役社長も務めている場合、会社の意思決定への影響力は絶対的と言えます。会社の命運を左右する立場で、会社の資産価値をほぼ完全に支配していると言ってよいでしょう。

逆に、たとえば1000株のうち1株(0.1%)しか持っていないし役員でもないのであれば、会社の意思決定への影響力は微々たるもので、会社から受ける利益としてはせいぜい、利益が出たら配当金を受け取るくらいと言ってよいでしょう。

この両者の株式について、財産価値を形式的に平等に評価すると、かえって不公平になってしまいます。

したがって、同じ会社の株式でも、会社に絶大な影響力のある株主が持っている株式と、ほとんど影響力のない株主が持っている株式とでは、財産価値が違うということになります。

〈会社の意思決定への影響力の強弱による区別〉

  • 会社の意思決定に一定程度の影響力がある株主の株式 → 「原則的評価方法」
  • 会社の意思決定に及ぼす影響が非常に弱い株主の株式 → 「特例的評価方法」

「一定程度の影響力がある」というのがどういう場合なのかは、詳しくは「株式の評価方法|株式の相続税対策に役立つ全知識まとめ」をご覧ください。

ここでは、あなたが経営者や役員で、ある程度の数の株式を握っているのであれば、「一定程度の影響力」があると言え、「原則的評価方法」で評価されるということだけイメージしておいてください。

〈原則的評価方法(高め)〉

  • 純資産価額方式
  • 類似業種比準方式

これに対し、あなたが1株しか持っていないなど、会社の意思決定に及ぼす影響が非常に弱いのであれば、「特例的評価方法」ということになります。

〈特例的評価方法(低め)〉

  • 配当還元方式

2-2-2.会社の規模が小さいほど純資産価額方式が使われる

あなたが会社に対して一定の影響力を持っている場合には、あなたの株式の価値は「原則的評価方法」で評価されることになります。

そして、原則的評価方法は、以下の表の通り、「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」の組み合わせで行います。

 

折衷方式

考え方の方向性としては、まず、前提として、上述の通り、一般に「純資産価額方式」の方が「類似業種比準方式」よりも評価額が高く出る傾向があります。

そして、会社の規模が小さくなるほど影響力が細部まで及ぶようになるので、純資産価額方式の役割が大きくなっていく傾向があります。

ただし、場合によっては、純資産価額方式の方が類似業種比準方式よりも評価額が低く出ることもありますので、そのような場合には純資産価額方式100%を選ぶことができます。

会社の規模の大・中・小は、業種によって違います。従業員数が100名以上ならば全て大会社になりますが、従業員100名未満の場合は、以下の通り、3タイプに分けられています。

ご自身の株式がどれにあたるのか、確認していただけたらと思います。

〈小売業・サービス業〉 ※従業員数が100名以上なら大会社

会社の規模(小売・サービス業)

〈卸売業〉 ※従業員数が100名以上なら大会社

会社の規模(卸売業)

〈その他(小売業・サービス業・卸売業以外)〉 ※従業員数が100名以上なら大会社

会社の規模(その他)

2-2-3.特殊な会社の株式はすべて純資産価額方式が使われる

上では「原則的評価方法」における純資産価額方式について述べてきましたが、特殊な会社の株式は、会社の規模(小会社か中会社か大会社か)を問わず、必ず純資産価額方式で評価されることになります。

その特殊な会社とは、以下の5タイプです。

  • 総資産額の50%以上を株式が占めている会社(株式保有特定会社)
  • 総資産額の一定割合を土地が占めている会社(土地保有特定会社)
  • 開業3年未満の会社
  • 過去2期に利益・配当がなく、直前期の純資産がゼロの会社
  • 開業前・休業中・清算中の会社

なぜならば、このような会社は、原則的評価方法で「純資産価額方式+類似業種比準方式」で評価すると、相続税の負担が、純資産価額方式100%の場合より不当に軽くなってしまうおそれがあるからです。

■総資産額の50%以上を株式が占めている会社(株式保有特定会社)

「総資産額の50%以上を株式が占めている会社」の株式は、純資産価額方式で評価されます。

なぜならば、経営者・役員個人が、株式にかかる相続税を軽くするため、別会社(株式保有特定会社)を設立して、株式をそこに移すことが考えられるためです。

株式保有特定会社

ただし、株式保有特定会社の財産を評価するのに、株式等の部分について純資産価額方式で評価し、それ以外の財産については会社の規模に応じて原則的評価方法どおりに評価するという方式をとることもできます(S1+S2方式と呼ばれます)。

■総資産額の一定割合を土地が占めている会社(土地保有特定会社)

「総資産額の一定割合以上を土地が占めている会社」の株式は、純資産価額方式で評価されます。

なぜならば、土地は相続税評価額が市場価格よりも低くなります。そのため、会社が借入等をして土地を購入し、株式の評価額を下げようとすることに対処する必要があるからです。

「一定の割合」は、小会社・中会社であれば原則90%以上(例外あり)、大会社であれば70%以上となります。

■開業3年未満の会社

開業3年未満の会社の株式は、純資産価額方式で評価されます。

これは、財産を持っている人が、節税目的で会社を設立し、評価額が低めに出る「類似業種比準方式」の適用を受けようとすることを防止するためです。

■過去2期に利益・配当がなく、直前期の純資産がゼロの会社

類似業種比準方式を使う場合、過去2期分の利益・配当を基に株式を評価します。

しかし、これだと、過去2期に利益が計上されておらず、株主への配当もしていない場合、評価額が不当に低く出てしまいます。

したがって、過去2期分の利益・配当がなく、直前期の純資産がゼロの会社の株式は、必ず純資産価額方式で評価されます。

■開業前・休業中・清算中の会社

類似業種比準方式は、業種ごとの収益率等から株式の評価額を算定する方法なので、その業種の事業活動を行っている場合を前提としています。

しかし、開業前・休業中・清算中の会社は、事業活動を行っていないため、類似業種比準方式で評価する合理性がありません。

そこで、会社のナマの資産価値をとらえるために、必ず純資産価額方式で評価されます。

まとめ

純資産価額方式は、会社のナマの資産価値に着目した評価方法です。したがって、あなたが会社を強く支配していればいるほど、純資産価額方式で評価されます。

ご自身の会社の支配の度合い(株式の割合・役員かそうでないか等)、会社の規模(小会社・中会社・大会社のどれか)、会社の種類(特殊な会社にあたらないか)等によって、純資産価額方式が使われるのか、使われるとしてどの程度なのかが決まってきます。

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齋藤 孝一(監修者)

齋藤 孝一(監修者)

【所属】
名古屋商科大学大学院 会計ファイナンス研究科 専任教授 法学博士
株式会社MACコンサルタンツ 代表取締役 社長兼会長
ミッドランド税理士法人 代表社員 理事長

【資格】
税理士(5科目合格) 中小企業診断士 行政書士 CFP(FP一級技能士)

【学歴・公職等】
1949年生まれ 名古屋大学大学院法学研究科 博士後期課程単位取得(会社法専攻)
名古屋商工会議所 税制委員会・中小企業委員会 各委員/NPO法人中部定期借地借家権推進機構 理事長/中日文化センター・NHK文化センター各常任講師/TKC全国会会員/論文「会計参与の法的責任」にて第2回新日本法規財団奨励賞受賞

【所属学会】
日本私法学会 日本税法学会 租税訴訟学会 事業承継学会 日本FP学会 各会員

【専門分野及び講義の特徴】
・税理士業務では、租税法・会社法・民法を駆使したタックスプランニング業務、特に、相続・事業承継対策業務を中心に行なっており、資産税に特化した業務を行っている。
・大学院では、会社法・租税法・タックスプランニング・事業承継設計の講義及び租税法論文指導のゼミを担当し、「税理士は法律家たれ!」という視点からの講義を行っている。

【主な著書】
『会計参与制度の法的検討』(単著・平成25年7月刊、中央経済社)
『中小企業経営者のための新会社法』(共著・平成18年3月刊 経済法令)
『逐条解説 中小企業・大企業子会社のためのモデル定款』(共著・平成18年7月刊 第一法規)
『組織再編・資本等取引をめぐる税務の基礎(第2版)』(共著・平成28年4月刊・中央経済社)
『事業承継に活かす従業員持株会の法務・税務(第2版)』(共著・平成24年9月刊 中央経済社)
『中小企業の事業承継(七訂版)』(共著・平成28年4月刊 清文社)
『非公開株式 譲渡の法務・税務(第4版)』(共著・平成26年3月刊 中央経済社) 
『事業承継に活かす持分会社・一般社団・信託』(共著・平成27年10月刊 中央経済社)

【略歴】
公務員上級職等を経て、上場準備企業にスカウトされ、財務部長、事業開発部長を歴任後、1991年4月MAC合同会計事務所(現ミッドランド税理士法人)開業。現在、税理士・同有資格者(15名)、社会保険労務士・同有資格者(7名)、弁護士(2名)、中小企業診断士(2名)、司法書士、行政書士、一級建築士、FP、医業経営コンサルタント、宅地建物取引士等約50名の有資格者等を擁するMACコンサルテインググループの代表として、名古屋&東京で総合経営コンサルティングファームを経営している。
また、名古屋・東京・豊田・岡崎・安城・三重・岐阜に拠点を有するミッドランド税理士法人アライアンスは、職員数200名を超える税理士法人として、中部地区有数の規模を誇っている。

【URL】
http://www.mac-g.co.jp
http://www.midland-alliance.com

出岡 大作(執筆者)

出岡 大作
行政書士資格保有。保険や税金や企業関係法、民法、行政法といった分野について幅広い知識を持つ。また、初めての人にも平易な言葉で分かりやすく説明する文章技術に定評がある。
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