日々の生活や事業運営において、物価の上昇や予期せぬ出費は悩みの種です。「もう少し経済的な余裕があれば…」と感じる方も多いのではないでしょうか。実は、国や地方自治体には、私たちの生活や事業活動を様々な側面から支えるための給付金や助成金、控除制度などが数多く用意されています。
しかし、これらの制度の多くは「申請主義」であり、存在を知らなければ、また知っていても手続きをしなければ、受け取れるはずのお金も受け取れません。
そこでこの記事では、医療、仕事、子育て、住まいなど、私たちのライフステージや日々の暮らしに関連する、申請すればもらえる可能性のあるお金や税金の還付・軽減制度を15個ピックアップして、その概要やポイントを解説していきます。
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1. 医療に関する給付金・控除
① 高額療養費制度
1ヶ月(月の初めから終わりまで)にかかった医療費の自己負担額が、年齢や所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた金額が後から払い戻される制度です。加入している公的医療保険(健康保険組合、協会けんぽ、国民健康保険など)に申請することで利用できます。
例えば、70歳未満で年収約370万円~約770万円の方の場合、1ヶ月の医療費が100万円(自己負担3割で30万円)かかったとしても、自己負担の上限額は約8万7千円程度となり、差額の約21万円が払い戻されます。急な病気やケガで高額な医療費が発生した際に、家計への負担を大きく軽減してくれる心強い制度です。
② 傷病手当金
健康保険の被保険者が、業務外の病気やケガのために仕事を連続して3日以上休み、その間、会社から十分な給与が支払われない場合に、4日目以降の休んだ日に対して支給される手当金です。支給額の目安は、おおむね日給の3分の2程度で、最長で1年6ヶ月間受給できます。病気やケガで長期間働けなくなった場合の生活保障として重要な役割を果たします。
③ 医療費控除
1月1日から12月31日までの1年間に、本人または生計を一つにする配偶者やその他の親族のために支払った医療費が一定額(原則として10万円、所得金額が200万円未満の場合は所得金額の5%)を超えた場合に、確定申告をすることで所得控除を受けられる制度です。これにより、所得税が還付されたり、翌年の住民税が軽減されたりします。
治療費だけでなく、通院のための交通費(公共交通機関)や、医師の指示による市販薬の購入費用なども対象になる場合があります。領収書は必ず保管しておきましょう。
2. 仕事に関する給付金
④ 失業手当(基本手当)
雇用保険の被保険者が失業した場合に、安定した生活を送りつつ、一日も早く再就職するための支援として給付されるものです。
ハローワークで求職の申し込みを行い、働く意思と能力があるにもかかわらず就職できない状態であること、そして離職日以前2年間に被保険者期間が12ヶ月以上あること(倒産・解雇等の場合は離職日以前1年間に6ヶ月以上)などが主な受給要件です。 支給額は、離職前の賃金の約5~8割程度で、年齢や勤続年数、離職理由によって給付日数が異なります。
⑤ 教育訓練給付金
働く人の主体的な能力開発やキャリアアップを支援するため、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講し修了した場合に、受講費用の一部が支給される制度です。雇用保険の被保険者期間などの要件を満たせば、在職中の方も離職中の方も利用できます。
訓練のレベルに応じて「専門実践教育訓練」「特定一般教育訓練」「一般教育訓練」の3種類があり、例えば「専門実践教育訓練」では、受講費用の最大70%(条件を満たせば)が支給されるなど、手厚い支援が受けられます。失業手当と併用できる場合もあります。
3. 子育てに関する給付金・手当
⑥ 出産育児一時金
健康保険や国民健康保険の被保険者またはその被扶養者が出産した際に、出産にかかる経済的負担を軽減するために支給される一時金です。
原則として、1児につき50万円が支給されます(産科医療補償制度に加入していない医療機関での出産や、妊娠22週未満の出産の場合は金額が異なります)。多くの場合、医療保険者から直接医療機関に出産費用が支払われる「直接支払制度」を利用できます。
⑦ 出産手当金
健康保険の被保険者本人が出産のために会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合に支給される手当金です。
支給対象期間は、出産日(実際の出産が予定日後の場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から、出産日の翌日以降56日までの範囲内で、会社を休んだ日数分です。1日あたりの支給額は、おおむね日給の3分の2相当額です。
⑧ 育児休業給付金
雇用保険の被保険者が、原則として1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した場合に、休業期間中の生活を支えるために支給される給付金です。
育児休業開始前の2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上あること、休業期間中に休業開始時の賃金の80%以上の賃金が支払われていないことなどが主な要件です。 支給額は、育児休業開始から180日間は休業開始時賃金日額の67%、それ以降は50%が目安です。
⑨ 児童手当
中学校修了まで(15歳に達する日以後の最初の3月31日まで)の子どもを養育している方に支給される手当です。支給額は、子どもの年齢や人数によって異なりますが、例えば3歳未満は一律月額15,000円、3歳以上小学校修了前は第1子・第2子が月額10,000円(第3子以降は15,000円)、中学生は一律月額10,000円です。
なお、2024年10月支給分からは制度が拡充され、所得制限が撤廃されるほか、支給対象が高校生年代まで延長され、第3子以降の支給額も増額される予定です。原則として申請が必要です。
4. 親族が亡くなった際の給付金・年金
⑩ 遺族年金
国民年金または厚生年金保険の被保険者(または被保険者であった方)が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族(配偶者、子など)の生活を保障するために支給される公的年金です。亡くなった方の年金の加入状況などによって、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」などがあります。それぞれ受給できる遺族の範囲や年金額が異なります。
⑪ 埋葬料・葬祭費
被保険者が亡くなった際に、埋葬にかかった費用の一部を補助するために支給される給付金です。加入している医療保険によって名称や金額が異なり、健康保険の被保険者が亡くなった場合は「埋葬料」(一律5万円)、国民健康保険や後期高齢者医療制度の加入者が亡くなった場合は「葬祭費」(自治体により3万円~7万円程度)が、埋葬を行った方(原則として遺族)に支給されます。
5. 住まいに関する補助金
⑫ ZEH(ゼッチ)住宅購入補助金
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、高い断熱性能や省エネ設備、太陽光発電システムなどを導入することで、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した住宅のことです。国はZEHの普及を推進しており、ZEHの基準を満たす住宅を新築・購入する個人に対して補助金を交付しています。
例えば、一般的なZEH住宅の場合、1戸あたり55万円の補助が受けられる事業があります(年度や事業内容により補助額・要件は変動します)。
6. 【自治体独自も】その他、意外と知られていない給付金・補助金
上記以外にも、各地方自治体が独自に設けているユニークな補助金・助成金制度が存在します。お住まいの自治体のウェブサイトなどで確認してみると、意外な支援が見つかるかもしれません。
⑬ 宅配ボックス設置補助金
再配達削減による環境負荷軽減や利便性向上を目的として、個人宅への宅配ボックス設置費用の一部を補助する自治体があります。例えば、東京都荒川区では、区内業者による設置工事の場合、費用の2分の1(上限5万円)を補助しています。
⑭ 生ごみ処理機設置補助金
家庭から出る生ごみの減量化を推進するため、電動式または手動式の生ごみ処理機の購入費用の一部を補助する自治体も多くあります。例えば、東京都葛飾区では購入費用の2分の1(上限2万円)を補助しています。
⑮ シニア世代スマホ購入補助金
高齢者のデジタルデバイド解消や、マイナンバーカードの普及促進などを目的として、高齢者がスマートフォンを購入する際の費用を補助する自治体も出てきています。例えば、埼玉県秩父市では「シニア世代スマホ購入応援補助金」として、60歳以上の方が特定の条件を満たすと最大3万円の補助金が支給される例があります。
まとめ
国や地方自治体には、私たちの生活の様々な場面をサポートするための給付金、助成金、控除制度などが数多く用意されています。
高額な医療費が発生したとき、仕事を失ったとき、子どもが生まれたとき、住まいを購入するときなど、ライフイベントに応じて活用できる制度は多岐にわたります。また、自治体によっては、より身近な生活改善に役立つユニークな補助金制度が設けられていることもあります。
これらの制度の多くは、自分から申請しなければ受け取ることができません。「知っているか、知らないか」「申請するか、しないか」で、受け取れる金額に大きな差が出ることがあります。情報収集を怠らず、活用できる制度は積極的に利用して、賢く家計を守り、生活を豊かにしていきましょう。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な申請方法や最新情報を知りたい場合に、参考にしてください。