「今期、予想外に大きな利益が出てしまった。急いで節税対策をしたいが、オペレーティングリースのような数千万円単位の大型投資は難しい…」そんな悩みを抱える中小企業の経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は、数百万円から1,000万円程度の比較的小規模な投資からでも、購入・導入した初年度にその費用の全額を経費として計上できる「即時償却」という税制優遇を活用できる場合があります。
即時償却は、課税所得を大幅に圧縮し、当期の税負担を軽減(または将来に繰り延べる)効果があるため、突発的な利益への対応策として非常に有効です。
この記事では、特に注目されている「IoT自動販売機」、条件次第で依然として即時償却が可能な「コインランドリー」、そして特定の地域・条件下での「太陽光発電」という3つの投資対象を例に、即時償却による節税の仕組み、それぞれの特徴、そして活用する上でのポイントについて詳しく解説していきます。
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1. IoT自動販売機投資による節税
IoT自動販売機とは?(機能とメリット)
まず「IoT」とは、「Internet of Things」の略で、「モノのインターネット」と訳されます。様々な「モノ」がインターネット経由でサーバーやクラウドに接続され、相互に情報交換をする仕組みのことです。
IoT自動販売機の進化
このIoT技術を搭載した自動販売機は、単に現金で商品を購入できるだけでなく、多様な機能を持っています。
- キャッシュレス決済: 電子マネーやクレジットカード、QRコード決済などに対応し、利便性が向上します。
- デジタルサイネージ: 液晶ディスプレイを搭載し、動画広告を流したり、おすすめ商品を表示したり、インタラクティブな情報提供が可能です(JR東日本が導入していた「イノベーション自販機」が有名でしたが、こちらはサービス終了)。
- 遠隔管理機能: インターネットを通じて、リアルタイムで在庫状況や売上データを把握できるため、効率的な商品補充や販売戦略の立案に役立ちます。
- 新たな商品展開: 最近では、飲料だけでなく、ポケモンカードなどのトレーディングカード専用のIoT自動販売機や、食品、化粧品、地域産品などを販売するものも登場しています。また、外国人観光客向けに多言語対応したものや、災害時に防災情報を発信する機能を備えたものなど、その用途は拡大しています。
小売店にとっては、省スペースで24時間販売が可能、万引き被害をなくせる、といったメリットもあります。
なぜ節税になるのか?(即時償却の活用)
このIoT自動販売機への投資が節税につながる理由は、「中小企業経営強化税制」という制度を活用することで「即時償却」が認められる可能性があるためです。
即時償却の仕組み(中小企業経営強化税制)
通常、建物や機械、設備などの事業用資産を購入した場合、その取得費用は法定耐用年数に応じて数年間にわたり分割して経費計上(減価償却)します。しかし、「即時償却」が認められると、その取得費用全額を、設備を導入した事業年度に一括で経費として計上できます。これにより、その年度の課税所得を大幅に圧縮し、節税効果を得ることができるのです。 中小企業経営強化税制では、この即時償却か、あるいは取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)を法人税額から直接控除できる「税額控除」のいずれか有利な方を選択できます。
適用要件
中小企業経営強化税制の適用を受けるためには、青色申告を行う中小企業者等が、事前に「経営力向上計画」を作成し国の認定を受け、その計画に基づいて対象設備を新規取得(中古は不可)し、国内で事業の用に供する必要があります。適用期限は2027年3月31日までとなっています。 対象となる設備には類型(A~D類型)があり、それぞれ取得価額(例:機械装置なら160万円以上、ソフトウェアなら70万円以上)などの要件が定められています。IoT自動販売機は、生産性向上設備(A類型)として申請できる場合があります。
節税効果と投資額の目安
IoT自動販売機は、機種や機能によって価格は異なりますが、一台数十万円から高機能なものでは数百万円するものもあります。例えば、500万円のIoT自動販売機を導入し、即時償却を適用できれば、その500万円全額を当期の損金として計上できます。法人実効税率を30%と仮定すると、約150万円の税負担軽減効果が見込めます。
2. コインランドリー投資による節税
即時償却活用の基本(中小企業経営強化税制)
コインランドリー事業で使用する洗濯機、乾燥機、両替機といった設備も、前述の「中小企業経営強化税制」の対象となる場合があります。これらの設備を新たに購入・導入する際に、即時償却または税額控除の適用を受けることで、大きな節税効果が期待できます。
【注意】税制改正後の即時償却の条件
以前は、コインランドリー投資における即時償却の活用は比較的容易でしたが、2023年4月の税制改正により、中小企業経営強化税制の対象から「コインランドリー業(主要な事業であるものを除く。)又は暗号資産マイニング業(主要な事業であるものを除く。)の用に供する資産で、その管理のおおむね全部を他の者に委託するもの」が除外されました。
自ら経営に関与していれば適用可能
これは、いわゆる「投資型コインランドリー」のように、オーナーが設備の購入だけ行い、実際の店舗運営や管理のほぼ全てをフランチャイズ本部や管理業者に丸投げしているようなケースでは、本税制の適用が難しくなったことを意味します。 しかし、オーナー自身が店舗の清掃や集金、利用者対応、広告宣伝活動、従業員の採用・教育など、経営に主体的に関与しているのであれば、依然として中小企業経営強化税制を活用した即時償却の適用を受けられる可能性は残されています。
節税効果と収益性
例えば、コインランドリー開業の初期投資額が4,000万円で、そのうち即時償却の対象となる設備投資費が約70%の2,800万円だったとします。この2,800万円を即時償却できれば、法人実効税率30%と仮定して約840万円の税負担軽減効果が見込めます。 また、コインランドリー事業は、比較的景気に左右されにくく、適切な立地選びと効率的な運営ができれば、年10%前後の安定した利回りが期待できるとも言われています。
成功のポイント
ただし、収益性を確保するためには、商圏分析に基づいた慎重な立地選定と、信頼できる設備業者や運営ノウハウを持つコンサルタントの選定が非常に重要です。
3. 太陽光発電投資による節税(福島復興再生特措法)
特定条件下での即時償却の可能性
太陽光発電投資については、過去にグリーン投資減税などにより即時償却が広く認められていた時期がありましたが、現在では一般的な即時償却制度の対象とはなりにくくなっています。しかし、特定の地域・条件下においては、現在でも即時償却の道が残されています。
「福島復興再生特別措置法」とは?
それが、「福島復興再生特別措置法(特措法)」に基づく税制優遇措置です。この法律は、東日本大震災における原子力災害からの福島の復興・再生を推進するために定められたもので、認定を受けた法人または個人が、福島県内の特定の地域(避難指示解除区域など)で復興に貢献する新規の設備投資を行った場合に、税制上の特例措置を受けることができます。
制度の目的と税制優遇内容
この特措法では、対象となる機械装置などを新規取得した場合、税制優遇として「即時償却」または「取得価額の15%の税額控除」のいずれかを選択適用できます。
即時償却を受けるための主な要件
この特例を利用して太陽光発電設備の即時償却を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
- 対象地域: 福島県内の避難指示が解除された区域等であること。
- 事業開始期限: 原則として、その区域の避難指示が解除された日から7年以内に事業を開始すること(一部地域では延長措置あり)。
- その他: 復興推進計画の認定を受けるなど、詳細な要件があります。
申請期限の確認
避難指示が解除された時期は地域によって異なるため、事業開始の申請期限も場所ごとに異なります。例えば、2023年5月1日に一部避難指示が解除された飯舘村の特定復興再生拠点区域では、2030年4月30日までに事業を開始すれば対象となる可能性があります。最新の情報を福島県や関連省庁のウェブサイトで確認することが不可欠です。
投資シミュレーション例
仮に、福島県内の対象地域で2,000万円(税込)の太陽光発電設備を導入し、土地費用200万円と合わせて初期投資合計2,200万円のケースを考えてみましょう。
年間売電収入が約170万円(発電量低下を年0.5%と仮定した20年平均)、年間の管理費・償却資産税・保険料などの経費が合計約20万円とすると、年間利益は約150万円となります。この場合の投資利回り(NET)は約6.8%(150万円 ÷ 2,200万円)と試算できます。
20年間の固定価格買取制度(FIT)が適用されれば、比較的安定した収益が見込める可能性があります。 そして、このケースで特措法の即時償却を適用できれば、太陽光発電設備の取得価額2,000万円を初年度に全額損金算入でき、大きな節税効果が期待できます。
まとめ
突発的な利益への対応や、計画的な節税策として、IoT自動販売機、コインランドリー、そして特定の条件下での太陽光発電といった設備投資は、「即時償却」という税制優遇を活用することで大きな効果を発揮する可能性があります。これらの投資は、航空機オペレーティングリースなどに比べて比較的小規模な金額から始められる点も魅力です。
ただし、それぞれの投資には、対象となる設備や事業の特性、適用される税制(中小企業経営強化税制、福島復興再生特措法など)の細かな要件、そしてもちろん投資としてのリスクが存在します。特に税制の適用期限や条件は変更されることもありますので、常に最新の情報を確認し、不明な点や判断に迷う場合は、必ず税理士などの専門家に相談しながら慎重に検討することが重要です。
これらの制度を正しく理解し、自社の状況に合わせて賢く活用すれば、税負担を軽減しつつ、新たな収益源の確保や事業の多角化につなげることも可能になるでしょう。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な事例や最新の税制情報などを知りたい場合に、参考にしてください。