会社の業績が順調で、利益もしっかり出ている。それなのに、なぜか社長個人の手元にはお金が残らない…。多くの経営者が、このようなジレンマに頭を抱えています。「手取りを増やそうとして役員報酬を上げると、税金と社会保険料で半分近く持っていかれる」「かといって会社に内部留保しすぎると、将来の株価対策や事業承継で問題になる」
日本の税制において、個人の所得税は「超過累進課税」であり、住民税と合わせると最大55%にも達します。さらに、厚生年金や健康保険などの社会保険料負担も重くのしかかります。つまり、正面から「役員報酬を上げる」という方法は、個人の資産形成において必ずしも正解ではないのです。
では、どうすればよいのでしょうか。答えは、「役員報酬以外のルート」を使って、会社から個人へ資金を移転することです。これらはすべて税法に基づいた合法的な手法であり、知っている経営者はすでに実践し、資産防衛に成功しています。
この記事では、給料を上げずに個人の手取りを増やし、万が一の際にも家族と資産を守るための具体的な5つのノウハウについて、その仕組みと効果を徹底解説します。
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会社と個人、どちらにお金を残すべきか?
具体的な手法の前に、資産防衛の大原則を確認しておきましょう。一般的に、節税の観点だけで見れば「会社にお金を残した方が有利」と言われます。個人の最高税率(約55%)に対し、中小法人の実効税率(約25%〜34%)の方が圧倒的に低いからです。
しかし、リスク管理の観点からは話が別です。経営者は常に、会社の連帯保証や資金繰りのリスクを背負っています。もし会社が傾いた時、社長個人に資産がなければ、再起不能になってしまう恐れがあります。いざという時に会社を救うための「社長貸付金」の原資として、あるいは家族の生活を守る防波堤として、「個人資産の確保」は経営上の必須条件です。
重要なのは、会社と個人のバランスを見極めつつ、最も税負担(および社会保険料負担)の少ないルートで個人にお金を還流させることです。
役員報酬以外で「個人にお金を残す」3つの社内制度
まずは、会社の制度を整備することで、給与課税されずに個人にメリットをもたらす3つの手法を紹介します。これらは即効性が高く、導入ハードルも比較的低いのが特徴です。
①出張旅費規程で「非課税の日当」を受け取る
出張が多い社長にとって、最も手軽かつ効果的なのが「出張旅費規程」の活用です。通常、出張にかかった交通費や宿泊費は実費精算されますが、規程を作成することで、これとは別に「出張手当(日当)」を支給できるようになります。
この日当には、驚くべき税務メリットがあります。
- 会社側:全額を「旅費交通費」として経費(損金)にできる。
- 個人側:所得税・住民税・社会保険料がかからない(非課税所得)。
つまり、会社は法人税を減らしながら、社長は無税で現金を受け取れるのです。例えば、日当を1日2万円と設定し、年間50回の出張があれば、年間100万円を無税で個人に移転できます。これを給与で受け取れば約50万円は税金等で消えてしまうため、その差は歴然です。ただし、「社会通念上妥当な金額」である必要があり、またカラ出張を防ぐための出張報告書の作成など、適正な運用が求められます。
②役員社宅制度で「家賃負担」を激減させる
社長の自宅を会社名義で契約し、「社宅」として貸し出す制度です。個人契約で家賃を払う場合、それは税金や社会保険料が引かれた後の「手取り」から支出されます。しかし、社宅制度を活用すれば、会社が大家に家賃全額を支払い、役員から会社へ一定の「賃料相当額(適正家賃)」を支払うだけで済みます。
この「賃料相当額」は、国税庁の通達に基づき「固定資産税評価額」などから算出されますが、一般的な賃貸相場よりもかなり低く(相場の10%〜50%程度)設定できるケースが大半です。例えば、家賃20万円の物件でも、自己負担を2〜5万円程度に抑えられる可能性があります。浮いた家賃分だけ、個人の可処分所得が増えるのと同じ効果があります。さらに、会社負担分は「地代家賃」として全額経費になります。
③退職金で「税率の低いお金」を受け取る
毎月の役員報酬で受け取るのではなく、将来の「退職金」としてまとめて受け取る方法です。退職金は、長年の功労に報いるという性質上、税制面で別格の優遇措置が設けられています。
- 退職所得控除:勤続年数が長いほど控除額が増えます(勤続20年以下は年40万円、20年超は年70万円)。
- 2分の1課税:控除後の金額をさらに半分にしてから税率を掛けます。
- 分離課税:給与所得など他の所得と合算されず、低い税率から計算されます。
- 社会保険料フリー:退職金には社会保険料がかかりません。これが非常に大きなメリットです。
計画的に退職金を積み立てるためには、「経営セーフティ共済(倒産防止共済)」や「小規模企業共済」、あるいは「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などを活用し、会社の経費や個人の所得控除を使いながら原資を作っていくのが鉄則です。
個人で大きく節税して「手取りを増やす」2つの投資スキーム
次に、経営者個人が主体となって投資を行い、給与所得にかかる税金を圧縮する方法です。これらは「損益通算」という税務の仕組みを利用した、より高度な資産防衛術です。
④直接保有型のオペレーティングリース(航空機など)
通常、オペレーティングリースは法人の節税対策として使われますが、ヘリコプターなどを対象とした「直接保有型」のスキームであれば、個人でも投資可能です。
この投資のポイントは、初期に多額の減価償却費が発生し、会計上の大きな赤字を作れることです。個人事業としての「事業所得」などで赤字が出た場合、それを給与所得などの黒字と相殺(損益通算)することができます。つまり、「給与は高いが、事業で赤字が出たので、トータルの所得は低い」という状態を作り出し、源泉徴収された多額の税金を還付させることが可能なのです。
ただし、将来機体を売却した際には譲渡益が発生します。所有期間が5年を超えていれば「長期譲渡所得」となり、税額が2分の1になる優遇措置があるため、トータルでの節税効果が期待できます。(※税制改正の動向には十分注意が必要です)
⑤中古不動産投資による損益通算
個人で中古の木造アパートなどを購入し、減価償却費によって不動産所得の赤字を作る方法です。個人の場合、不動産所得の赤字は、給与所得と「損益通算」することができます。
特に狙い目なのが、法定耐用年数(22年)を超えた「築古木造物件」です。耐用年数が「法定耐用年数×20%=4年」となるため、建物の購入価格をわずか4年で全額経費化できます。これにより、単年度に巨額の経費(赤字)を計上できます。
給与年収が高く、税率が50%を超えているような経営者であれば、不動産所得の赤字で現在の税率を下げ、将来物件を売却する際の税率(長期譲渡所得税は約20%)との「税率差(アービトラージ)」を利用して、手元に残る資産を最大化することが可能です。
まとめ
役員報酬を上げることだけが、社長を豊かにする方法ではありません。むしろ、税金や社会保険料の負担を考えると、それは「茨の道」とも言えます。
「出張手当」「役員社宅」「退職金」といった会社の制度をフル活用して守りを固め、さらに余力があれば個人の投資による損益通算を組み合わせる。このように複数のルートを持つことで、税負担を最小限に抑えながら、着実に個人資産を形成することができます。
- まずは社内制度の見直しから:旅費規程や社宅制度は導入コストも低く、即効性があります。
- 出口戦略の重要性:退職金積立や投資スキームは、「いつ、どのように現金化するか」という出口戦略が成功の鍵を握ります。
自社の状況や個人のライフプランに合わせて、最適な手法を組み合わせてみてください。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的なシミュレーションや、ここでは紹介しきれなかった注意点についても触れていますので、参考にしてみてください。