会社の業績は順調で、売上も利益も伸びている。それなのに、なぜか個人の手取りがいっこうに増えない…。多くの経営者の方が、そんなジレンマを抱えています。
その原因は、日本の税制と社会保険制度の構造にあります。役員報酬を上げれば上げるほど、累進課税によって所得税・住民税の税率は最大55%まで跳ね上がり、さらに社会保険料(会社負担と個人負担の合計)も給与の約30%という重い負担がのしかかります。「必死に働いて稼いでも、半分近くを国に持っていかれる」これでは、モチベーションが上がらないのも無理はありません。
しかし、世の中には同じ年収でも、驚くほど税金を安く抑え、手取りを最大化している「賢い経営者」が存在します。彼らが実践しているのが、法人経営とは別に、あえて「個人事業主」を兼業するという手法です。
この「社長の二刀流」スキームを活用すれば、合法的に課税所得を圧縮し、場合によっては年間数百万円単位の節税効果を生み出すことも可能です。この記事では、なぜ社長が個人事業主になると得をするのか、その驚くべき3つの税務メリットと、税務署に否認されないための鉄則、そして相性の良い「最強の事業」について、税理士の視点から徹底解説します。
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1.経営者が個人事業主を兼ねる3つの税務メリット
社長が個人事業主を兼業することには、収入源の分散といった経営的なメリットもありますが、最もインパクトが大きいのはやはり税務面です。法人と個人の「人格」を使い分けることで、以下の3つの強力なメリットを享受できます。
①「損益通算」で給与所得の税金をゼロにする
これが本スキームの最大の肝であり、最強の節税効果を生む仕組みです。日本の所得税法には「損益通算」というルールがあります。これは、個人事業(事業所得や不動産所得)で発生した赤字を、会社から受け取る役員報酬(給与所得)の黒字と相殺できるというものです。
「赤字を出したら損をするじゃないか」と思われるかもしれませんが、ここで言う「赤字」とは、必ずしもお金が減ることを意味しません。特に不動産投資において活用される「減価償却費」がその鍵を握ります。減価償却費は、建物の購入費用を数年に分けて経費化する会計上のルールであり、実際には現金の支出を伴いません。つまり、「手元のキャッシュフローは黒字(家賃収入がある)なのに、帳簿上は減価償却費によって赤字になっている」という状態を意図的に作り出すことができるのです。
【驚愕のシミュレーション】
例えば、あなたの役員報酬が1,200万円あるとします。通常、所得税・住民税で約250万円ほどが引かれます。しかし、個人事業の不動産投資で、減価償却費などを活用して帳簿上の赤字をマイナス1,200万円作れたとしたらどうなるでしょうか。
- 給与所得:+1,200万円
- 不動産所得:▲1,200万円
- 課税総所得:0円
課税所得がゼロになるため、本来払うはずだった約250万円の税金が全額還付される(または払わなくて済む)ことになります。これが損益通算の破壊力です。
②控除の「二重取り」ができる
会社員や役員には、スーツ代などの経費の代わりに、無条件で差し引かれる「給与所得控除(最大195万円)」があります。一方、個人事業主として「青色申告」を行えば、帳簿付けなどの要件を満たすことで「青色申告特別控除(最大65万円)」が適用されます。
通常はどちらか一方しか使えませんが、法人と個人の二刀流になることで、この2つの控除枠をダブルで活用できるのです。基礎控除(48万円)と合わせれば、合計で約300万円分の所得に対して税金がかからない「非課税枠」を作り出すことができます。
③社会保険料の負担を劇的に下げる
社会保険料(健康保険・厚生年金)は、会社から受け取る「役員報酬(標準報酬月額)」の額に基づいて決まります。ここが重要なポイントですが、個人事業主としていくら稼いでも、その収入は社会保険料の算定対象外です。
例えば、年収1,000万円を全て役員報酬で受け取ると、社会保険料は上限近くまでかかります。しかし、役員報酬を月額数万円程度(社会保険料が最低ランクになる額)まで下げ、生活費の不足分を個人事業の収益(不動産収入など)で補う形にすればどうでしょうか。世帯としての総収入は変わらないまま、個人・法人双方の社会保険料負担を劇的に(年間100万円以上など)削減することが可能です。
※ただし、厚生年金の等級を下げることは、将来受け取る年金額が減ることを意味します。このトレードオフは理解しておく必要があります。
2.注意点と「利益調整」リスク
メリットばかりに目が行きがちですが、安易な兼業は税務署の格好の標的となります。特に注意すべきは「実態のない利益調整」です。
「利益の付け替え」は脱税行為
最も危険なのが、法人と個人で「同じような事業」を行うことです。例えば、コンサルティング業を営む社長が、個人でもコンサルタントを名乗り、「今月は個人の税率が低いから、この売上は個人に入れよう」「個人の利益を減らすために、自分の会社に外注費を払おう」といった操作を行うケースです。
税務署は、「なぜその取引を法人(または個人)で行う必要があったのか?」という合理的な理由を厳しく追及します。実態のない売上の付け替えや、合理性のない外注費の支払いは、「租税回避行為(利益調整)」として否認される可能性が極めて高いです。法人と個人の事業領域(財布)は明確に分け、直接の取引は極力避けるのが鉄則です。
事務負担の増加
当然ながら、法人の決算とは別に、個人の確定申告が必要になります。経費の混同も許されません。「この領収書は法人の交際費、これは個人の経費」といった仕訳を適正に行う事務能力が求められます。
3.社長の副業に最適な「最強の事業」とは?
では、本業で忙しい経営者が、税務署に怪しまれず、かつ手間をかけずに取り組める個人事業とは何でしょうか。時間を切り売りするアルバイトや、高度な専門知識が必要な資格業は現実的ではありません。そこで最も相性が良いのが、「不動産投資」などの資産運用型ビジネスです。
なぜ不動産投資なのか?
- 時間の切り売りではない:管理会社に委託すれば、日々の運営はほとんど手がかかりません。本業に集中しながら収益を得られます。
- 損益通算の活用:前述の通り、減価償却費を活用して帳簿上の赤字を作りやすく、給与所得との損益通算による節税効果を最大化しやすい構造です。
- 事業規模の認定(5棟10室):不動産投資には「5棟10室基準」というものがあります。戸建てなら5棟、アパートなら10室以上の規模になれば、税務上「事業的規模」とみなされ、青色申告特別控除(65万円)の対象となります。
- 信用力の活用:経営者としての信用力や法人の資金力を活かして融資を引きやすいのも大きな利点です。
まとめ
社長が個人事業主を兼業することは、単なる副業以上の意味を持ちます。法人の「役員報酬」と個人の「事業所得」という2つの蛇口を持つことで、税金と社会保険料をコントロールし、手取り資産を最大化する強力なスキームとなり得ます。
ただし、成功の鍵は「事業の実態」と「適正な税務処理」にあります。「どの程度の規模ならメリットが出るのか?」「自分の場合はどの事業が適しているのか?」安易に始める前に、まずは税理士などの専門家にシミュレーションを依頼し、ご自身に最適な「二刀流」プランを設計することをお勧めします。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的なシミュレーションや注意点をさらに深く知りたい場合に、参考にしてください。