経営者の皆様は、毎月の家賃をどのように支払っているでしょうか?もし、ご自身の役員報酬から全額支払っているとしたら、それは税務的に見て非常にもったいないことをしているかもしれません。なぜなら、「役員社宅制度」を活用すれば、家賃の大半を会社の経費(損金)に計上し、法人税を圧縮しつつ、個人の手取り額を増やすことが可能だからです。
一般的に、役員社宅の自己負担額は「家賃の50%」と言われることが多いですが、実は物件の選び方と計算方法次第では、負担を「約2割」あるいはそれ以下に抑えることも可能なのです。この記事では、役員社宅制度の仕組みとメリット、そして家賃負担を最小限にするための具体的な計算ロジックと注意点について徹底解説します。
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1.役員社宅が「最強の節税」と呼ばれる仕組み
まず、役員社宅制度の基本的な仕組みを理解しましょう。この制度は、会社が契約(または所有)している物件を、役員に社宅として貸し出すというものです。
お金の流れと節税効果
- 会社が物件を借りる:会社名義で賃貸契約を結び、大家さんに家賃全額(例:20万円)を支払います。
- 役員に貸し出す:会社は役員から、一定の家賃(賃料相当額)を受け取ります。
- 差額を経費にする:会社が支払った家賃と、役員から受け取った家賃の差額は、会社の経費(損金)として計上できます。
もし、役員が個人で契約して家賃を払っていたら、その20万円は会社の経費にはなりません。しかし、社宅制度を使えば、家賃の大部分を経費化でき、その分だけ法人税を減らすことができるのです。
2.経営者と会社にもたらす2大メリット
この制度は、会社だけでなく、役員個人にとっても大きなメリットがあります。
メリット①:個人の手取り額が増える
役員社宅を導入すると、実質的な手取りが増加します。例えば、役員報酬50万円、家賃20万円の場合を考えてみましょう。
【導入前(個人契約)】役員報酬50万円から税金・社会保険料(約10万円)が引かれ、手取り40万円。そこから家賃20万円を払うと、手元に残るお金は20万円です。
【導入後(役員社宅・会社負担50%)】役員報酬を10万円減額して40万円にします。その代わり、会社が家賃の半額(10万円)を負担します。役員報酬が減ったことで、税金・社会保険料の負担が減ります(約8万円)。手取り32万円から、自己負担分の家賃10万円を引くと、手元に残るお金は22万円です。
結果として、同じ家に住んでいるのに、毎月使えるお金が2万円増えました。これは、税金や社会保険料の負担が軽減されたことによる効果です。
メリット②:会社の実質負担が軽減される
役員報酬を変えずに導入した場合でも、メリットはあります。会社が家賃の半分(10万円)を負担すると、経費が増えるため、その分法人税が減ります。実効税率約30%とすると、10万円の経費増加で約3万円の節税になります。つまり、会社の実質的な負担増は7万円で済み、役員個人は10万円得をするため、トータルで見ればプラスになるのです。
3.「住宅手当」との決定的な違い
よくある間違いとして、「住宅手当」として現金を支給してしまうケースがあります。しかし、これは税務上全く意味がありません。
- 住宅手当:全額が「給与」とみなされます。個人の所得税・住民税・社会保険料の対象となり、負担が増えてしまいます。
- 役員社宅:会社が直接大家に支払うことで、現物給付となります。役員から適正な賃料(賃料相当額)を徴収していれば、会社負担分は給与課税されません。
つまり、節税効果を得るためには、必ず「会社契約」にして、「社宅」として提供する必要があるのです。
4.「家賃2割負担」を実現する魔法の計算式
ここからが本題です。役員社宅の自己負担額(賃料相当額)は、どのように決まるのでしょうか。実は、物件の規模によって計算式が異なり、条件を満たせば「家賃の50%」よりもはるかに低い金額に設定できます。
狙い目は「小規模な住宅」
最も節税効果が高いのが、「小規模な住宅」に該当する物件です。具体的な基準は以下の通りです。
- 耐用年数30年超(RC造マンション等):床面積99㎡以下
- 耐用年数30年以下(木造等):床面積132㎡以下
99㎡といえば、都心部の3LDKマンションなども十分に含まれる広さです。この基準を満たす物件の場合、役員が負担すべき賃料相当額は、以下の計算式の合計額となります。
【小規模住宅の賃料相当額計算式】
- (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
- 12円×(その建物の総床面積㎡÷3.3㎡)
- (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
この計算式には、「実際の家賃」が含まれていません。固定資産税評価額は、市場価格よりも低く設定されていることが多いため、計算結果は驚くほど低くなります。
【シミュレーション】
- 家賃:12万円
- 建物評価額:500万円
- 土地評価額:50万円
- 床面積:66㎡
この場合、計算上の賃料相当額は約1万1,340円となります。実際の家賃の約10%未満です。実務上は、リスクを考慮して少し高めに設定することもありますが、それでも「家賃の2割負担」あるいはそれ以下で住むことが十分に可能なのです。
「小規模」以外の場合
99㎡を超える「小規模でない住宅」の場合は、計算式が変わります。自社所有でない限り、基本的には「会社が支払う家賃の50%」を負担することになります。つまり、節税メリットを最大化したいなら、99㎡以下の物件を選ぶのが鉄則です。
「豪華な住宅」は全額自己負担
床面積が240㎡を超え、かつ高額な賃料の物件や、プール付きなど個人的嗜好の強い設備がある物件は「豪華社宅」とみなされます。この場合、通達の計算式は使えず、実勢価格(実際の家賃)を全額自己負担しなければなりません。節税効果はゼロになります。
5.役員社宅を導入する際の4つの注意点
最後に、導入にあたっての注意点を確認しておきましょう。
- 初期費用:敷金、礼金、仲介手数料などは会社の経費になりますが、資金繰りへの影響を考慮する必要があります。
- 社内規程の整備:「役員社宅管理規程」を作成し、賃料の計算方法や負担区分を明確にしておく必要があります。税務調査での重要な証拠となります。
- 光熱費・駐車場代:これらは原則として役員個人の負担です。会社が負担すると給与課税されます。
- 住宅ローン控除:会社名義で購入した物件に住む場合、個人ではないため住宅ローン控除は使えません。
まとめ
役員社宅制度は、物件選び(99㎡以下)と正しい計算(固定資産税評価額ベース)を行うことで、家賃負担を劇的に下げられる強力なスキームです。会社のお金を賢く使い、社長個人の資産を守るために、ぜひ導入を検討してみてください。
「自分の住みたい物件は対象になるのか?」「具体的な計算をお願いしたい」という方は、税理士にご相談ください。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な計算事例やシミュレーションも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。