不動産投資を行っている経営者は少なくないが、その節税効果を最大限に活かせている方はどれほどいるだろうか。株式や投資信託と異なり、不動産投資は税務上「事業」として扱われるため、認められる経費の範囲が非常に広い。この経費をしっかり把握し、漏れなく計上できているかどうかで、年間の手残りが数百万円単位で変わることもある。
本記事では、不動産投資がなぜ節税につながるのかという基本的な仕組みから、見落としやすい経費5選、そして経費にできないNG項目、さらには個人と法人での戦略の違いまでを整理してお伝えする。
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不動産投資が節税になる仕組み
減価償却という「お金が出ていかない経費」
不動産投資が節税に有効とされる最大の理由は、「減価償却」という仕組みにある。建物の購入代金は、購入した年に一括で経費にすることはできない。しかし、税務上は耐用年数に応じて毎年少しずつ経費として計上していくことが認められている。これが減価償却だ。
ここで重要なのは、減価償却費は「実際にはお金が出ていかない経費」であるという点である。物件の購入代金を支払ったのは過去だが、経費として計上されるのは今年、来年、再来年と続いていく。つまり、手元の現金は減っていないにもかかわらず、帳簿上は赤字を作ることができる。
この帳簿上の赤字を本業の所得と損益通算(相殺)することで、課税される所得が減り、結果として税金が安くなるというわけだ。
節税効果を高める物件選びのポイント
減価償却による節税効果を最大化するには、「建物の比率」と「耐用年数」がポイントになる。不動産の購入価格は土地と建物に分かれるが、減価償却できるのは建物部分のみだ。したがって、建物の比率が高い物件ほど、毎年の償却費が大きくなり、節税効果が高まる。さらに、築年数が古い物件は耐用年数が短くなるため、年間あたりの償却額が増える。
たとえば築23年の木造建物であれば、わずか4年で償却が完了する計算になる。
出口戦略まで見据えることが重要
減価償却には「終わり」がある。償却期間が終了すると経費にできる額が大幅に減るため、逆に税負担が増加する局面が訪れる。このリスクを回避するために重要なのが、売却タイミングを含めた出口戦略だ。不動産の売却益にかかる税率は、所有期間によって大きく異なる。個人の場合、所有期間が5年以下だと約39%の税率が課されるが、5年を超えると約20%まで下がる。
したがって、「減価償却期間が終了し、かつ所有期間が5年を超えたタイミングで売却する」というのが一つのセオリーとなる。
| 所有期間 |
区分 |
税率(所得税+住民税) |
| 5年以下 |
短期譲渡所得 |
約39% |
| 5年超 |
長期譲渡所得 |
約20% |
不動産投資は「買って終わり」ではなく、売却までを一つの流れとして計画しておくことが不可欠である。
意外と経費にできないNG項目
経費を積み上げることが節税の基本であるのは間違いないが、不動産投資に関係のないものまで経費に計上してしまうと、税務調査で否認されるリスクがある。
ここでは、経費にできると思い込みがちな代表的なNG項目を確認しておきたい。
スーツ代
不動産会社との打ち合わせや物件の内見にスーツを着ていくことはあるだろう。しかし、スーツ代は原則として経費にならない。理由はシンプルで、スーツはプライベートでも着用できるからだ。芸能人の衣装やロゴ入りの作業着であれば別だが、一般的なビジネススーツは「個人の家事費」として扱われる。
資格取得費用
宅建士などの資格取得にかかる費用も、個人の不動産投資家が計上するのは難しい。不動産投資(大家業)において宅建の資格は必須ではない。物件の管理は管理会社に委託しているケースがほとんどであり、資格取得はあくまで「個人のスキルアップ・自己研鑽」とみなされてしまうのだ。ただし、宅建業の免許を持つ法人が従業員に資格を取得させる場合は、その費用が経費として認められる可能性はある。
修繕費と資本的支出の境界線
物件の修繕費やリフォーム代は経費になると思われがちだが、ここには大きな「落とし穴」がある。壁紙の張り替えや壊れた窓ガラスの修理など、物件を元の状態に戻す「原状回復」であれば、その年の経費として一括計上できる。しかし、大規模なリフォームや最新設備への入れ替えなど、物件の価値を高めるような工事は「資本的支出」として扱われる。
資本的支出に該当すると、工事代金を一括で経費にすることはできず、再び減価償却として何年にも分けて少しずつ経費化しなければならなくなる。「一括でまとめて落として節税しよう」と考えていたのに、資本的支出と判断されてしまうと当てが外れることになる。
この判断を誤って一括経費に計上してしまった場合、税務調査で修正を求められるケースもあるため、慎重に対応したい。
節税効果を最大化する「意外と落とせる経費」5選
経費にできないものがある一方で、不動産投資では購入時から運用中まで、想像以上に幅広い費用が経費として認められている。
ここでは、特に見落としやすい5つの経費を取り上げる。
物件購入時の諸費用
(1)物件そのものの代金は資産計上となり一括経費にはならないが、購入に際して発生する「諸費用」は経費にできるものが多い。具体的には、契約書に貼付する印紙税、登記にかかる登録免許税、不動産取得税といった税金関連が代表的だ。購入初年度はこうした諸費用がまとめて発生するため、大きな節税効果が期待できるタイミングでもある。
(2)司法書士への報酬なども含め、購入時にかかった費用を漏れなく洗い出しておくことが重要だ。
運営・管理にかかる経費(ローン利息を含む)
物件を保有している間は、管理会社への委託料、建物の修繕費(前述の原状回復に該当するもの)、入居者募集のための広告宣伝費など、さまざまな経費が発生する。そしてもう一つ、忘れてはならないのがローンの利息だ。銀行への返済額のうち、「利息部分」は経費として計上できる。
一方で「元本の返済部分」は経費にはならない。ここは勘違いしやすいポイントなので注意したい。特にローンの返済初期は利息の割合が大きいため、しっかり経費計上することで相応の節税効果が得られる。
パソコン・スマホ代
管理会社との連絡や物件情報の収集にパソコンやスマートフォンを使用しているなら、その購入費用も経費の対象になる。ただし、多くの場合はプライベートでも同じ端末を使っているはずだ。その場合は、業務に使用している時間の割合に応じた「家事按分」が必要になる。
たとえば業務使用が全体の3割であれば、購入費用の30%を経費にするという処理だ。なお、10万円を超える固定資産は原則として減価償却が必要だが、青色申告を行っていれば「少額減価償却資産の特例」により、30万円未満の資産は一括で経費にすることが可能だ。
さらに、2024年末に発表された税制改正大綱には、この上限額を「30万円未満」から「40万円未満」に引き上げることが盛り込まれた。
2025年4月1日取得分から適用される予定であり、実現すれば比較的高性能なパソコンでも一括経費にできるようになる。
青色申告を行っているかどうかで使える特例が変わってくるため、不動産所得がある方は可能な限り青色申告の届出を済ませておきたい。
交通費・ガソリン代
物件の視察や管理会社との打ち合わせに要した交通費も経費になる。電車やバスの運賃はもちろん、自家用車で移動した場合のガソリン代、高速道路料金、駐車場代も対象だ。領収書が出ない電車代や、モバイルSuicaなどの交通系ICカードでの支払いについては、「旅費精算書」を自分で作成し、日付・訪問先・金額を記録しておけば問題ない。
モバイルSuicaの場合は、利用履歴のスクリーンショットも併せて保存しておくとより確実だ。なお、当然のことながらプライベートの移動費を交通費として記録するのは認められない。
業務に関連する移動のみを正確に記録することが求められる。
新聞図書費
不動産投資に関連する書籍、新聞、業界紙などの購入費用は「事業に必要な情報収集のための費用」として経費に計上できる。
金額としては大きくないかもしれないが、不動産投資を事業として真剣に取り組んでいるという姿勢を示す意味でも、こうした費用はしっかり計上しておきたい。
こうした一つひとつの経費を漏らさず積み上げていくことが、手残りのキャッシュフローを着実に改善していくことにつながる。
個人と法人の戦略の違い
ここまで紹介してきた経費は、基本的に個人でも法人でも活用できる。ただし、法人ならではの制度を使えるケースもある。たとえば交通費について、法人であれば「出張手当(日当)」を支給する仕組みを設けることができる。
適切な規程に基づいて支給すれば、会社側は全額経費として計上でき、受け取る個人にとっては非課税収入となる。
法人化を検討する際の一つの目安は「税率」だ。個人の所得税は累進課税であり、課税所得が900万円を超えてくると税率が大きく跳ね上がる。
一方、法人税の実効税率は約23〜34%程度で推移するため、利益がこの水準を超えるようであれば法人化のメリットが出てくる。また、売却時の税率にも違いがある。
個人の場合は前述のとおり所有期間5年以内だと約39%の税率が課されるが、法人にはそのような所有期間による税率の区分がない。売却のタイミングを柔軟にコントロールできるという点でも、法人の自由度は高いといえる。
最初は個人で始めて、規模の拡大や利益の増加に応じて法人化を検討するというのが現実的な進め方だろう。
まとめ
不動産投資が節税に有効とされるのは、減価償却という「お金が出ていかない経費」によって帳簿上の赤字を作り、本業の所得と損益通算できるからだ。ただし、何でも経費にできるわけではない。
スーツ代や資格取得費用のように認められないもの、修繕費と資本的支出のように判断を誤りやすいものもある。
一方で、購入時の諸費用、ローンの利息、パソコン・スマホ代、交通費、新聞図書費など、見落としがちだが正当に経費にできる項目は意外と多い。これらを一つひとつ漏れなく計上していくことが、手残りを最大化するための基本となる。
さらに、事業規模が拡大してきた段階では、法人化による税率の最適化や出張手当の活用なども視野に入れていきたい。
不動産投資における経費の考え方や節税の仕組みについて、より具体的に理解を深めたい方は、税理士が実例を交えてわかりやすく解説している動画もあわせてご覧いただきたい。
本記事の内容を映像と音声で確認することで、実務への理解がさらに深まるはずだ。