工場を建てたり機械等を導入したりするなどの設備投資をした場合、その資産については減価償却という処理を行うことになります。
費用を計上するので、効率よく計上すれば節税になります。また、その分だけ税金を支払わなくて済むのでキャッシュを温存でき、資金繰りの役に立ちます。
ただし、税法上、減価償却の期間は資産により決まっていて、償却のタイミングを後ろに伸ばしたりすることはできないので、注意が必要です。また、いついくら償却できるのか、というのを押さえておく必要があります。
この記事では、設備投資して購入した機械等の資産について、効率よく減価償却して節税・資金繰りに役立てるために是非とも押さえておいていただきたい基本的な知識をお伝えします。
なお、減価償却を決算対策の手段として活用できる方法があります。それらについては『中小企業の決算対策|厳選重要10のテクニックと5つの落とし穴』で取り上げておりますので、そちらをご覧ください。
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保険の教科書 編集長。2級ファイナンシャルプランナー技能士。行政書士資格保有。保険や税金や法律といった分野から、自然科学の分野まで、幅広い知識を持つ。また、初めての人にも平易な言葉で分かりやすく説明する文章技術に定評がある。
1.減価償却とは
まず、減価償却について簡単におさらいしておきます。
減価償却とは、資産を購入したらその後に、その代金の額を、複数の年度に分けて費用として計上するものです。
ただし、資産にもいろいろなものがあります。減価償却の対象となるのは、建物・機械・船・自動車・工具・器具等といった、時が経てば利用価値が下がっていき、最後にゼロになってしまう資産です。
資産の価値が下がるとその分は「損失」になるため、それを随時、費用として計上する必要があります。
このような資産を「減価償却資産」と言います。そして、価値が減った分(損失)を費用として計上することを「減価償却」、減価償却をして計上された費用を「減価償却費」と言います。
なお、土地は、地価の変動はありますが利用価値自体は下がらないので、減価償却資産ではありません。
(イメージ)

2.減価償却の期間(耐用年数)は資産によって決まっている
2.1.新品の資産は「法定耐用年数」で償却
減価償却の期間、つまり、何年間かけて損金に算入していくかについてのルールは、法令で減価償却資産の種類ごとに決められています。これを「法定耐用年数」と言います。
そして、それぞれの年度に計上できる減価償却費の額は、原則として、この法定耐用年数を前提として計算されます。
法定耐用年数は国税庁のHPで確認することができます。
このHPでたとえば「機械・装置の耐用年数」の項目をクリックすると一覧表が出てきます。そしてその一覧表によれば「印刷業又は印刷関連業用設備」のうち「製本業用設備」の法定耐用年数(償却期間)は7年となっています。
2.2.中古の資産は短期で償却できる
減価償却資産を中古で購入した場合には、法定耐用年数よりも短期で償却できることになっています。なぜかというと、中古品はすでに利用価値がある程度下がっているからです。
したがって、この短い耐用年数を前提として、減価償却費が計算されることになります。
その結果、新品と中古品とでは、同じ金額で購入しても、中古品の方が短い耐用年数で減価償却費が計算されて、1つの年度に減価償却費に計上できる額が大きくなるのです。
つまり、新品よりも、少しだけ型落ちの中古品を購入した方が得をする場合があります。
その場合、減価償却期間は、
法定耐用年数 - 経過年数 + 経過年数 × 20%
ということになっています。ただしこの計算式で出てきた数字が2年未満ならば2年とします。また1年未満の端数は切り捨てます。
たとえば、4年落ちの中古の「製本業用設備」を購入した場合、法定耐用年数は7年なので、
7年(法定耐用年数)-4年(経過年数)+4年(経過年数)×20%=3.8年
となり、端数の0.8は切り捨てて、耐用年数は3.8年となります。つまり、半分強の期間で減価償却できるのです。
技術革新のスピードが速いジャンルの機械・設備であれば難しいかも知れませんが、そうでなければ、中古品を活用して減価償却を早く済ませるのも一つの方法です。
3.減価償却費の計算方法は選べる|定額法と定率法
では、減価償却の期間(法定耐用年数)を通じて、それぞれの年度にいくらずつ減価償却費を計上することになるのでしょうか。
減価償却費の計算方法、つまり、各年度ごとに資産価値がいくら下がったことにするかを計算する方法は、以下の2種類です。
- 定額法:各年に同じ額ずつ減価償却費に計上し、最後の年度に1円だけ残す
- 定率法:各年に同じ率(%)ずつ減価償却費に計上し、最後の年度に1円だけ残す
どちらの方法も、減価償却が終わる最後の年度に無理やり「1円」だけ残すようにします。なぜそんなことをするかというと、「ゼロ」にすると、資産があった形跡・減価償却した形跡が一切分からなくなってしまうからです。
ふつうは定率法で計算するのが有利と言われています。なぜかというと、早い時期にたくさん減価償却費を計上できるからです。
資産は減価償却期間いっぱい使うとは限りません。早いうちに最新式のものに買い換えられる可能性もあります。したがって、早いうちにできるだけたくさん償却しておくに越したことはありません。
ただし、定率法を知るにはまず定額法を押さえておく必要があります。そこで、まず、定額法の計算方法からお伝えします。
3.1.定額法
定額法は、基本的に、代金を法定耐用年数で均等に割った金額を減価償却費に計上していきます。ただし、割り切れない場合もあるので、その場合は、「償却率」を使って計算します。
償却率は、「1÷償却年数」の小数点以下第4位を繰り上げたものです。
具体例を見てみましょう。たとえば、「印刷業又は印刷関連業用設備」のうち「製本業用設備」の耐用年数(償却期間)は7年となっています。
この場合、償却率を計算すると、
1÷7=0.142857142857……
と永久に割り切れない数字になってしまいます。そこで、償却率は小数点以下第4位を繰り上げ、「0.143」とします。
ただ、この償却率で減価償却していくと、最後の年度(上の例では7年目)で数字が合わなくなります。
そこで、最後の年度に端数を調整し、1円だけ残るようにします。
たとえば400万円の製本設備を購入して7年で償却する場合、償却率0.143で計算していくと、以下の通りになります。

3.2.定率法
定率法は、決まった率だけ減価償却していく方法です。
定率法の償却率=定額法の償却率×2
です。たとえば、400万円の製本設備を購入して7年で定率法で償却する場合、償却率は
0.143(定額法の償却率)×2=0.286となります。
この方法だと、最初のうちに減価償却できる額が大きくなります。
ただし、この計算方法だけでは、最後まで償却しきれません。
そこで、「保証率」という数値を使います。保証率は、国税庁のHP「平成23年12月改正法人の減価償却制度の改正に関するQ&A」のP.22に償却年数ごとに記載されています。償却年数7年であれば保証率0.08680です。
したがって、たとえば400万円の製本設備を購入すると償却年数7年なので、
400万円×0.08680=347,200円です。
この「保証率」をどうやって使うかというと、まずは定率法で計算して償却していきます。
そして、定率法で計算した減価償却費の額が「購入時の代金の額×保証率」を下回るようになったら、その年度以降は定額法を使うことになります。
400万円の製本設備(償却期間7年)を購入した場合、
400万円×0.08680=347,200円です。
したがって、まずは、減価償却費の計算式で、347,200万円を下回るまで減価償却していきます。

そして、5年目で
1,039,569円×0.286=297,317円
となり、347,200円を下回ります。
したがって、この5年目以降、減価償却費は347,200円として計算していきます。
あとは、最後の7年目に1円だけ残すようにします。

4.減価償却資産の購入時期|減価償却費は月割で計算する
最後に、減価償却資産をいつ購入するかも重要です。というのは、資産の購入はふつう、年度の途中に行われるからです。
年度途中に購入する場合、減価償却費は、月割で計算して計上します。したがって、何月に購入するかによって、その年度にいくら損金にできるかが変わってくるのです。
上の定率法で、たとえば事業年度が1月~12月に設定されていて、年度途中の7月に機械を購入した場合を見てみましょう。
最初の1年目の減価償却費の額は1,144,000円なので、購入した年度は7月~12月の分、つまり
1,144,000円÷12ヶ月×6ヶ月=572,000円
が減価償却費として計上されます。
次の年度は1月~6月に残りの572,000円が計上されます。そして、7月~12月の分は2年目の減価償却費が816,816円なので、
816,816円÷12ヶ月×6ヶ月=408,408円となります。したがって、購入の次の年度は合計
572,000円+408,408円=980,408円
が減価償却費になります。
まとめ
設備投資で購入した機械等を効率よく減価償却すれば、節税や資金繰りに役立ちます。
そのためには、まず、減価償却期間、つまり何年で償却できるかを押さえておかなければなりません。その期間は原則は「法定耐用年数」と言って、資産ごとに法令で決まっています。ただし、中古の資産については、法定耐用年数よりも短い期間で償却できることがあります。したがって、中古品の活用が差し支えないのであれば、それも一つの選択肢です。
次に、減価償却費の計算方法も重要なポイントです。特に、早期にたくさん償却できる「定率法」を押さえておかなければなりません。
さらに、減価償却資産を年度の途中に購入した場合、減価償却費は月割りで計算されます。したがって、いつ購入するかによって損金に算入できる額が変わってきます。